第29話 漆黒の翼
――85日目夜
「ユウト? 次のジョブ何にしようか?」
七層の攻略から戻り、夜の静けさが漂うマイホームで、アリサと向かい合って話し込む。
目の前のアリサは真剣そのものだ。
というのも、彼女のレベルが22になってから数日が経過している。剣士のジョブも、もう間もなくマスターに到達しそうだ。
「【心理の書】を見ても、何も出てこないんだよね」
アリサは腕を組みながら、【心理の書】のスクリーンを指差してみせる。
「説明文にも『二次職にクラスチェンジ可能』としか書いてないし……三次職になるには別の条件か、アイテムが必要なんじゃないかな?」
アリサの疑問に俺も頷く。三次職の情報はまだ聞いたことがないが、今のシステムを考えれば特殊な条件が絡むのは間違いないだろう。
ただ、【剣士】をマスターしても、一次職を選ぶのであればそのままという選択肢もある。その理由がこれ。
【名 前】アリサ
【ジョブ】剣士(14/15)
【状 態】良好
【L V】22(2up)
【H P】430/430
【M P】210/210
【筋 力】167 (14up)(+20)
【敏 捷】190 (16up)
【魔 力】91 (6up)
【器 用】190 (16up)
【防 御】144 (12up)(+10)
【魔 防】144 (12up) (+5)
【適 性】剣術D(4/10)
【重 量】60/167
【装 備】鉄の剣
【装 備】旅人の法衣
【アクティブスキル】
・《二連切り》・《スラッシュ》
【パッシブスキル】
・《索敵》
剣術スキルがCに到達するまで【剣士】を続けるのも悪くないだろう。適性を磨き上げることは、アリサの戦闘能力を一段と高めることに直結する。
だが――
三次職の条件に「他のジョブをマスターする必要がある」といった要素が含まれているとすれば、話は変わってくる。今のうちに別のジョブに切り替え、幅広いスキルを習得しておくべきかもしれない。
「クローズドベータ版では、剣術Fと何かの魔法スキルFを持っていれば二次職の【魔法剣士】になれたはずだ。ステータスの上昇値は高かったはず。ただ……どのゲームでも中途半端なイメージがあるんだよな、【魔法剣士】って」
思考を整理するように、アリサと向き合いながら自然と口に出す。彼女は真剣な表情を浮かべながら、深く頷いた。
「そうね。でも、それも選択肢に入れておく必要はあるかも。少人数でパーティを組み続けるなら、役割を柔軟に分担できるほうがいいわ」
その言葉に、俺は再び考え込む。確かに、現状の戦力でダンジョン攻略を続けるなら、多様なスキルセットを持つことが強みとなるだろう。ただ、それが三次職への道にどう影響を与えるか――
俺たちは最前線を走っているので、情報も少ない。
言ってみれば俺たちがファーストペンギン状態なのだ。様々なゲームをしてきたが、こんな経験は一度もない。だから頭を悩ませているのだ。
ちなみに、俺の方はまだまだその必要はない。
【名 前】ユウト
【ジョブ】雷鳴士(11/20)
【状 態】良好
【L V】22(2up)
【H P】318/318
【M P】575/575
【筋 力】135 (12up)(+20)
【敏 捷】158 (14up)
【魔 力】332 (32up)
【器 用】158 (14up)
【防 御】135 (12up)(+10)
【魔 防】189 (16up)(+5)
【適 性】火魔法F(11/12)・風魔法F(11/12)・水魔法F(11/12)・雷魔法D(1/10)
【重 量】85/135
【装 備】鉄の剣
【装 備】旅人の服
【アクティブスキル】
・《ライトニング》・《ライトニングウォール》
・《ファイア》
・《ウィンド》
・《ウォーター》
【パッシブスキル】
・《鑑定》
・《雷の加護》(11/20)
四層でのマントボア狩りに夢中になりすぎた結果、俺たちのレベルは停滞気味になってしまっている。特に俺は、今日ようやくレベル22に到達したばかりで、すでにアリサに後れを取ってしまった。
ちなみに雷魔法Dに上がって得られたのは、Fのときと同じくクールタイム10%減少。
アリサとの議論は結局決着がつかず、レベルが上がるまでに考えることにして一旦お開きとなった。ベッドに潜り込もうとしたそのとき、視界の中央上部に表示されたアナウンスが目に入る。
ベリグランド迷宮七層クリア
ハーティ名【漆黒の翼】
パーティリーダー名【ナイン】
「あっ――また先を越されちゃったね。」
アリサが軽く肩をすくめながらつぶやく。
「そうだな。キョウヤが言うには、当分このパーティが迷宮攻略の最前線を走り続けるだろうって話だったし」
彼曰く、ここのパーティの殲滅速度がエグイという話だ。戦闘を盗み見しようとしたらしいのだが、警戒心が強くてそれもできなく、フロアを進む速度は分かるのでそこで力を量ったとのこと。
さらに、リーダーのナインが誰なのかも分からないとのこと。何度か街で会っても、誰がナインか分からないというから驚きだ。
だいたい、【白銀騎士団】のシルバのように、統率力を発揮しつつ目立つ立ち回りをするのが一般的だ。しかし、ナインとそのパーティはそれとは正反対だ。
キョウヤが言っていたように、このまま【漆黒の翼】が百層まで突き進んでくれればいい、というのが正直なところだ。誰かが道を切り開いてくれるなら、それに越したことはない。
そんな他力本願な願いを抱きながら、俺はベッドに潜り込んだ。
――三日後。
俺たちも七層をクリアした。同時に、アリサがレベル23に到達し、ついに【剣士】のジョブをマスターしてしまった。
そして、八層がどんなものか、少し覗こうとすると、そこには思いもよらぬトラップが待っていた。
さらに、これ以降【漆黒の翼】がアナウンス表示されることはなくなった――




