第674話 敗北RTAじゃないことを願います
「やっぱり、朝倉くんと的場さんはどこにもいない……」
「ど、どういうことだよ。まさか、モンスターにやられたのか?」
「あの二人が……? そんなモンスターがいるのなら、私たちじゃ太刀打ちできないわよ……」
朝倉くんと的場さん。あの二人がレベル上げをしていたことは知っていたけれど、そんな無茶な相手と戦うとは思っていなかった。
朝倉くんの吸収の加護はかなり強力だし、本人もそれなしで十分強い。
的場さんは踏み台の加護でどんどん強くなっていたし、その力を使いこなすよう様々な魔法を習得していた。
あの二人が負けるなんて……。
そもそも朝倉くんは一対一では絶対に負けない。
ということは、複数の強力なモンスターが相手だった可能性が高い。
モンスターの氾濫イベント? それとも悪霊の宴?
駄目だ。何に巻き込まれたのかさえわからない。
「あ~あ。やっぱりちまちまとレベルを上げてたら、いつまでたってもらちがあかないってことだな」
「これでわかったでしょ? 国松、ジノ、あんたたちのやり方じゃ魔王なんて倒せないわよ?」
「おい、そんなこと言うなよ。国松もジノも、俺たちのためにがんばってるじゃないか」
「がんばってるだけじゃ意味ないよね? 現に朝倉と的場という戦力が死んだんだろ?」
「まだそうと決まったわけじゃ……」
「死んでないんだとしたら、僕たちを見限ったってことじゃない。どっちにせよ。二人のやり方についていけなくなったんだよ」
まずい。このままだとまた仲間内で争うことになる。
ただ、今回に関しては完全に僕たちの失敗なので何も言い返せない。
せっかく彼らも大人しくしてくれていたのに、これじゃあまた……。
「つーわけで抜けるわ。俺ら」
「ちょっと何言ってんのよ!」
「やめとけって愛美……。こいつら、どうせもう無理だよ」
ああ。やっぱり……。
彼らとは意見が対立していた。
それでも僕たちについてきてくれていたのは、あくまでも僕たちのやり方を様子見していたからだ。
僕たちのやり方でダメなら自分たちのやり方に変えるだけ。それが彼らの考えなんだろう。
「まあ、元からそういう話だったしな。一応言っておくが、お前たちが弱いとか役に立たないとかそういうわけじゃないぞ?」
「そうそう。やり方が問題なだけで、あんたたちのことも加護も十分頼れると思っているわ」
「いっそ、俺たちについてきてもらいたいくらいだが、そういうわけにもいかないんだろ?」
「……お前たちのやり方がうまくいくとは思えない」
ジノの言うとおりだ。
彼らはたしかに強い。それに十分すぎるほどの知識と経験がある。
だけど、それが通じるかどうかは話が別だ。
「だろうな。では、俺たちが魔王を討伐するのを待つといい。女神への願いで転生者は全員元の世界に返してやる」
「そうそう。魔王のことは私たちに任せておいて、あんたたちはゆっくりとこの世界を楽しんでていいわよ」
「どうせすぐ終わるからな。俺たちの手にかかれば死にゲーだろうと関係ない」
そう。彼らはそう言えるだけの実力がある。
だけど……それはあくまでもゲームでの話だ。
「ルナティックアビスなんて、何度クリアしたか数えきれないからな」
「まして今回は速さを競う必要もないんでしょ? なら余裕余裕。RTAに比べれば問題なし」
RTA。リアルタイムアタックと呼ばれるゲームの遊び方。
彼らはゲームを最も早くクリアする手順や技術を研究し続け、何度も何度も挑戦しては一秒でも早くクリアを目指す者たちだ。
この死にゲーと呼ばれる高難易度ゲームであるルナティックアビスですら、彼らは何度もクリアをしてきた。
行動ごとに変化するイベントを完全に制御することはできないが、高いアドリブ力でどんなイベントがきたら次は何をするべきか瞬時に判断して最速のクリアを目指していたらしい。
そこまでこのゲームに精通した彼らであればあるいは……。
「でも……。ゲームと現実は別だよ?」
「ああ、わかっている。だからこそ、こうしてお前たちと共に戦闘や現地民との交流をこなしてきた」
「そんで、それにももう慣れたって判断したわけ。そりゃあコントローラー握っているのと生身じゃ全然違うけど。加護なんてものがあるからね。これはこれでやりやすいよ?」
つまり、これまでは試していたというだけか。
ゲームと現実の違いを観察し続け、実際にレベルも上げて肉体を強化して、知識の中のボスと渡り合えるまでになった。
だから、もう僕たちと一緒にいる意味はなくなったんだろうね。
「そんじゃあ、私たちが魔王を倒したらまた会おうね~」
