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5.5




◇◆ウィル◇◆




引っ越し先の新しい家での事。

引っ越しの片付けも早々のある日


「今日は母さんたちのお友達が遊びに来るわよ。ウィルと同じ年くらいの女の子と男の子もいるから、ウィル、お友達ができるわね♪」


朝ご飯の後、母さんは嬉しそうに言った。


同じ年くらいの男の子!

しかも俺と同じ獣人の子!


俺は獣人の母親の血が濃く出ているからか、とにかく動く事が大好きだった。王都にいた時の近所には獣人の子がいなくて、俺は人の子とは体力が違っていたから、みんなが疲れてもまだまだ動き足りないくらいだった。


同じ獣人の男の子なら、きっと同じに動ける筈!俺は大いに期待した。


「いらっしゃい!久しぶりー!元気だった?」

「ほんと!もう四年?五年?ぶりになるかしら?」


父さんと母さんの友達一家がやって来た。

母さん同士のおしゃべりが始まりそうになったけど、父さんが上手く誘導する。

俺はおじさんとおばさんの間にいる三人を見た。


「こんにちは!わたしサラ、よろしくね!」

「わたしミア!よろしくね!」

「リアン! よろしくね!」


獣人の男の子しか頭になかったので、可愛い女の子がいた事に驚いてしまった。


王都育ちは少々早生わせだと思う。

俺は驚いた次に、恥ずかしくなってしまった。モジモジと母さんのスカートの後ろに隠れてしまう。

母さんに促されて、やっと名前だけが言えた。


どうした俺!こんなんじゃなかっただろ!


内心立て直しをかけるけど、今まで見た事がない可愛い女の子にどうしていいかわからない。

しかもそんな可愛い顔が二つ並んでいるんだ!


ついでに、弟も綺麗な子だった。ただし何とも思わない。さっきまですっごく遊ぶ気満々だったのに!

小さくても、男って単純だ。


それでも女の子の片方に「つれてって?」と言われたらそうせざるを得ないだろう?

差し出された手を取って庭に出る。


ちなみにこの時はサラとミアの区別がついていなかった。

すぐ後に、生涯忘れられないやらかしをしちゃうんだけど!




一緒に走り回っているうちにめちゃくちゃ楽しくなって、俺は前を走る女の子に飛びついてしまった。


女の子は勢いよく飛んで、勢いよく転がった。

女の子ってこんなに軽いんだ!

全然まったく何の抵抗もなく俺に転ばされた女の子に、驚きすぎて固まった。


「「サラ!!」」


姉弟の二人が駆けよる。


「いててて。 だいじょうぶ!だいじょうぶ!」


転んだままのサラが、心配顔の二人に笑いかけた。それから俺を見て


「だいじょうぶ!わたしつよいの! つぎはたおされないからね!!」


キラキラの笑顔で強気に宣言した。


……何かが胸を打ちぬいた。

小さくても、男ってチョロい。


その後、サラに親を呼んでくるよう言われた二人は家に向かって駆け出した。

つられて俺も走り出そうとすると呼び止められる。


「ウィルはいっしょにいてね。ひとりにしないでよ」


……もうひとつ胸を撃ち抜かれた。

さっきの強気な笑顔と代わって心細そうな顔。俺は親たちが来るまでサラと一緒にいた。


小さくても、男って一途だ。

そのまま、生涯そうする事になったのだから。




初めて会った日から、サラたち姉弟三人とはほとんど毎日を一緒に過ごした。

身体は俺やリアンの方が大きいけれど、中身は女の子の方がしっかりしている。

俺たちは上から、サラ、ミア、俺、リアンの順に四人姉弟のように育った。


サラはいつでも優しくて、一番近い言い方をするなら、包容力のある年の離れた姉のようだった。

一緒に遊んではいるけれど、ちょっと見守っているような眼差しをしていたし、ここぞという時の声には、サラの言う事を聞こうと思わせる力があった。


ミアはいつも元気だった。サラと同じ顔をしてるのに、性格が表情を作るんだなって、ミアで知った。

時々君臨する姉のような圧を放つ。そういう時はたいてい俺やリアンが失敗しちゃった時だから文句は言えない。怖い姉の位置の方だ。


リアンとは、同じ銀狼獣人の血が濃く出たどうしだからか、本当の兄弟のような、深い友のような感じがした。

もちろんサラやミアも姉弟のように思っていたけど、そういうのとは違う…、うまく言えないけど、濃く継がれた獣人の血のせいかもしれない。


俺はとても恵まれていたと思う。

一人っ子だった俺に姉弟ができたし、思い切り身体を動かせる場所もできたのだから。


半分とはいえ獣人の血を濃く継いだ俺は、サラの家のような思い切り走り回れる場所が必要だったと思う。

母親どうしが獣人で、その辺よくわかっていてくれた事、サラんちのおじちゃんが理解があって寛容だった事も幸いだった。


巡る季節を、自然豊かな土地で楽しく元気に過ごした。

後から思い返しても、あの日々が俺の元を作ってくれたのだと思う。心も身体も健やかに育って、その後の人生を生きやすくしてくれた。


あの日々以外、王都で育ち暮らしていたというのに、五年にも満たない日々が俺を豊かで強い男にしてくれた。


だけどそれはもう少し後の話。




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