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大量に焼いたパウンドケーキを持って、騎士見習いの訓練場にやってきた。
「お疲れ様で~す!
差し入れ、ここに置いておきますので、後で皆さんで召し上がってくださ~い!」
婚約者はいるけれど、ここはトップのエレナ様に向かって声を張り上げる。
遠くで「休憩~!」の声が聞こえたと思ったら、エレナ様がすごい速さでやってきた。
「サラ! いつもありがとう!
少し休憩にしたから、サラもつき合って」
「エレナ様お疲れ様です! 喜んで♪」
挨拶をしている間に、ぞろぞろと騎士見習いのみんながやってきた。全員同級生たちだ。
大半が貴族クラスの子なので、学校にいる間は話した事はなかったけど、ここに来てこんな風に接するようになった。
最後に教官もやって来た。ちょっと苦笑いをしている。
休憩の号令はエレナ様がしたのね。お姫様には文句は言えないか。
「焼きたてでまだやわらかいから気をつけてね!」
集まったみんなから、ワッと手が出る。
エレナ様も上品に召し上がっている。
しっかり何枚か確保してるし。
スッと現れたメイドさんたちがお茶を入れて、流れるようにエレナ様の手元に置く。
エレナ様も、当然そこにあるという風にカップを持ち上げる。
すごいな!あうんの呼吸だ!
それにしても、八本あったパウンドケーキはあっという間になくなった。
一本を十枚にカットしてあったから、八十枚が二分くらいでなくなったよ。
恐るべし育ち盛りの運動部。いや、部じゃないか。
「ウィル、これ」
「? ありがとう」
そうそう。
私は笑顔でウィルに水筒を差し出した。
中は水にレモン汁を搾ってハチミツをひとたらし、塩を少々のなんちゃってスポドリだ。
ウィルはちょっと笑顔になりかけて、いやいやと表情を引き締めて受け取った。
だけど嬉しいのを我慢しているのがまるわかりの、全然努力が実ってない顔になっている。
シッポも振れちゃってるしね!
みんな見ないふりをしてくれてるよ。いつもありがとね!
ウィルと婚約してから、私はウィルへの接し方を変えてみた。
ウィルにドキドキさせてねとは言ったけど、こっちの心持ちも変えなくてはならないよね。
じゃなきゃ居心地のいい関係のままになってしまう。
で、どうしたかというと、とりあえず特別扱いをする事にしたのだ。
平等に世話を焼いていた、みんな可愛い子供達!から、ウィルは特別!に。
みんなもう、可愛い子供という年じゃなくなってるしね。
元々姉弟たちは特別扱いだったけど、ミアとリアンとも違いをつけた。
ミアもリアンも特に何も言わなかったよ。
妹弟愛は変わらないからね!
「沁みわたる…」
ウィルは半分くらい一気に飲んで、思わずというように言った。
みんなは羨ましそうにウィルを見た。
「サラ、何だあれは? わたしも飲みたい!」
「ちょっと作ってみた、汗をかいた時にいいような飲み物です。あれはウィル用ですよ♪」
笑顔で言うと、ウィルが咽こんだ。
顔が赤いのは咽たからか、照れたのか。
エレナ様が、むぅっとされる。
そんなお顔も可愛い!!
「エレナ様も婚約者に作ってあげてはどうですか? 今度一緒に作りましょう♪」
「う、うん…」
エレナ様は赤くなって、チラリと婚約者を見た。
その場には、同級生たちの嗟嘆のうめきが響き渡ったよ。すまんね。
さて、エレナ様の婚約者がリアンとは?とお思いの皆さま!
そうなのです!私たちも驚いたけど、この春、エレナ様とリアンが婚約したのです!
いつのまに?!
というか、お姫様が庶民と結婚ってできるの?
色々ツッコミどころはあるものの、まずはそこだよね!
エレナ様は六番目と、王位継承権が低い事。(獣人は丈夫なのでめったに死ぬ事がない)
リアンが(私たちもだけど)希少な銀狼の獣人という事。
アケルは人族と獣人族が共存している国だから、異種間婚は珍しくない事。
他にも細々と理由はあるけれど、大きなところはそんな感じでお姫様と庶民の婚約と相成った。
というか、エレナ様とリアンがね~…。
エレナ様、リアンを好きなんだ。
リアンもエレナ様を好きなんだ。
そんな感じは全然なかったから、最初にそれを聞いた時は驚いたよ。
でもおめでたい。おめでたい!おめでと~!
