第685話 試金石は大盤振る舞い
「リグマが戦うんだっけ?」
「え、何の話!?」
俺の発言にリグマがとぼけたような言葉を返す。
だが、俺はちゃんと聞いているんだぞ。プリミラとピルカヤから。
「次の厄介そうな転生者はリグマが相手するって、二人から聞いた」
「聞かせた~」
「お伝えしました」
「お前らなぁ……」
二人を不審な目で見つめるリグマだが、身に覚えがあったのかそれ以上は何も言えないようだ。
ということは、やっぱりもしもRTA軍団がやってくるのならリグマに任せればよさそうだな。
「よし、リグマの力を活かせるダンジョンを考えよう」
「やる気出してんじゃないよ。レイくん、ダンジョンを自由に作りたいだけでしょうが」
失敬な。そんなこと少ししか考えていないぞ。
RTAなんてしていた集団が敵になったら脅威だからな。
準備しておくに越したことはないというだけだ。
「よし、行こう」
「おじさんの話聞いてる? もう新しいダンジョンのことで頭いっぱいじゃん」
それはそうだけど、敵が脅威だということを忘れているわけじゃないから。
なんせまだどんな加護かもわからないんだ。
だから今から作るのはあくまでも基礎であり、そこから相手に合わせて変更していく必要が出てくる。
さあ、忙しくなりそうだぞ。
「レイ。少し待ってもらえるか?」
「ダスカロス。どうした? 今回は一般の侵入者を相手にするつもりはないから、やりすぎとか考えなくていいぞ」
「それはそうかもしれない。私が言いたいのは別のことだ」
よかった。釘を刺されるのかと思ってつい言い訳じみた発言が口から出たが、それは考えすぎだったようだ。
しかし、そうなるとなぜ止められたんだろう。
「今回の転生者、そもそも敵対するのか?」
「あ~……。今のところわからないな」
喜びのダンジョンの攻略を楽しむか、モンスターダンジョンでレベリングするか、欲望のダンジョンのカジノで散財しているだけだからな。
ここだけを切り取ると、単にいいお客様という印象しかない。
ただ、問題は二つ。
一つは転生者であること。どんな女神の加護かわからないが、これまでの傾向を考えると厄介な相手になる可能性は高い。
そしてもう一つはRTAに挑んでいたということだな。こちらがかなり危険だと思う。
この世界の知識をかなり深いところまで記憶している可能性が高く、ともすれば魔王軍を倒す何らかの方法を知っているかもしれない。
それに、朝倉と的場が言うには国松とジノの仲間だった連中だろ?
方針が合わなかったとは言っていたが、だからといって魔王軍を倒さないとまではいかないはずだ。
この集団が敵になる可能性は非常に高いと思っている。
「いずれ敵対するにせよ、下手に手出しをすべきではないか」
ただ、今はまだ敵対行動をとっていない。
そんな状態で積極的に攻撃すると裏目に出る可能性もありそうか。
「ああ。それと、アサクラとマトバから連中の力を聞いておけないだろうか」
「それなあ」
俺も二人に改めて聞いたのだが、残念ながら結果は芳しくなかった。
「国松の鑑定結果、本人が嫌がる場合は仲間であろうと共有しなかったらしいんだ」
だから、彼らは自分の加護のことを仲間にも明かしていなかったようだ。
中には朝倉と的場、鳳姉弟のように周知している者もいるらしいが、全員が全員そうとは限らない。
……味方の能力くらいは共有しておいたほうがいいと思うんだけど、まあそこは性格の違いかな?
「となると、敵対するにしても情報収集が必要だな」
「じゃあ、まずはモンスターたちを多めに戦ってもらうダンジョンにしよう」
「それもいいな。あとは、私たちのことなんだが」
「ダスカロスたち?」
彼が指しているのは自分を含めた十魔将のことのようだ。
本格的な作戦会議でもないのに全員そろっているとは思っていたが、どうやら何かあるらしい。
「魔王様から強化アイテムを授かった以上、どこかで試してみたいとも思っていた」
「あ~……。それで、あいつらってわけか」
「そうだな。そも、敵の数は多い。リグマ一人に任せるのはさすがに手が足りないだろう」
「分体いっぱい作れば足りそうだけどね」
「おじさんのキャパシティがオーバーしちゃう」
そうかなあ?
