血脈を守る者-7-
カーマ王都の議事堂は、王城前のアロマイユ公園を挟んで対面した場所にある。古くは宮殿として使われていた建物で、何度も増改築の行われた建築史のキメラだ。
午前の開会時間に合わせ、何台もの馬車が列を成していた。赤狼師団の警備兵たちが等間隔に並び、部外者の立ち入りを禁じている。
査問会の出席者は国王と王妃、宰相、評議会の各会長、各師団の代表と各大臣、そして二十一王家の代表または代理人だ。それが最低限というだけで、評議会議員であれば傍聴が許されていた。当然、剣聖は王の隣に立っている。
ヴァリアンテは囁きの谷で得た成果を、昨日のうちに密談メンバーに伝えていた。情報の活用法は各自に一任している。己に課せられた使命は、ヴァマカーラ姫を無事に議事堂へ連れ、無事に送り帰すことだ。
カーシュラードは黒羆師団側の関係者として、連隊長と共に座ることを求められていると聞いた。本来部隊長クラスが参加することはないが、処刑場で罪人に忠誠を誓ったという件で、槍玉に挙げたい一派でもいるのだろう。師団としても、責任を押しつけたいというもくろみが見え見えだ。
誤解を生むような発言は慎むように伝えたけれど、果たしてあの末弟がどう動くのか、こればかりは予測ができない。彼は激昂することはないが、怒るときは淡々と切れる。けれど、いつまでも心配してばかりはいられない。
ヴァリアンテは懐中時計を確認した。そろそろ査問会が開会される頃だ。
ヴァリアンテは議事堂ではなく、王城の魔術転送門が設置された部屋で待機していた。囁きの谷からヴァマカーラが移動してくるのだ。予定では、ダークエルフの護衛が二名つくことになっている。
移動を査問会の開会時間近くに設定したのは、議事堂の方に警戒が移るので、王城内の警備が手薄になるからだ。剣聖の許可を得て転送門を使用していても、ヴァマカーラ姫の姿を見ただけである程度の騒ぎは避けられない。その騒ぎを少しでも減らし、かつ、査問会議に参加しているメンバーに不意打ちを与えるためだ。
正式に親衛隊として認められたわけではないので、隊服は与えられていない。指南役の葡萄色の制服は限られた者しか纏うことができないが、威圧を与えるには質素すぎる。それでも、金剛位を示す指輪とふた振りの魔剣は、ヴァリアンテが強力な剣士であることを示していた。
床石に描かれた方陣が淡く輝いた。空気が凜と啼き、光が消えると、ダークエルフを従えたヴァマカーラ姫の魔力を感じた。ヴァリアンテは跪いて彼女たちの出現を待った。
「お待ちしておりました」
「時間は大丈夫かしら?」
「問題ありません」
緊張を孕んだ可憐な声音を聞いて、安心させようと微笑みを浮かべて顔を上げる。そして、言葉を詰まらせた。
「殿下、そのお召し物は……」
ヴァマカーラが王城で身に纏っていたドレスは、高価な絹やレースをあしらった可愛らしいものだった。ふわふわと甘い綿菓子のような印象を受けていたけれど、今の姿はかけ離れている。
黒革とレースを重ね、高い襟のジャケットが一体化したマーメイド型のドレスは、身体の線があらわになるものだ。膝下から広がった布の動きは優雅で美しい。露出は少なくとも胸元の霊印だけはさらけ出し、魔力の高さを見せつけていた。ドレスなのに戦闘服を思わせる。
「ダークエルフが用意してくれたの。とても動きやすいのだけれど、寒そうに見えて? 似合っていないかしら」
「いいえ、よくお似合いです」
「ありがとう」
ヴァマカーラは、編み込んだ長髪を揺らしながら頬を染めた。彼女の後ろに立つダークエルフの男女もどこか誇らしげだった。彼らはそろいの戦闘服で、それぞれに弓と剣を帯びている。
「そうだわ。ねぇ、ヴァリアンテ、これをつけてくださる?」
