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学祭とフロース祭が終わり、本格的な就職活動が始まった。
といっても、私たちは魔法省の人に面接してもらうくらいだ。
魔力や属性でのあれこれや魔法知識なんかは、学校からの成績表でいいらしい。
面接の結果、私とミアとギルは魔法省の本部、宮廷勤務の内定をもらった。
ミアは土魔法で農産物の収穫量を増やしたり、品種改良の研究をしたいという希望があるから、それに向かって突き進んでいくだろう。
ギルはかなりの火力の持ち主だから…、たぶん、攻撃魔法の訓練とか武器の研究なんかに携わっていくんだろうな。
優しい彼の事だから、花火とか、そういう平和な道に進んでほしいけど。
なんて人の事を心配している余裕はなかったよ!
声属性の私は、声で何ができるのか。
ジェイダさんたちの研究材料……?
想像して背筋がゾワゾワしたけど、内示では(やっぱり)ジェイダさんたちの研究の協力と、夜会や園遊会などといった場で歌を歌う事となっていた。
とりあえず平和な使われ方でよかった。
魔法科の他の二人も、宮廷ではないけれど内定をもらったよ!
風魔法のアンは、地元が属する領の魔法省勤務だ。
彼女はずっと故郷に帰りたがっていたからとても喜んでいた。よかったね!
もう一人の火魔法の彼は、国境沿いの砦勤務になった。
本当は騎士になりたかった彼なら魔法剣士になれるだろう。がんばれ!
リアンとウィルは騎士団でも宮廷勤務の内定をもらった。
最初は騎士見習いからだね。
宮廷勤務、一緒に頑張ろう!
騎士科の残りの八人も、騎士団の内定をもらったよ!
宮廷の他、地方の勤務もあって行き先はバラバラだけど、みんな騎士(見習い)になれる。
よかったね!
庶民クラスは全員国に勤められる事になった。
大きな失敗をしなければ安泰の人生が約束された♪
秋になった。
就職の内定はもらっているので、あとは卒業試験に合格するだけだ。
筆記と実技の両方の試験は、もう今週にある。
卒業試験に合格して、ぜひとも家に帰りたい!
毎年、秋の収穫時期だけは外出許可をもらって毎週家に帰っていたのだ。
しっかりウィルも一緒にうちに来る。
実家に帰ってあげなよ。おばあちゃんやパパさんが淋しがってるよ。
さてその卒業試験、筆記試験は全然余裕♪
実技試験は、これは今まで声属性の生徒がいなかったからどう試験すればいいのか先生たちも悩んだっぽい。
そこで登場したのがジェイダさん!
卒業してたった四年、最年少で研究室を持てたという奇才の(さすがここ何十年で一番優秀な代筆頭!)鶴の一声で、私の試験は歌を歌う事になった。
みんなの実技試験が終わった放課後に。
何故放課後か?
試験を担当する以外の先生も、私の歌が聞きたいからという時間設定になったのだ。
喜んで聞いてくださるなら一生懸命歌いますけどね…。
もちろんジェイダさんが何やら測定していたよ。
庶民クラスの何人かは追試を受ける事になっちゃったけど、私とミアとリアンとウィルは一発合格した♪
これで今週末は家に帰れるよ!
