第695話 リハーサルもつつがなく
「よし、保険ゲット」
「けっこう大変だったけど、さすがにこれだけ強化されたらどうにでもなるね」
エルドロ火山。ピルカヤが生まれた場所であり、ゲーム終盤でないと探索できないマップだ。
いや、探索はできるのだが数秒で死ぬ。スリップダメージが痛すぎるんだ。
終盤の延焼耐性装備でもつけれなければ、まともに探索などできはしない。
ただ、準備さえしていれば探索も可能ということになる。
俺たちが手に入れたアイテムや加護を駆使すれば、今ならここの探索もそこまで危険ではない。
強力なモンスターたちもいるにはいるが、まあガルドリック以上の相手なんてそうそういないな。
むしろ実戦経験を積めてレベルも上がるので、モンスターとの遭遇はありがたいくらいだ。
「あと三か所だな」
「今までも宝が奪われた痕跡はなかったし、ここはまだ未踏破の場所なのかもしれないね」
恐らくそうだろう。
人類はわざわざこんな場所に挑んでいるほど暇ではない。魔族はそもそも用事すらないだろう。
一つ懸念していたのが、俺たちより先にここを狙った転生者たちだったが。
宝が手付かずなことを考えるに、どうやら俺たちが一番乗りだったようだ。
「レベル上げはできている。ゲームと実際の戦いの違いにも慣れてきた。アイテムも準備できた。保険はここで回収し終える」
順調だ。
ここまではミスはない。今まで以上にミスが許されないこの状況下において、俺たちはわりとうまくやっていると思う。
あとはこのまま魔王を倒しに……。いや、さすがにちょっと不安だよな。
「どうする? このまま魔王退治っていうのは、いくら準備していても不安か?」
「そうだねえ。せめてもう少し自分たちがどのくらいできるか測っておきたいかな」
その意見には賛成だ。
ガルドリックはなんとかなった。ということは、教会の戦士たちになら勝てる可能性はある。
ただ、教会の戦士たちだけでは魔王軍には勝てない。
……勇者か? ちょっと手分けして勇者に挑んでみるか。
「勇者を狙おう」
「え、勇者とまで敵対しちゃうの?」
「まあ、どの道教会の敵にはなってはいるけど」
「いや、さすがに勇者とまで敵対すると面倒だ。幸いなことに、勇者なら教会のやつらよりも手合わせしやすい」
正直なところ、それでも見ず知らずの人間との手合わせなんて断られる可能性も高いけどな。
ただ、敵対でもしないかぎり確実に断られる教会よりはマシというだけの話だ。
勇者の現状の力にもよるが、ここで負けるようなら話にならないだろう。
「イド。オルナス。テンユウあたりか」
後腐れがないのはそのあたりだ。
リックはエーニルキアに目をつけられると面倒だし、ヘーロスはルダルと敵対はもっとまずい。
イドならば個人間の戦闘でプリズイコスが動くことはなく、オルナスとテンユウは国が動く可能性はほぼない。
改めて三チームにわかれて挑んでみるか。
「火力担当と盾担当は同じチームになるようにしたほうがいいわね」
「ああ。それじゃあチームと担当を決めようか」
◇
「……」
アルマセグシアは広大な国だ。
人通りは激しく国の中は常に賑わっている。
だから、視線を感じるとしても特段珍しくもない。
一応これでも勇者だからな。たまたまオレを目撃したから目で追ったということもあるだろう。
だが、これはちょっとそういう視線ではないようだ。
ああ、嫌だな。もうすでに厄介事の匂いがする……。
オレ、イドと違って鼻が利く種族じゃないんだけどなあ。
「はあ……。なんだよ。なんか用か?」
「さすがは勇者オルナス。僕たちの尾行なんて簡単にわかっちゃうか」
出てきたのは三人の人間。男が二人と女が一人か。
知らない顔だな。まあ、このアルマセグシアで知らない顔なんていくらでも見るが。
様子を伺っていると彼らは俺の疑問に答えた。
「なに、ちょっと戦ってもらおうと思ってね」
「……」
自分でもその言葉に嫌な表情を浮かべたのがわかった。
めんどくさい……。そういうのはイドとかヘーロスにしてくれよ。
なんで俺みたいな勇者に……ああそうか。俺みたいな勇者だからこそか。
イドたちと違って俺なら倒しやすそうだもんなあ。そうして勇者を倒したという実績がほしいわけか。
「一応言っておくが、手抜きなしで戦ってほしい」
勇者を倒したという実績狙いじゃないのか?
