第690話 これもある種の自分への厳しさ
「どうする? 今日もうちで換金していくかい?」
「……いや、これは使えそうだ。一応持ち帰ることにする」
おや珍しい。念のためボスに報告しておくかね。
RTA勢と呼ばれる集団は今日もうちのカジノで宝箱に挑戦していた。
リズワンの旦那やレンシャの姐御のように、今回もハズレを引いたと思ったんだけどな。
現に周囲もわずかな同情の視線を向けていたし。
「ようやく一つか」
「まあ、想定の範囲内よ。こっちのほうが安全かつ早く入手できてるじゃない」
「誤差みたいなもんだけどなあ。まあ、安全なのは確かだ」
……やっぱり狙っていたアイテムなのか?
駄目だ。よくわかんねえ。ボスたちが渡している以上、そんな危険なアイテムじゃないはずなんだが……。
◇
「ってことで一応報告を、と思ってな」
「そうかありがとうロペス」
たしかに少し妙だとは思ったんだよな。
いつもなら換金することのほうが多いのに、今回はしっかりと持ち帰っていた。
あいつらの宝箱の中身は常にチェックしている。フィオナ様たちに問題ないか判断してもらっていたのだが……。
「あの指輪。そんなに使えるものなんですか?」
RTA集団が持ち帰ったのは小さな指輪。
ただし、この世界での指輪である以上は何らかの効果があるだろう。
暗影の指輪のように、もしかしたら有用な装備だったのかもしれない。
「いえ。祝火の小環はどちらかというと未熟な者に向いているアイテムですね」
「未熟……というと、訓練兵とかがパワーアップでもするんですか?」
「身につけている者の攻撃の威力を上げます。どうやら一定の威力だけが上昇するようで、例えばトキトウのように戦えない者にとっては心強い装備ですが、リピアネムが身につけてもあくまでも誤差にしかならない強化なのです」
「なるほど……」
ということは、ゲームではわずかな固定ダメージを付与するとかかな?
序盤ではそのわずかな火力が頼もしいが、終盤ではその程度の底上げは無意味になるわけだ。
なんだろう。あいつらはRTA集団だ。もしかしたら、そのアイテムの有用な利用方法でも知っているのだろうか。
たとえば、HPが低い代わりにどんなダメージも一桁にしてしまう敵とか。
うちのモンスターにその手の特性を持った者はいないが、RPGでその手の敵は有名だからなあ。
「フィオナ様。どんな攻撃もまったく効かない生き物っていますか?」
「私がそうです」
「そうでしょうけど……」
そういうことではない。
さすがに魔王であるフィオナ様は、高耐久と引き換えにHPが低いとかではないだろうし。
……違うよな?
「フィオナ様ってHP低いですか?」
「けっこう体力は高いです。レイと二晩くらい一緒に遊んでいられますよ!」
「そうですか……」
いや嘘だな。絶対に途中で眠るぞ、この魔族。
体力があるのは認めるけれど、健康的な生活を送っているからなあ。
「じゃあ、あの指輪を装備した者がフィオナ様を数回攻撃しても、死ぬってことはありませんね」
「そもそも、私にあの装備の効力が発揮されるかわかりませんね」
「魔王や四天王、十魔将には効かないってことですか」
そうなると、やはり硬くてHPが低いボーナスキャラみたいなのを乱獲するのかな。
「いえ。私以外には効くでしょうけど、まあ普通の強化のほうが強いでしょうね。それこそマトバの強化魔法とかのほうが」
そんなレベルか。
彼らがあのアイテムをどう使うのか、なんだか気になってきたな。
ピルカヤにはそのあたりも監視してもらうとしよう。
「ところで、彼らは一応目当てのアイテムを引いたわけですが」
「そうですね。用途はわかりませんが、引いたことはたしかみたいです」
さすがのフィオナ様も、魔王として魔王軍のことを考えているみたいだな。
RTA軍団という知識と女神の加護を有した者たち。
やはりここらで対処しておきたいと思ってくれているのだろう。
「なので、そろそろ地底魔界でもガシャ強化月間というのはどうでしょうか?」
思ってなかったね!
