第668話 君が愛でているそれは足です
「あとはマギレマさんとプネヴマか」
「あら、マギレマはまだだったの」
「朝は忙しそうだからね」
そういえば、ラプティキさんとマギレマさんって昔からの友人だったっけ。
マギレマさんのことをよく知っているだろうし、強化案も教えてくれそうだな。
「ラプティキさんって、マギレマさんをどうやって強くするか思いつく?」
「そうねえ。マギレマの場合はやっぱり足との連携が強みだから……新しい足を生やすとか? レイさんならできそうだし」
「それ、エピクレシと同じくらいマッドな考え方なんだけど」
「冗談よ。半分は」
つまり半分は本気なんじゃないか。俺のことをなんだと思っているんだ。
不満そうな俺の顔を見てラプティキさんが笑う。やっぱりからかわれていたようだな。これは。
まあいい。とりあえずマギレマさんのところに行ってみるか。
今なら昼食の準備も終えて一段落しているところだろう。
◇
「おっ、レイく~ん。お腹空いたの?」
「いや、そういうわけじゃ」
会話の途中でマギレマさんの犬たちが俺に群がってきた。
この子たちは頭がいいから、今は甘えてもいいと理解しているんだろうな。
顔中がもふもふとした感触に包まれ、ついでに舐められてべとべとになる。
「あ~……ごめんね? この子たちレイくんのこと好きだから」
「問題ないよ。俺もこの子たち好きだし」
「そ、そう? それならよかった」
うちには犬系のモンスターも多いからな。
こうして全力で甘えてくるのにも慣れたものだ。
思えば、俺は前世で犬好きってほどでもなかった気がする。
この世界で犬と触れ合うことで、その良さを理解したんだろうな。
……あと、フィオナ様ってなんか犬っぽいときがあるし。それも大きな理由の一つなのだろう。
「う~ん……。モンスターを移植すればいけるかな?」
「なんの話?」
「マギレマさんの足を増やして戦力増強する案を少々」
「エピクレシじゃないんだから!」
「だよなあ」
さすがのマギレマさんも、自身に足を継ぎ足すなんてことは許容できなかったようだ。
エピクレシならうまくやってくれそうだけど、そういう問題ではないのだろう。
あれほど俺に懐いていた犬たちが、さっと距離をとってしまうほどの発言をしてしまった。
「さすがに冗談だよ」
「レイくんの冗談、たまに本気かわからないから怖いよ……」
十魔将に恐れられる宰相。
つまり、俺はしっかりと与えられた地位にふさわしい思考でいられているのでは?
「そこで自信を付けた様子も含めてね」
「まあ、マギレマさんやこの子たちが嫌がることはしないけど」
「というかその子たちの元はあたしだから、あたしが嫌がるならその子たちも嫌がるんだけどね」
つまりマギレマさんを説得できれば、この子たちも自然と受け入れてくれるということでは?
……まあやめておこう。足の移植は最終手段として、エピクレシにそれとなく提案だけしておくに留めよう。
「でもなんで急にそんなことを? エピクレシがそそのかした? ちょっと話つけてこよっか?」
「いや、エピクレシは無実だからやめてあげて。どっちかというとラプティキさんだから」
「あんにゃろう……」
ターゲットはラプティキさんへと逸れたようだ。
まあ、二人のことだから喧嘩するなんてこともないし、一番平和な形に落ち着いたともいえる。
「今、十魔将たちの強化計画を考えていて、ラプティキさんに相談したら、マギレマさんなら犬たちを強化するのがいいんじゃないかって言われたんだ」
「あ~。そういうこと」
そもそもの発端を補足すると、マギレマさんは納得したように頷いた。
一応、ラプティキさんの案も間違いではないということだな。
犬を接ぐというよりは犬を強化するという意味で。
「ということで、この子たちを強化する方法を考えようと思う」
「それはかまわないけど、どうするの?」
「思いつかないから、今日はマギレマさんの仕事を観察しつつ犬と戯れてもいい?」
「そりゃあこの子たちも喜ぶからかまわないけど、あたしもなにかするべきかな?」
「仕事の邪魔するつもりはないから、マギレマさんはいつもどおりでいいよ」