姫の目配せに、ダークエルフのひとりが黒絹を取りだしてヴァリアンテに渡した。畳まれたそれを拡げると、朱殷の糸でマルシュヴァリーリ公の紋章が刺繍されたサッシュだった。
ああ、これがあれば、親衛隊の隊服がなくとも誰の臣下であるのか一目瞭然だ。
「ありがとうございます……!」
感極まったヴァリアンテは、サッシュをたすき掛けにして、騎士の最高礼でもって感謝を伝えた。
「あなたを待たせてしまうことになるけれど、公式の場では私の親衛隊として立ってくださると嬉しいわ」
「喜んで、殿下」
ヴァリアンテはヴァマカーラ姫をエスコートするために片手を差し出した。
「殿下がお役目を果たせるよう、誠心誠意お守りします」
転送門から馬車を待たせた場所までは、どうしたってひと目を避けることはできない。すれ違うメイドが小さな悲鳴を上げ、従僕は固まって足を止める。呼び止めようとする近衛兵を、ヴァリアンテは視線ひとつで黙らせた。
普段は自然と抑えている魔力と剣士としての威圧を解き放ち牽制する。
「見事なものだ、犠姫の子よ」
ダークエルフが喉を鳴らして笑った。
議事堂を警備していた赤狼師団の兵士たちも黙らせて、まずは貴賓室へと進む。会場は円形で席は階段状に配置されていた。国王のバルコニーは議長の背後で、貴賓室からでなければ出られない。
入り口に立つ警備兵は盛大に狼狽えていたが、継承第一位王太子を相手に武器を突きつけることはできなかった。
「ヴァマカーラ殿下!?」
王妃の侍女や王の側仕えが慌てふためくのを、ヴァマカーラ本人が手をかざしてなだめる。ヴァリアンテは姫を待たせ、バルコニーの扉をノックした。そこに剣聖がいることはわかっている。扉の隙間から、見知った甲冑がのぞいた。
「ヴァリアンテです。どこまで進みました?」
「……冤罪だという証拠は全て開示され、レグナヴィーダ殿下が何者かという段だ」
イラーブルブの囁くような声が返る。すぐ近くのヴァマカーラにも聞こえたのか。彼女は両手を握りしめた。
「では、当のレグナヴィーダ殿下はどこにおられるのだ」
「当人が逃げているのでは話にならないではないか。魔神の再来というのなら、証明していただこう」
わずかに開いた扉の隙間から、緊張と熱気と怒鳴り声が飛び込んでくる。
「ちょうどいいわね。出るわ、ヴァリアンテ」
「様子をみなくてもよろしいのですか?」
「奇襲は早さが大事なのだと教わったの。大丈夫よ。きっと、やれるわ」
己の決意を確かめるようにうなずくヴァマカーラは、使命に燃え、美しかった。
ヴァリアンテは扉を押さえ、王女の進む道を開いた。騒然とする議場が、突然現れたヴァマカーラの姿に静まる。人々の注目を浴びながら、彼女は胸を張って一歩一歩力強く歩いた。ヒールの音が議事堂内にこだまする。
「我ら魔神の血を継ぎしカーマの民が、『紅蓮の魔神』に証明を求めるなど笑止」
ヴァマカーラの声は会場に響いた。常とは違う姿に困惑する者もいたが、声に籠もる魔力から、彼女が正真正銘の継承第一位王太子であると悟った。別人だと言おうものなら、己の無知さと能力の低さをさらけ出すことになる。
王女の背後には、剣聖に比類するヴァリアンテが佇み、さらにダークエルフを従えることで事の重大さを示していた。
「お兄様、妃殿下、ご心配をおかけしております。カーマの神祖たる『紅蓮の魔神』の代弁をしにまいりました」
ヴァマカーラは膝を曲げて国王にお辞儀をした。制止を阻むように、琥珀色の瞳が冷たく光っている。国王クーヴェルトは妹の変わりように眉の皺を深めるだけで、言葉を返すことはなかった。
「わたくしは継承第一位王太子、王女ヴァマカーラ・エルヴェス・ヘラ・マルシュヴァリーリ=カルマヴィア。魔神と共に歩む者。わたくしは、彼の代わりに語ることを許され、この場に遣わされた。わたくしの言葉は、魔神の言葉である」
