第683話 飛び込み営業のボディガード
「悪いな。お前はもう不要だ」
戦闘に見せかけた遊戯の場。通称喜びのダンジョン。
そこで教会の戦士として貴族の護衛を勤めていた私に、急な解雇通知が下されました。
自分で言うのもなんですが、教会の戦士ガルドリックの名は彼らも存じているはずです。
そして、これまでにその名に恥じぬ仕事をこなしてきた自負もあります。
では、私が何かミスをしたということは考えにくい。
「理由をお聞かせいただいても?」
「お前の働きは見事だった。だが、より優れた者がいたというだけの話だ」
貴族たちは私以外にも護衛を引き連れています。
見ない顔の護衛が増えたとは思っていましたが、まさか私を解雇するほどの強者だったとは。
……わかりませんね。まだまだ私も未熟ということでしょうか。
彼らの強さを測ることができません。
「承知いたしました。それでは、また何かございましたらいつでも教会に連絡を」
「ああ。悪いな」
あの者たち、何度か見かけた顔もいますね。
喜びのダンジョンに通い詰めていた者とその仲間ですか。
仕方ありませんね。こうなった以上、私もマルコスのように研鑽に励むべきなのかもしれませんね。
「それで、こちらに来たということか」
「ええ。残念ながらクビになってしまいましたので」
「私としては君とともに行動できるのなら心強くて助かるね」
そう言ってもらえるのは嬉しいことですが、彼であれば私がいなくとも危なげないのではないでしょうか。
私に気を遣ってそのような発言をした……というわけでもなさそうですね?
マルコスが通っている場所はモンスターダンジョン。名前の通りモンスターだらけのダンジョンとのことですが、それほど危険な場所なのでしょうか?
「ここに、それほどのモンスターが?」
「いや、ここは最奥でも上位モンスターまでしか確認していない。私たちであれば何も問題はないさ」
「では、私がいなくとも問題ないのでは?」
マルコスの言葉を聞き、最初の考えへと戻ってしまいました。
上位モンスターに手こずるマルコスではありません。
ですが、彼は本気で私と組んで行動することをありがたがっています。
「私の仕事のことさ。相変わらず、町から離れると荒んだ人間も増えて嫌になるね」
マルコスの仕事は今もなお増えているようですね。人類専門の断罪者である貴方の仕事のほうが多いというのは、なんとも悲しいことです。それだけ世界が荒んでいるということなのですから。
「転生者ですか?」
「いや、転生者だけでなく人間、獣人、ドワーフ、ハーフリング、ケンタウロスに海人族。実に多い」
人類だから人間だから、そうした種族ごとに善悪がというのはもはや無理があるのでしょうね。
それでも教会は人類を救う者たちです。
そのために人類と戦うマルコスの働きは、教会にとって非常に大きい。
「なんだったら、今は魔王軍以上に人類のほうが厄介なのかもしれないね」
「魔王軍はダンジョンこそ作っているものの、地上に進出する様子はありませんからね」
ただ、それもいつまでもつかはわかりません。
それまでに勇者様たちが力を取り戻せるかどうか……。
先に魔王軍が地上を攻めてきた場合は、私たちでなんとしても人類を守らないといけませんね。
「いっそレオナでも誘ってあなたの仕事を手伝いますか?」
「やめておくよ。怒られそうだ」
それもそうですね。
彼女はアルメナが消えてからというもの、目に見えて機嫌が悪くなっていますから。
教会から離反したからだと言っていますが、彼女なりに心配をしているのかもしれません。
彼女の部隊が虐げられていたときも不機嫌そうでしたからね。
「さて、早くも仕事ですね。これはたしかにあなたの疲れた様子も理解できます」
「理解を得られて嬉しいよ。ついでに私の仕事を軽減してくれるともっと嬉しい」
「もちろんです。ではいきましょう」
目の前にはモンスターダンジョンがありますが、その手前で準備を整えている集団がいくつか。
そしてそんな者たちに因縁をつけて金品を奪おうとしている集団が一つ。
人が人を襲う光景です。マルコスが嫌になるのもわかりますね。
「ふざけんな! 誰がお前らなんかに!」
「馬鹿なやつらだな。大人しく金さえ渡せば、怪我しないですんだものを」
今回は人間同士ですね。
マルコスが頻繁に遭遇している悪しき転生者ですらありません。
この世界は、平和というものからどんどん離れている気がしてなりません。
「やめなさい」
だから、私が守らないといけない。
人類を守るためならば、私は人類さえも相手にしましょう。
そのためにこの聖鉄の鎧に身を包んだのですから。
「あ、なんだ……お前……」
冒険者を襲っていたならず者は、私の声を聞いて振り向くと徐々に声が尻すぼみになっていきました。
ああ、なんという罪深い存在でしょう。マルコスが断罪するのも無理はありません。
彼の役目を奪うつもりはありませんが、ここは私が相手をさせてもらいましょう。
「こいつ、教会の!」
「潰れなさい」
私に気付いた男が身構えましたが、そのまま大剣で潰しました。
斬るというよりは圧し潰す。頑丈なこの剣にはその使い方がよく似合います。
わずかな間をおいて仲間がやられたと理解したのか、残りの者たちが私に襲いかかります。
ですが、そのくらいであれば……。
「くそっ! なんなんだよこいつ!」
「教会の守護者である私に、その程度の攻撃は通じません」
この聖鉄の鎧の前には、生半可な攻撃など無意味。
古竜の攻撃さえも防ぎきれる代物を、この程度の者たちがどうこうできるはずもありません。
「嘆かわしい」
一人。また一人と潰れていく。
ああ、本当に嘆かわしい。だからでしょうか。だから女神様は悪しき転生者を送り込むのでしょうか。
人類に悪しき者がいるということをわからせるため、あえて同じような転生者を送り争いを激化させているのでしょうか。
私たちは恥ずべき存在であると知らしめるために……。
「本当に嘆かわしいことです」
女神様にそんなふうに思われても仕方がありません。
だから、マルコスには断罪を続けてもらっているのです。
しかし、彼だけでは手が足りないほど、この世は悪しき者たちで染まってしまったのですね。
「こ、降参! 助けて! まだ死にたくな――」
最後に残った女性が武器を落としていましたが、その隙を見逃すほど私は甘くありません。
かくして、悪しき人類たちがわずかとはいえ消えることとなりました。
「さすがだね。ガルドリック」
「ありがとうございます。ですが、まだまだですね。まだまだ罪を抱えた者は多い。あなたには苦労をかけますマルコス」
「……私よりも、君の方がよほど断罪の狩人に向いていそうだね」
そう言ってもらえるのは嬉しいですが、私はあくまでも教会を守護する者。
有事の際に出遅れるなどあってはいけません。
残念ですが、人類を狩ることは彼に任せるべきなのでしょうね。
◇
「うわあ、やべえな。あのゴリラ」
「ゲームでは固くて一撃が重いキャラだったけど、実際に目にするととんでもない迫力だね」
「思いがけないところで戦闘を目撃することになったが、運が良かったな」
ゲームで登場するNPCの一人聖鉄戦士ガルドリック。
教会をそして人類を守護する騎士というキャラクターだが、戦闘スタイルは見ての通りだ。
容赦なく敵を圧し潰していく巨漢。守護戦士というか狂戦士だな。あれは。
「どうする? 教会キャラの利用。やっぱりやめておく?」
「あれをコントロールするのは難しそうだね。いっそ、敵対ルートに入って殺して装備奪う?」
どちらにしても、せっかく見つけたNPCだ。
他の誰かが利用する前に動き出したほうがいいかもしれないな。




