第660話 だすかろすせんせいの英才教育
「しかし、四天王の強化か……」
思えば当然のように強化できていたな。
その結果、なんかおかしなことになっている竜とかいるし。
「四天王の強化? もしかして、またリピアネムがやらかしたか?」
「ダスカロス」
俺の独り言に反応したのはダスカロスだった。
どうやら彼とすれ違うほど接近していたのに気付かないほど、考えに没頭しかけていたようだ。
というか、リピアネムの強化はやらかし扱いなのか……。
「いや、四天王って簡単には強化できないはずと聞いていたが、いつの間にか全員強化できたなと思って」
「なるほど、たしかに魔王様と君の力であっさりと成し遂げていたな」
宝箱様々だ。蘇生薬や強化アイテムなど、本来なら到底成し得ないことを解決してくれる。
つまり、ダンジョンマスターさんのおかげでもある。
「それで、さらに強化するプランでも考えていたのか?」
「いや、四天王をまた強化というのは、さすがにそう簡単じゃないと思う」
「リピアネムは簡単に強くなっているようだが」
「あれは、なんかもうそういうものだと思うことにした」
今のリピアネムってどれくらい強いんだろう……。
まあ、それはまた今度確かめるとするか。
「そういえば、フィオナ様が言っていたけれど、ダスカロスも変身したら四天王くらい強いんだって?」
「以前までならば、勝てるかどうかはともかく負けない程度には戦えた」
「今は?」
「先ほども言った通りだ。四天王は各々強化されたので、今の私では抗えるかも怪しい」
となると、やっぱり十魔将も強化したいよなあ。
強くなって困ることなんてないんだ。……リピアネム以外は。
「……」
「何かな?」
ふとダスカロスを見る。
もふもふしている狼成分多めの狼人間だ。
獣人たちとは完全に別の存在であると一目でわかる。
だけど、この状態が変身前なんだよな?
「いや、気を悪くしないでほしいんだけど」
そう前置きをすると彼は頷き続きを促す。
まあいいか。ダスカロスだし、この発言に怒ったりはしないだろう。
「ダスカロスって変身前のほうが強そうな見た目だなと思って」
「ああ、そういうことか」
リピアネムのように変身後に竜の姿になるならわかる。
あれは誰がどう見ても人間の姿よりも強そうだ。
だが、ダスカロスは変身することで逆に人間に近づく。
そしてそちらのほうが強いというのが、なんだか視覚との情報に差異を感じてしまうのだ。
「私に言わせてもらえば、人間の姿のほうが弱いというイメージのほうが不思議なものだが」
「そうか? 人間って他の生き物より非力そうじゃないか」
「そうでもない。勇者や転生者は皆人間の姿ばかりだ」
たしかに、勇者も転生者も手強いな……。
個体差こそあれど、モンスター相手でも圧勝する者も少なくない。
勇者に至っては全員が間違いなく強者といえるだろう。
「それに、人の姿で最も強い存在が身近にいるだろう?」
「……あ、フィオナ様か」
「その通り」
ダスカロスは俺の気づきに満足そうに頷いた。
たしかに、この世で最も強い存在であろうフィオナ様は、紛れもなく人に近い見た目だな。
「もしかして、人の姿って強さの象徴だったりする?」
「強さか、あるいは様々な可能性を持った姿なのだろうな。だからこそ、精霊たちも人の姿を模しているのかもしれない」
ピルカヤたちも人間に近い姿だもんなあ。
リグマも本来の姿ではなく、人間の姿でいるほうが多いし。
「まあ、エンシェントドラゴンのように、人間の姿ではないほうが強い者もいる。見た目で判断するのは難しいかもしれないな」
導きかけていた結論を覆す古竜たち……。
やっぱりあいつらが何かおかしいだけでは?