「おい! ……駄目だ。行っちまった」
呼び止める声はもう聞き入れる気がないのか、彼ら十人は僕たちと別れてどこかへ行ってしまった。
きっとこれから攻略に必要なイベントをこなし、アイテムや強化や仲間の確保を行うのだろう。
「良かったの? 国松くん。ジノくん」
「良くはないが、止めて聞く奴らでもないだろう」
「そうだけど……」
困ったなあ……。
朝倉くんと的場さんだけでなく、RTA勢の彼らまでいなくなってしまった。
そりゃあ僕とジノだけの頃よりは、それでもまだ仲間は多い。
だけど、一気に僕たちという集団の戦力ががた落ちしてしまった。
「いなくなったものはしょうがないわ! 今まで以上にレベル上げがんばりましょう!」
「お姉ちゃん……。空気を読んでよ」
「くよくよしてもしょうがないじゃない」
愛美さんの言うとおりか……。
戦力は減ってしまった。だったら、その分僕たちが強くなるしかない。
仲間を集めて強くなって、必ず壊神という脅威を退ける。
リックたちにはたびたび面倒を見てもらっている。そんな彼らが万が一にでも壊神になってしまうなんて、絶対に阻止しないと。
◇
「レイさんレイさん」
「どうした? 時任」
なんか若干気合が入っている顔だな。こういうときの時任は何か変なことを思い付いている。
本人からしたらいいことを思い付いたという意味で気合も入っているのだろうが、時任のいいことは変なことだ。
「十魔将さんたちみんなパワーアップしましたよね」
「そうだな」
「もしかして、地底魔界ってまだまだ戦力が必要なんですか?」
「そうだな。今のままだと、勇者や変な転生者が相手だと厳しいし」
勇者は単純に魔族特攻なのかステータス以上の力がきつい。
しかも無限に蘇生されるので、下手に手の内を見せると対策されそうなのも厄介だ。
そして転生者は女神の加護があまりにも恐ろしい。
朝倉なんて、フィオナ様を倒す可能性さえあったからな。
「いいことを思い付きました!」
ほらきた。いいこと。
叶えられる提案ならいいのだが、無茶ぶりだったら諦めてもらおう。
「転生者を仲間にしてしまえばいいんです! ……あの~。なんで、そんな嫌そうな顔を?」
「転生者って危険なやつばっかりじゃん」
「安心安全の時任です!」
「全員が時任みたいなら、仲間にしても安全だろうけどなあ」
それはそれで、なんか地底魔界がやかましいことになりそうだ。
いや、フィオナ様ならそれも喜びそうだけど。
「一度倒した転生者を仲間にするっていうのはどうです?」
「それって、ヨハンや堀井もか……?」
いや、無理。あんなの蘇生させたらさすがにまずい。
制御不能だから次も敵に回るに決まっている。
ヨハンは憑依されて逃げられそうだし、堀井は死ぬ前に能力を使われてテイランみたいな病が蔓延したら困る。
「ヨハンくんは駄目です! お店が毒まみれになっちゃいましたし! あ、堀井さんも駄目ですね。お店が病気まみれですし」
「だよなあ」
「的場さんとか朝倉くんとかどうです? ダンジョンを冒険していただけですし、話せばわかるかもしれないかなあって思いました」
「殺した相手に今さら恭順するかねえ?」
「……私と鳴神くんの話術で!」
そんなものお前らにはないだろう。
そういうのはロペスの特技で、君たち二人のそれは押し売りだ。
「まあ、プネヴマに魂だけで会話してもらうくらいはいいかもな。あいつらから情報を聞き出してもいいし」
ゲームの知識があるのなら、ある程度話を聞くこと自体はありかもしれない。
今までの転生者は話が通じないか、話している間にとんでもない毒を仕込んできそうなやつだったからな。
まあ、あまり期待はしないで会話してみるとしよう。
「ただ、蘇生はどの道無理だと思うぞ」
「え、もしかして転生者って蘇生できないんですか?」
「できるだろうけど、そもそも蘇生薬がまだまだ足りない。最近メイドと執事は蘇生したけれど、それでもまだまだ魔王軍全員復活の道は長いみたいだし」
「ほええ……。大所帯なんですねえ」
そんな大所帯なのに、俺が出会ったときはたった一人だったんだよなあ。
そりゃあ俺相手にかまってオーラを放ってくるわけだ。
「……ちょっとフィオナ様に会いに行ってくる」
「は~い。いってらっしゃ~い」
話も終えたし、時任とは別れてフィオナ様の部屋へと向かう。
……なんでそんなにやにやしているんだ。時任よ。
俺はただ、フィオナ様に今日の仕事の報告をして、一緒に食事をして、その後は二人で過ごすだけだ。
別にフィオナ様に同情して、甘やかしているとかじゃないからな。




