第694話 責任を取るということ
「暗影の指輪って便利ではあるんだけど、あくまでもその場その場での判定になるんだよな」
「へえ。そうなのかい」
「あ、私もそれわかります! 選択肢もあくまでも直近の結果だけを示すんですよね。なので、未来になればむしろ結果が真逆なんてこともありえますし」
ああ、それは俺が言ってることに近いな。
時任の場合も、その後のことはわからないのだろう。
「あ、あの……ところでどうして急にそんな話を?」
風間の疑問はもっともだ。
なんせ報告に来たら、急にそのような無関係なことを言われたのだから。
だけど、実はこれもちゃんと関係していることではある。
「だから、無害だと思って従業員にした者が時をおいて反旗を翻すことは実は珍しくない」
「そ、そうでしたか……」
捕まった直後は、命の危機から弱気になっていることも多いだろう。
それこそ時任や奥居はそうだった。
だが彼女たちは、今では四天王相手でも物怖じなく話すことができている。
それはいい変化ではあるけれど、そういう者ばかりではないということだ。
「その場合、ピルカヤやリグマが都度対処していたんだけど、今回は水面下で動いていたってことだろうな」
「だろうなあ。集団になって暴動を起こすとは」
それが風間からの報告内容だ。
魔王軍に不平不満を抱いた者たちが団結し、内部で暴動を起こした。
さすがに騒ぎが大きくなったため、俺に知らせに来てくれたというわけだ。
「それで俺を出せと言っているのか」
「は、はい……。彼らはまだレイさんが魔王様だと思っているので」
「ピルカヤの旦那が強制的に休暇を取らされている間を狙ったか。多少知恵があってめんどくせえな」
そういうことなら仕方ない。
魔王の影武者として顔を出すとするか。
そしてこんなくだらない騒ぎは早々に収めるとしよう。
風間に案内されて向かった先では元冒険者たちが並んでいた。
しっかりと密集して敵と戦えるように構えているが、リピアネムあたりならそのまま蹴散らせるんだろうなあ。
「あれです……」
「デモ団体って感じだな。けっこうな武装こそしているが」
風間はうんざりした様子だが、ロペスはわりと見慣れているかのようだ。
時任や奥居はちょっと引いているので、これは生前の慣れの問題かもしれないな。
「来たな魔王!」
「何の騒ぎだ」
集団のリーダー格のような男が俺の姿を見て声をあげた。
なんとも血気盛んだ。もしも俺が本当の魔王だったらどうするんだ。
「俺たちは待遇の改善を求める!」
「待遇の改善? 食事も賃金も休暇も与えているのに、まだ不満なのか?」
「俺たちは魔王軍に飼い殺されるつもりはない!」
「そうだ! それに戦う力もない魔王になにができる!」
なるほど。つまり俺がなめられていたというだけの話だ。
戦う力はないからなあ。そんな魔王なら自分たちで打倒し、地底魔界を乗っ取ってしまおうというわけか。
……いや、待遇の改善と言っていたし、あるいは対等な関係にしろってことかな?
「お前はたしかにこの土地を豊かにする力はあるんだろう。だが、戦う力は俺たち以下だ! 下をまとめあげる力も持たないやつが上に立つなど俺は認めない!」
要は実力が足りていないってことだな。
そこは前々から問題ではあるものの、解決策はなかなか見出せないんだよなあ。
「ならば俺たちがお前たち魔族と対等な関係となり、この土地をもっと良くしてやる! 俺たち人類がここを改革する!」
一応、手を出してくるわけではなく話主体みたいだな。
まあそうか。護衛のイピレティスも黙っているし、彼らにその気はないのだろう。
「無能な者が上に立つ必要はない。そういう者は解雇する。それは魔王であっても変わらない!」
うん?
俺の力はともかく、ダンジョン改築については認めていなかったか?
