第659話 罰は公平に天秤のごとく
「ふう……。ひどい目に遭いました」
「いや、戦闘には巻き込まれていなかっただろ」
「というか、登場したら戦闘を強制終了するお邪魔キャラみたいになってたわよ。芹香」
「ランキング一位の貫禄だな」
「何もしてないのに!」
というかそんなことを繰り返していたせいで、時任は相変わらず強さランキング一位のままだったし。
参加者たちもそれはもう割り切っていたので、今後も時任最強説は残り続けることだろう。
「でも、私より上に魔王様やピルカヤさんがいるのでセーフですよね!」
「十魔将くらい強いと思われているのはセーフなのかしら」
まあ、今後もなんかすごい獣人として扱われていくことだろうな。
選択肢もいるし、そう悪いことにはならないはずだ。……たぶん。
「私強くないのに~……」
やや落ち込んだ様子の時任だったが、彼女はすぐに鼻歌を歌いながら商店へと向かっていった。
楽しそうに仕事をこなすところもそうだが、その気持ちの切り替えの早さはたいしたものだな。
わりと図太いのが時任の強みなのだろう。
◇
「ということで、地底魔界での乱闘騒ぎは終わりました」
「なるほど、誰が一番強いかを競っていたとは……」
「何人かはダンジョンでモンスターと戦ってもらうことにしたので、血の気が多いやつらはそれで満足してもらっています」
「それは満足できているのでしょうか……。いえ、できていそうですねえ」
「ウルラガとか、無関係なのにしれっと参加していましたからね」
その言葉を聞いたフィオナ様が目を細める。
きっと容易に想像できてしまったのだろう。
リグマの分体だというのに、やたらと好戦的で戦い好きだからなあ。あいつ。
「まあ、幹部以上は入っていないランキングで良かったのかもしれませんね。もしも四天王も対象だったら、リピアネムが喜んで他のランカーたちを倒していたことでしょう」
「想像できますね……」
フィオナ様の発言を聞いて思い浮かべるのは、数多のランカーを倒してただ一人立つリピアネムの姿。
あいつならやる。フィオナ様か俺が止めない限り確実にやる。
そう考えると、節度を持って暴れていたナツラやランカーでないので戦闘自体に参加しなかったウルラガは、だいぶマシだったのかもしれない。
「幹部以上のランキングの場合、フィオナ様が頂点に君臨するのはわかりますし、リピアネムがその次というのもわかります」
「そうですねえ。私、強いですからね!」
相変わらずドヤ顔で胸をはってくるのでかわいい。
ただ、そうするだけの実力があるし、その実力はかわいいなんていえる代物でもない。
前に戦った朝倉という転生者は、ピルカヤにも勝ちそうな強敵だった。
あいつならリピアネムに勝てる可能性もある。だが、フィオナ様には決して敵わない。
それだけの力の差が魔王と四天王には存在するのだ。
「リピアネムが四天王最強だとして、その後のランキングってどうなるんですかね?」
「ふむ、四天王と十魔将ですか……」
リピアネムはもうなんかおかしいから仕方ないけれど、他の四天王はステータスも一長一短といった感じだ。
そして十魔将は四天王ほどではないけれど、あちらはあちらで同じようなステータスが多い。
だからこそ、誰が上で誰が下だとかは簡単には決められないような気がする。
「もう強くならないと思っていた四天王も、レイの宝箱のおかげで強くなっていますからねえ」
「俺の宝箱のおかげというよりは、フィオナ様のおかげじゃないですか?」
だって魔力をふんだんに注いでいるのはフィオナ様なのだから。
俺の手柄としてしまうのは、さすがにフィオナ様に悪いだろう。
「いえ、レイの手柄です」
「俺の使った魔力なんてわずかなものなんですけど」
変なところで謙虚なんだよなあ。この魔王様。
自分の手柄を決して誇ったりせず、部下の手柄にしたがるんだ。
「いえ、レイの手柄としましょう! 私は決して宝箱に敗北していませんし、宝箱ガシャに爆死なんてしていません! いいですね?」
あ、違う。これは宝箱ガシャを外したという現実を忘れようとしているだけだ。
だから、あれらの強化アイテムは俺が用意したと思い込みたいのだろう。
「もうそれでいいです……」
「ですよね!? いやあ、危ないところでした」
何がだろう? そもそもこれで何か誤魔化せているんだろうか?
