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雷鳴士、世界を救う  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第2章 オイルリグ

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第56話 仲介人

「ねぇ? アリサと何かあったの?」


 アリサとシルバが戦闘している最中、カオリが俺の隣にすっと立つ。


「何かって?」


「なんか、ギスギスしてない? 喧嘩でもしたのかなって」


 カオリが小声で尋ねる。心なしか、探るような目をしていた。


「そんなことはない。いつも通りだよ」


 俺としては、別に喧嘩したつもりはない。

 けれど、カオリの言う通り、どこか微妙な空気が流れているのは自覚していた。


 アリサが今、何を考えているのか、まったく分からない。

 俺が何か地雷でも踏んだのか?


 そんなモヤモヤを抱えながら、連携の取れていないアリサとシルバの戦闘を見つめる。


「アリサ! 攻撃を受けそうになったら下がれ!」

「分かってる! タイミングを教えて!」


 シルバの指示になんとか応えようとするアリサ。

 だが、指示がざっくりしすぎていて、どう動けばいいのか分からず混乱しているのが伝わってくる。


 もう少し具体的に指示を出せば、スムーズに連携できるかもしれない。


 それに、アリサの立ち位置にも気になる点がある。

 もっと近くで動けば、お互いの呼吸や意図が伝わりやすいはずだ。


 ――それにしても、アリサの様子がどこかおかしい。

 戦闘に集中しきれていない。もしかしたら、俺たちに見られているのが気になっているのか?

