第691話 胎動する異世界の悪意
「諦めたのか。あるいは満足したのか」
きっと後者だと思う。
カジノの様子を見ても、RTA集団はどこにもいない。
何度かアイテムを持ち帰っているのでまさかとは思ったが、本当に彼らは目標を達成したということらしい。
ダスカロスたちに目配せすると、彼らは俺が言いたいことを理解したようだ。
これまでのことを振り返り、頭の中を整理してからゆっくりと口を開いた。
「魔王軍の脅威となるアイテムはなかった。そこは間違いない」
「はい。私とダスカロスだけでなく魔王様にも確認いただきました」
「そうですねえ。私だけならともかく、ダスカロスとプリミラとの三人での確認です。見落としはないはずなのですが……」
それでも彼らは目的を達したってことになる。
持ち帰ったアイテムの効果は、どれも脅威たりえないものだったはずだ。
それでも、彼らだけが知る何かがあるのかもしれない。
「十回以上か……。あいつら全員分のアイテムが揃ったってことだろうな」
「しかも一部ではダブってたのに持ち帰ってたぜ。ボス」
そう、それも少し気になる。
一部のアイテムにおいては、重複したものも持ち帰っていた。
他のアイテムは重複分は換金していたというのに。
「たしか、状態異常を付与する武器だっけ」
「ですねえ。たしかにあれ自体は四天王にも通じます」
最初にそれを聞いたとき、渡したらまずいんじゃないかと思ったものだ。
だけどその後の説明を聞いて、問題なしとこちらでも判断している。
「四天王ほどの耐性がある相手にも効くけれど、ほぼ効果がないようなわずかな毒や出血ダメージを与える武器でしたっけ」
「ええ。武器そのものの攻撃力はむしろ低いですし。そんな効果を受けても一日中戦うわけでもないので、その前に戦闘が終わるはずです」
だよなあ。
それならヨハンの自爆毒のほうがよほど危険だった。
四天王であるプリミラにも効果があり、短時間で一気に毒が回ってプリミラを倒す寸前だったからな。
それと比べたらあまりにも悠長というか、何日かけて倒す気だというような武器だからなあ……。
「一度受けた攻撃の威力を減らすアイテムとか、けっこう強そうだったけど」
「同じ攻撃を続けられた場合のみの効果ですからね。交互に別の攻撃をすれば特に意味はありません」
ゲーム中どうやって使うアイテムだったんだよ……。
もしかして、同じ行動しかしないボスでもいたのか?
だとしても、こちらの世界でワンパターンな行動をしてくれるとは限らないし。
「非物質への干渉を可能とするアイテムとかは、プネヴマ特攻だと思ったんですけどねえ」
「あれはアサクラが自前でやっているのと同じですからね」
「ですねえ」
要は朝倉がピルカヤの炎を切っていたのと同じだ。
物理で魔力のようなものに干渉するだけのアイテム。
ピルカヤやプネヴマの肉体に攻撃が可能になるのは効果的だが、技術だけでそれをこなせる者がいる世界である以上は補助的なアイテムだな。
属性攻撃への耐性値を上昇させるアイテムは普通に有用っぽいけれど、それも無効化とまではいかないし。
どうにもそこまで効果が高いアイテムは引き当てていない気がする。
満足して帰ったのか? それとも、諦めて別の場所に行ったのか?
「ピルカヤ。あいつらの行動は?」
「特にどこかを探索しているってわけでもないんだよねえ。各ダンジョンにも侵入しなくなっているし、なんというか一息ついているって感じ?」
「わかった。ありがとう」
目的を達成した後の一休みってことなのか?
