第688話 的場ちゃんを手招きするアナンタくんとロペスくん
「なるほど、喜びのダンジョン。そのようなものが俺の死後に作られたとは」
「実際は死者を発生させないダンジョンだぞ、師匠。俺たちが求める戦いとは真逆じゃないか?」
「甘いな小僧。それはあくまでも敵としての場合だろう。調整中の今であれば、必ず生還する保証がないということだ」
「はっ!」
はっ! じゃないんですけど!?
何を言っているのでしょうか。この師弟は。
ルフさんも朝倉くんも、身内だからこそ危険な目にあえると言いたいのですか?
そんなこと……。あの宰相様ならやりそうですね。
「どれ、宰相様に提案してこよう」
「俺もついていこう師匠。独り占めはずるいぞ」
「待ってください二人とも」
さすがに冗談ですよね?
バランス調整中だからこそ、危険なダンジョンとして挑戦できるとか思っていませんよね?
「どうした? 的場」
「身内が挑戦して死ぬようなダンジョン。死亡事故として大問題です」
そうです。そんなことになれば魔王軍にも迷惑をかけるでしょう。
この二人もそれならば止まってくれるはず……。
「問題ないぞ。マトバ」
しかしルフさんの発言はさすがに冗談だったみたいですね。
心配する私を安心させるように、穏やかな声で答えてくれます。
「俺たちはすでにアンデッドだ。死ぬようなことはないだろう。せいぜい身体が損傷する程度だが、エピクレシ様が修復してくれる」
「なるほど。さすがだな師匠」
「待ちなさい。馬鹿師弟」
放っておいたら本当に宰相様のところに行きそうだったので、私は取り繕うこともせずに止めました。
「的場。最近口が悪くなっていないか?」
「朝倉くんは、最近頭が悪くなっていると思いますが?」
「む……。俺はもともと頭は良くないからな」
「そういう意味ではなくてですね……。ああもう! 獣人って馬鹿ばかり!」
「はっはっは」
ルフさんも笑っていないで自重してくださいね!
私は二人をなんとか説得し、宰相様に馬鹿な提案をするのを止めました。
「……なんてことがありまして」
「た、大変でしたね……」
奥居ちゃんは、心底理解できるような態度で頷いてくれました。
そうですよね……。地底魔界での生活に慣れてきてわかりましたが、この集団ってぶっ飛んだ人たちのほうが多いですからねえ……。
「馬鹿な獣人の時任です!」
「ち、違います! あれは言葉の綾といいますか……」
「……馬鹿な獣人の奥居です」
あなたはあなたで、わりとノリがいい子ですね!
まあ、奥居ちゃんのほうは冗談で言っているのでしょうが、時任ちゃんはどっちなんでしょうか……。
「まともな獣人がいることは知っていますから……。冒険者の方にも店員の方にも」
戦闘馬鹿の比率が高めというだけですね。
まあ、この世界においてはそちらの獣人のほうが多いようですが。
「でも、的場さんも大変ですねえ。朝倉くんに振り回されて」
「いえ。生前は私が彼を利用する形で振り回してしまったので、それ自体は仕方ないことなのですが」
「ほほう?」
……なんでしょうか? 時任ちゃんのウサギの耳がぴこぴこと動いてかわいいじゃないですか。
やや下卑た笑みというには、彼女はかわいすぎますが、真っ当ではない笑みを浮かべていますね。
「的場さんと朝倉くんくらいの年齢差なら全然ありだと思いますよ!」
「な、何がでしょうか……」
「え? お付き合いしてるんじゃないんですか?」
「違いますが!?」
彼は利用してしまった転生者であり、弟のようなものですね。
最近では手のかかる感じも弟に似てきました。
「な~んだ。それじゃあ私たちの仲間ですね?」
「仲間?」
「パートナーなし転生者同盟にようこそ!」
「それはそれで、喜んでいいのでしょうか……」
もともと女子高生だったというらしいですし、そういう話題も自然に出てきますか。
うらやましいですね。元社会人としてはもはやそんな余裕なくなっていましたので。
「こちらの転生者の方たちは、そんなにお相手がいるのでしょうか?」
……思い返せばわりと心当たりがありますね。
「まず友香ちゃんと新ちゃんは、風間くんと幸せです」
「あ~。すごいですよね。全員転生者なのに、よくあの関係が続けられますね」
堂々と二股してるってことですよね?
