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久しぶりに前世の夢を見た。
夢というか、記憶を夢に見た。
前世の私も春生まれで、高校に入学してすぐに十六歳になる。
お誕生日には少しフライングだけど、お兄ちゃんから入学式の前日に、誕生日と入学のプレゼントをもらった。
ダブルのお祝いだからと、ちょっとお高い、いい腕時計だ。
四つ上のお兄ちゃんは大学生で、アルバイトでけっこう稼いでいるようだった。
それでも贈ってくれた腕時計は、二十歳くらいの子が買うにはだいぶ奮発したんじゃないかと思う。
「綺麗!おしゃれ!つけて汚れちゃうのはもったいないなぁ。ありがとうお兄ちゃん!」
めちゃくちゃ喜んでいる私に笑いかけた兄の顔はぼんやりしていた。
「つけないほうがもったいないし。 〇〇も十六か…」
兄がつぶやいた私の名前は聞き取れなかった。
「なにその言い方!年寄りくさい!」
自分とお母さんの笑い声。お父さんも笑顔で、お兄ちゃんも笑っていた。
楽しかったなぁ。
なのにみんなの顔はぼんやりしていてわからないの。
夢の中の私は、笑いながらーーー
目が覚めると泣いていた。
あの日の事は憶えている。
プレゼントをもらって嬉しい気持ちも、入学式の前日で少し緊張もしていた気持ちも。
だんだんと家族の顔が思い出せなくなってきているなぁ…。
生まれ変わって十六年になるしね…。
こっちで生きている時間が長くなって、これは現実だと思うようになっている。
日々の生活も充実してるし、まぁ幸せだと思う。
でもやっぱりこんな時は少し哀しいんだな。
私が死んでどのくらいたっているかわからない。
もしかしたら、もうお父さんもお母さんもお兄ちゃんも亡くなっているかもしれない。
私が先立ってしまって、家族は哀しんだだろう。
私のせいで心からの幸せにはなれなくなったかもしれない。ごめんね。
…………起きよう!
考えこんだらどんどん哀しくなるだけだ。
起きて元気に働こう!
窓からは朝の光が射している。
私は窓を開けて、いっぱいに朝日を浴びた。
お日様って偉大だなぁ。
ちょっと元気になったよ。
就職して一年が過ぎた。
この春で私は十六歳になった。だからあんな夢を見たのかもしれない。
覚える事が多くて、日々はあっという間に過ぎていく。
魔法省に勤める魔法使いは、その属性の部署に配属される。
初出仕の朝、土魔法のミアも火魔法のギルもそれぞれの部署に連れられて行ってしまった。
私はポツンと残された。淋しい。
その後、私は配属される部署がなかったので…、小さいけど一部屋を与えられた。
声属性部署の出来上がり♪ 一人だけど。
部屋の中を見回すと、私一人だからか机も椅子も一つずつ。
テーブルとソファーの応接セットもひとつ。
壁には作り付けの本棚があった。本は一冊もなかったけど。
これから私が作っていく本棚か。ちょっと楽しみ♪
私の仕事はというと、それまで同様月一くらいでどこかで歌う事がメインだ。
それから、その準備と終わった後のジェイダさんの助手、その他助手。
それ以外の月の半分くらいって、やる事がないんだよね。
最初の頃は王立図書館なんかに行ったり、魔法省の書物庫なんかに行ったりして、自分なりに古い魔法を調べたりしてた。だけど私が調べるような事って、すでにジェイダさんたちが調べ尽くしているんだよね。
そっちの論文を読んだ方がわかりやすくて早いのよ。
月の半分やる事がないって、こう、給料泥棒みたいな?そこはかとない罪悪感があってどうにも落ち着かない。
早くこの声で出来る事を見つけてもらわないと、やる事がなくて困るよ。
とはいっても、ジェイダさんだって属性魔法の研究ばかりしている訳ではない。
他の研究も同時にやっているし、ご自分の風魔法の仕事もしている。
この人いつ寝てるんだろう?
仕事のし過ぎだよ。
属性魔法の研究チームは、学生の時のメンバーがそのまま続けている。もちろんコナーさんもいる。ジェイダさんと知り合った時に一緒にいた男の先輩ね。
コナーさんはちょっと乱暴な印象だったけど、接していくうちにだいぶまともな人だとわかった。(※ジェイダ比)
コナーさんがいるおかげで、ジェイダさんはなんとか生きていると思う。
見た目はすでにおっさんだけど、面倒見のいいオカンのような人だ。
そのオカンに頼まれてジェイダさんの研究室に行く。
学生の時から連れられて行っている勝手知ったる研究室につくと、一応ノックをする。
するけど返事を待たずにドアを開ける。
何かに没頭していると、ジェイダさんは耳が聞こえなくなる病にかかるのだ。
返事を待っていたらドアの外で半日待つ事になっちゃうよ。
「失礼しま~す」
声をかけながら中に入る。
やっぱり。
私に気づいてないようなジェイダさんを横目に見ながら、私は勝手にお茶を入れる。
研究室には簡易なキッチンがついているのだ。
リラックス効果のあるハーブティーを入れる。いい香り♪
それから、テーブルの上に散乱している紙類を脇に寄せると、持参したパウンドケーキとお茶を並べた。
さて。私は歌を一節♪
「あぁ、サラちゃん。きてたの」
「はい。先輩お茶を入れました、ひと休みしましょう♪」
「うん…、もうちょっと、」
「先輩の大好きなハチミツのパウンドケーキを焼いてきましたよ♪焼きたてです!今が一番美味しいです!」
「それは食べない訳いかないな!」
釣れた♪
ジェイダさんは甘いものが大好きなのだ♪
特に私の焼いたお菓子をお気に召している。
ジェイダさん、まだほんのり温かいパウンドケーキをバグバグ食べている。ほぼ一本。
先輩、どのくらい食べてなかったんですか?
目の下のクマもひどいな。
満腹になって、リラックス効果のあるハーブティーも飲んで、仕上げに私が子守唄を歌えば…
ソファーで眠るジェイダさんの出来上がり♪
「寝たか」
カチャリとドアが鳴ったと思えば、コナーさんが部屋に入ってきた。
「今度はどのくらい寝てなかったんですか?」
「さぁ?俺が知るだけでは二日かな」
「えぇ…。それ以上ですか…」
魔法使いって研究職なんだよ。
で、高位の魔法使いって、本当に寝食を削って探求している。いっそオタクといってもいいかもね。魔法オタク。
「先輩、早く結婚しちゃって健康管理してくださいよ」
「こいつは結婚くらいじゃ管理できねぇよ」
「でもそうできるのコナー先輩だけです」
「まぁな」
なにその自信満々の顔!イラっとする。
だったら早くプロポーズしろっての!まったくもぉ!
ソファーではスヤスヤと、時々グーグーといびきをかいているジェイダさん。
大変お疲れのようで。
「じゃあ私は戻ります。後よろしくお願いします」
「ん、助かった。ありがとな」
魔法使いには珍しい、雄々しい熊のような先輩の声には、ちゃんと感謝が感じられた。
ジェイダさんを見る目は優しいし。なんだかんだいって長いつき合いだ。
お二人を残して、私はそっとドアを閉めた。
さて。コナーさんに頼まれた時、一本焼くのも十本焼くのも変わらないと(変わるか)私は大量にパウンドケーキを焼いている。
では次の場所に行きましょうか♪