わからないな。ただ、それが終わったらこちらに挑んでくるという可能性は十分にある。
朝倉のときは半端な対応でフィオナ様に出てもらうことになった。
同じ過ちを繰り返さないように、いざというときはしっかりと迎え撃てるようにしておこう。
「十人か……。十魔将と同じ数だな」
「ああ。以前も言ったが、私たちに任せてくれてかまわない」
「俺が言うのもなんだけど、油断しないようにな」
「ああ、戦うとなれば皆本気だろうさ。それにもしものときは四天王がいる。魔王様とレイもいる。あの者たちが敵になるというのなら、魔王軍で確実に倒そう」
そうだな。
四天王にカバーさせられるのなら、うち漏らししたときも次のプランとしてすぐに相手をさせられる。
俺はともかくフィオナ様は本当に最後の手段なので、今回は四天王と俺まででなんとかしたいものだ。
……まあ。それもあいつらが敵に回ったらという前提あってこそだけど。
どうにも警戒しすぎているな。ゲーム攻略経験が豊富な転生者ということで、こちらも必要以上に気張ってしまっているのかもしれない。
ダスカロスの先の発言は楽観ではなく、そんな俺を安心させるためのものだったのかな。
◇
「いやあ、順調順調」
思っていた以上じゃないか。
わざわざ各地を転々と探す必要がなくなった。
アイテムが取得できた場所を探し回るのなんて面倒だったからな。
それに、この世界の同じ場所で発見できるとも限らない。誰かに先に入手されているか、そもそもゲームと違って存在しない可能性だってある。
だから、宝箱からの抽選という次善策も考えていたが、こちらはこちらで目標数の宝箱を入手するのがこれまた面倒だった。
全てを解決してくれた欲望のダンジョン様様ってわけだ。
カジノを経営していたロペスというハーフリングに覚えはない。おそらく転生者だな、あいつ。
感謝するぞ。お前のおかげで楽になった。だから、この世界の魔王は俺たちが倒してやる。
「マルコスとガルドリックどうする?」
「うまくいかなかったら仲間にしてもよかったが、必要なくなったな」
保険として協力してもらうということもできた。
だが、今は全員が俺と同じ意見のようだ。
手に入れたアイテムを試したい。加護とアイテムの組み合わせ、これはゲームにはなかった仕様だ。
みんな新たな試みにうずうずしているのだろう。
「倒すか。もちろん後腐れは面倒くさいから、模擬戦って形にしておけばいいだろう」
ゲームでは有能なユニットだった。
だから、この世界での強さも一定以上と思ってよさそうだ。
だが、この二人に勝てないようなら十魔将にすら勝てやしない。
……いや、十魔将も相手によってはいけるかもしれないが、四天王は確実に無理だ。
「倒して顔を売っておくとしよう」
「装備が手に入らなかったらガルドリックの鎧を奪う必要もあったけどね」
「ああ。不要になった」
なら仲間にしたほうがいいという意見もあるだろう。
だが、どの道俺たちのほとんどの者は、その戦法に仲間がいないほうがいい。
一対一でハメ技みたいな倒し方をするようなやつばかりなので、仲間がいてもそれに巻き込まれてやられるだけだろうからな。
俺みたいにそういう戦い方ではない者もいるにはいるが、いいや別に。
「でも、ガルドリックのことだから模擬戦なんて応じないんじゃない?」
「あ~そうだった。しょうがない、実戦ってことで殺し合うか」
浮かれてるかもなあ。
ゲーム世界という認識がどうにも拭えない。
知っている世界だけど知らない世界。どっちだ? どっちもか? ああ、どっちもだろうな。
完全に知らないわけではない。でも知っているはずのことが知らないことになっている。
既視感と未視感のような世界の中で、力を知識を得てしまったのだから楽しまないと損ってもんだろ。
「今さら教会を仲間にしても仕方ない。そもそも、仲間が必要なら国松たちから離反なんてしてないしな」
「だよねえ。まあ、教会の連中は国松くんやジノくんたちが仲間にすればいいよ」
「それじゃあ、なおさら殺さないようにしないとな」
ただ、しばらく動けなくなる可能性は高いだろうな。
真正面から正々堂々と果し合いなんてしても、俺たちが人間である以上応じてくれるとも思えない。
であれば、あいつらに敵と認識されないと戦闘にも発展しないってわけだ。
素直に応じてくれればいいが……まあ無理だろうな。悪いな人類。教会と戦うために、ちょっとお前らの敵になるとしよう。