静けさから一転して、ざわめきが議場を満たした。姫は誘拐されたのでは? なぜ、どうやって、この場に? あの者たちは誰だ。さざ波のように困惑と驚愕が広がり、議長は呆然とバルコニーを仰ぎ見ていた。
「議長、発言の許可を」
剣聖が朗々と告げた。壮年の議長は国王へ視線を向けるが、彼が唇を引き結んでいることを確認して生唾を飲み込む。会場内を静まらせるために、小槌を打ちつけた。
「継承第一位王太子マルシュヴァリーリ公ヴァマカーラ殿下の発言を認める。静粛に」
議場が静まりかえり、参加者の視線が全てヴァマカーラにそそがれる。姫は小さく深呼吸をして、腹の前で両手を握った。
「継承権二位、レグナヴィーダ・オヴェディタ・カイレーク・ルクレヴァウス=カルマヴィア殿下は、カーマ王国建国の神祖である『紅蓮の魔神』として復活し、顕現されました。彼を詐欺師とお疑いの皆様の疑念は、そのままわたくしや剣聖、および国王陛下への疑念になることをお忘れなきよう。わたくしが、この魔の目で見たのです。そして、王家に連綿と流れる魔神の血が、彼こそが主たる者だと告げるのです。彼は伝承どおりの容姿を持ち、その魔は測ることもできず、彼の本性は魔界に通じている」
ヴァマカーラは一度言葉を切り、唇を湿らせた。
「彼は受肉したときより魔神でした。四半世紀、我々人間を観察していたのです。害になるほど強い魔力を抑え、幽閉に甘んじ、ネディエール公の仕打ちを受け入れておりました。彼にかけられた罪は晴らされたこと、嬉しく思います。真実を暴いてくださった赤狼師団の方や協力者様には、わたくしから感謝をお伝えします」
美しい微笑みの目礼に、赤い軍服を纏う数人が頭を下げて感謝を受けた。
「魔神は処刑場の一件を憂いております。ネディエール公ニーガスを殺害したことは『紅蓮の魔神』の権利であり、彼も認めるところですが、そもそもネディエール公は冤罪と知っていて魔神を屠ろうとしたのです。神祖たる魔神が粛正をすることに、我々魔神の民が何を言えるでしょう」
法治国家ならば異を唱えるべきだが、それを唱えられないのがカーマという国の特徴だ。『紅蓮の魔神』とは国王ですら従う法の外にいる存在だ。
「法は民に、人間に適用されるもの。魔神は人にあらず。彼は神話の再来。魔の王。本来なら、二十五年の幽閉の責を国民全員で負わねばならない。けれど魔神は、我々カーマの民に何も求めることはありません。そして、我らを支配することもないのです。国と民を護るのならば、すでに力を持つ者たちがいる、と」
誰もが、魔神が復活したのならばカーマ王国を統治するものと思っていた。漠然とした感覚だったが、それを真っ向から否定されるとは考えもしなかった。
「兄王よ。あなたはネディエール公に騙されておいでだったのです。レグナヴィーダ様の存在を、このわたくしですら存じておりませんでした。凶状持ちで手のつけられない魔を秘めた息子が犯した罪を、王族として、すぐにでも汚名を雪がなければならない。そう突きつけられて、国璽を許すしかなかった。そうでしょう?」
「……いかにも」
「そう。それが真実です。悲しい真実なのです」
傍聴者が狼狽えているあいだに、ヴァマカーラは国王の問題を片付けてしまった。誰も口を挟むことはできなかった。彼女は続ける。
「我らの『紅蓮の魔神』は、ネディエール公への報復に巻き込まれた者を悼んでおります。いかな魔神とはいえ死者を呼び戻すことはできない。せめてもの償いに、彼はレグナヴィーダ殿下として与えられていた王位と、資産の全てを返上いたします。事実上、ルクレヴァウス公家は断絶になるでしょう」
