第680話 隣のダンジョン事情
「ルフと的場と朝倉はエピクレシのアンデッドになりました」
「そうですか。あの子ならしっかりと面倒を見てあげるでしょうね」
なんだかんだでロマーナにも慕われているもんな。
ドラゴンゾンビはわりと反対意見も提案するけれど、あれは俺とアナンタみたいなものだろう。
なんならたまに、主従ではなくドラゴンゾンビのほうがエピクレシの保護者のように見えるときがある。
「国松とジノの情報は明かせないみたいですが、無理強いはしないことにしています」
「それがいいですねえ。無理に聞き出して嘘をつかれたら、土壇場でひどいことになりかねませんし」
「ですよねえ」
例えばロペスみたいなやつが相手なら、それでこちらに被害を出しかねない。
ルフと朝倉はそういうことは無理そうだけど的場ならできそうだしな。
「ただ、一つだけRTA勢とかいうやつらがいると教えてもらいました」
「あーるてぃーえーぜい」
もちろん魔王様にはなじみがない言葉か。
ゲームなんてこの世界には当然ながら存在しないからな。
「要するにこの世界での仮想体験を最速で攻略する者たちです」
「むむ……。この世界にそれだけ精通しているということですか」
さすがは真面目なときの魔王様だ。話が早い。
ゲームに詳しいやつはそれだけで恐ろしいからな。
十魔将や四天王の戦いの癖も見抜いているかもしれないし、何よりも魔王様の倒し方を知っている可能性が高い。
「可能であれば倒したいところですが」
「クニマツとジノの集団にいるんですよね? 下手に手を出すと却って情報を渡す結果となりそうですね」
そう。そこが問題なんだ。
それにRTA勢なんて言われているからには、それなりの人数がいる。
朝倉が言うには十人前後だったはずだ。
国松側についた者もいれば逆に国松側から流れた者もいるらしく、あちらは内部でごたごたしているようだ。
「いっそ共倒れすればいいのに……。プネヴマに頼んで呪いでもかけてもらいましょうか」
「あの子、そういうのはできないと思いますよ」
それは残念だ。悪霊なのに……。
「この前の強化アイテムで、そのあたりができるようになっていたりは」
「しませんねえ。あの子に渡したアイテムは幽宴の喉輪といって、その声で虜にした者が多ければ多いほどパワーアップするものです」
「なるほど? じゃあ、ステージの上で歌って踊ってもらうというのは、あながち間違いではないということですか」
「あの子の性格に目を瞑れば間違いではありませんが、かわいそうですしやめてあげましょうね」
無理かあ。無理だよなあ。ステージの上で震えてから倒れそうだし。
さすがに本人に気質に合っていないことを強要するのは、魔王軍らしからぬパワハラみたいなことになってしまいそうだ。
「大人しくダンジョンでも作りますか」
「切り替えが早いですねえ。でも、そのあーるてぃーえーぜいとやらがどんな者たちなのか、まだわかっていないのでしょう?」
「生き物なので、岩は効くと思います」
「あ……。そうですか」
効きますよね? なんですか、その察したような表情は。
まあ、そもそもうちにやってくるというわけでもないし、結局はいつものことをいつも通りにやるだけだ。
俺はフィオナ様と一緒にダンジョンを観察することにした。
「まずはゴブリンダンジョン」
視界には、いつも通りゴブリンたちが奮闘している姿が映し出される。
とはいえ、あくまでも加減をしている状態での話だが。
この子たちが本気で侵入者を仕留めようとした場合、それなりの冒険者とも渡り合えるからな。
「岩を追加したらアナンタに怒られる」
「ですねえ。ゴブリンたちが加減しているくらいですし」
「次は獣人ダンジョン」
こちらもすでに難易度はだいぶ低くなってしまっているな。
当初は初見殺し的な罠のおかげでわりと難関なダンジョンになっていたが、慣れというものは恐ろしいものだ。
だが、かといってまた難易度を上げるかと言われると難しいな。
今でも弱者を淘汰することはできているし、ルフみたいに強者が何度も訪ねることもない。
こちらはこちらで適切なバランスといえよう。
……ただ、ガーゴイルたちとルフが戦っているのはなんなんだろう。
侵入したときのように破壊はしていないが、あれはあれで訓練をつけているのだろうか?
