第672話 きっとその箱にはありとあらゆる可能性が詰まっている
「もらってばかりというのもあれですね」
「十魔将たちの強化アイテムのことですか? それなら気にすることはありませんよ。あの子たちは私の部下ですし」
「代わりに蘇生薬を引き当てて献上しようかと思いました」
「大いに気にしてください! では、さっそく引き当ててもらいましょうかね!」
数秒前と意見が真逆になった。現金なものだな。
だが、今回は俺の無茶なお願いをあっさりと叶えてもらったわけだし、俺のほうからお返しじゃないけど蘇生薬を献上しよう。
「蘇生薬蘇生薬蘇生薬」
「俺が引くときまで念を込めなくても平気ですよ」
むしろそれで外したときに罪悪感が大きくなるから、大人しく見守っていてほしい。
とりあえず宝箱を二十個ほど作成すると、フィオナ様も俺の本気を察したらしく息を呑んで真剣な目で見てきた。
「もしも蘇生薬がまとまって引けたら、今度は誰を蘇生させますか?」
魔力を込めながらそんなことを聞いてみる。
十魔将直属の部下たちは蘇生させたので、次はそれ以外の魔族ってことになりそうだな。
「そ、そんなよそ見しながらのガシャは、祈りが足りずに失敗しますよ!」
「いえ。これが俺のスタイルなので」
「なるほど……物欲センサーを誤魔化すことに特化したわけですね」
それも違うけど、もうそれでいいかな。
「そういうことなら付き合いましょう。ええと……レイが蘇生薬を二十個引くとして」
「なんですか。その馬鹿みたいな前提は」
「なにをぅ!? 馬鹿って言いましたね!」
すみません。本音が出ました。
フィオナ様らしい前提と言い直すべきか。
いや、今言い直したらフィオナ様イコール馬鹿で結びついて怒られそうだな。
「まったくもう!」
「嫌でしたか?」
「……嫌ではありません」
やっぱりこの魔族、そういう軽口を言い合える相手が欲しかったんだろうなあ。
……もしかして、いじめられるのが好きとか変な趣味だったらどうしよう。
いや、それでも別にいいし気にしてはいけないか。
「え、えっと! そうでした。蘇生すべき者たちの話ですね!」
さすがのフィオナ様もそんなことを求めていると思われては恥ずかしいらしく、誤魔化すように元の話題へと戻る。
気にすることないのに。なんなら普段のガシャ関連の愚行のほうが恥ずかしいのに。
「地底魔界にも魔族が増えましたからね。魔族だけでなく人類もですか」
「そうですね。捕獲した従業員だけでなく、鳴神とアルメナがたまに詐欺まがいの勧誘しますし」
宗教って怖いね。あの二人の強引さと後ろめたさのない行動は、これからも幾人もの被害者を生み出すのだろう。
「なので、地底魔界の様々なことをサポートするメイドや執事でも蘇生しようかと思います」
「ああそういえば前にピルカヤが言っていましたね。地底魔界にはメイドも執事もいるって」
あれはたしか、リグマが宿を増やそうと言ったときの話だ。
働き手がいないから管理できないのでは、というピルカヤの指摘で話題にあがっていた。
結局、魔王軍側の宿はダークエルフたちが管理してくれているし、そのあたりの問題は解消されている。
ただ、地底魔界での生活全般をサポートしてくれるのであれば、ここでの生活をさらに改善してくれるかもしれないな。
「ところで……」
「どうしました?」
話の途中だったが、フィオナ様が話題を切り替えようとする。
気になることでもあったのだろうか。
「当たり前のように蘇生薬ばかり出ていますねえ」
「フィオナ様のためがんばります」
「私のため……えへへ」
だけど背後から抱きつかれると手元が狂いそうです。
ほんと、無防備な魔王様だよなあ。
◇
「それにしても、レイは諦めるとして魔王様も時折とんでもないことをされるものだ」
「だよねえ。レイくんがあたしたちを強化しようとしていたことは知ってるけど、あんなにさらっと実現しちゃうなんて」
「魔王様がその気になれば、レイさんと同じように片手間で希少なアイテムが手にはいるということね」
