↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/34




夏の摘果作業が終わると、ちょっとだけ一息つける。

リンゴの花はすっかり散って、青々とした葉っぱが木陰を作ってくれている。


リンゴの木の下で遊んでいると風の通りもいいし、全然暑くない。

日本の猛暑とか、何だったんだろう…。


うちは代々リンゴ農家らしい。属する町のはずれに、家とリンゴ園がある。

家の前には見渡す限りのリンゴ園が…、なんてそんなに大きくなくて、家族で食べていけるくらいのこじんまりとしたリンゴ園だ。


私たちが生まれる前におじいちゃんとおばあちゃんは亡くなっているけど、リンゴ農家を継いだパパは小さい頃からお手伝いをしていたから、おじいちゃんたちがいなくても何とかやっていけている。

私たちがもうちょっと大きくなったら手伝えるしね!


そうそう!

驚いた事に、パパは若い頃王都で騎士をしていたんだって!

そこでママと知り合った。驚いた事にママも騎士だった。

ママに一目惚れしたパパは猛アタック!

だけど仕事中にケガをして騎士をやめる事になってしまった。


騎士ってなるのにすごく大変なんだって。

やっとなれた騎士の仕事をやめさせられないと、一人で実家に戻ろうとしたらママがついて来てくれたんだって。

酔うといつも聞かされる惚気話だ。


パパの鍛えられた身体は農家さんだけのものじゃなかったのね。ママも。


それにしても騎士かぁ…。 

騎士って、物語に出てくる、あの騎士だよね?

ちょっとカッコいい。いつかリアル騎士さんを見てみたい!


でもまぁ、転生先はのんびりスローライフみたいでよかった。

今のところチートもなさそうだけど、ハードな物語はイヤだよ。

ぜひこのまま、のんびり家族と幸せに暮らしていきたい♪




秋になって、収穫の時期になった。

忙しい両親のジャマにならないように、相変わらずお姉ちゃんはがんばっているよ!


うちのリンゴ園の中ならどこで遊んでいてもいいと言われているけど、姿が見えなかったら親は心配するだろう。

ずっと目の届くところにいたけれど、元気すぎるリアンの行動範囲は広がるばかりで、子犬になればどこまでも走って行けるという。

幼児の体力じゃないよ!


今日も子犬は(オオカミだけど)走っていく。


「リアン!リアンまって! そんなにはやくいかないで!」


ミアと必死に追いかける。

ミアは身体を動かす事が大好きなので、喜んでリアンを追いかける。


私は二十一歳の体力を経験しているからねぇ。

特に体育会系でもなかったし、運動はちょっと苦手なのよ。

だけど一歳半の弟を一人にはさせられないじゃない。半泣きで追いかける。


やっと追いついた時は、というか、リアンが止まったところは、うちの敷地のはずれだった。いったいどこまで来ちゃってんのよ!


異世界の町はいい加減というか何というか、細かい取り決めなんかはない。

ご先祖様からの土地というものも、ここから辺からここら辺まで、なんていう大雑把なものだ。登記なんてものもないんだろうなぁ。


うちとお隣も、この二メートルくらいの段差が境界線になっていて、上がうちで、下がお隣さんってくらいなものだ。

地震や雨なんかで土砂崩れしたら、うちの土地が狭くなるじゃないの。

両家とも、あまりこだわってなさそうだけど。


なんて息も絶え絶えの私が必死に呼吸を整えていると、


「もう!リアンたら!!」

「キャンキャン!!」


何やらケンカが始まってるし…。

ちょっと待ってよ。お姉ちゃん、まだ仲裁できないよ。


はぁはぁしながら涙目で見ると―――


何でそんな崖っぷちにいるのよ! 

何でそんな激しいバトルなのよ!!


「ダメ!ミア!リアン!やめて!」


もうもう!! 

こういうお決まりなものはいらないよ!!


落ちる二人に手を伸ばす。 取った!

ミアの手を掴んだら、思い切り引っ張り戻す。

反動で自分が落ちるけど、視界の端に崖の上に転がる姿が見えた。 よし!


「リアン!」


小さな身体を引っ張り込んで胸に抱える。

押しつぶさないようにだけ集中する!


「ぐぇっ」


女の子としてどうよ?という不細工な声を出してしまった。


痛ーい!! でも助かった!!


お隣さんちも農家で、落下したところは収穫後の柔らくなっている土だったのは幸いだった。幼児の身体も柔らかいしね。


死なないですんだけど…、でもこれ骨やっちゃってるな。めっちゃ痛い!!


「サラ!サラ!」


びっくりして戻ったのか、人の姿のリアンがギャン泣きしながら取りすがる。


「リアンだいじょうぶ? いたいところない?」


よしよしと撫でながら聞くと、リアンはうんうんと激しく頭を振る。

痛い痛い!! 響くよ~!


「サラいたい。×××!!」

「だいじょうぶだよ、いまミアにパパをよんできてもらおうね」


うんうん。

何を言っているかわからないけど、泣きながら頭を振るから、こっちの言ってる事はわかっているだろう。


「ミアー、だいじょうぶ?」


大きな声は出せなかったけど聞こえたようで、崖から顔を覗かせているミアが、うんうんと頷いているのが見える。

よかった大丈夫そうだ。


「パパをよんできてくれる?ひとりだけどいけるね?ミアだけがたよりだよ!」

「うん!」


泣き顔はすぐに見えなくなった。


痛いな~。気ぃ失いたいよ~。

誘惑に負けそうになるけど、泣きじゃくっているリアンをおいて気絶なんてできない。

二十一歳の根性で踏ん張った。


大丈夫。大丈夫。泣かないの。リアンは強い子だよ。

撫でながら、小さく歌う。

歌が好きなリアンは、少しだけ泣き声が小さくなった。


「サラ! リアン!」


パパの声が聞こえて、やっと気絶した。

私偉い!




私はあばらと足を骨折していた。

騎士をしていたパパとママの応急処置は完ぺきで、安静にしていれば骨は綺麗につくだろうとの事。


だけど骨折のせいで熱が出て、私は長い間寝込む事になった。

まぁ動けなかったし、ちょうどよかったかもね。ざっと冬の半分を寝込んでいたよ。


二歳半と一歳半でどれくらいわかっているのかわからないけど、二人は信じられない程大人しかった。

看病なんてできないけれど、ずっと私の枕元にいてくれた。

あんなに暴れん坊な二人が!逆にちょっと怖いくらいだわ。


遊べない代わりに、私はよく歌を歌ってあげた。

骨折は声は出せるからね。小さな歌声でも二人は喜んでいたし。


それからお話もたくさんしてあげた。

保育士を目指していた私は、世界中のお伽噺を読みまくっていたのよ。

ここで役に立つとは!




そうして冬の後半、ゆっくりと日常生活に戻していって、まぁまぁ動けるようになった頃、春になった。

私とミアは三歳。リアンは二歳になった。


春はやっぱりいいなぁ。

雪遊びも楽しいけど、やっぱり暖かい方が好きだ。リンゴの花も綺麗だし。


日本だと卒業式や入学式なんてもんがあって、春は別れと出会いの季節とかいうんだよね。

まぁ町はずれに住んでいる幼児には出会いはないでしょうけど。


なんて思ったのが伏線だったのか。


私たちは、パパママの古い友人一家と知り合う事になる。

それは長いお付き合いの始まりだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。