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ウィルと初めて会ってから四回目の春。
私とミアは七歳になった。リアンは六歳、秋生まれのウィルは秋に七歳になる。
うちとウィルのうちは、パパが人族でママが銀狼の獣人だ。
獣人の血が濃く出たリアンとウィルは私たちより成長が早くて、見た目少しお兄さんに見える。中身は子犬だけどね!
この四年ほど変わらない毎日を送っていて、ずっと四人姉弟のように過ごしてきた。
変わった事といえば、ウィルが五歳になってから一人でやってくるようになった事。
子犬の姿で走ってくると十分もかからないらしい。
早いな!さすがオオカミ!
それから、去年の秋くらいからウィルのママさんが体調を崩している事。
というか、体調は元々よくなかったみたい。
ウィルを出産した時に身体を悪くして、続けるはずだった騎士の仕事も辞めたそうだ。
そのままよくならないので、パパさんが田舎に転勤願いを出したんだとか。
体調のためには、忙しない王都より田舎の方がよさそうだよね。
この町に来て、ママさんの具合はよくなったように見えたけど、去年の秋くらいからまた悪くなってきちゃったみたい。
春だし、これから暖かくなるし、ママさん早く元気になるといいな。
ちなみにこれらは、うちのパパママが話しているのを漏れ聞いたものね。
小さい子供にはよくわからない内容も、中身大人が聞けば理解できちゃうんだな。
「じゃあ、読むよ~。むかしむかし…」
三人に絵本を読んであげるのも変わった事の一つだ。
今日もリンゴの木の下で、ウィルが持ってきた絵本を読み聞かせする。
王都から来たし、町中に住んでいるし、ウィルは絵本を何冊か持っていた。
ママさんが読んでくれて面白かったからと、持って来てくれたのだ。
風呂敷のようなもので絵本を背中にくくりつけてきた子犬!
めちゃくちゃ可愛くて、初めて見た時はソッコー抱きしめてしまったよ!
私は、転移じゃなくて転生だったからか?最初から言葉がわかったり文字が読めたわけではなかった。
赤ちゃんから始めて、成長していくうちにだんだんに言葉を覚えたし、文字も最初は読めなかった。だけど一度読んでもらえれば、話の内容とすり合わせて理解して覚える事ができた。
その辺はやっぱり頭が大人だからなのかも。
そういう訳で字も書けるしね。
ウィルが持って来てくれた絵本は、一度ママに読んでもらったら、次からは私が読む。
抑揚をつけて読むから、三人には喜ばれたよ。
それから、歌もよく一緒に歌った。
目についたものを作詞作曲してね☆
歌っていいよね~♪
自然に口ずさんでいる時って楽しい気分の時じゃない?楽しい気分だから歌うというか。まぁどっちにしても楽しいよね♪
三人は一緒に歌うのも喜んだけど、それより私が歌うのを喜んで聞いていた。
どういう訳か、私が歌うと歌詞は『日本語』になるようで三人には歌えない。
言葉が理解できないのだから歌詞も分からないだろうに、メロディーがいいようでよくねだられた。
ちなみに目についたものを歌にしたものは、共通の言語で三人も歌える。
どういう事だろう?