今はまだエレナ様は恥ずかしがるから、落ち着いたらぜひ馴れ初めを聞きたいものだ♪
リアンは絶対教えてくれないからね!
差し入れを食べた後は、疲労回復の歌を一曲歌う。
疲労回復の歌ってなに?! と思うでしょ? 私も思う。
まぁ、やる気や元気が出る歌を癒しを込めて歌うだけなんだけど。
曖昧だけど、これが結構効くらしい。宮廷内のあちこちで度々頼まれる。
みんなが元気になったのを見届けると、エレナ様となんちゃってスポドリを一緒に作る約束をして(ついでに何人かいる女子も一緒に)訓練場を後にした。
それにしてもウィルったら、ずいぶん喜んでくれてたなぁ。こんな事ならもっと早く作ってあげればよかった。
自分が汗をかく事をしてないから全然思い浮かばなかったよ。
みんな飲みたそうにしてたし、そのうちレシピ公開してもいいかもね。
でもその前に、女子たちからの熱い要請により!女子だけでクッキング(という程でもないけど)をしよう♪
さっきの私とウィルのやり取りを見て、ぜひ自分も意中のお相手に渡したい!と思ったらしい。
乙女心は、どこの世界、いつの時代でも同じだね♪
さて、本日の仕事は終わり、寮の部屋に帰って来た。
宮廷の独身寮には、学校の寮と同じに食堂がついている。ありがたい。
同じくお風呂やトイレなんかも共同なので、そこはちょっと不満だけど、まぁ六年もこの生活をしていれば慣れるってものよ。
いったん荷物を置くと、一人で食堂に向かう。
ミアとは部署が違っちゃってるので時間が合わなくなったのだ。
ただでさえ相部屋から一人部屋になったというのに、職場も離れてしまった。
淋しいけどしょうがない。これが大人になるという事だ。
食堂に行けば誰かしら顔見知りがいるからボッチご飯にはならない。
この食堂で、魔法使いだけじゃなく宮廷に勤めている色んな職種の人たちと知り合えた。
年齢も幅広い。いや、独身寮だからそんなに年上の人はいないか?たぶん。
食事を終えて部屋に戻ってくる。
隣の部屋を見る。ミア、まだ帰ってないんだな~。土魔法科忙しいのかな?食堂のご飯の時間に間に合うかな?
『パウンドケーキ焼いてあるよ』のメモを、ドアの隙間に差し込んでおく。
ちゃんとミアの分も一本とっといてあるのだ♪
しばらくして……
「疲れた~!食堂終わってた!ご飯食べそびれた!お腹すいた~!」
と、ミアが転がり込んできた。
「お疲れ様! ほら、お座りお座り。今お茶入れるから。ケーキは何枚?」
「とりあえず(一本の)半分」
私はOK♪と言いながらお茶を入れる。お腹がすいてるならミルクティにしてあげよう。
茶葉を蒸らしている間にケーキをカットする。
「はい、召し上がれ♪」
「わ~い!いただきま~す!」
ミア、本当にお腹すいてるんだな。
結構な勢いで食べている。
「美味しい?」 うんうん(食べながら器用に首を振る)
「土魔法科忙しいの?」 うんうん(同じく)
「お茶のお変わりは?」 モグモグしながらカップを手渡す。
「熱いから気を付けてね」 うんうん(同文)
ミアは結構な量をペロリと平らげた。
「ごちそうさま~! ごめんサラ、もう一杯お茶ちょうだい」
「OK♪」
ミアのと一緒に、自分のカップにもお茶を注ぐ。
「美味しかった~!やっと落ち着いた!まだお腹いっぱいじゃないけど、こればっかり食べられないわ~」
「飽きるよね!」
「食べさせてもらってそうは言えないよ!」
「言ってるし」
笑ってしまった。ミアも笑ってるし。
「明日も忙しいし、お風呂に行ってもう寝る!」
「うん、そうしな。お疲れ様、おやすみ」
立ち上がったミアは抱き着いてきた。
「はあぁぁ。やっぱサラはいいなぁ、癒されるぅ…」
こっちこそだよ。
ミアの変わらない愛情は私を元気にしてくれる。
私はよしよしと背中をなでながら、癒しの歌を小さく歌った。