ピルカヤと違って弱体化せずに出せる分体もいるじゃん。
カーマルたちをそれぞれ迎撃担当にすれば……。それでも五人だから、相手の数の半分くらいか。
「リグマは全体のフォローをして、十魔将に相手してもらうのが一番効率的かな?」
「フォローはまかせろ~」
本当か? 十魔将が優秀だから、自分のフォローは不要と思っていないだろうな?
仕事がなくなってラッキーって考えていそうだな……。
まあ、そのやる気のない返事も、裏を返せば十魔将を信頼しているってことなんだろうけど。
「ただ、戦う前に全員に不死鳥の羽根は配るぞ。いいですよね? フィオナ様」
「ええ、かまいませんよ。そのあたりのアイテムの使用についてはレイに一任していますので」
フィオナ様の許可ももらえたことだし、保険としてアイテムを支給することはできる。
万が一ということもあるからな。蘇生薬という保険はあるにせよ、保険はいくつあってもいいはずだ。
……ところで、なんでイピレティスは興奮しているの?
いや、よく見れば何人かは複雑な表情を浮かべているし、何人かは覚悟を決めたような顔だな。
「つまり、負けるくらいなら死んで痕跡を消せってことですね! 僕、レイ様のそういうところ好きです!」
違う。そんなこと言っていない。
存在しない俺の良さを捏造しないでくれ。そしてそれに興奮しないでくれ。
「が、がんばって……死んだふりします……!」
「プネヴマはもう死んでるっすけどね」
なんかみんなが前向きに死のうとして怖い。
あくまでもやられたときの保険用のアイテムだというのに、自決しろと命令を下したみたいなってるじゃん。
嫌だよ。十魔将をそんな無意味な作戦に使うのは。
「そうじゃなくて、もしも死んだときの保険って意味だったんだけど……」
「だが、敗北した上に生存しては、魔王軍が想定以上に力を取り戻していると思われないだろうか」
ディキティスの言うことももっともなんだけど、その場合はまあリグマがなんとかしてくれるだろう。
「大丈夫。リグマがフォローしてくれるから」
「ええ!?」
何を驚いているんだ。
さっき十魔将の戦闘に関してのフォローはお願いしたじゃないか。
十魔将がしくじったときなんとかするのがリグマの役目だぞ。
「十魔将を倒した転生者はリグマが倒してくれる」
「おじさんへの信頼が重いねえ……」
「それか、十魔将のふりをして転生者の前で自爆する」
「そんなことさせようと思ってたの!?」
あくまでも一例だけどな。
現実問題、リグマの変身能力があれば十魔将の姿を模すことは可能だ。
それに、リグマ本体で戦ったうえで転生者に逃げられてしまったら、十魔将どころかリグマまで生きているという情報が持ち帰られてしまう。
まあ、このあたりは実際に戦う前までに詰めておく内容だろう。
「とりあえず、今は十魔将の戦い方にあったダンジョンのエリアを作るとしよう」
「そうしてくれえ。おじさんの負担をなくすためにも、十魔将はしっかりとレイくんのダンジョンを活用するんだぞ!」
「君、自分の出番をなくすために本気でダンジョン造りを手伝おうとしているな」
「おっちゃんらしいよね~。そっちに力を注いでいるのなら、結局働いていることに変わりないっしょ」
まあ、リグマだもん。
仕事に対して不真面目みたいな口ぶりだけど、結局は真面目に手伝ってくれるのだ。
さて、とはいってもまだ実際に作るわけにはいかないよな。
転生者たちが攻めてくるかさえわからない。だからどこに戦闘区域を作るかさえもわからない。
とりあえず、今はリグマとどんな場所を作れば戦いやすくなるかを詰めておくくらいにしておくか。