「……十魔将のことも、種族のことも案外知らないのかもしれないな。俺って」
「ならば今から知ればいい。幸いなことに君は魔族に好かれているからな。皆協力してくれるだろう」
もう少し色々と知ってみようか。
そうすることで、十魔将強化への取っ掛かりがつかめるかもしれない。
「よし、今日はダスカロスについていこう。観察させてもらって強化できる方法はないか考える」
「かまわないが、君の仕事はいいのか?」
「アナンタに休めと言われた」
「……なるほど、彼も大変だな」
ほんとになあ。アナンタこそ休めばいいのに。
俺が休んでいる間は休めていると思ったが、疑心暗鬼気味に俺の様子を見に来るからな。
気苦労が多いスライムだ。
……まあ、ダンジョン作りで手を抜く気はないけれど。
「それではついてくるといい。レイならば、私とともに行動していても問題ないだろう」
宰相だからな。
ダンジョンの見回りはいつものことだ。
先導するダスカロスに続き、俺は彼の普段の仕事を観察することにした。
◇
「あ、ダスカロス先生」
「ダスカロス先生……」
ついて行った先は人類の居住区。
大量の宿に畑や商店も作って、村のようにした場所だ。
そこにつくやいなや。ダスカロスの周りに子供たちが集まってきた。
ここに住んでいる者だけでなく二条もいるな。
「子供に懐かれているんだな」
もしかして、普段から子供たちの世話をしてあげているんだろうか。
……もふもふだし、ここの子供たちなら容赦なく触れ合ってきそうだもんな。
「何か勘違いされている気がするな」
「いや、勘違いかな? いつも子供たちと遊んであげているんだろ?」
「やはり勘違いされているようだ。私はこの子たちに教えているだけだ」
「教え? 勉強ってこと?」
「それもある。あとは地底魔界でのルール。魔王軍としての生き方。戦い方。様々なことを教えている」
へえ、そうだったんだ。
さすがは先生。魔王軍に属する魔族のみならず、人類まで教え導いてくれていたわけだ。
「先生。どうして魔王様も一緒なんですか?」
ああそうか。このあたりの人類にはまだ俺が宰相であるとは明かしていなかった。
まあ折を見てフィオナ様が魔王だと教えないとな。
……あの魔族、大勢の前で魔王ムーブしたら疲れ果てて、俺に膝枕を要求してきそうだ。
「今日は魔王様も見学される。だが、いつもどおりでいい。気を張る必要はないぞ」
「は~い」
手懐けているなあ。
魔王軍や魔族に慣れた子供たちの育成計画、いつの間にか順調になっているみたいだ。
さて、それじゃあしっかりと見学させてもらうとしよう。
「さて、魔王軍として気を付けるべきことの続きだったな。前回はモンスターについて教えた」
「地底魔界以外のケルベロスには近づかない」
「その通りだ。うちのモンスターたちは特別な存在であり、野生のモンスターも同じと考えてはいけない」
「なんでうちのモンスターは特別なんですか?」
「いい質問だ。今日はそれに関する話をしよう」
みんな気軽に疑問を投げかけているな。
そのたびにダスカロスは話を中断して答えている。
学ぶ側も真剣に取り組んでくれているらしい。
「君たちはまだ会ったことがないが、魔王軍には宰相がいる」
「宰相様?」
「ああ。実質魔王様と同じくらい偉いと思ったほうがいい」
「え、そうなんですか?」
子供達が俺を見る。
……あ、そっか。今は魔王と思われているから、宰相が自分と同じくらい偉いか尋ねているのか。
……そりゃあそうじゃない? 子供たちにとっての魔王は俺で、宰相も俺なんだから。
同一人物なわけだし、偉さも寸分違わず同じだろう。
「まあ、そうだな」
「宰相様すげ~。魔王様と同じなんだ」
「ああ、だから宰相様に会うことがあったら敬意をもって対応するように」
「けいい?」
「宰相様も偉いとわかればそれでいい」
「はい」
「あと、偉いとはいえ宰相様は無茶なことを頼むことも多い。そういうときは私に相談するように。場合によっては宰相様の頼みも断るべきだからな」
なんか、俺のこと変な存在だと教えてない?
無茶な要求なんてしていないだろう。
というか、偉いと説明した後に要求を断れだなんて、子供たちも困惑しているぞ。
「要するに宰相様は変な魔族だ。気を付けろ」
「なんて場所に着地しているんだ」
抗議の言葉はダスカロスに届かなかった。
いや、届いたけどあえて聞き入れられなかった。
……子供たちの教育、ダスカロスに任せて大丈夫か不安になってきたぞ。




