第689話 地震雷火事オカン
「よお、あんたもここに来てたのか。ルフ」
俺と同じ獣人が話しかけてくる。
見覚えはあるな。たしか、リピアネム様と出会ったダンジョンを共に攻略したことがある。
「ああ。あのダンジョンで死んだからな」
「え!? し、死んだ……? ……よく見れば、その身体ゾンビか?」
「エピクレシ様に蘇生していただいた身体だ」
最初は自分と関係がない獅子獣人の肉体だったが、今ではこの男が俺の顔を見てルフと判断するほどには肉体が馴染んだらしい。
「そうか……。まあそうだよな」
男は納得した様子で一人頷いている。
ただ、何に納得しているのかは彼のみぞ知るところだ。
「ああ悪い。一人で納得しちまって」
そんな自分の姿をかえりみることができたのか、男は俺を見て一言謝った。
「なに、魔王軍ならあんたを殺せるなってことと、あんたなら魔王軍がわざわざ蘇生させるだろうな、という二点に納得したのさ」
「俺はまだまだ弱いがな」
「あんたで……と言いたいところだけど、ここにいるとその言葉も正しいってわかるんだよなあ」
そのとおりだ。
俺の死因であるリピアネム様との戦闘。
あれは出来すぎた。
魔王軍のナンバーツーとの一対一の戦闘など本当に俺にとって都合が良く、俺の生涯のツキをあそこで消費したのだろうな。
なんせその下の十魔将ですら俺の上。
十魔将の部下である戦闘部隊ですら俺の上だ。
よくもまあ、あのときはリピアネム様直々に相手をしてくれたものだ。
「魔王軍に強者はいくらでもいる」
「ああ、そのとおりだ。鍛えがいもあるな」
男の言葉にわずかに笑みが漏れた。
ああそうだ。こいつも俺寄りの獣人ということだろう。
際限なく高い上が近くにいるのはわかっているが、それでも可能な限り登ってみたい性分なのだ。俺もこいつも。
「ただ、正規の魔王軍を除いた強者のランキングでも、かなり壁は厚いみたいだな」
「む、噂には聞いていたがそれほどか」
「ああ。なんでもトキトウとかいうウサギの獣人が君臨しているらしい」
トキトウ……。会ったことがあるな。
たしか小僧と同じ転生者の一人だったか。
面白い。異世界にもそれだけの強者がいるのか。
存外、異世界のほうが戦いに満ちた世界なのかもしれないな。
「あと、あんたの弟子もかなり強いらしいじゃないか」
「未熟だがな。ただ、力量は俺より上だ」
「げえ……。あんたがそう言うほどかよ」
実際のところ、戦ったらもはや勝てそうもない。
ふむ……。まずは弟子超えを目指すべきか?
「おや、ルフさん。それにジェインさん。何のお話ですか~?」
「トキトウさん」
「ええ!? なんでさん付け? 年下の時任なんですけど!」
「いえ、地底魔界の強者とお聞きして……その、つい」
「濡れ衣です! 私が戦ったら一秒で死にますから!」
「一秒で敵を殺せるほど……」
……たぶん勘違いだぞ。
どうやらこの娘は強さを誤解されているようだ。
ただ、なぜだろう。訂正する気になれないのは。
おそらく、そういう星のもとに生まれてきたのだろうな。
「まったくもう! 魔王軍は私なんかより強い人しかいないんですから、雑魚の時任を持ち上げる必要なんてありませんからね!」
「芹香。何を騒いで……。こんにちは」
「ああ。オクイか」
トキトウの強さの一つがさっそく発揮された気がする。
人を集めその中心になるのだ。この娘は。
気付けば周囲には、魔族ではない者たちが集まっていた。
「強さランキングか。まあ、主観まみれだもんな」
「誤解も大いに混ざっていると思いますけどねえ!」
「ナルカミ様が上位。……いいランキングなのではないでしょうか?」
「ただ、このランキングのトップであるトキトウさんですら、魔族の方々には勝てないんだろ?」
「一発で負けます! そして死にます!」
「それほど強いのか。魔族……」
いや、だからそれはトキトウが戦闘に不向きというだけで……。