再び議場内が騒然とした。正統王家の王族がその位を捨てて市井に下るなど前代未聞だ。狙いどおりに事が運んで、ヴァマカーラは内心安堵していた。
「レグナヴィーダ殿下が受け継いでいるのは、故サヴィトリーニ王女とネディエール公の個人資産、そしてルクレヴァウス公に付随する資産。それら全てを国庫へ返還し、犠牲者への慰謝料とすることを求めております。金銭でご遺族の心が癒えるとは思っておりませんが、わずかなりとも慈悲が届くことを祈ります。これが全てです。査問会はこれ以上、何を望むのです」
「レグナヴィーダは私の愚かさを責めはしないという。魔神の慈悲は、私にも与えられたのだ。彼の者の決定を、国を預かる者として尊重しよう」
ヴァマカーラの言葉を、今まで静観していた国王クーヴェルトが継いだ。まさか国王自ら非を認めるような発言がでるとは思わず面食らったが、王女は気丈にも表情には出さなかった。
査問会の参加者たちは黙り込んだ。国王までも認めてしまえば、レグナヴィーダを糾弾することはできない。主犯とおぼしき者はすでに死亡している。二十一の王家は下手に藪をつつきたくはない。
ネディエール公ニーガスの扱いを議論するのは、また別の場になるだろう。今回の査問会は、あくまでもレグナヴィーダの扱いについてだ。あらゆる真実が明かされたいま、査問会の意義すらあやふやになる。
「わたくしは、次世代を担うカルマヴィアとして、このカーマに尽くすため、『紅蓮の魔神』の元で学びを得ます。まさか、誘拐だなどと信じてはおりませんわね?」
ヴァマカーラの発言に、顔を伏せる者が数人いた。彼らが今後どうなるかはわからないが、できれば姫が戻るまでには国政の場から姿が消えていればと、ヴァリアンテは冷酷な思いで彼らの顔を覚えおいた。
「それでは、お兄様、皆様――」
ごきげんよう、と続けようとした王女の言葉を遮るように、勢いよく議場の扉が開かれた。黒い軍服の兵が、肩を上下させている。
何事かとざわめくなか、兵は黒羆師団の代理代表のもとへ急ぎ、耳打ちをした。代理人の顔色が瞬時に変わり、カーシュラードを含めた彼らが殺気立つ。
誰もが何事かと訝しんでいると、椅子を倒す勢いで代理代表が立ち上がった。
「議長、休廷の進言を申し上げる」
「理由を述べよ」
「オベロアン州国境で、ミネディエンス側からの攻撃を受けた。国旗及び神聖騎士団の紋章旗は掲げられていないが、まさか無関係ではあるまい。現在、黒羆師団の駐留兵が応戦中だ」
議員の何人かが悪態と罵声を叫ぶ中、オベロアン家代表は椅子を蹴倒した。国王と剣聖は眉をひそめ、ヴァマカーラ姫はヴァリアンテの顔をのぞき見る。彼女の姿を背中に隠し、けれど騎士は議場の流れを追うため様子を窺った。
「今回の件で駐留軍の一部を王都へ移動させていたのだが、国境防衛へ送り返すことになるだろう。緊急を要するため、書面での報告は後手に回るが」
「そもそも今の黒羆に使える兵はいるのかい?」
赤狼師団のオクサイド師団長が飄々と野次を投げた。黒羆師団の面々は激昂で返すかと思われたが、誰もがうんざりとした顔をするだけだ。黒羆師団の代表は代理も代理だ。輜重科の連隊長であって、全軍指揮の経験もなければ野望もない。けれど図星にいちいち反応しないという分別はある。
だが、ただの野次ではないと受け取ったのは魔梟師団の席に座っていたM3だ。裏があると目ざとく気づき、にやりと唇をつり上げる。
M3は魔具を机に打ちつけて注目を集め、人を食った笑みを隠しもせずに非戦闘員たちを睥睨した。
「王よ、カーシュラード・クセルクスを貸せ。黒羆がこれ以上疲弊すれば大事だろうが、軍事力を見せつけなくてどうする。奴の部隊をオベロアンへ回すんだ。バックアップに魔梟の戦魔導師をつけてやろう」
自国の王へ向ける不遜な物言いに、宰相や大臣たちがいきり立つ。
