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雷鳴士、世界を救う  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第1章 魂の監獄

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第28話 バグ?

 五層攻略翌日――


 今日もまた、ポーションとマジックポーションでアイテムストレージをぎっしり埋めてから、冒険者ギルドへ向かう。


 ギルドにはきっと、大勢のプレイヤーがいることだろう。そして、彼らは俺の持つボスデータを(たか)りにくるのだ。


 そんな光景を想像して、思わずため息がこぼれた。と、そのとき――


「昨日、現れないから何かあったと思っていたが……まさか、我々がアナウンスに気を取られている間に、もう帰還していたとはな」


 声をかけてきたのはシルバだった。


 もちろん、そんなことはしていない。俺はあのアナウンスを、ボス部屋の中で聞いていた。


 だが、どうしてシルバがこんな勘違いをしているのか、その理由はすぐに思い当たった。キョウヤだ――あいつが流言飛語を広めてくれたのだろう。


「ボスのデータは?」


「昨日の夜にキョウヤから受け取った。ありがたく使わせてもらう」


 念のため、シルバが持っているというボスデータと俺のボスデータを照らし合わせる。キョウヤが変な情報を流すこともあるからな。確認は怠らない。


 結果的に、シルバのデータは問題なさそうだった。


 にしても……キョウヤといい、シルバといい、最近妙に砕けた態度を取ってくるな。


 キョウヤはともかく、シルバに関しては信用に足る人物かもしれない。


 そう思いながら、データの確認を終えた俺は彼を見送る。


 シルバが先に転移門へ向かうのを見届けた後、俺たちも中央広場の転移門から六層へ向かった。



 十日後――


「どけっ! ここは俺たち【サンシャイン】の狩場だぞ!」

「ふざけるな! 俺たち【ジャスティス】が先だ!」


 六層の至るところで、狩場争いが激化していた。


 これまで俺たち【雷光】や【白銀騎士団】は情報提供してきたおかげか、直接嚙みつかれることはまだない。だが、この先どうなるかはわからない。


 プレイヤーたちは徐々に大人数パーティを組むようになり、今では定員の二十名に達するパーティも珍しくない。


 だが、二十名で経験値やゴールドを分け合うとなると、レベルアップはおろか、最新装備が全員に行き渡るかも怪しい。


 まだ六層だというのに――序盤の序盤でこれだ。中盤以降ならともかく、この状況が続けば前線に立てなくなるのは目に見えている。


 彼らを横目にボス部屋付近に向かうと、そこにはこれから戦闘を開始する【白銀騎士団】の姿があった。


 同じ迷宮、同じ階層に潜っていたのにもかかわらず、迷宮では今日初めて顔を合わせる。そのくらい迷宮は広い。


 彼らの戦闘は、一言で述べると完全防御。


 先頭に立つシルバは、大きな盾を地面に突き立て、全身を防ぐ壁と化す。その両脇には二人の騎士が同じく巨大な盾を構え、鉄壁の布陣を作る。


 後衛には【水魔導士】と【土魔導士】が控え、バフをかけつつ、前衛をサポート。さらに【神聖魔導士】が前衛の傷を癒すという万全の体制だ。


 このスタイルは強固だが、一つだけ明確な弱点があった。アタッカーが不足しているのだ。


 結果、雑魚敵相手でも時間がかかり、進行速度が鈍ってきていた。


 このままでは、いつか最前線に立てなくなるだろう。


「どうだ? 俺たちの戦いっぷりは」


 戦闘を終えたシルバが問いかけてくる。


「堅忍質直。どっしり構え、耐えて確実にトドメさすって感じだな」


 俺たちのスタイルとは正反対。そして、かつて俺が目指していた戦い方でもある。


「堅忍質直か……言い当て妙だな。お前たちはどういう戦闘スタイルだ?」


 シルバの質問に一瞬迷い、答える。


「自分では分からない。その目で確かめてくれ」


 隣の部屋に行き、【白銀騎士団】が見守る中、魔物と戦闘を開始した。


 アリサのブーツが小気味よい音を刻み、その足音に合わせて彼女は軽やかに駆け出した。俺もそれを追うように足を速める。


 彼女の動きは、まるで重力そのものを拒むかのように軽やかで、それでいて一歩一歩に力強さを秘めていた。


 その矛盾が生む美しさに、見守る者たちは息を呑むようにして目を奪われる。


 結果、俺たちは【白銀騎士団】が要した時間と同等かやや早く殲滅した。


 振り返り、シルバたちに「どうだ?」と問いかけようとしたその瞬間、見守っていた一人がつぶやく。


「百花繚乱……華やかで美しく、見る者を惹きつけ、期待させる……」


 その言葉がアリサを指しているのは明らかだった。視線を向ける先には、未だ彼女の姿から目を離せずにいる男の姿がある。


 惹かれるのも無理はない。彼らが見たのは一瞬だが、俺はその美しさを最も近くで目にし、そして何度も心を奪われているのだから。


 シルバも感想を口にしようとしたその時、別のパーティが現れた。


 彼らは【大車輪】――リーダーの名はピンズー。最近流行りの二十人パーティで、ずらりと大勢を引き連れている。


 ピンズーは俺たちに問いかけた。


「お前たち、ボス部屋に挑むのか?」


「いや、俺はまだだ」


「【白銀騎士団】もあと二、三日は様子を見るつもりだ」


 俺たちの答えを聞いて、ピンズーは口元に薄い笑みを浮かべた。


「そうか。じゃあ通してくれ。俺はこの先の部屋に用があるんだ」


 そう言うと、ピンズー率いる【大車輪】はボス部屋の中へと消えていった。



【大車輪】の様子を窺うため、互いの戦闘を見守りながらボス部屋の前で待機していると、カチッという音とともに扉のロックが解除された。


 いつもであれば、このタイミングで初回踏破のアナウンスが視界上部に表示されるはずだ。しかし、今回に限って何も起こらない。


 ……まさか、全滅!?