まあいいか。
「魔王軍の強者のランキングをつけたらどうなるのかな?」
「そりゃあ魔王様。四天王様。十魔将様で埋まるだろ」
「四天王様強いんだろうなあ。ルフ、あんた四天王様に殺されたんだっけ?」
「リピアネム様に一刀でな」
ただ、他の四天王様の強さは知らない。
戦ってみたいものだ。いったいどれほどの強さなのか。どんな戦い方をするのか。
「ピルカヤ様は定期的に裏切り者を燃やしてるよな」
「ああ。いつもの様子で燃やすから怖いよな……」
「いえ。ピルカヤさんが本気で怒ったときはもっと怖かったです……。顔をいつものかわいい感じじゃなくなっていましたし……」
「四天王をかわいい顔といえるあたり、トキトウさんってやっぱやばいよな」
「なんでえ!?」
ピルカヤ様は小僧が苦戦した相手だからな。
女神の加護を失った今では勝ち目がないとこぼしていた。
「リグマさんはよくわからないな」
「ただ、絶対に弱くないことだけはわかる」
「ええ。歯向かった瞬間容赦なく倒されるでしょうし」
リグマ様も間違いなく強者だ。それもとらえどころがないタイプの。
……俺が苦手とする相手だろうな。
「でもやっぱり、プリミラ様がリピアネム様の次に強いんじゃない?」
「わかる」
「ダスカロス様と二人で魔王軍全体を補佐してるもんな」
その場にいる誰もが反論しなかった。
全員がプリミラ様の世話になっているため、誰も異を唱えることはできないのだろう。
「レイ様! それ以上は侵入者が死にます!」
「ドワーフだぞ?」
「ドワーフはレイ様が思うほど頑丈ではありません!」
……なんか、すごい会話が聞こえてきたな。
集まっている者たちが震え上がる。
特にドワーフたちにおいては、顔を蒼白にさせている者も少なくない。
「……俺たち、プリミラ様がいなかったら死んでたんじゃないか?」
「というか、宰相様にあそこまで意見できる時点で、プリミラ様の強さは疑うべくもないな」
四天王トップはリピアネム様。その次はプリミラ様。
ここに集まった者たちの中で、その意見に異論を唱える者はいなかった。
◇
「レイもですか」
「ええ。フィオナ様も?」
「お腹が空いていたので、マギレマに頼んで間食していたら叱られました」
「俺はダンジョンでやりすぎたから怒られました」
二人で正座して互いの状況を共有する。
うん。俺たちが悪いな。
ということで、しっかりと反省してプリミラに許してもらおう。
「魔王様、間食しすぎるとレイ様にだらしない体を見せることになりますよ?」
「み、見せませんけどお!? いえ! 見たいというのなら見せてやりますけど!!」
「落ち着いてください魔王様。間食しすぎた体は見るに堪えないものです」
「それほどですか!?」
「はい。ですので、これからはもう少し節度を持った間食にしてください」
「ぐぬぬ……。いいでしょう! レイのためにも我慢してやろうじゃないですか!」
落ち着いてください。フィオナ様。
あなた、このままでは俺に体を見せることになっています。
……まあ、ラプティキさんが作った服を見ることも多いから、そのときに見ているといえば見ているか?
「レイ様。ダンジョンで死者が出ると、ダンジョン魔力が減ります。そうしたら影冠樹の魔力も減ります」
「すみません」
「つまり、魔王様が宝箱に使える魔力も減ります」
「それは駄目です! レイ、自重しましょう!」
そうきたか。
俺ではなくフィオナ様を味方につけるとは……。
そうなるとこちらも何も反論できない。
「まあ、悪いのはこっちだし、プリミラの言うことに逆らう気はないけど」
「反省はしてくれるのですが……油断すると力が暴走するのですね」
「そんな、昔のリピアネムじゃあるまいし」
「同じです」
同じか~。
まあ、ちょっと楽しくなってたことは否めない。
プリミラが指摘してくれたことだし、今後はもう少しマイルドなダンジョンにしないとな。




