3.5
◇◆ミア◇◆
生まれた時から、ううん、生まれる前からずっと一緒のサラ。
私たちは双子なんだけど、ママから何か言われた訳でもないのに、何故か最初からサラはお姉ちゃんの意識を持っていた。
私が興味を持った事は先にやらせてくれるし、何でも先に選ばせてくれる。
危ない事はサラが先にやるし、難しい事はお手本を見せてくれた。
パパやママに対してわがままは言わなかったし、イヤイヤ期の私のイライラを上手く逃がしてくれるような、子供らしからぬ子供だった。
その訳は、ずっと後になってから知る事になるんだけど。
私たちが一歳になると、弟が生まれた。
それまで私をめちゃくちゃ可愛がってくれていたサラの関心が、一気に弟に向かってしまった。
それで私は、サラにとても可愛がられていた事、すべて優先してもらっていた事に気がつけた。
生まれたての存在は、パパとママの優先順位も一番になる。
それまで家族の中で一番だった私は一番じゃなくなって、とても悔しかったし哀しかった。
リアンに焼きもちを焼いたんだと思う。
サラはそんな私にすぐに気づいてくれて、それまで以上に大事にしてくれた。
だから私はひねくれずにすんだし、満たされない気持ちも、満たされる気持ちも知る事が出来たんだと思う。
それからサラは、弟を可愛がる方向に上手く誘導してくれたと思う。
憎らしかった弟は可愛い存在になった。
だんだんとお姉ちゃんの自覚もできてきた。
ケンカもしたけどね。そこは子供同士、しょうがないよね。
私たち姉弟は毎日リンゴの木の下で遊んで育った。
私は動くことが好きだったので、リアンと転げまくって遊んだ。
サラはおっとりさんで、いつも後ろから見ているような子だった。
だけど危ない事や、ケンカもひどくなる前には止めてくれて、何となく私とリアンはそういう時のサラの言う事を聞いていた。
幼児でも、サラはお姉ちゃんという意識があったのかもしれない。
そういうものの他にも、サラは色んな遊びを教えてくれた。
それはどれも面白いものばかりで、三人で毎日楽しく過ごした。
身体を使って遊ぶものや、歌に手を合わせて遊ぶもの。
歌といえば、私たちはサラの歌が大好きだった。
楽しい歌は楽しくなったし、嬉しい歌は嬉しくなった。元気な歌は元気になったし、淋しい歌は淋しくなった。
淋しい歌や哀しい歌は私たちが泣いちゃうからあまり歌わなくなったけど。
サラの歌を聞いていると、その世界に引き込まれるような、歌と心が共鳴するような、そんな感じがした。
もちろんその頃は単純に感覚で、そんな風にきちんと考えるようになったのはもっと大きくなってからなんだけど。
私とサラが二歳半、リアンが一歳半になった秋、衝撃的な事がおきた。
いつものように走りまわって遊んでいた時に、きっかけは何だったのか憶えてないけど、これもいつものようにリアンとケンカになった。
私たちのケンカはちょっと激しいかもしれない。
私はとても勝気なので絶対弟には負けたくないし、リアンは半獣人だから一つ年下でも動きは敏捷だし力も強かった。
幼児は夢中になると周りなんか見えない。
段差が二メートルほどある崖の際でも気にしない。
「ダメ!ミア!リアン!やめて!」
サラの焦った声が聞こえた。
えっと思った時は、身体は空に傾いでいた。
本能的な恐怖に血の気が引いた。
―――怖い!
そう思ったと同時に、強く手を握られて、そのまま強く引かれた。
「わっ」
私は地面の上に転がっていた。
一瞬何が起きたのかわからなかったけど、リアンの大きな泣き声で我に返る。
サラ!リアン!二人はどこ?!
辺りを見渡していると
「ミアー、だいじょうぶ?」
崖の下からサラの声が聞こえた。
恐る恐る崖から顔を覗かせると、サラが土の上に寝っ転がっているのが見える。
私を助けて、代わりにサラが落ちたのだとわかった。ワッと涙が噴き出した。
声が小さいのは、どこか痛くしているからかもしれない。
それなのにサラは私たちの心配をしてるんだ!
私は返事もできず、ただうんうんと頷いた。
「パパをよんできてくれる?ひとりだけどいけるね?ミアだけがたよりだよ!」
「うん!」
私は泣きながら走った。早く!早く!!
早くパパに助けてもらわなくちゃ!サラが死んじゃう!!
「パパ!! サラが!サラが!!」
泣きじゃくって話にならない私を抱き上げたパパは、私の指さす方に駆け出した。
その後サラはパパとママに助けられたけど、大ケガをしていて冬の間の半分を寝込んで過ごした。
私とリアンは、大好きなサラにこんな大ケガをさせてしまって激しく落ち込んだ。
もう絶対サラにケガをさせないように、サラのいう事を聞こうと約束し合った。
幸い春になる頃にはサラも回復して、また三人で遊べるようになったけど、サラの足は元通りには治らなかった。
よく見ないとわからないけど、少し歩き方に違和感があるし、早く走れなくなったし、踏ん張れなくなった。
私とリアンは後悔と罪悪感に青ざめた。
「もとからはしるのはおそいし、だいじょうぶだいじょうぶ」
そんな私たちを見て、サラは笑って言った。
私とリアンは、この先ずっとサラの助けになろうと約束し合った。
もともと姉弟仲はよかったけれど、そういうのじゃない、妙な結束ができたよ。