 戦闘中にもかかわらず、何度か俺と目が合うのだ。



「シルバはもっと具体的に指示を出せ。アリサは、もう少し立ち位置を意識した方がいい」


 戦闘を終えた二人にフィードバックを送る。


「そうだな……指示の出し方が雑だったかもしれない。気を付ける」

「私も……シルバさんがヘイト管理しやすいように、距離を意識しなきゃ」


 それぞれに課題を認識しているものの、一朝一夕で解決するわけではない。

 何度も試行錯誤を繰り返しながら、連携を模索していくしかなかった。



 そんな二人が頭を悩ませている間、俺とカオリの連携は着実に精度を増していく。


「カオリ! 右の魔物をぶちのめしたら《ヒール》で自分のHPを回復しろ!」

「しゃあ!」


 カオリのメリケンサックが魔物のこめかみにめり込み、激しいダメージエフェクトとともに魔物が霧散する。

 すると、彼女は勝ち誇るように手を天に掲げ、即座に詠唱する。


「《ヒール》!」


 バーサーカーモードのカオリは、いきなり回復魔法を唱えることは難しい。

 だが、「魔物を倒す」という報酬を提示すれば、それに応えるように下がったり、回復魔法も唱えてくれるようになってきた。


「このまま殲滅するぞ!」

「よっしゃぁぁぁあああ!!!」


 両拳を天に突き上げながら、カオリが吼える。

 俺がHPを削っておいた魔物たちに向かって、彼女は無敵の勢いで突撃をかける。

 カオリに向かう攻撃はすべて俺が引き受け、彼女には自由に暴れてもらう。


「ナイスだ! カオリ!」

「あー、スッキリした!」


 魔物たちを完全に殲滅した後、カオリとハイタッチを交わし、お互いの健闘を称え合う。



「日を追うごとに、連携が取れてきたな」


 俺とカオリの戦闘を見守っていたシルバが、手を叩きながら褒めの言葉を投げかけてきた。


「連携というよりかは、ユウ君の手のひらで転がされているだけなんだけどね」


 カオリがふふっと笑いながら、少し照れたように言った。


「私的には無我夢中。でもやっぱり楽しい」


 その言葉からは、戦闘の緊張感と、仲間と一緒に戦う楽しさが伝わってくる。


 最近のカオリは、素の状態――つまり通常モードでも、感情がしっかりと伝わってくるようになった。

 少し前までは何を考えているのかさっぱり分からなかったが、今ではその変化がとても大きな進歩だと感じる。


 だが、そんな中でアリサの様子だけが冴えない。

 どこか不機嫌そうに、視線をそらしている。


「どうした? 何かあったのか?」


 アリサの隣に腰をかけ、問いかける。


「別に……」


 彼女はそれだけ言うと、すっと立ち上がり、俺を避けるように別の場所へ移動してしまった。


 な、なんなんだよ……一体。


 と、そこにカオリがニヤニヤしながら近づいてくる。


「ふーん……そういうことね」


「そういうことって――」


 俺が言い切る前に、カオリは隣に腰を下ろし、囁くような声で続ける。


「アリサの機嫌、治してあげようか?」


「えっ――?」


 カオリは、アリサの機嫌が悪い理由が分かるのか?

 もしかして、これが女の勘ってやつか……?


「でも、その代わり、条件があるの」


「条件?」


「そう、一つ目は定期的に私を迷宮に連れて行ってほしいの」


「それくらいなら、まぁ……」


「そして、もう一つが……」


 カオリはそこで言葉を止め、俺に手招きをして耳を貸せとジェスチャーする。


 仕方なく耳を傾けると、彼女がそっと顔を寄せる。

 同時に、ふわりとホワイトムスクの甘い香りが鼻をくすぐった。


 そして、カオリの口から出た言葉は、予想の斜め上をいくものだった。


「……俺とカオリが?」


 思わず聞き返すと、カオリはあきれたようにため息をつく。


「はぁ……? んなわけないじゃん。ユウ君とアリサがよ。ユウ君がどうしてもって言うのであれば考えないでもないけど」


 なんだそりゃ……マジで女の考えることはよく分からん。


「別にいいけど……」


 俺の返事に満足したのか、カオリは満足げに笑い、軽やかに立ち上がる。


「じゃあ、アリサちゃんのところに行ってきま~す♡」


 頼りない後ろ姿を見送ることしかできない俺。

 カオリはそっぽを向いているアリサにリズムよく歩み寄ると、その手を取り、俺の視界から消えるように迷宮の通路の奥へと姿を消した。


「……どうしたんだ?」


 何も知らないシルバが、不思議そうに問いかけてくる。


「ええ……ちょっと、いろいろありまして……」


 曖昧に答えながらも、俺自身、カオリが何をしようとしているのか、いまいち掴みきれていなかった。


「そうか……一つだけ確認しておきたいことがあるけどいいか?」


 シルバの表情は真剣そのもの。


「はい。構いませんよ」


「ユウトはアリサのことが好きってことでいいんだよな?」


「……はい」


 彼はそれ以上のことを訊いてはこなかった。ただ、納得したように静かに頷くだけだった。



 ――そして、二人が姿を消してから三十分後。


 バツの悪そうな表情を浮かべたアリサが戻ってくる。その後ろから、満面の笑みを浮かべたカオリが上機嫌に歩いてきた。


「はいはいは~い! ユウ君に質問がありま~す♡」


 なぜかアイドルモードのカオリ。


「なんだ?」


「えっとぉ。ユウ君はずっとアリサちゃんの後ろで戦うつもりですかぁ?」


「いや、そんなことはない。俺はアリサの隣で戦う」


 まっすぐアリサに視線を向けると、彼女はわずかに肩をすくめ、視線をそらした。

 だが、さっきまでのような素っ気なさではなく、どこか気恥ずかしさを含んだ仕草だった。


「じゃあ、アリサちゃんとおじ様の連携というよりも、ユウ君とアリサちゃんの二人とおじ様の練度を訓練した方がいいと思いませんかぁ? ユウ君とアリサちゃんの息はぴったり。二人で一人みたいなところもありますしぃ」


「まぁやぶさかではないけど、それが――」


 俺の言葉を、カオリの溌溂とした声がかき消した。


「よしっ! じゃあ決まり! これからはユウ君とアリサちゃんの二人とおじ様の連携を強化する訓練をしま~す!  私は最後の美味しいところをもらう係ってことで!」


 まるでゲームのルールを決めるかのように、勝手に話を進めるカオリ。


 訓練の一環だと思っていたが、これがアリサの機嫌を直す方法だったとは、まったく予想もしていなかった。

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