第678話 故郷の危機はもう確かめられない
「さて、ここからは知っていることを話してもらいたい」
俺の発言に的場が再び息を呑む。
さっきからずっと緊張してるなこの女。何を考えているかわからない朝倉のマイペースさを見習ってほしい。
ルフはルフで無関係だからかエピクレシやアンデッドのほうを見ているが、あれは誰と戦ったら一番楽しいのか考えているんだろうな。
「お前たち転生者だろ? ゲームの知識は知らないのか?」
「すみません。私は四天王であるピルカヤ……さんの姿すら、あのとき初めて知ったので」
「俺も同じだ。国松とジノから炎の精霊と聞いていたが、実際に目の当たりにすると理解が追いつかなかった」
またか。魔王軍に加入する転生者って、ことごとくゲーム未プレイなんだよなあ。
俺から始まり的場と朝倉に至るまで全員がそうだ。げに恐ろしきはフィオナ様のくじ運ということか。
だが、国松とジノからピルカヤの情報を聞いていたということは、もしかしたら他の知識もあるのかもしれない。
とりあえずはそこのところに期待するとしよう。
「なら、国松とジノから聞いた知識を教えてくれ」
「は、はい。なんでもここはゲームが元となった世界で、五人の勇者が魔王を倒すというのがストーリーだったそうです」
それは知っている。奥居から聞いたし、魔王軍からも五人の勇者については聞いた。
さすがに基本的な情報であり、今さらそこについては聞くまでもない。
「魔王の他に四天王や十魔将というボスがいまして、それぞれの特徴や戦法は聞きました!」
「……それ、俺以上に詳しい情報があると思うか? というか、本人に聞けばすむことだし」
「で、ですよね……」
まあそれでも一応ゲーム特有の倒し方とか、本人さえ気付いていない弱点という可能性もある。
そのあたりを聞いてみたが、残念ながら的場はそこまで詳しくは知らされていないらしい。
だよなあ……。もっとゲーマー目線の攻略情報とかを聞けたなら話は別だが、最低限教わっただけの情報ならこちらもすでに知っている。
「あ、あと……魔王を倒した後に壊神とかいう裏ボスがいるとか」
「壊神……?」
そういえば、風間たちも国松にそんな話を聞いたとか言っていたな。
ただ、魔王より強いボスがいるらしいくらいの情報しかなかった。
的場と朝倉はそれ以上のことを聞かされたんだろうか。それなら聞いてみる価値はある。
「ゲーム中に遭遇したキャラクターの誰かを依り代に現れる邪神だそうです。なんでも魔王以上に強いとか……」
魔王以上に強かったら困る。
あのフィオナ様以上とか想像できないが、俺には一つだけ心当たりがあるのも事実だった。
「……それ、お前らを転生させた女神だったりしないか?」
「え? ……そ、そういうことですか。私は女神様に元の世界に帰してもらうことだけを目標としていたので、そちらの考えには至らず……いえ、考えないようにしていただけなのかもしれません」
「そいつ最悪だぞ。邪神で間違いない」
「ということは、もしかして壊神が女神なのでしょうか?」
「邪神が二柱もいる世界なんて想像したくないからなあ。そのほうがまだ助かる」
「で、ですね……」
というかあいつ自身が壊れている気がするし。それなら幾分か納得もできるというものだ。
ということは、俺が見たあの姿が本体ではあるけれど、この世界に顕現するためには誰かの体が必要なのか?
……いや、テイランでテンユウのもとに現れていたな。なら、あの姿のままこちらに顕現することもできるということだ。
もしかして、あのときは多少無理してたのか? 活動時間に限界があるとかなら助かるが……。
「誰かを依り代にって話だったが、可能性が高い者とかはわからないのか?」
「法則性はないみたいです。なので事前に察知することは不可能だと聞きました」
いっそ全人類皆殺しにしてやろうか。
人類のみならず、魔族も含めてこの世界のありとあらゆる生き物が死に絶えれば、あいつの肉体候補もなくなって困るだろう。
それか俺以外全員死んでから、俺に顕現させている最中に自害するとか? そうすればあいつごと殺せないかな?
