第57話 阿吽之呼吸
「アリサ、シルバとの連携は考えなくていい。いつも通り、俺との連携だけを意識してくれ」
そう伝えると、アリサは少し戸惑ったように眉をひそめた。
「え!? ……分かったわ。でも、そもそもユウトとの連携を意識したことなんてないのだけれど」
それはそうだ。
俺たちの連携は、苦労して身につけたものではない。
気づけば自然とできるようになっていた。だから、意識する必要がなかったのだ。
だが、シルバとの連携は違う。
本来なら、アリサが彼との距離感を測り、連携を深めるべき。
それなのに、俺が「考えるな」と言ったのには理由がある。
――俺がシルバとの連携を取れば、自然とアリサもそれに馴染むのではないか?
俺とアリサの息はすでに完璧だ。
ならば、その俺がシルバとの距離感や動きを調整すれば、アリサも無意識にそれについていけるはずだと考えたからだ。
いわば、俺を介した三人の連携――それが、俺が出した答えだ。
まぁカオリに思考を誘導された結果なのだが。
十二層の部屋に入ると、いつもの魔物が待ち構えていた。
相手はモストード――巨大な蛙の魔物が十体。
さらに、泥まみれの鎌を持つフェンリーパーが十体。
骸骨のように痩せこけたその体は不気味に歪み、どこか人間じみた動きを見せる。
「行くぞ!」
俺の声に最初に反応したのはアリサだった。
アリサが一歩踏み出した瞬間、俺はすでに詠唱を開始している。
彼女の剣が煌めき、一直線にフェンリーパーの肩口を裂く。
刃が抜けると同時に、俺の《ウィンド》が穿ち、その骨を粉々に砕いた。
互いに視線を交わすこともなく、次のターゲットに移る。
アリサの動線を先読みしながら、俺は《シルフィード》を付与。
彼女に風の魔力が集まり、湿地帯フィールド特有の敏捷値半減の効果を軽減させる。
フェンリーパーの鎌が迫るが、アリサは寸前で回避し、返す刃で逆に鎌を弾く。
俺もそこに《ファイア》、《ウォーター》と魔法を重ね、アリサがターゲットとするフェンリーパーを焼き払い、水流が呑み込む。
さらに追撃をしようとしたところに、モストードが大きな口を開ける。
奴は敵が射程に入ると酸を吐き出す。
いつもなら、多少のダメージは気にせず前に出るところだが――
今日の目的はシルバとの連携。
俺が意識的に後退すると、アリサもそれに合わせるように攻撃の手を緩める。
まるで約束された動きのように、俺たちは背中合わせになり、お互いの死角を補い合う。
モストードが酸攻撃の射程に捉えたときには、俺たちはすでにシルバの近くまで退避していた。
「シルバ! 頼んだぞ!」
シルバが大盾を構え、その巨体をすっぽりと覆う。
次の瞬間、モストードの酸が降り注ぐが、盾の前で霧散し、地面に無力な水滴となって弾けた。
――狙い通りだ。
律儀にも、酸を吐き出したモストードたちは、硬直を見せる。
ゲームならではの隙。
「今のうちに!」
声を掛けるまでもなく、アリサはすでに動き出していた。
疾風のようにフェンリーパーへと駆け込み、迷いなく剣を振り下ろす。
俺もその流れに乗り、追撃をかける。
距離に応じて最適な攻撃を選ぶ――近ければ剣で、遠ければ魔法で。
アリサの太刀筋が残したダメージエフェクトの軌跡をなぞるように、俺は剣を振るう。
フェンリーパーが鎌を振り上げた瞬間、その隙を逃さず、一閃。
斬撃が骨の接合部を正確に捉え、フェンリーパーは真っ二つに裂けて崩れ去る。
別のフェンリーパーの鎌が唸りを上げる。
だが、アリサはそれを紙一重で躱し、狙いすました一撃を叩き込む。
システム的な硬直に捕らわれたフェンリーパー。
反撃がこないと分かると、彼女は躊躇うことなく止めを刺す。
俺の援護がないと判断したとき、アリサはより慎重に、確実に一体ずつ仕留める動きへと切り替える。
――そして、あっという間に骸骨の魔物を葬り去った。
残るは、巨大なモストードのみ。
HPも十分に削ったところで――
この戦いの締めを飾る者の出番だ。
愉悦の笑みを浮かべながら、カオリが己の両拳を突き合わせる。
「よっしゃぁぁぁあああ!!!」
爆発的な勢いでモストードの巨体へと突っ込むと、全身のバネを活かして渾身の一撃を叩き込む。
鈍い衝撃音とともに、モストードがぐらりと傾き――次の瞬間、光の粒となって消え去った。
すべての魔物を討伐した瞬間、カオリの雄たけびが部屋中に響き渡る。
「っしゃあぁぁぁ!! やったったー!!!」
その勢いのまま、彼女は俺たちの前に駆け寄り、次々にハイタッチを交わしていく。
アリサ、シルバ、そして俺。
カオリの熱気がそのまま俺たちにも伝播する。
興奮冷めやらぬまま、シルバがアリサと俺にハイタッチを求め、力強く手を打ち合わせる。
その流れのまま、俺とアリサも自然と向かい合った。
一瞬、互いに目を合わせ、そして――微笑む。
「……ナイス」
「ふふっ、ユウトこそ」
アリサの心からの笑顔を、久しぶりに見た気がする。
そして、こんなにも自然に、真正面から目を合わせられたのは、ずいぶん久しぶりな気がする。
といっても、二、三日くらいだが。
彼女が腰を下ろすと、俺も隣に座る。
アリサは照れくさそうに微笑みながら、小さく息を吐いた。
「やっぱり……ユウトと組むのが、私には一番合ってるみたい」
どこか安堵したような、しみじみとした口調だった。
「なんだ? 今更気づいたのか?」
軽く揶揄うつもりで言った。
だが、アリサは真剣な表情で、こくりとうなずく。
「うん……つくづくそう思った」
ずっと当たり前だったことを、改めて確かめ合えたような、そんな感覚だった。
すると、俺たちの正面に座っていたシルバが、感慨深げに腕を組みながら口を開く。
「まぁ、今日で思い知ったな。アリサと組めるのはユウトだけだ」
淡々とした言葉だったが、妙に説得力があった。
そして、その隣に座っていたカオリが、ぶりっ子口調でおどけながら言う。
「でしょでしょ? 私が言ったように、二人はくっついてないとダメなんだから。離れると不幸なことしか起きないんだからね? これからもずぅ~っと一緒にいなきゃダメだよ?」
にこにこと楽しげに言うカオリ。
……いや、楽しげというより、どこか確信めいた口ぶりだった。
「さて、この調子でボス部屋に挑みますか」
自分でも驚くほど、声が弾んでいた。
ずっとアリサのことで悩んでいたからか、気持ちが軽くなったせいかもしれない。
「賛成~! 私がボスのとどめを刺してみたい!」
カオリが嬉しそうに手を挙げる。
……アリサと仲直りできたのは、間違いなくカオリのおかげ。
なら、そのくらいの願い、叶えてやるのも悪くない。
「いいだろう。カオリに最後を譲る流れでいくぞ」
「やったぁ♡」
カオリが満面の笑みで拳を突き上げる。
その隣で、アリサとシルバも静かに気合を入れていた。
「行くぞ――十二層ボス戦だ」
そのままの勢いでボスを倒し、一つ攻略組へと近づいた。