嬉しい事に、五年生の今年は収穫が終わるまで家にいられる。
内定をもらって、卒業試験も受かっている私たちは、前世の学校でいうところの自由登校のような時期だからだ。
もちろん普通に学校で研究や鍛錬をする子もいるよ。
貴族の子なら社交や、商家の子なら事業の場に出始める子もいるかもしれない。
さて、家に帰ると仕事の担当がある。家を出る前と同じで、私とミアが家事をして、残りのみんながリンゴの仕事をする。
家庭菜園は畑が小さくなったけど(子供三人がいないからねぇ)細々と続けられている。
ミアはそれも楽しそうに世話しているよ。
うちのリンゴはちょっとずつ時期をずらして収穫できるように品種を変えて植えてある。
おかげで一月弱家にいられた。
だけど大好きな家族との時間はあっという間に過ぎていく。
明日はリンゴを運ぶ最後の日だから、それに合わせて私たちも王都に戻る事になる。
またしばらく帰って来られないからと、夕ご飯の支度が一段落して散歩に出かけた。
ミアに声をかけようとしたけど、何やら真剣に畑の手入れをしているから、まぁいいかと一人で歩き出す。
秋の夕日は落ちるのが早い。
赤く染まった空の下を懐かしく歩く。
ちょっと寒くなってきたかな。羽織るものを持ってくればよかった。
リンゴ園の中を歩いていくとパパたちの姿が見えた。まだ作業中だ。
前日収穫だけど、朝市に間に合わせるにはこれが一番新鮮なんだよね。
「ご飯の支度は出来たよ~。なにか手伝う事ある?」
一応声をかける。
分担してるとはいえ、自分の仕事が終わったら手伝うのは当たり前だ。
「もう終わりにするから大丈夫だよ。なんだサラ、散歩か?自分ちの庭を」
笑いながら返事を帰された。
「うん。明日はもう王都に戻るからさ、ちょっと歩こうかなって」
「ほどほどにしとけよ!」
「うん」
そうして、何となく歩いていくと
おぉ!私が落ちた、お隣さんとの境界線の段差じゃないの!
久しぶりに来たわ。
というか、あれ以来かもしれない。
恐る恐る崖下を覗き込む。
結構高いな!
「わっ!」
なに?!
急に抱えられて驚いて見ると、焦った顔のウィルがいた。
「なに?ウィル、どうした?」
「どうしたはこっちだよ!落ちたらどうする!危ないだろ!」
「あぁ、心配させちゃったか。ごめんごめん大丈夫だよ。ちょっと覗いただけだし、一度落ちてるから用心してるよ」
「落ちてるって何それ!どういう事!」
回されているウィルの腕をタップしてほどいてもらうと、私は小さい頃に姉弟で遊んでいて過って落ちた事を話す。
「あの時も高いと思ったけど、今見ても高いねぇ」
「そりゃサラの身長よりあるからな…」
ウィルが脱力して言った。
「ちなみにウィルなら、ここから飛び降りられる?」
「全然いけるし。リアンもいけるよ。今ならミアもいけるかもな」
「え、ミアも?じゃあ私も?」
「サラはいかないだろ?」
私はまた崖下を覗いてみる。
「うん、いかないね。でもウィルが余裕ならちょっと見てみたい。もしかして、下からここまでも飛び上がれるの?」
「余裕♪」
「わぁ!見せて見せて♪」
ウィルは余裕の笑みで、ひょいっと飛び降りた。
わぉ!
「足大丈夫~?」
「大丈夫って聞かれる意味がわからないくらい大丈夫!」
「じゃあ戻って来て~!」
ウィルは助走なしで一度沈み込むと、その勢いで本当に二メートルを飛び上がって来た!
すご~い!私は手を叩いて称えた!
「すごいすごい!!さすが獣人さん!ウィルカッコいいよ!!」
「サラだって獣人だし」
「そうだけど、私はほら、運動はいまいちだから」
ヘラッと笑ってみる。
ウィルも、そうだなって笑った。
「ずいぶん暗くなっちゃったね。ウィル迎えに来てくれたんでしょ?戻ってご飯にしよう♪」
「うん、まぁ、迎えに来たんだけど…、あのさ、サラ」
「ん?なに?」
ウィルは言いかけて口ごもった。
私は黙って待つ。なんだろ?何か言い辛い事かな?
「もう、春になったら俺たち就職するだろ?」
「うん?」
「そしたら今までみたいに一緒にはいられなくなるよな?」
「うん、同じ宮廷勤務とはいえ私とミアは魔法省でウィルとリアンは騎士団だもんね。寮も離れてるのかなぁ?」
なによぉウィル君ったら♪淋しいのかな?
