第687話 学習するタイプの強敵
「資金調達だ!」
おかしいな。
宝箱が安全に開けられるのなら狙ったアイテムもすぐに手に入ると思ったんだけど、現実はそう甘くないってことか。
にしたって、ゲームと現実の違いがよりによってこんなところで発生しなくてもいいじゃないか!
「まったく……。熱くなって馬鹿みたいに金を使いやがって」
だからチャート変更してアドリブで走るのは危険なんだ。
ああ……。再走してえ。
だが、ここはゲームとは違う。リセットもできないし、ゲームオーバーで死んでしまう。
なら、アドリブで切り替えた道についてもよく調べないとな。
「貴族連中への伝手は?」
「まだあるよー。相変わらず人気みたいだからねえ。喜びのダンジョン」
なら、このまま破産なんて心配だけはなさそうか。
これに凝りて、楽しようとせずにしっかりと元の計画を……。
なんてできたら苦労しないよなあ!
だってしょうがないじゃないか。
元々考えていたチャートよりもずっと安全で確実性も高いんだから。
ダンジョンや辺境を探して宝箱を探る? それともイベントをこなす?
それだって確実に安全である保障なんてどこにもない。
なら、金以外は不要なカジノの宝箱こそ最善の手段だろ。
「とりあえず、全員で荒稼ぎだ」
「金払いがいい貴族を楽しませるダンジョン。魔王も案外金儲けが目的なのかもねー」
だとしたら、魔力回復薬を売っている昆虫人が魔王軍の手先?
いや。それにしては効率が悪くないか?
大がかりなダンジョンを作ったとして、商店での費用だけで回収しきれるとも思えない。
だとしたら、魔王の仕業ではなく女神あたりが作ったのかもな。
人類に実戦訓練を積ませる場みたいな感じで。
まあそれはどうでもいいか。
俺たちは浪費した資金を補充すべく、向こうのダンジョンへと移動することにした。
「それではよろしくお願いします」
貴族相手に頭を下げる。
必要以上にこちらに威圧的でもなければ、偉ぶって無茶な命令を出したりもしない。
なんとも平和な相手で助かる。
戦闘ごっこを楽しみたいという金持ちの娯楽ってわけだな。
こちらも金儲けができるし、同じく戦闘ごっこに慣れる必要があるのはこちらも同じ。
ゲームで行っていたことを現実でこなす必要がある以上、こうして実戦訓練ができるダンジョンというものは非常にありがたい。
「このアイテムは……」
ただ、このダンジョンのこの部分は嫌いなんだ!
おのれローグライト。クリア報酬としてアイテムを回収させてくれよ。
道中で使った装備にこうして俺たちが狙っているものがあるなんて、運が良いのか悪いのか。
これも時間経過で消えるのかあ……。なんてもったいないんだ。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでも」
やめよう。このアイテムは使わない。
使っていたら消えるとき余計に悲しくなる。
いつか当ててやる。ここで引けたってことは、カジノの宝箱から引けても不思議じゃないはずだからな。
さて、ここまでは順調だ。戦闘で怪我人はなし。消耗もしていないのでボスまではたどり着けるだろう。
となると、ちょっと見覚えのないルートをたどるのもありか。
このダンジョンは定期的に構造が変わる。
それだけでなく、まるでアップデートで新たなエリアを追加したのか、というような場所ができることがある。
無視してもいいが、このエリアについて知らなければ後々困ることもあるからな。
こうして余力があるうちに体験しておきたい。
「マグマや雪原や密林は見たが、そういえば湖エリアはなかったな」
目の前に広がる広大な水辺を見ながら、ついそんな感想を口にする。
水系かあ。ハイドロロブスターやだなあ。あいつのスナイプ能力おかしいし。
いちいち行動が阻害されるのがうざかったが、現実となったここでは阻害どころか負傷しそうだし。
「あと、エリア狭すぎだろ!」
案の定でてきたハイドロロブスターの群れを相手取る。
厄介なビームは健在で、こちらを執拗に狙い続けてきた。
だけど、この世界では威力が低いみたいだな。これなら怪我どころか怯みによる硬直とかも気にせず戦える。
……いや、このダンジョン特有の安全なモンスターだからか? 別の場所で同じ考えをしたら足元をすくわれそうだな。
そしてそれとは別に足元がうっとうしい。
見た目はほとんどが水だ。その中には浅い部分も深い部分もある。
浅い部分は足がとられこそするものの、一応その場でモンスターと戦える。
だが、少し移動するたびに急に深くなっている場所がある。
「ああ!」
何度目だよ!
敵の攻撃を回避したらそのまま素潜りさせられたのは!
これ、かなり厄介じゃないか? 水の中をよく見ればどこが深いかはわかる。
だけど、戦闘中に足元に目を向けないといけないというのが単純に厄介すぎだ。
「慣れねえと駄目か!」
今後も貴族たちの護衛がてらここに通うか。
まだ初見だ。モンスターの攻撃をさばきつつ足元も注意する余裕はない。
だけど、慣れたらどうにかなるだろ。試行錯誤を繰り返してこの罠にも対応してみせる。
そうしてこの世界で新たに発見した不安要素を一つ一つ攻略してやろうじゃないか。
◇
「学習能力高いな」
違う。お前に言ったんじゃないぞ。ソウルイーター。
たしかにお前も賢いのは認めるけれど、今は褒めてないから巻き付かないでくれ。
……いや、巻き付いても邪魔になってないからいいや。
「そうですね。回数を重ねるごとに、確実にレイの罠に対応しています」
「となると、やっぱり初見殺しが一番ですか」
「殺すなよ~? 喜びのダンジョンで死者を出したら、客層が変わる上に収入が減るからな?」
リグマが何度も念を押すが、さすがに俺だってそのくらいわかっているさ。
ただ、こいつらの対応力の高さをここで測れたのはよかったかもしれないな。
なんとなくヨハンを思い出す。あいつも四天王の攻撃を学習し、どんどん優位に立っていったからな。
『こんなの聞いてないんだけど~!!』
まあ、初見の反応はすごくいいけど。
なるほど。やはり岩……。有効な仕掛けは覚えておくとしよう。
それに初見ならば通じるというのも僥倖か。
『開発よりやばいだろ!』
そりゃあ俺はゲームの開発者じゃないもの。
クリアさせつつ難易度調整するという点では、喜びのダンジョンも同じだ。
だけど、そこは素人なのでバランスが崩壊していても多めにみてくれ。
大丈夫。死にはしないということはアナンタからもお墨付きだから。
「悪いなぁ。もう止められないんだよ。こっちも妥協しないと」
そんなアナンタの言葉は当然彼らには届かなかった。
ただ、あっちのダンジョンで戦闘している姿を見せてくれるのは助かるな。
加護こそ使っていないようだけど、それでも強いということはわかった。
それに、喜びのダンジョンなので様々な装備と出会うため、何を取捨選択するかもわかる。
少なくとも、彼らが目当てとしている装備は手に入っていないみたいだな。
まあ、あからさまに強力な装備なんて出ていないし。当然といえば当然か。
「ふむ……。私も喜びのダンジョンで資金を集めれば、日に何度もガシャをできる可能性が」
「ありませんね」
「ですよね~」
そりゃあそうでしょう。
彼らは魔力回復薬程度でなんとかできていますけど、あなたはそれができないんですから。
俺は念のためにダンジョンに向かおうとするフィオナ様を止めながら、RTA軍団を観察し続けるのだった。