 思わずアリサと顔を見合わせた。一緒に様子を見ていたシルバが渋い表情を浮かべながら低く告げる。


「ここのボスは手強いようだな。【大車輪】は決して弱くはないパーティだというのに……」


 確かにその通りだ。俺も何度か彼らの戦闘を見てきたが、実力はパーティの中でもTOP10に入るほどだろう。そんな彼らがもし全滅したのなら、ボスの強さは計り知れない。


 アリサと二人、この層のボス部屋には慎重にアタックすることを確認し、【白銀騎士団】のメンバーと共にセントラルシティの中央広場に転移する。


 だが、そこで目にしたのは予想外の光景だった。


 なんと、先ほどボス部屋に入ったはずの【大車輪】のメンバーが、そこに立っていたのだ。


 その中で、リーダーのピンズーが茜色の空を見上げ、苛立ちを露わに叫んでいた。


「おい! 六層クリアしたのに、クリア表示が出なかったんだが!? バグか!?」


 まるで運営やGMに届くように、大声で空に訴えかける。その姿を見て、周囲のプレイヤーたちはざわめき始めた。


 確かに、ピンズーの言う通りアナウンスは表示されていない。


 もし仕様変更でクリア表示がなくなったのであれば、それはむしろ俺たちにとって好都合だ。他人の目を気にせず攻略を進められる。だが、そんな都合のいい変更を運営がするとは思えない。


 GM――ゲームの監視者である彼らが、むしろ混乱や争いを楽しんでいる節すらあるのだから。


 本当にクリアしたのか? という疑問が投げかけられた瞬間、他のプレイヤーが「ボスデータを見せろ」と迫る。渋々公開したピンズーの顔には明らかに不満の色が浮かんでいたが、彼が欲していた初回踏破のアイテムを手に入れるためには避けられない行動だったのだろう。


 俺もそのクリアの事実を証明できる。ボス部屋の前で待機していた俺たちは、扉が開いた時に誰も姿を現さなかったのを確認している。つまり、彼らがクリアしたか全滅したかの二択であり、ここにピンズーたちがいる以上、クリアは間違いない。


 しかし、いくらピンズーが空に向かって訴えようとも、アナウンスは表示されることなく、初回踏破アイテムは手に入らないままだった。


 結局、理由が明らかになることもなく、その場は解散となる。



「ユウト、話がある」


 ギルドでクエスト完了報酬を受け取った後、転移門へ向かう途中で、キョウヤの声が背後から響いた。


「知らないよ。いくらで教えてくれる」


 振り向くと、キョトンとした表情のキョウヤが立っていた。


 ん? 何か妙だな。六層の話じゃないのか? 質問しようとした瞬間、彼は何かに合点がいったような顔をして、軽く頷いた。。


「ああ、【漆黒の翼】のことか」


「【漆黒の翼】?」


「今日の未明に六層をクリアしたパーティだ。リーダーの名はナイン。四層あたりから深夜帯で活動するようになった連中だな。俺もナイン本人を見たことはないが、メンバーはかなり強いという話だ」


 こいつ、ほんとに何でも知ってるんだな。


 でも今のリアクションを見る限り、要件はこれじゃない。


「で、何の話だったんだ?」


「【真理の書】が余っていたら、売ってほしい」


「【真理の書】? ああ……余っていると言えば、余っているが……何に使うんだ?」


 おそらくキョウヤは【コソ泥】から【盗賊】にクラスチェンジしたはず。


 他の二次職になるのに必要だとしても、さすがにまだ使わないだろう。


「キャリーしていたやつがいたんだが、もうそろそろクラスチェンジ間近でな。多分お前なら余っているかなと思ったんだが……四冊……いや、五冊あれば助かる」


 相変わらず、鋭い。にしても、結構な人数をキャリーしているな。まぁいい人材が増えるのであれば好都合。敵対しなければの話だが。


「どうしてそんなことを?」


 俺の問いに逡巡した後に、キョウヤが答える。


「最近、珍しいアバターを見かけるようになった……ちょっとそのことでいろいろと確認をしたくてな。それに、生産職やファーマーを育てたくてな。その件で有益な情報を得られたら、お前にも教える。売ってはくれないか?」


 なんとなく全容がつかめてきた。それであれば、協力を惜しまない。


「分かった。明日、五冊持ってこよう。金は要らない。貸しだからな」


 正直、マイホームを買った今、お金には困っていない。


 そして、キョウヤはこう見えても律儀な性格というのはもう分かっている。


 こいつじゃなければ、物々交換をしていたかもしれないが、渡してもいいだろう。


 もともと【真理の書】は余っていたからな。


 マイホームに戻り、明日の六層ボス戦に備えた。

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