考えたけど違いはよくわからなかった。
私はもっと小さい頃から歌っていたから、両親も私の歌は知っている。
だけどまだちゃんとしゃべれないくらい小さな頃だったからか『日本語』で歌っていてもあまり気にされていなかったと思う。
まぁ本当に小さすぎて『日本語』もちゃんと歌えてなかったんだろうけど。
この『日本語』での歌がチートだったのだと、後々わかる。
夏が過ぎるころから、ウィルがあまり遊びに来なくなった。
ママさんの容態が悪くて寝込むようになったからだ。
秋の収穫が忙しくなるまでの少しの間、うちのママはお見舞いとお手伝いにウィルの家に行くようになった。もちろん私たちも一緒だ。
私たちが住むこのアケルという国は、人と獣人が共存している。
他にエルフだのドワーフなんて種族もいる。
初めてママの獣耳を見た時にも驚いたけど、本当にファンタジーな世界に転生しちゃったんだなぁと、今でも新鮮に思う。
ママの一族は元々数が少ないらしくて、銀狼の里を出ている者同士は助け合う事が当たり前なんだって。
助けられる方も遠慮せず助けてもらう。そうして助かった後はお返しをするし、別の誰かが困っていたら助ける側に回る。
そういう訳で、ママはせっせとウィルの家に通う。
だけどウィルのママさんは全然よくならなくて、日に日に弱っていってるように見えた。
ウィルもどんどん元気をなくす。
あんまり元気がないから、元気が出るような歌を歌う。
ウィルがちょっと笑顔になる。だからもっと歌う。
そうしたある日、呼ばれてママさんの寝室に行った。
「サラちゃん、いつもウィルと遊んでくれてありがとうね。お歌もありがとうね。おばちゃんもサラちゃんの歌を聞くと元気が出るのよ」
儚い笑顔で言う。
ママさん……。
痩せたな。イヤだなぁ。不安になる笑顔だよ。
「そんなら私いっぱい歌うよ!おばちゃん早く元気になってね!」
不安な表情にならないよう、無邪気な笑顔で元気に言う。
「ありがとう」
ママさんは、また笑顔で言った。
秋になった。
リンゴは美味しそうに色づいて、収穫が忙しくなってきた。
親のジャマにならない事が子供の一番の仕事だったのは一昨年くらいまでで、去年からは私たちも出来る事をお手伝いするようになった。
といっても私とミアは七歳の女の子だから大した事はできないけどね。
けっこうな男手になったのはたった六歳のリアンだった。
さすが獣人とでもいうのか?力があって羨ましい。
私の仕事は、ウィルの家にリンゴとお昼ご飯を届ける事だ。
ママさんはあまりご飯が食べられなくなっちゃったけど、すりおろしたリンゴなら食べやすいでしょ。
持って行って、リンゴをすりおろすまでが私の係りだ。
私がリンゴをすりおろすと、ウィルがゆっくりとママさんに食べさせる。
食べるのって疲れるのか、食べ終わるとママさんは眠ってしまう。
それから私とウィルはちょっと遅いお昼ご飯を食べるのだ。
一人で食べるご飯って淋しいじゃない?
だからお届けついでに一緒に食べる事になったのよ。
パパさんは仕事があるから日中は家にいない。
それでも配慮してもらって、夜勤は免除してもらっているらしい。
朝ご飯と、夕ご飯はパパさんの担当だ。
どんなご飯を作っているんだろう?
「じゃあ、また明日ね!」
「…うん」
遅いお昼を食べ終わると、家に帰る。
七歳になって町中まで一人で来られるようになったけど、私は早く歩けないから家まで三十分以上かかってしまう。
日が暮れる前に帰りつかないとみんなを心配させちゃう。
それ以前に、少しでも家の手伝いをしなくちゃ!
だけど私が帰っちゃったら、ウィルはママさんと二人きりになっちゃうんだ。
ウィルが心細く思ってしまうのも分かる。
一曲だけ。
ウィルが元気になようにと、歌って家路についた。
秋も半ばになった。
いつものようにすりおろしたリンゴを食べさせるウィル。
ママさんは飲み込むのも大変そうで、ウィルは上澄みの果汁のところをすくって口元に運ぶ。
ふいに、ママさんの目から涙がこぼれた。
「母さん!」
「おばちゃん!」
私とウィルは驚いて、オロオロする。
「ウィルありがとう。 ごめんね。 ……まだこんなに小さいのに」
瞬きさえ惜しいように、ウィルを見つめるママさん。
あぁ。
私はそれを知らないけれど、ママさんの思いはわかった。
小さな子をおいていくとはどんな気持ちだろう。どれほど辛いだろう。
どれほど心配して、心を残していくのだろう。
私は死んだ時の記憶がないから、どれほどの心残りがあったか憶えていない。
生まれ変わって、前世の記憶があって、この身体で色々と惜しんだけれど、七年もたてば薄れてくる。
ママさんはその真っ只中で、自分自身の色んな思いもあるだろうに、やっぱり残していく家族の事を一番に考えちゃうんだ。
哀しい。哀しくて切ない。
「おばちゃん安心して!私がウィルを幸せにするよ!」
少しでも心配が軽くなったらいいのにと思ったら、そんな事を言っていた。
ずいぶん大きなことを言ったもんだ。
我ながら驚いている!
突然大声を出した私を、ママさんとウィルが見た。
「サラちゃん…」
驚いているけど、言った言葉に強く決意する。
幸せの形はたくさんある。
ウィルが一番幸せなになれるよう精一杯手助けしよう!
「安心して!私が絶対幸せにしてあげるから!」
ママさんに笑いかける。
力強く見えるように、大きく笑う。
ママさんはビックリしたように私を見ていたけど、やがて笑顔になった。
「ありがとう。安心した」
そうして…
数日後、ママさんは旅立っていった。




