帝国への道、忍び寄る影
王都を後にして三日。
街道沿いは緑が少なく、風ばかりが吹き抜ける寂しい土地が続いていた。
「……この道、人気がないですね」
「帝国へ向かう街道は“危険だから”だろうな」
「ぷるっ(退屈)」
スライムはのんきに跳ねていたが、私は落ち着かなかった。
(なんというか……ずっと“何かに見られてる”感じがする……)
リオも周囲を警戒しながら進んでいた。
―――
「止まれ、カイ」
リオの声が低くなった。
その瞬間──
ガサッ!
ガサガサガサッ!
茂みの中から現れたのは、
ボロ布を纏った十数人の男たち。
「へっへっへ……旅人さんよぉ、こんなとこ歩いてどうした?」
典型的な山賊そのものだ。
(あ、本当にいるんだ……ファンタジー世界だ……)
けれど、その中に数名。
妙に整った服装の、一切喋らず動かない男たちがいた。
(……あの人たち、山賊じゃない。目つきが“訓練された者”だ)
「カイ、下がれ。後ろに隠れろ」
「はい!」
「ぷるぷる(戦闘の気配)」
山賊のリーダーが剣を抜き、ニヤリと笑った。
「悪いが、荷物と馬車と……そこの坊主は置いていけ」
「それはできんな」
「なら死ねぇ!!」
刹那、山賊が一斉に襲いかかる。
しかし。
「邪魔だ」
一閃。
リオの剣が光り、山賊が次々に吹き飛んだ。
「ひ、ひぃっ!!」
「こ、こいつ……人間かよ!?」
(リオ、やっぱり強い……!)
残った山賊は恐怖で尻餅をつき、戦意を完全に失った。
しかし──
「……逃げたか」
リオの視線の先。
さっきから動かなかった“整った服装の男たち”が、一瞬の隙に森の奥へ消えていった。
―――
「ちょっと話を聞かせてください!」
私は山賊のひとりを止めた。
「な、なんだよぉ……殺さないでくれ……!」
「あなたたち……誰かに雇われていますか?」
「……っ!!」
「正直に言った方がいいですよ? スライムが……お腹空いてるらしいので」
「ぷるり(にっこり)」
「ひ、ひぃぃ!!言う言う言う!!」
山賊は震えながら話し始めた。
「お、俺たちはただの山賊だけど……あいつらは違う……帝国から来た“密偵”だ!」
「帝国の密偵……!」
「帝国が、王都の騒ぎを聞きつけて……“カイ”って名前のガキを捕まえろって……!」
「……!」
リオが私の前に出る。
「カイを狙う理由は?」
「し、知らねぇよ!! でも“帝国の商会”が言ってた……カイを連れてこい、交渉材料にするって……!」
(やっぱり帝国……! 王都を侵食していた商会……あれの本体が、私を狙ってる……?)
―――
「助けてくれて、ありがとな……!」
「次からは真っ当に働きましょうね?」
「……努力する!」
山賊たちは命からがら逃げ去った。
リオが剣を収め、小さくため息をつく。
「……カイ。帝国は“お前を知っている”ぞ」
「だよねぇ……多分そうだよねぇ……」
「油断するな。奴らは本物の諜報機関だ。山賊なんて比較にもならない相手だ」
「ぷるっ(任せろ)」
「うん、頼りにしてるよスライム」
(でも……逃げても意味がない。帝国の目的を知らない限り、この国全体が危険に晒される)
私は深呼吸した。
「リオ。やっぱり帝国に行くしかないね」
「ああ。密偵も動いているとなれば、なおさらだ。商会と帝国本体。どちらも調べねばならん」
「スライム、準備はOK?」
「ぷるるっ!」
私は拳を握った。
「——行こう。帝国の“核心”を確かめに」
風が吹く。
緑のない大地の向こうに、
帝国の黒い城壁がぼんやりと見えた気がした。
カイ一行の旅は、いよいよ“帝国編”へと突入する。