全力の勇者と戦いたいってことは、こいつらこう見えて戦闘好きなだけってことか?
なら、なおさらなんで俺なんだという疑問しか浮かんでこない。
「それならイドのところ行けよ……」
「そっちには仲間たちが行ったよ」
「行ったのかあ」
勇者狙いの集団か。
今になってそんな集団が急に現れたってことは、こいつら転生者っぽいな。
俺はいいけど、イドは怒らせると面倒だぞ。
「返答は?」
どうしたものか。
断れるのなら断りたいところだけど、この手のやつらって戦うまで引き下がらないんだよなあ。
その代わりというか、一度戦ってしまえば勝敗に関わらず納得して去ってくれるので、戦ったほうが楽というのはある。
「手抜きなしって言っていたが、殺し合いってことじゃないよな?」
別に俺は死んでも蘇生するけれど、こいつらはそこまでして戦いたいってわけでもないよな?
「うん。だけど本気で戦ってほしいかな」
「相手はお前ら三人か?」
「そういうこと。それとも一人ずつにする?」
力量を測る力というものは、俺にだってそれなりにあると自負している。
単なる力だけを考えるとこいつらは俺よりは弱い。
ただ、転生者であれば当然女神様の加護という力も持っているんだろうなあ。
俺たち勇者の加護は蘇生以外は魔族への特攻くらいなので、ほぼ自力での戦闘になるわけだ。
「いや、三人でいい」
ただ、三人同時のほうが早く終わるだろ。
それに、こいつらが強者だというのなら、俺も戦闘訓練として戦いに臨んでしまおう。
さて、アルマセグシアで俺に戦いを挑むってことがどういうことか、見せてやるとするか。
◇
「今度は勇者を?」
「リピアネムさんとかオーガみたいなものなのかもねぇ」
ピルカヤが再びRTA集団の動向を報告してくれた。
なんでも彼の故郷である火山でモンスターと戦ったり、密林や海底の洞窟を探索していたとのことだ。
かと思ったら、今度は町中で勇者たちに喧嘩を売った。……喧嘩というか、勝負を挑んだって感じらしいが。
イドにオルナスにテンユウ。彼らはそれに応じたようだ。
「結果は?」
「う~ん……。引き分けって感じ?」
「勇者相手に引き分けたのか……」
いよいよ厄介な相手になっている気がする。
こういうとき、ダンジョン外で行動されるのは本当に面倒だ。
それにダンジョンに来たら来たで周りに一般客がいて手が出せないし。
もっとこう、そいつらだけでダンジョンの奥まで来てくれたらいいのに。
「相手の手の内はわかるか?」
「今回もボクの監視範囲外。まあ、相手は勇者だから念のために警戒していたってのもあるけど」
勇者が四天王のピルカヤを警戒するのは当然か……。
テンユウくらいなら手の内見せてくれてもいいじゃん。
俺たち共闘した仲じゃないか。次は殺すけど。
「どっちも自分の足で帰っていったし、転生者たちはなんか手ごたえあったみたいな会話だったから、たぶん引き分けは間違いないと思うよ」
「そうか……」
十魔将を疑うのは失礼ではあるが、それでも心配にはなってくる。
……大丈夫だろうか。
敵対すると決まったわけではないが、敵対した場合は彼らが戦うと申し出てくれた。
「大丈夫ですよ~。僕たちも強いので」
「それはわかるんだけど、万が一があると怖いなあ」
とりあえず、全員に不死鳥の羽根はもたせておこう。
あとはリグマに全体をカバーしてもらうよう動いてもらい、ピルカヤは監視して各四天王と連携。
フィオナ様は……。敵の能力次第ってところだな。
なるべくなら遭遇したくはない。
だけど早めにダンジョンにおびき寄せて倒しておきたい。
そんな二律背反のような気持ちが渦巻くが、できることを一つ一つやっていくしかないんだろうな。