「それで、四天王の強さですが、今の優劣はなかなか難しいですね」
「相性とかもありそうですからね」
「ええ。ただ、今のプリミラとピルカヤとリグマなら、変身後のダスカロス相手でもほぼ確実に勝利するでしょうね」
「え、ダスカロスってそんなに強いんですか?」
たしかに十魔将ではあるし、十魔将の中でもディキティスに次いで二番目にステータスの合計値が高かった。
だけど、今の言いかたでは四天王相手にも勝てるように聞こえる。
「ダスカロスは変身したら強化されますからね。かつては四天王相手にも通用していました」
「なるほど……。変身後のステータスは見ていませんでした」
変身後のダスカロス自体は見たことあるけれど、あのときはなんか知らない魔族が話しかけてきたと思ったからな。
ステータスを見ようという考えすら思い浮かんでいなかったのだ。
「だけど今は四天王が優勢と」
「ですねえ」
そう考えると、フィオナ様の爆死ガシャの景品ってすごいよなあ。
あれだけ爆死しているのに、しっかりと四天王の強化につながっているし。
爆死だけど。
「……」
「なんですか?」
なんで無言で人の頬をひっぱるんですか。
別に俺の頬はあなたのと違ってもちもちしていませんけど?
あ、なんか引っ張る力が強まってる。
「私のこと馬鹿にしてる気配を感じ取りました」
「その力は不完全ですね」
「本当ですか?」
「……」
だいたいにして、俺の頬をこねくり回して何が楽しいんですか。
しかし、こうなってはもう仕方がない。
フィオナ様は満足するまで、俺をいじくって遊ぶのをやめない魔族だからな。
「なら、俺だってフィオナ様を好きに触る権利があると思うんですけど」
「ええ!? ま、まあ……レイですし? レイがどうしてもというのであれば、私はやぶさかではありませんが?」
「じゃあどうしても触ります」
「ご、強引ですね。いいでしょう! 好きなところを触るがいいです!」
ということで俺も頬を触ることにした。
ほら、俺のと違ってやわらかくてもちもちしているじゃないか。
こっちのほうがよほど触り心地がいいと思う。
「……」
「なんですか、そのジト目は。触っていいと言ったのはフィオナ様じゃないですか」
「好きなところを……いえ。レイが勘違いさせるような発言をするのが悪いと思います!」
「ええ……。勘違いする要素なかったじゃないですか」
「知りません!」
機嫌を損なってしまった。
だが、そのわりにはお互いに至近距離で頬を触り合うという状況は変わっていない。
なんなんだろう。この状況。
しかも、特に気まずいというわけでもないし。
そうして俺たちはお互いに頬のやわらかさを堪能した。
まあ、あれで満足してくれたというのであれば、何も言うまい。
◇
「あ、あのレイさん」
そうして一時間ほど経過してからフィオナ様の部屋を出る。
するとちょうど休憩中だったのか、時任とばったりと出くわした。
なにか言いづらそうにしているようだが……もしかして仕事でミスでもしたか?
「えっと……魔王様が正しいと思います!」
「え、何が?」
「いえ……。あの、さっき魔王様の部屋でその……」
「……もしかして、覗いていた?」
たしか以前もピルカヤが俺たちが何をしているか興味を持っていたっけ。
それ自体は事前に言われていたから見る許可は出した。
だけど、盗み聞きされていたとなるとあまり感心しないな。
「えっと……魔王様の部屋の前を通ったら、なにかやらしい会話が聞こえたものでつい!」
なにがやらしいんだ。失敬な。
そんな濡れ衣まで着せられたとなれば、盗み聞きの件を追及してやろうか。
「す、すみません! ウサギなので耳が良くて聞こえてしまいました! この耳が悪いんです!」
「切れ」
「そんな殺生な……」
どうやら深く反省しているようなので、さすがにそれ以上はこちらも責めるつもりはない。
耳を切れという言葉が冗談だと伝えたら、時任は心底ほっとした表情を浮かべるのだった。
……俺、さすがに仲間にそんなことしろとは言わないからな?