十魔将様たちが感心したように話し合う。
そりゃあそうだよなあ。レイ様のダンジョン作りや蘇生もそうだけど、魔王様もまたとんでもないお方だ。
ディキティス様たちは四天王ほどではないといえ、魔王軍の上位の戦力だ。
そんな方々を強化するという発想が俺にはなかったし、それを簡単に実現できるのも何かがおかしい。
「やっぱり、あの宝箱ってとんでもないわね……」
「だな」
アスピダの言葉には完全に同意だ。
あの無限の可能性を秘めているような宝箱、俺たち魔族が扱えるようになること自体が革命だろ。
「俺、そんな宝箱を作れるレイ様を後輩扱いしたんだよなあ……」
「それを言い出したら、私たちなんてレイ様に反乱を起こそうとしたんだけど……」
お互い思慮が不足していたな。
レイ様がおおらかな方で本当に良かった。
場合によっては、この体を魔族の部分と百足の部分で両断されていたかもしれない。
「これ、何気にレイ様が僕たちに聞いて提案していた強化案を実現できそうなアイテムだよね」
「私の場合はそこまでの話はしていなかったが、君たちはそうかもしれないな」
イピレティス様の耳飾り。ダスカロス様の指輪。
どちらもふさわしい装備品だ。
たしか奇襲攻撃を強化するアイテムと、技量を上げるアイテムだったか。
「ただ、こんなのもらっちゃったら試したくなるよねえ?」
「使いこなすための練習は必要だろうが、イピレティスの場合はそういうことを言いたいわけではなさそうだな」
「もちろん! リピアネム様に戦いを挑もうと思う!」
「リピアネム相手では不意をつけないだろう。その耳飾りの効果は検証できないぞ」
無理そうだなあ……。
イピレティス様が相手だろうと、リピアネム様はどんな攻撃も反応できそうだ。
「……」
「どうした? アルメナ」
「い、いえ。魔王軍にも慣れたと思いましたが、十魔将様方が気軽に強化されている姿は、さすがにとんでもない光景と思いまして……」
「そうか? 俺も気軽に新たなフォルムに変化できたぞ」
「それはそれでおかしいですが……。あれらの希少なアイテムを創造できるというのは、教会では……いえ、人類には想像もつかないことですので」
だよなあ。やっぱり俺たちの感覚間違っていないよなあ。
魔族ではなく人類のアルメナのほうが常識的だったことに、ほっとしつつも複雑な気持ちだ。
やっぱ、レイ様がおかしいんだと思う。
「まあ、こういうことにも慣れていかないとな」
「そうね。さすがに今日はこれ以上驚くようなことはないでしょうし」
アスピダやプシシモ、ファギトやイアシスと割り切ることにした。
いいことだからな。頼れる十魔将様たちがさらに強くなるのなら、それは間違いなく魔王軍にとっていいことだから。
まあ、驚くからあまり軽々とそういうことばかりされると困るけど。
そんな話をしていると、魔王様とレイ様が戻ってきた。
珍しいな。宝箱開封の儀を終えてお二人で魔王様の部屋に行ったのに。
何か忘れ物でもあったか?
「これから、メイドと執事を蘇生しようと思います!」
!?
魔王様の突然の言葉に、さすがに誰もが驚いた反応を見せる。
その横にいるレイ様が、たしかに大量の蘇生薬を持ってきているな……。
え? いつ?
もしかして、今までコツコツ溜め込んでいたのをここで使うってこと?
「さっきレイが蘇生薬を大量に作ってくれたので、そろそろ魔王軍復興に一歩近づきましょう」
……さっき? ということは、お二人で魔王様の部屋に行った後に蘇生薬を作っていた、と?
世継ぎならともかく何を作っているんだあのお二人は!?
「……な、慣れましょうね」
アスピダの言葉に誰もが黙って頷くことしかできなかった。
それはアルメナやタイラーたちも同じであり、俺たちはたしかに魔族と人類が一緒になったことを感じたのだった……。
余談だが今回蘇生したメイドと執事たちは幸い俺たちみたいな馬鹿はいない。
蘇生直後に、魔王様の様子からレイ様が要人だと察してかしずく姿は流石だなあ……。




