第684話 根拠のない乱数調整という名の儀式
「ターナから連絡が来た」
「それとルークからもね」
ガルドリックたちの監視を一旦外れると、別行動していた仲間たちからちょうど連絡がくる。
ターナは欲望のダンジョンとやらの調査とアイテムの入手手段の確保。
ルークは喜びのダンジョンとやらで貴族の護衛をしながら金策。
どうやらどちらも順調なようだ。国松には悪いが、やはりあいつらと別行動して正解らしいな。
ここが現実であり、危険な行動はすべきではないという方針もわからなくはない。
だが、そのままではいつまでたっても魔王を倒す目途が立たない。
RTAで培った技術と知識がどこまで役立つかはわからないが、少なくともまったく使えないということもないだろう。
だから、ダンジョンに近づかないというのはありえない。
レベル上げもアイテム入手も、ダンジョンを除外したら選択肢はぐっと減る。
「どうする? 天野。一旦合流する?」
玉村の問いかけにしばし考える。
ターナたちとルークたちは、すでに情報なり金なり成果をあげている。
俺たちはモンスターダンジョンを調査し、効率的なレベリングが可能か確認するのが役割だ。
ある程度挑んでモンスターの傾向は理解したので、こちらの情報も共有しておいてよさそうだな。
「ああ。一度落ち合おう」
それにマルコスとガルドリックを発見したことについても報告したい。
教会のネームドNPC。これをほうっておく理由はないだろうからな。
味方にするにせよ。イベントをこなすにせよ。……倒してアイテムを奪うにせよ、な。
「ルーク! 金策は順調!?」
合流してすぐにアイテム班のターナ・モンゴメリが、金策班のルーク・ビスマルクに詰め寄った。
別に責めているとかではない。ただ、なんか鬼気迫るというか熱くなっているというか……。
なに? どうしたのこいつ。
「う、うん。貴族の護衛でそれなりに稼げたけど……。いったいどうしたの?」
当然というべきか、迫られているルークもたじろいでいる。
よほど火急の用件か? 資金が必要なイベントがあちらのダンジョンで発生したのかもしれないな。
「欲望のダンジョンに全て注ぐわよ!」
「ちょっと待て。話が見えない」
せめて報告してくれ。杉本、アロン。お前らが説明してくれ。
ターナにいったい何があったというんだ。
二人に説明を求めると、多少落ち着きを取り戻したターナのほうから説明をしてくれた。
「欲望のダンジョンは私たちが知らない場所だったわ。そこにはカジノが存在したの」
「カジノか。サンセライオ以外に存在するなんて、本当にゲームとは別世界だな」
大本は同じだが、ところどころが違う。
ジェルミ王子が死んだというのに、人類と魔王軍が硬直状態なのもおかしい。
ヤニシアの聖光の刃や翠光の弓が壊滅しているのに、なぜ序盤のような平和な世界なんだ?
俺たち以外の転生者が好き勝手動いている影響なのか。それとも、似ているだけで細部が違うのか。
ともかく、ターナたちが発見したカジノもそのうちの一つということだろう。
「そのカジノでなら、私たちが求めているアイテムが入手できるはずよ!」
「カジノで? ……ああ、コインゲームの景品ってことか」
ただ、あのゲームでそんなおやさしい救済措置なんてあったか?