身体は大きくなったけどまだまだ可愛いじゃないの♪
私がニヤニヤしてると、ウィルはちょっとムッとした顔になる。
そういうとこも可愛いってなるのにね!
わかってないなぁ♪
「その笑いやめて。サラに言いたい事があるんだ」
「なに?」
ウィルの真剣な声に、私もニヤニヤを止めて真面目に聞き返す。
「今までのように毎日会えなくなると思う。働き始めた最初の頃は覚える事もたくさんあるだろうし、お互い忙しくなると思う。しばらく会えない、なんて事もあるかもしれない」
そうだよね。きっとそうなるだろうなぁ。
私は、うんと頷いた。
「サラは優しいし可愛いから、すぐにたくさんの男から交際を申し込まれると思う!そうなったら俺、心配で仕事が手につかないと思う!俺の方がずっと前からサラを好きだし、俺の方が誰よりもサラを好きなのに!」
ええぇぇ!!!!
「好きってウィル……。
今の話の流れ的に、その好きは恋愛的な意味合いなんだけど?」
「恋愛的な好きなの!」
「そんな素振り全然なかったじゃん!」
「だってサラ、俺の事弟としてしか見てなかっただろ? ……その、今だって」
まぁね。私は黙って頷いた。
「そんなのわかってて言えないだろー!本当は卒業するまでに意識させるくらいにはなりたかったけど、ダメそうだからもう言った!
サラ、今すぐ結婚してくれとは言わない、けど、他の誰かのものにならないで。一度でいいから、俺をちゃんと男として見て、考えてほしい」
おおぉぉ…… ん?
「今すぐ結婚とかって聞こえたけど? それって後で結婚したいって事?
あれ?まさかのプロポーズ込み?!」
「え、そこ? ……結婚出来たら嬉しいけど。
まずはつき合うというか…、 恋、人になる、というか…、
あぁ!その前に!まず俺を弟じゃなく男として意識して!」
薄暗くてもわかるほど真っ赤になっている、ずっと弟だと思っていた男の子。
そんな事いったって…。
君、この秋でやっと十四歳じゃん。
十四歳って中二じゃん。
中学生に男は感じないよ…。
だけどママさんとの約束を思う。
あの時、ウィルが一番幸せになれるよう精一杯手助けしようと誓ったんだ。
「そうしたらウィルは幸せ?」
「っ!!!! 死ぬほど幸せ!」
物騒だな。両極端だし。
ふむ…。
私は忙しく考えた。
ウィルは気心が知れてるし、一緒にいて楽だ。
お互いの事もよくわかっていて、今更カッコつける事も見栄を張る事もない。
見慣れちゃってるけど、顔はいいし逞しい。
性格もいい。好きな子には尽くすタイプだと思う。実はウィルのお嫁さんになる子は幸せだなぁと思った事がある。
騎士の内定をもらっているから食いっぱぐれる心配もないだろう。職務上ケガや、病気で働けなくなっても私も国家公務員?だ。子供がいても何とか食べていけるだろう。
ウィルとキスや、それ以上の事もできる…、と思う。まぁ嫌悪はない。
「総合的に考えて、OK♪ でも結婚は仕事に慣れてからね。就職したてのド新人がいきなり結婚なんて舐めてるって思われるからね」
「いや、総合的って、何の?!
というか、えっと、サラ、俺の事男としてまだ見てないだろ?俺、ちゃんと好きになってもらいたいんだけど。一生弟のように思われながら暮らすのは嫌だよ」
わがままだなぁ。
でもまぁそうか。私だって義理や同情でつき合ってもらっても嫌だもんね。
好きな人なら尚更に。それは幸せじゃないし。
「じゃあウィル、とりあえず婚約しようか。
婚約したら安心でしょ? それで三年は仕事もがんばろう。その間に私をその気にさせてよ。素敵な男の人になってドキドキさせてね♪」
そう言うと、ウィルはもう声もなく真っ赤な顔のままコクコク頷いた。
こうして弟のように思っていた男の子は婚約者になった。
どっちにしても大事な人だという事は変わらないからいいのだ♪