息絶える寸前にフィオナ様に蘇生薬を使えば彼女だけは助かる。なんなら蘇生薬を大量に用意すればみんな助かる。
……蘇生薬が全然足りないなあ。それにフィオナ様に一度死んでもらうのも論外だ。
ただ、一応そういう方法もあるとだけ覚えておこう。
「他に情報は?」
「俺と的場が聞かされたゲームの知識はそれくらいだ。だから、あとは国松やジノの仲間の情報ということになるが……」
言いたくなさそうだな。
まあ、これはさっきも言ったとおりだ。人類や仲間を裏切れないという話だからな。
無理に聞き出したところで契約違反となる。それに、こいつらが嘘の情報を交えてきた場合は後々厄介なことになりかねない。
「仲間を売ることはできないだろうな。まあ、そういう約束でうちで働くわけだし仕方ない」
「いいんですか?」
「約束は約束だからな」
「……国松とジノは俺や的場以外にも仲間を増やし続けている」
厄介だな。
今回は朝倉と的場というコンビだけの相手だったが、そこに国松の鑑定やジノの強化が加わるのは勘弁してほしい。
それに、仲間も全員転生者ということであれば、互いにサポートし合って相乗効果も生まれそうだ。
「だが、その結果集団は肥大化し一枚岩ではなくなった」
「それは、朝倉や的場みたいに分かれて行動する者が出たってことか?」
「俺たちは自由な行動時間で動いていただけだ。あいつらの方針に不満があったわけではない」
ということは、不満を持つ誰かがいるということか。
「あーるてぃーえーとかいうものが得意なやつらが加入してからは、明確に集団の仲に不和が生まれている」
「RTAですね。ゲームのタイムアタックをしていたような者たちです。知識も技術もある転生者ということになります」
聞いたことある言葉だな。
このゲームは相当難しいと聞いたが、ゲームである以上そういうプレイヤーも出てくるか。
だとしたら、そいつらを仲間にできたら必要な情報を得ることができそうだ。
「なぜそれを俺に教えたんだ?」
「国松とジノたちも残念ながら魔王軍には勝てないだろう。だが、だからといってあの集団の責任全てをとらされるのは理不尽だと思ってな」
なるほど。わざわざそんな心配をするということは、いつもの転生者ってことか……。
魔王軍というかこの世界を軽んじていて、こちらに容赦なく危害を加えてくる者たち。
RTA集団とやらはそのタイプの転生者ということだろう。
そうして魔王軍に挑んできたとしても、それは国松やジノの責任にしてほしくないと言いたいわけか。
「考えておく」
「そうしてもらえると助かる」
「ああ、最後に」
話もほとんど終えた。あとはついでにこれを聞いておくくらいか。
「差し支えなければ、二人の前世での死因を教えてほしい」
無理なら無理でかまわないが。少し気になっている。
時任、奥居、風間、原、世良、鳴神。ロペスを除いた転生者たちは、皆同じような死因だった。
ならば元日本人であるこの二人も恐らくは……。
「モンスターに殺された。ものすごい数だったし、そもそもあの時点の俺では太刀打ちできなかった。情けない話だがな」
「私も……弟を逃がそうとしたところ、スライムに窒息させられて殺されました」
やっぱりな。
これでもう決まりだろう。ロペスはそんな話一切していないが、日本人転生者は違う。
日本はモンスターに襲撃されたんだ。
そんなことができるのは、あの女神くらいだろう。
つまり、あの女神は意図して日本から大量の転生者を呼び寄せている。
元のゲームが日本製だからか? 理由はわからないが、今後も日本から大量の転生者が呼ばれる可能性がありそうだな……。




