第45話 装備
レイクタウンに戻り、キョウヤとユッカのパーティ加入を済ませた後、俺たちはセントラルシティへ転移した。
目的は――【商人】ヌコの店。
店の裏へ案内されると、キョウヤがアイテムストレージを確認しながら口を開く。
「この中に依頼料が入っている。悪いが、自分たちで取ってくれ。俺は重量制限で取り出せない」
どうやらシルバも取り出せないようで、仕方なくアイテムストレージに装備していた【鉄の大盾】をしまい、その分の重量を確保する。
そして、報酬の大盾を手に取った瞬間――
「す、すごいな……もうこのクラスの防具を入手しているのか……」
シルバが驚きに目を見開く。
【名 称】騎士の大盾
【防御力】80
【魔 防】50
【重 さ】120
【特 殊】-
馬の紋章が刻まれた大盾を構えながら、シルバは感嘆のため息を漏らす
だが、アリサの剣はそれをはるかに凌駕していた。
【名 称】破邪の剣
【攻撃力】100+α
【魔 力】50+α
【重 さ】200
【特 殊】光魔法適正、神聖魔法適正に応じて攻撃力、魔力が加算される
「こんなにすごいの……もらっちゃっていいの……? 今の時点であっちゃいけない武器なんじゃない?」
眩いほどに光り輝く剣を素振りしながら、アリサが戸惑いの声を上げる。
「【騎士の大盾】ならまだ在庫があるが、【破邪の剣】ほどの武器は持ち合わせていない。何しろ、十三層ボス部屋の初回踏破レアドロップだからな」
キョウヤが腕を組んで言う。
「ただ、うちにはこれを使いこなせる者がいなくてな。どうするか迷っていたところだったんだ」
レアドロップ――羨ましい響きだ。
というのも、俺が一層と五層で手に入れた【求道者の書】。どうやら、あれはレアドロップではないらしい。
【白銀騎士団】が二層、四層をクリアしたときも、同じものを手に入れていたらしいからだ。
つまり、五層までの確定報酬の可能性が高い。
ということは、三層をクリアしたクロトの手にも【求道者の書】が渡っているはず。
――その三層のクロト以外の全滅劇。
あくまで推論だが、十層と同じことが起きたのではないかと俺は考えている。
誰かが混乱してサバイバルゲームが勃発したのではないか、と。
もちろん、混乱の元凶はナイン。生き残ったレッドプレイヤーを倒しても、自身は赤くならない。
もしこの推論が正しければ――ナインの狂気は、もはや手の施しようがない。
だが、十層で見たあの狂気に満ちた瞳を思い出せば、十分あり得る話だと思えてしまう。
「ほら、何をぼーっとしているの? 早く行きましょう」
アリサの声で、思考の海から引き戻された。
「……分かった。もう一狩り行くか」
俺たちは再び湖へと向かい、水中に潜むサハギンたちを狩りに行く――
破邪の剣、騎士の大盾――これらを手に入れたことで、俺たちの戦いは劇的に変わった。
サハギンたちの群れに向け、俺が放つ《チェインライトニング》。金色の雷霆がほとばしり、複数の敵を一瞬で感電させる。 その隙を逃さず、アリサが鋭い剣閃を連続で浴びせかけた。
かつてはかすり傷程度のダメージしか与えられなかった攻撃も、今や確実に敵の体力を削る一撃へと変わっている。
一方で、シルバは巨大な盾を構え、サハギンたちの攻撃を真正面から受け止める。金属を打つ鈍い音とともに、ダメージは一桁――まるで壁のような防御力だ。
やはり装備の影響は絶大だった。 どうして俺たちよりステータスの低いプレイヤーが深層を攻略できるのか――その答えが、ここにあった。
これからは、より積極的にトレードやヌコの店で装備を探さなければならない。
戦闘が終わると、キョウヤが不思議そうに問いかけてきた。
「前から思ってたけど、ユウトとアリサって、ほとんど声を掛け合わないよな? それなのに、どこのパーティよりも息が合ってる。どうやってんだ?」
「別に何もしてない。ただ――なんとなく分かるんだよ。《ライトニング》がほしいタイミングとか、先に削ってほしい場面とかさ」
「そうね……雰囲気、かしら?」
二人の答えに、シルバがため息をつく。
「……お前ら二人はそれでいいかもしれないが、俺にはしっかり指示をくれよ。何も言わずに勝手に前に出られたら、最前線で体を張るべき俺が、最後尾ってことすらあるんだぞ?」
シルバの言葉に、俺は小さく息をついた。
確かに、俺もその問題は分かっていた。だから指示をしているつもりだった。だが――足りなかったか。
「すまない。俺は基本的にソロ専で、IGLの経験がまったくなくてな。なるべく指示を出すようにする」
言葉にしながら、自分で苦笑する。
本来なら、後衛で状況を俯瞰できる俺が指揮を執るべきなのは分かっている。でも、気づけばアリサの隣に立ってしまう。
――でもこればかりはどうしようもない。
アリサのためにインしたのだから。
すると、それを聞いていたユッカが、拳をぎゅっと握りしめた。
「私も……! 声に出さないで、キョウヤさんのフォローができるように頑張ります!」
その宣言に、俺たちの視線が集まる。
だが、キョウヤは肩をすくめて即答した。
「ユッカ、お前は俺じゃなくて自分のパーティメンバーとそういう仲になれ」
というのも、キョウヤは普段一人。キャリーをしている者たちはいれど、誰ともパーティを組まず一線を画している。
「あうぅぅぅ……」
彼女は何かを言いたげだったが――結局、言葉にはしなかった。ただ小さく口を開き、閉じる。それを繰り返すだけ。
そんな彼女の反応を見ながら俺たちは帰路に就いた。
「ユウト、ユッカさんから伝言よ。『キョウヤと一緒にベリグランド湖を一周漕がせてくれてありがとう』ですって」
セントラルシティに転移し、マイホームへ戻る道すがら、アリサがどこか意味深な笑みを浮かべながら言う。
だが――なぜ俺が感謝されるのか、さっぱり分からない。
俺が首をかしげると、アリサは半ば呆れたようにため息をついた。
「……まさか、本当に知らないで指示をしたの?」
「え、何が?」
アリサがじとっとした視線を寄越してくる。
「レイクタウンでそこら中のNPCが言っているじゃない。『男女二人でベリグランド湖の外周を漕げば――』」
一瞬言葉を切り、俺の反応を窺う。
「えっと……? 何かもらえるのか?」
「……はぁ?」
アリサの顔が一瞬、心底呆れたものになる。
「いや、なんか特別な装備とか、アイテムとか……」
「……もういいわ」
呆れたように肩をすくめると、彼女はさっさと歩みを早めてしまう。
取り残された俺は、しばらくの間考え込む。
男女二人で、湖を一周……? もしかしてユッカはキョウヤのことを……?
……いやいや、俺は世界一女心が分からない男と自認している。俺がそう思うってことは、違うってことか。
その答えを知るのはもう少し後のことだった。