風間くん、真面目な子なのでイメージと違いますが、どうやら原ちゃんと世良ちゃんが今の関係を望んだそうです。
最近の女の子ってすごい……。
「ロペスくんは、クララさんといい感じですね~」
「まあ、あの二人は否定しそうだけどね」
ロペスくんはハーフリングなので見た目は少年のようですが、年齢は私と同じくらいでしたね。
ダークエルフの女王様とそのような関係を持つなんて、こちらの世界で大活躍したのでしょうか。
ただ、奥居ちゃんの言うとおり、互いに素直じゃないという印象を受けました。
「鳴神くんとアルメナさんは、なんというかパートナーって感じですね」
「そうだよね~。バディってやつかな?」
「たしかに、あの二人もよく一緒に行動していますが、なぜかそういう感じには見えませんね」
ヒーローとそのパートナーみたいな感じだからでしょうか?
浮いた話にできないのは、あまりにも真っ直ぐだから?
「でも、アルメナちゃん。バレンタインのときにちゃんと鳴神くんにチョコ渡してました!」
「そうなんですか。初々しいですね」
疲れ果てた元社会人からしたら眩しいくらいですねえ……。
「てなわけで、私は的場さんがこの同盟をすぐに裏切って、朝倉くんといい感じになると思っています!」
「なりませんから! 彼は弟みたいなものなので……」
うん。それであっているはず。
だいたい年下の未成年じゃない。しっかりしなさい。
なにを時任ちゃんの言葉に揺さぶられているの!
「え~。年齢差を言い出したら、魔王様とレイさんすごそうですよ?」
「魔王様と宰相様」
お、おいくつなのかしら?
二人とも見た目は若いわよね……。それこそ、私と朝倉くん程度の差に見えていたんだけど。
もしかして、どちらかの年齢が見た目相応じゃないのかしら?
「魔王様、レイさんよりかなり年上らしいですよ?」
なるほど……。さすがは魔王様。
きっと相当多くの経験を積まれて、今の魔王という地位に立っているのでしょうね。
そんなふうに感心していると、ちょうど話題にしていた二人の姿が見えました。
……なんか、魔王様が宰相様の腕を引っ張っていますね。
宰相様は宰相様で気にせず歩いていますし。
「あと一回! あと一回で蘇生薬が出るんですってば~!」
「駄目です。あと一回があと百回になりますので」
「いいじゃないですか~! レイのケチ!」
「ケチでけっこうです。さあ、仕事に戻りますよ」
「私の仕事ないじゃないですか~!」
……この光景も最初の頃は驚きましたけど、日常となっているのだからすごいですよねえ。
近くで倒れるプネヴマ様も含めて。
「えっと……」
小規模な嵐が通りすぎ、私は二人の顔を見ました。
「宰相様が年上で、魔王様が年下って話でしたっけ?」
「逆のはずです……」
そ、それだけ甘えられる相手ということですね!
そうしておきましょう。これ以上は不敬ともいえることを考えてしまいそうですし。
◇
「ぐすん」
「泣いたふりならせめて涙の一つでも浮かべたらどうですか」
「そんなことにしたら、レイが本気で心配してくるから罪悪感を抱くことになるんです」
「騙そうとしている時点で抱いてください」
「今抱いてくれと言いました? よしっ! 寝室に行きますよ!」
「都合いい耳ですね。この魔族は!」
駄々をこねる魔王様をなんとかあしらい、俺は仕事をこなすのだった。
ただ、当然というべきかその晩は抱き枕にされてしまった。
……今日は一緒に寝る日じゃなかったはずだよな?
なんか気づけば丸め込まれているが、この魔王様わりとやり手なのかもしれない……。