「問題なし、と」
「ルフのことは見なかったことにしていますねえ」
「見た上で問題なしと判断しました」
「なるほど。では、次は欲望のダンジョンですか」
「はい。ここは施設は無視して、あくまでもダンジョンのほうだけを見てみましょう」
ここはなかなかいいな。
奥に行くほど難易度を上げるようにしているし、それを冒険者同士で周知している。
なので、それでも奥にくるようなやつは、こちらが全力で倒しても問題ないということだ。
今日もソウルイーターがヘルハウンドと連携し、侵入者たちを丸呑みにしている光景が見える。
「容赦ないですねえ。お客さんが減ってしまわないですか?」
「たしかに娯楽施設で散財した者も探索に来ますけど、そういう者たちは無理せず奥まで行きませんからね」
だから大丈夫。
万が一お客さんが奥に来るようであれば、うまいこと追い返すだけだ。
ソウルイーターはわりと賢いから、その手の演技もできるようだしな。
だから、ああして呑み込まれている者は、常連さんではなかったのだろう。
「喜びのダンジョン」
「こちらはもう完全に娯楽施設の一部ですねえ」
「最近、客層が変わってきたみたいですよ」
「ほう。どのように変わったのですか?」
「今までは本物の冒険者たちが多かったんですけど、最近は冒険者に憧れるような金持ちのボンボンみたいなのが挑んでいます」
「なるほど。安全で楽しめて、なおかつ探索やモンスターとの戦闘もありますからね」
もちろん護衛を引き連れてということで、パーティ単位で見ればちゃんと戦闘力を有している。
ただ、先頭に立つ貴族様っぽいやつらは、たぶんゴブリンが本気を出せば翻弄できるような相手だ。
商店で買い物もしてくれるし護衛たちを多めに引き連れているので、うちとしてはわりと上客といえよう。
「……ん? なんかすごい鎧の人がいる。あれも宝箱で当たったのかな」
「あ~。あれは教会の戦士ですね。前に話したガルドリックです」
「あれがそうなんですか。重戦士って感じですねえ。耐久力と火力がすごい」
前に見たマルコスは身のこなしと技量に長けていたが、ガルドリックはマルコスとはある意味で対極っぽい。
見た目通りの鈍重な動きではあるものの、その耐久力と火力で並のモンスターでは太刀打ちできないようだ。
「教会の戦士も利用しているあたり、それなりに有名になりましたね。あそこも」
「ええ。レイの作るダンジョンはどれも盛況ですからねえ」
ただ飽きられては困るので、あそこはあそこで定期的にアップデートを重ねていこう。
……アナンタに怒られない範囲内で。
「最後はモンスターダンジョンですが……」
「こっちにもいますね。教会の戦士」
こっちはよく知っている。マルコスだ。
なんだか一心不乱にモンスター相手に戦い続けている。
彼の場合、少し前からここに通っていたことは知っている。
あれかな。嘉神にいいように翻弄されたので、レベル上げに勤しんでいるといったところだろうか。
だとしたら、嘉神のやつは本当に迷惑だなあ……。
「とはいえ、こっちはテコ入れも何もないんですけどね」
「モンスターたちが自動で難易度を変えていますからねえ」
「下手に罠とか追加したら、あの子たちの邪魔になりますからね」
となると、今のダンジョンはわりと変更点はいらないってことになってしまうな。
できるとしたら喜びのダンジョンか。
あそこは定期的に変更しているし、多少変な仕掛けが増えても違和感はないだろう。
とりあえず、このあたりで四天王や十魔将との連携を想定した仕掛けを考えてみるとするか。
「ところで、いつの間に隣にいたんだ。アナンタ」
「途中からだ。お前、俺を出し抜いてダンジョンを強化しようとしてんだろぉ」
「……ちゃんと相談しようとしたよ?」
「その間が信用できねぇ……。まあいい。必要なら見てやるから、とりあえず思いついたことは言ってみろ」
アナンタはすっかりと慣れた様子で、俺の提案を聞いては却下するのだった。




