第696話 擦り切れた魂から削れたもの
「なんだったんだ。あの連中……」
調子に乗った転生者ならいくらでも見てきた。
勇者である俺に挑んでくるやつだって少なくない。
だが、あれはその手の馬鹿とは少し違う。
「イド。いいのかよ、行かせちまって」
「問題ねえ」
グラントの言葉に俺は頷いた。
そうだ、問題ない。あいつらは強いといってもいいだろう。
それに俺たちが知らない情報も持っている。
女神の力を使いこなし、異世界の知識で優位に立つ。
そんな存在には覚えがある。
「あの寄生虫野郎の仲間かもしれないからな。そうだとわかったら潰す」
「寄生虫って、俺たちが死んでいる間にイドの体を奪ったとかいう転生者だよな?」
「死んだんじゃないの? モンスター園にいたウサギの獣人がそう言っていたじゃない」
たしかにそんなこと言っていたな。あの寄生虫野郎は死んだのだろう。
だが、あの連中は寄生虫野郎と似ている。
もしも仲間だとしたら、あいつらをぶっ飛ばす。
「あ、ちょっと待ったイド」
「あ? なんだよ」
「テンユウから連絡よ。なんでもさっきの連中はテンユウとオルナスのところにも来たみたい」
「はあ?」
ってことは、勇者に片っ端から勝負を挑んでいるのか?
力を測りたいとか言っていたな。勇者相手に力試しってことは、あいつら本気で魔王を狙っているのか?
……あの魔族も魔王も俺の獲物だぞ。
「情報を共有したいみたいだけど、どうする?」
「……ちっ。行くぞ」
あいつらも何か情報を得たかもしれない。
なら、まずはそっちを片付けるとするか。
連中を追えなくなったとしても、ああやってそこらで戦うようなら耳にも届くだろう。
そのときはまた追えばいい。そうでないのなら野垂れ死んだってことだ。それならそれで興味もない。
◇
「あらイド。最近素直ねえ」
「うるせえ」
軽い悪態くらいなら何も問題ないわね。
こうしてここに来てくれたってことは、イドもイドであの転生者たちに何かを感じたんでしょうね。
「それで、てめえらと戦った転生者はどうだったんだ」
「正直なところ強かったかというのもあるけれど、やりにくかったと感じたわ」
強いことは強い。
女神の加護でやたらと頑丈になるし、攻撃だってだいぶ強力だったもの。
でも何よりもやりにくいのは、こちらの行動が見透かされていたってところかしら。
「ああ、そっちもか」
アタシの言葉にオルナスも思うところがあったのか頷いた。
そうよねえ。たま~にいるのよね。ああいう転生者って。
こちらの癖を見抜いて攻撃が読まれているというか、強さというよりも行動がバレているというか。
まあ、そうなったらそうなったで普段と違うことをすればいいだけなんだけど、今回はそれでも押しきれなかった相手ではあるわ。
「全員無事ってことは、腕試しってことで挑まれたんだよな?」
そう聞いてくるってことは、オルナスのところもそうだったってことね。
「ええ、そうよ。殺し合いって感じではなかったわね」
ある程度戦ったら満足して行っちゃったし。
二人のところもそれは同じみたいね。
「何かわかったことはないのか?」
イドは不機嫌そうに聞いてくるけれど、この子の場合はそれが目的でしょうね。
「そうねえ。少なくとも敵と考えなくていいんじゃない?」
「俺とオルナスを殺した寄生虫野郎の仲間の可能性は?」
「げっ……あの蛇の仲間かもしれないのか」
イドの言葉にオルナスが嫌そうな顔をするけれど、まあそこのところは心配いらないかなとは思っているわ。
「それもあってあんたたちを集めたけど、まあ杞憂だったみたいよ」
「何も仕込まれていないってことか」
「ええ。魔力と魂を診たけれど、異変は特にないわね」
「ちっ……。ハズレか」
「ハズレってあんたねえ……。異変がないに越したことはないじゃないの」
まるで異常が見つかったほうがよかったみたいな言い方。
……この子の場合はそうなのかもしれないわねえ。
そうすれば敵だと判断できるから、あとは戦って潰すだけとか考えているんでしょうね。
「俺を殺したやつと無関係なら興味ない。じゃあな」
「ほんとせっかちね。お茶くらいゆっくり飲んでいきなさいよ」
「イドだからなあ」
イドは興味がなくなったのか、別の何かを優先しに行ったみたい。
あの子、色々とあったみたいだからね。
転生者に殺されて、それ以外でもなんか死んだみたいだし、自分を殺した相手を今度こそ倒そうってところかしら。
そうして一つ一つ潰した先は魔王ってことね。
……そうなったら、また勇者たちで協力しないと手に負えないわよねえ。
■■ちゃん。
……? 誰かしら。顔の見えない誰かの姿が一瞬だけちらついた。
そして今はまったく思い出せもしない。いやあねえ。耄碌する年なんてまだまだ先なのに。
まるで夢を見ていたかのように、もはや顔だけでなく姿すら思い出せない。
「テンユウ?」
「……あら、ごめんなさいね。ちょっとぼうっとしていたわ」
疲れているのかしらねえ。
きっとそうね。そもそもイドがハズレなんて言ったのが悪いわ。
宝箱がハズレだったというレンシャの口癖を思い出して、きっと無意識に疲れたんでしょうねえ……。
◇
「勇者相手にこれならある程度は安心できるな」
「それにしても、あのイドですら腕試しなら敵対しないんだもんねえ。やっぱりガルドリックがおかしいのよ」
それはそうだろうな。
ガルドリックは敵味方の線引きが極端すぎるんだ。
だから腕試しするには敵対するしかない。
おかげで俺たちは教会にとって危険人物となった。
だが、段階を踏まないと怖いから仕方がない。
いきなり勇者相手に腕試しだなんて、万が一失敗したらやり直しはきかないからな。
俺たちを殺す気がないといっても、事故で死なない保証なんてない。
なら、勇者よりも弱いはずの教会戦士と腕試しすること自体は間違っていない。
「でも、勇者に力を示せたんだし、仲間になってもらって魔王軍に挑めばよかったのに」
「いや、駄目だ」
「俺たちの戦い方の邪魔になるか?」
まあたしかにイレギュラーって怖いからな。
ただ、別に足手まといになるような力量ではないだろうし、そこは心配すべきところではない。
俺が心配しているのは、万が一のときだ。
「俺たちが失敗して全滅し、勇者もその巻き添えで全滅したら、国松やジノが戦うとき大変だろ」
「あ~。勇者はあっちと協力してもらったほうがいいってわけか」
「そういうことだ。ついでに俺たちはあの集団の離反者で、教会と敵対している。それなら教会の連中を仲間にしやすくなるだろ」
「勇者はともかく、教会って守護はしてくれるけど一緒に戦ってくれないからねえ」
だが、集団の離反者であり教会の敵だというのなら、俺たちはある意味で共通の敵ってわけだ。
これなら国松とジノたちも、うまくやれば教会を味方につけられるだろう。
「失敗したときの準備も終わった。勇者相手に腕試しも済んだ。次がいよいよ本番だ。走り抜けるぞ」
「魔王軍ね……。魔王、四天王、十魔将。今はどの程度残っているのかしら」
どうだろうな。
噂では魔王以外倒されたって話だけど、万が一はどこにでもある。
十魔将どころか、役職がない魔族たちが復活していても不思議ではない。
なら、そのときはそのときだ。
確実に削って魔王軍を撃破していこうじゃないか。
そう決心して、俺たちは魔王が作ったであろうダンジョンへと挑むのだった。