そんな事だろうと思っておくべきだったよ。
だが、フィオナ様が平常運転ということは、地底魔界に危機が迫っていないと安心できるのも事実だ。
「そもそもガシャ強化月間と言われても、何をすればいいんですか」
「一日のガシャ回数を二回から十回に増やすというのはいかがでしょう」
「駄目です」
「レイとの交渉中ですよプリミラ!」
「駄目です」
じゃあ駄目ですね。
プリミラが駄目と言った以上は、俺も許可するわけにはいかないから。
まあ、他人がガシャでアタリを引いたのを見てしまったのだ。自分もという気持ちはわからんでもない。
影冠樹へ貯める魔力をいつもより多めにして、少しだけガシャ回数も増やしてあげようかな。
プリミラへの交渉をする姿を見て、俺は密かにそんなことを決意するのだった。
「いやあ、プリミラは強敵でしたね」
「四天王ですから」
「頼もしいかぎりですねえ!」
魔王に真正面から意見を言える四天王だもんな。
そりゃあ当然頼もしいに決まっている。
なお、魔王様は善戦することもなく敗北した。
「仕方ありません。では、いつもどおりのガシャにしましょう」
「影冠樹に少しだけ多めに魔力を注いだので、今日は三回でもいいですよ」
「だからレイって好きです!」
現金な魔王様だよなあ。そして安上がりな魔王様だ。
もっとも、魔力九千分の浪費と考えるとなかなかのものだけど。
「ふむ……。ですが、その魔力はレイが宝箱を大量に作るのに使ってください」
「え? 宝箱だけ作っても、フィオナ様がガシャを引く回数は増えませんよ?」
厳密には魔力注入無しなら回数も増えるが、そんなことをしたら蘇生薬を引けなくなりそうだ。
「ガシャ強化月間なので、私以外のみんなにも引いてもらいましょう!」
「ああ、ガシャ祭りですか」
「気持ち小規模なガシャ祭りですね」
そういえばここ最近は開催していなかったからな。
ただ、そうなると準備が大変になる。
地上のカジノでも宝箱関連の催しに力を入れなくてはならないからな。
……ただ、RTA軍団がいる今は地上では宝箱の調整はしたくない。
なるほど、だから小規模と言ったのか。
「今回は地上は無視して、地底魔界だけでってことですよね?」
「ええ。みんなで楽しく宝箱を開けるとしましょう」
「いいと思いますよ。自分たちで宝箱を開けるというのも、わりとみんな楽しんでいますし」
こうしてちゃんとみんなのことを考えるのだから、フィオナ様がみんなに愛される理由というものがわかるな。
するとフィオナ様は不敵な顔で笑うのだった。
「蘇生した者たちにもガシャの沼……楽しさを体験してもらいましょう。そしてゆくゆくはプリミラから私をかばうように……」
「部下を巻き込まないでください」
「じょ、冗談ですけど?」
いや、今の目は本気だった。
プリミラに叱られるにしても、仲間が多ければ負荷が分散するとでも考えているのだろう。
なんとも小癪な魔王様だ。
そして、そんなことを考えていた罰が当たったのだろう。
みんなに声掛けして宝箱を開けていく中、フィオナ様は膝から崩れ落ちた。
「周りはわりとアタリを引いてたのに!」
「だって、フィオナ様は蘇生薬一点狙いじゃないですか。周りの者たちだって、それだけ高望みしたら全部ハズレになりますよ」
「そうですけど~……」
別にフィオナ様の運が悪いというわけじゃない。
喜んでいる者たちが引いた品は、フィオナ様だってもうすでに何度も引いているようなアイテムだ。
足るを知るということを学んでもらうべきなのだろうな。この魔王様には。