おそらく、周囲に演説するうちに自分に酔ってきたな。
であれば、この先は建設的な意見は見込めないか。
「お前では、この騒動の責任すらとれないだろう! 精霊がいない今なら鎮圧することもできまい!」
う~ん。
こいつのときは俺のそばにピルカヤくらいしかいなかったか。
こういうことがあるのなら、従業員の勧誘は四天王全員を伴って行うべきか?
いや、十魔将とかとも出会っているはずだし、やっぱり勘違いしているだけだな。
反乱集団をまとめあげたことで、自分の実力を誤ってしまったというわけだ。
「なら、今から責任をとろう」
「理解したか。お前の建造魔法の力だけは認めている。私たちの下でその力を振るうといい」
ほんと良し悪しだよなあ。暗影の指輪も。
ここまで増長するやつらでさえ、捕獲直後は敵意がなくなる場合があるのだから。
「壁作成」
「はっ?」
密集していようが関係ない。
反乱者たちの四方を囲むように壁を作る。
反応が早い者は壁に攻撃するが当然びくともしない。
登って乗り越えることもできない。
壁の高さを増やしているからな。代わりに厚みが減っているが、壁を破壊できるほどの実力者はそもそもこの中にいない。これで十分だろう。
「起爆岩作成」
適当な数の起爆岩を壁の中に落とす。
さすがにこの距離だ。壁もそうだったが、リアルタイムで作成しても狙いはずれないぞ。
「ちょっ! ちょっと待て!」
大丈夫。ちゃんと威力は調整している。
一番悪いのは首謀者だ。まずはそいつを爆破する。
残りのやつもそそのかされた時点で悪いので、ある程度の怪我は覚悟してもらう。
生きているやつは治療するが、それ以外は諦めてくれ。
それが俺の責任の取り方であり、お前たちの行動の責任でもある。
「うわ……。うわぁ……」
壁の中で破裂音が反響する。
さすがに頑丈だな。壁はぼろぼろと崩れてきてはいるものの、俺たちに爆発は一切届いていない。
代わりに届くものといえば、反乱者たちの悲鳴と転生者たちが引く声とイピレティスの興奮する声くらいか。
「イピレティス」
「はい! 中を確認してきま~す!」
時任や奥居が見たらショックを受けそうなので、無事なやつだけ運び出してもらうことにした。
指示を出さずともそこまで理解しているのは助かるんだけど……なんか嬉しそうだね。
「はい、生き残りです」
「ああ、助かる」
「いえいえ~。僕も助かりました」
何が? まあいいか。
「う……うぅ……」
「魔王様が戦えないなんてありえない。そんな嘘に騙されて反旗を翻す? 君たち頭悪いんだね」
ぼろぼろの反乱者をイピレティスが煽る。
だが、ここはある程度ハッタリを効かせたほうがいいし、彼に任せておこう。
「どうせ四天王どころか僕たち十魔将より弱いとでも思ったんでしょ? そんなわけないじゃん。魔王様だよ?」
「し、知らなかったんだ……」
「うんうん。それじゃあ死ぬ前に知れてよかったね」
イピレティスがとどめを刺そうと首に短刀を近付ける。
「待てイピレティス」
が、俺の言葉であっさりと止まった。
ここで反乱者を始末すること自体は悪くないんだけど、同じようなことが繰り返されると面倒臭い。
「似たようなことをしないよう、お前らが伝えろ。今後の人類たちにな」
「は、はい!」
だから心が折れたこいつらを使おう。
造反してもいいことないぞって、新入りに教えてくれたら俺たちの仕事も減るからな。
なんか感謝もしているし、こいつらはしばらくは大丈夫だろう。
駄目だったら、そのときは今度こそ十魔将や四天王に対処してもらうだけだ。
◇
「こ、こればかりは慣れないねえ……」
「レイさん、普通に戦えるんだね……」
「前にピルカヤの旦那から聞いたけど、ボスは一定以上の実力者には弱いが、基準に満たないやつらには滅法強いらしいぜ」
「基準って?」
「壁を即座に破壊できるやつらしい。要するに勇者相手だな」
「なんかもう本当に魔王じゃん。レイさん……」




