第55話 不和
翌朝、俺たちは再び十二層へと向かった。
予定通り、アリサはシルバと組み、俺とカオリは後方から魔法で支援する。
いつもならIGLとして口を出すが、今日はそれすらしない予定。
開始早々、アリサとシルバの呼吸が合わず、動きがぎこちない場面が何度かあった。
アリサが前に出すぎたり、逆にシルバが攻めるタイミングを迷ったりと、俺と組んでいたときのようなスムーズさはなかった。
「くそ……やっぱり、動きの予測が難しいな……!」
シルバが悔しそうに呟く。
アリサも唇を噛みしめながら、何度もシルバの動きを確認していた。
「アリサ、もう少し俺の動きに合わせてくれ。今のままだと、タンクとしての役割が果たせない」
「分かった……でも、シルバも私の攻撃タイミングを少し意識してくれる?」
「お、おう……」
ぎこちないながらも、少しずつ調整しながら戦闘を続ける。
普段ならアリサの隣で俺がフィニッシャーとなり、敵を仕留める場面も、シルバと組む今回は勝手が違う。一歩引き、相手の攻撃を受け流す立ち回りを求められた。
一方のシルバも、アリサの剣筋に戸惑っていた。彼女はシステムアシストに頼らない。そのため、次にどんな攻撃を繰り出し、どこへ動くのか、シルバには予測がつかないのだ。
さらに、アリサの動きには違和感があった。戦闘に集中しきれていない場面が何度かあったのだ。
まるで、別のことを考えているかのような素振り。
「アリサ! 何をぼーっとしている! 魔物が近づいているぞ!」
シルバの鋭い声が飛ぶ。そのたびにアリサはハッと我に返り、慌てて体勢を立て直す。
そんなやり取りは一度や二度ではなかった。
もしものときに備えて雷魔法を撃つ準備だけは怠らない。
カオリにもすぐ回復魔法を唱えてもらうため、近くに控えてもらっている。
「なんか……二人の考えがバラバラな感じがするのは私だけ?」
隣に立つカオリが戦況を見ながら話しかけてくる。
「……確かに。互いが今、何をしているのか見れてないというのが痛いな。声を掛け合いながら戦闘するのが一番だと思うのだが……」
コミュニケーションが取れていないというのが一番の問題。
シルバは【白銀騎士団】でIGLを務めていたが、あのパーティではタンクが三枚構成だった。そのため、ヘイトが分散し、彼にも周囲を見渡す余裕があったのだろう。しかし、【雷光】ではタンクはシルバ一人。
敵の攻撃を引き受けるだけで精一杯で、まだ戦況を俯瞰し、指示を出す余裕までは持てていないのかもしれない。
だが、連携が取れずとも、十二層の魔物はすでに俺たちの敵ではなかった。
個々の実力で圧倒し、魔物たちを蹂躙していく。
そしてもちろん、カオリのストレス解消も忘れない。
アリサとシルバのぎこちない連携とは対照的に、カオリとの連携は着実に練度を増していく。
というのも、彼女は単に敵を倒す喜びだけでなく、仲間とともに戦う楽しさを覚え始めていたからだ。
バーサーカーモードの最中であっても、徐々に指示が通るようになり、その凶暴性も次第に薄れつつあった。
「カオリ! 次は右の敵だ!」
「シャー!」
「敵の背後から魔法が飛んできそうだ! 《ウォーターミスト》で援護するから、そのまま突っ込め!」
「あったりまえよ!」
「カオリ! 一度俺の後ろに下がって《エリアヒール》だ!」
「……」
「カオリン! 下がって《エリアヒール》を頼む!」
「任せて♡」
まだバーサーカーモードでは下がったり、神聖魔法を唱えるといったことはできないが、狙う敵を定めることはできるようになった。
「アリサ、シルバとの連携はどうだった?」
十二層の探索を終え、マイホームに戻ってから、今日のフィードバックを行う。
「……うん。なんか勝手が違うというか……アタッカーとタンクって、同じ前線にいるのに、こんなにも考え方が違うんだなって……」
アリサが言葉を選びながら慎重に答える。
「私って協調性ないのかなぁ……もっとうまくやれると思ったんだけど……」
どうやら、彼女自身も思うように動けなかったことに悩んでいる様子だった。
「そんなことないだろ。圧倒的に経験値が足りてないだけだ。『魂の監獄』以外のゲームもやったことないんだろ?」
「うん……そうだけど……でも、カオリはなんだかんだユウトと連携が取れるようになってきたじゃない?」
「連携というか、指示が通るようになってきただけで、まだほど遠いよ」
事実、カオリはバーサーカーモードの影響もあって、判断力にムラがある。狙う敵を定めることはできるようになったものの、戦況を見極めた動きはまだ無理だ。
「ふーん……ユウトって、カオリのこと、よく見てるんだね」
「まぁ、危なっかしいからな。一番防御力も低いし」
「それは……そうだけど……」
アリサが小さく唇を尖らせる。どこか不服そうな表情だ。
「それに、彼女に何かあったら、ファンたちが全員敵に回るのは確実だからな。だから、アリサも余裕があるときは、それとなく気にかけてやってほしい」
しばしの沈黙の後、アリサは視線を逸らしながら、ぽつりと呟くように言った。
「……分かったわ」
その声はどこか棘が混じっているように感じる。
「じゃあ、また明日ね。おやすみ、ユウト」
バタン。
閉じられた扉の音が、妙に冷たく響いた。




