帝国の町と、地下の拠点
帝国の最初の町に入った途端、私は思わず息を呑んだ。
「……また、ひどい」
道の両脇に、包帯だらけの兵士たちが座り込んでいた。
「うっ……うう……」
「薬草は……まだ届かないのか……」
兵士の疲れ切った声に、胸が締め付けられる。
「ここでも薬草不足ですね」
「帝国は領土が広い。管理が追いついていないのだろう」
「ぷる……(かわいそう)」
傷ついた兵士たちを横目に進むと、街の中心に大きな商店があり、煌々と光っていた。
―――
店に入ると、品物は多い。
ただし──
「……たっっっか!!」
どれもこれも法外な値段。
薬草一束:金貨10枚
毛布:金貨20枚
ポーション(薄い):金貨30枚
商店主は豪華な服を着て、鼻で笑った。
「おい、汚いガキ。買う気もないなら帰れ」
「……は?」
リオが後ろから歩み出た瞬間──
「ひっ!? り、隣国の第一王子……!? し、失礼いたしましたぁぁ!!」
土下座レベルで態度が変わった。
(うわぁ……典型的な三下だ……! 弱者には威張って、強者には土下座……)
「ここ、値段が高いんですね?」
「ぜ、税収が高いんです! だから商品も人件費も高くなるんです!」
「税高い → 商品も高い → 商売だけ儲かる……ってこと?」
「そうですとも!! 我々商人は海外で安く買い叩き、帝国で高く売るのが常識なんですよ!」
胸を張って言うあたり、もう色々アウトだった。
(これは……潰さないとダメだ……)
「じゃあ……売ります!」
「……え?」
私は馬車から小瓶のポーションを取り出し、通りに並べた。
「適正価格でーす! 薬草の仕入れ値そのままですー!」
「なっ……!? や、やめろ貴様ぁぁ!!」
商店主が泡を吹いて飛び出してきた。
「価格破壊だ!! 営業妨害だ!! うちの利益が消えるだろうがぁ!!」
隣にはムキムキの用心棒。
「おい坊主。立場をわきまえろ」
「ぷるっ……(威嚇)」
緊張が走る。
「カイ、退くぞ」
「はいっ!」
商店主と用心棒が怒号を上げる中、私たちは馬車で全力退却した。
「追えぇぇぇ!!」
「帝国の商売を壊すな!!」
兵士たちさえ止めようとする。
「やばいやばいやばい!!」
「カイ、右だ!」
森へ逃げ、谷を越え──ついに、帝国北側のダンジョンを見つけた。
「ここに逃げ込みます!!」
「ぷるっ!」
入口へ飛び込むと、外からの声は届かなくなった。
―――
「ここ、魔物いるかな……?」
「カイ、あそこ」
リオが指す方向に、ぷよぷよとしたスライムたちがいた。
「ぷる?」
「ぷるる〜」
あ、友好的っぽい。
「帝国のスライムも、悪い子じゃないみたいですね……」
(いや、スライムに関しては世界共通でかわいいのでは)
「では、作るぞ」
「はい! 柵セット!」
ダンジョン内の広めの空間に、木を組んで円形の柵を張り巡らせる。
あとは布を敷いて、荷物を整理して──
「完成! ここが帝国での活動拠点です!」
「まさか……ダンジョン内とはな」
「ぷるっ(気に入った!)」
こうして、帝国遠征はまさかの“地下拠点”から始まることとなった。
―――
帝国の町は腐敗し、経済は歪み、兵士たちは疲弊し切っている。
その原因は……まだ“ほんの表層”にすぎない。
カイは知らなかった。
この帝国の奥に、帝国商会と、もっと深い“国家の闇” が潜んでいることを。