というわけで、本人の許可も出たことだし今日は犬と戯れる日だ。
この子たちもそれを理解したのか、俺に遠慮なく飛びかかってくる。
マギレマさんの邪魔はできないので、必然的に俺は厨房で犬と戯れることになった。
◇
「この子はのんびりしている。こっちの子はちょっと気が強いな」
似たような犬にも見えるが個性がある。
それは俺のモンスターたちとも同じことだ。ヘルハウンドもすっかりと見分けがつくようになった。
みんなかわいいが、それぞれの良さもあるのが犬たちなのだ。
「性格に合った戦い方をすることで、より強くなれないかな」
俺の言葉に同意するように顔を舐めてくる。
やる気満々なのはなによりだ。よし、となればこの子たちの強化プランを考えよう。
まず、普段はこんなにかわいい犬たちではあるが、戦いのときは一気にスイッチが入る。
獰猛な犬として敵に容赦なく襲いかかるところは、うちのモンスターたちと変わらない。
ただ、この子たちはさすがに十魔将の一部ということもあり、地力がかなり高いんだよな。
攻撃の速度やら威力が超位モンスター以上だし、火を吐くこともできる。
マギレマさんとの戦闘は多数を相手にすることになるので、非常にやりにくそうに見えた。
そして本体であるマギレマさん自身は犬たちよりも強い。
料理人なのに戦う力もあるお姉さん。それがマギレマさんという存在なのだ。
「そういえば、この子たちが吐く火ってたまに料理につかってるよね?」
「ん? そだね~。けっこういい感じに焼いてくれてるっしょ?」
「もしかしてこの子たち、料理関係の強化他にもできない?」
「え、くわしく」
「水とか氷とかも吐けるようになったら、強化もできて料理にも使えてお得かなって」
衛生面の問題があるので、あくまでも直接食材に触れない面での強化にはなるけれど。
そんな提案をしたらマギレマさんはわりと乗り気で考えてくれた。
「いいかも! あんたたちもがんばれる?」
犬たちもやる気満々という雰囲気だ。
こういうところがかわいいんだよな。いつも一生懸命で見習うべきところでもある。
「水と氷と塩とスパイスと砂糖を吐けるようになれば……」
「途中から完全に料理のための便利技能になった」
「でも便利じゃない? いや、さすがに調味料は衛生面の問題があるかなあ……」
「そういえば、うちには口から砂糖みたいなの吐くバンシーがいるけど」
「あの子はなんかもう特別だから」
幽霊のくせに実体があるし、なんか口から魂を出して倒れるからなあ。
魔王軍一の不思議生物なのではないだろうか?
そんな話でマギレマさんと盛り上がっていたのだが、そういえば俺は厨房でしゃがみながら犬と戯れていた。
そしてマギレマさんはそんな俺たちを見下ろす形で会話に参加している。
つまり、はたから見るとマギレマさんが俺を厨房の影に隠し、こそこそと職務中にお話しているように見えるということだ。
「魔王に隠れて楽しそうですね」
「ま、魔王様!」
「あ、フィオナ様」
そんなさぼりは許さないということだろうか。
フィオナ様が厨房を覗き込むようにやってきた。
……いくらゆるい魔王様といえど、さすがに職務中にお喋りは駄目だったか?
いや、でもフィオナ様だって俺と仕事中にお喋りしたがるし。
「言い訳はありますか?」
「フィオナ様が悪いと思います」
「なにゆえ!?」
だって、普段のあなたの態度が魔王軍全体をゆるくしているんですもの。
そして、そういう魔王軍を目指したのもあなたじゃないですか。
という説明をすると、フィオナ様は悔しそうに何も反論できなくなった。
「ぐぬぬ……。では! 魔王ともお喋りしてもいいじゃないですか!」
「そりゃあかまいませんけど」
「マギレマ! レイは借りていきます!」
「あ、はい……。お返しします」
そうして俺はフィオナ様に腕を引かれながら食堂の座席につくのだった。
ちょうど昼休憩だったしそれでもいいか。
これを食べたら、残りの十魔将のところに向かうとしよう。
「怒った魔王様があっさりと言いくるめられてる……。やっぱりレイくんってすごいよねえ」