消耗品やそこそこの装備くらいなら交換できたけど、劇的に攻略が楽になるアイテムなんて手に入らなかった。
いや、これもゲームのサンセライオの話か。見知らぬカジノである以上、そういう可能性もあるわけだ。
「コインじゃないわ! 宝箱が安全に開けられるのよ!」
「何」
それが本当ならターナの興奮もわからなくもない。
ルナティックアビスはアクションRPGだ。ところどころで宝箱を発見でき、その中からアイテムが入手できる。
だが、この宝箱にはとあるシステムが設定されている。
魔力の注入。宝箱を開く際のメニューにそんな選択肢が表示される。
もちろんそのまま開くこともできるが、魔力を注入することで現在の魔力を消費して宝箱のグレードを上げられる。
魔力特化ビルドで序盤から大量の強力なアイテムを駆使するなんて攻略法も一時期は考えられたくらいだ。
だが、それは机上の空論となり霧散した。実はとんでもない馬鹿馬鹿しい結末が待ち受けていたのだ。
宝箱に魔力を注いだ以上当然操作キャラの魔力を消耗するが、魔力を消耗した後はご丁寧に回復までしてくれる。
一見すると至れり尽くせりに見えるこの仕様だが、ゲーム内では魔力回復をするためには一定時間の経過が必要となる。
そして、ゲーム内では倒した敵も一定時間で復活する。
注いだ魔力が多いほど回復のために強制的に時間が経過してしまい、次の瞬間には周囲は復活した敵だらけなんてこともざらにある。
それどころか、宝箱を狙うNPCに襲われて死んでいましたなんてことも珍しくない。
なんなんだこのクソ仕様は。せめて安全な場所に行って魔力を回復しろよ。ぼうっと突っ立っているとか馬鹿じゃないか。
その後は、安全な場所に配置されている宝箱を探したりもしたが、まあ無理だった。
モンスターだらけの場所、あるいは人だかりが多くて凶悪なNPCに奪われるような場所。
大量の魔力を宝箱に注入する旨みなんてまったくない。それが誰もが至った結論だ。
「本当に安全なのか? カジノってことはNPCというかこっちの世界の人間もいるんだろ?」
「そこは大丈夫。さすがにゲームと違って急に時間が経過することもないわ。それに、客に手を出す者はカジノ用心棒が対応してくれるみたいだし」
「それなら、魔力を注いで求めているアイテムを入手するのもありかもしれないな……」
知らない情報だ。知らないチャートだ。
だからこそ試したくなってくる。もしかしたらこれまでよりも時間がかかる方法なのかもしれない。
だけど、せっかく新たな発見があったのなら試したいじゃないか。
「よし、ルーク。資金はまずカジノに使おう」
「ああ。そういうことなら反対する理由はない。楽しむついでにアイテムが手に入るのなら、それが一番いいだろう」
反対する者はおらず、意見が一致した俺たちは皆でカジノへと向かうのだった。
あ、ガルドリックとマルコスの報告も道中でしないと。
ただ、そんなカジノの報告の後ではちょっとインパクトが小さいよな。
◇
「転生者だ」
ロペスのもとへ団体さんの客がやってきた。
ステータスを見ると日本人名が確認できたので、あの集団は転生者と思って間違いないだろう。
外国の名前もあるみたいだが、この世界の住人ではなくロペスみたいな海外からの転生者かな。
「ほほう、カジノに挑みますか。そう簡単に勝てると思わないことですね!」
「何を魔王みたいなこと言っているんですか」
「レイは知らないかもしれませんが、あなたの目の前にいるのは魔王というんですよ?」
「はは、お戯れを」
「どのへんが戯れでした!?」
さて、カジノの魔王のことはさておき彼らの観察は重要だな。
転生者というとトラブルの種だ。ヨハン、堀井、鳴神、ルイス、朝倉、的場。
……とんでもないな。こいつらも敵対する場合、女神の加護で何をしでかすかわかったもんじゃない。
『まあ待て! まあわかるから! 次で引けるってわかっているから!』
『もう無理だから! 資金なくなっちゃうから!』
『乱数か……? ちょっとその辺歩いて乱数調整すればいけるか?』
『検証が足りない……。よし、喜びのダンジョン行こう! 資金を調達して必ず攻略してやるからな!』
……なんか、賑やかな連中だなあ。
しかも喜びのダンジョンのほうも利用しているみたいだし。
なんというか、うちのダンジョンをそれほどまでに楽しんでくれているのなら何よりだ。
「なるほど……歩き回って乱数調整。宝箱にそんな攻略法が」
「その結果外れているところを見たじゃないですか。駄目な方法を真似しようとしないでください」
「レイ。あの者たちはもう少し泳がせておきましょう。うまくいけば、宝箱の攻略法を発見するかもしれません!」
「……まあ、どの道襲う機会がまだありませんでしたし、かまいませんけど」
カジノで人が死ぬ事故なんて客が離れる。
そして喜びのダンジョンは死なないことがアピールポイントの一つだ。
そこが破綻したら、気軽に遊びに来る者たちがいなくなる。
この転生者集団を襲うにしても、今ではないな。
ただ、宝箱の攻略法に期待しても無駄だと思うんだけどなあ……。
期待するだけはただなので、そこには触れないでおこう。