「口が過ぎるぞ!!」
「軍人風情が不敬である!」
「なぜクセルクスを優遇するのか! 奴は冤罪が証される前に、陛下に誓っていたはずの忠誠を乗り換えた男だぞ!」
「それこそ魔神が追い払えばいいのではないか!?」
勝手に擁護されるのもそれはそれでよしとしないのか、クーヴェルト国王が肘掛けに肘をついて長嘆した。剣聖を近くに呼んで二言三言告げている。
「……殿下、どういたしますか。この隙に戻ることもできますが」
「カーマが攻撃されたのです。方針が決まるまで見ているわ」
御意を伝え、ヴァリアンテは王女と並んで議場の動きを注視した。カーシュラードの名前が出たことが気がかりだが、心配しすぎるのも弟を侮辱することになる。彼を信じよう。
「黙れ化石ども!」
議長の小槌のように杖で静粛を強請するM3は、罵声に劣らぬ声色で吠えた。
「二十五年監禁したあげく王位まで捨てさせた魔神に国を守れだと? どの口でそんな図々しいことが言えるんだ。お前らが怯えてたのはレグナヴィーダに王権をぶんどられることだろう。侵略を恐れねばならん相手は魔神か? 倒すべき敵は、我らを、この血を滅ぼそうとする奴らだ」
顔面の霊印と莫大な魔力を見せつけ、力ある者の傲慢さを隠しもせず、M3が議員たちを挑発する。
「それにな、もしクセルクスの坊やが戦死したら、お前らの思惑どおりじゃねぇか。金剛位持ちで真っ先に魔神に忠誠を誓った混血王族の軍人が邪魔だって、誰だかが言ってたよなぁ? どうだ? 気が晴れるぞ」
これにはさすがのヴァリアンテも静かにキレた。ヴァマカーラ姫の守護者としてバルコニーに立っているので顔には出さないが、無意識に剣の柄へ指がかかる。M3に対しての怒りもあるが、誹謗をしていた者へのやり場のない憤りもわいてくる。
けれど、ヴァリアンテの怒りに対して、クセルクス家代表として参加している長子のカレンツィードは苦笑を浮かべるだけだし、当のカーシュラードに至っては呆れを通り越して無表情だった。怒るのも馬鹿馬鹿しいという態度は、家柄の強さと実力の表れだ。
しかし、正しく理解していない面々は皆、M3の発言に唖然としていた。いくら二十一王家でも特に上位に位置づけられるマクミラン家の代表とはいえ、彼は一介の軍人だ。実際王家側ではなく師団側の席に座っている。年長者への敬意も地位を敬うこともなく、M3はこの場の誰より尊大で悪辣だった。
「埒があかんな。剣聖イラーブルブ・ゼフォン、王国軍総帥として命じてくれ」
「……いいだけ泥をぬりおって」
「腹にためてたもんを代弁してやったんだ。出せる膿は出しちまった方が後のためになる。マクミランの俺くらいにならないとできないだろう? 俺は戦争屋だが、為政者でもあるからな。民を一番に考えている」
ふんぞり返る若者に、この場の誰もが言い返すことすらできなかった。それが答えだ。
「皆よ、ヴァマカーラの訴えを思い出してもらおう。議長、査問会の一時休廷を。剣聖には防衛の全てを任せる」
国王の言葉に議長が小槌を振り上げたが、振り下ろす前に剣聖が口を挟んだ。
「カーシュラード・クセルクス。異議はあるか」
まるで眠れる獅子のような静謐さを保っていたカーシュラードは立ち上がり、左手を胸の前に掲げてわずかに腰を折った。金剛の指輪が光り、右手には特異な魔刀を握っている。武器の携帯が禁止されたこの場において、佩刀を許される意味を思い出せと、漆黒の瞳が静かに語っていた。
「ご命令、喜んで拝命いたします。カーマ人の血と誇りにかけて、我らが敵を討ち砕いてまいりましょう」
張り詰めた議場に響く声は、落ち着いた自信にあふれていた。浮ついた気配は微塵も感じられず、反対勢力を黙らせるだけの重みがある。
そしてようやく、議長が休廷の小槌を打った。




