第27話 争奪戦
ベリグランド迷宮五層クリア
ハーティ名【雷光】
パーティリーダー名【ユウト】
この表示が現れたのは、四層をクリアしてから十日が経過した七十日目のことだった。
「やったね!」
「ああ、いい動きだったな。アリサ」
四層のボスと同じで五層のボスも俺たちにとっては朝飯前だった。
考えてみれば、マントボアを狩りまくっていたから当然だろう。五層のボス、ベビードラゴンの攻撃も俺にはほとんど効かず、戦闘を長引かせる余裕すらあった。
そして、レアドロップが大当たり。なんと、また【求道者の書】を手に入れた。これほどのペースで手に入るなら、もっと大胆に使ってもいいかもしれない。と、改めて確認したところ、シリアルナンバーが刻まれている。
――10/10。つまり、【求道者の書】はこれで最後か……気づいてよかった。
その瞬間、突然脳内に機械的な声が響いた。
『諸君、久しぶりだ。元気にしてたかね?』
その言葉に込められた、ひどく侮蔑的な響きに、思わず胸が煮えたぎる。
『まずは、残念な報せからだ。用意した【求道者の書】もすべて諸君らの手に渡った。幸い独占されることなく、いい感じにバラけた。二つ以上手に入れたパーティは二つ。それは……』
やめろ! 言うな! 心の中で叫ぶ。機械音は俺の心を弄ぶように淡々と続く。
『ふむ……それよりもっと面白いことを考えた。七十日目で五層攻略は予定よりもだいぶ遅い。だからニンジンをぶら下げてやろう』
少しだけホッとしたのも束の間、次に告げられた言葉は、まさに悪魔の囁きだった。
『最初に十層をクリアした者……もしくは貢献、活躍した者には、クローズドベータテストで皆が憧れたジョブ、【魔法剣士】や【騎士】に就くための【魔法剣士の証】、【騎士の証】を与えよう。これは才能がなくてもアイテムだけ使えばクラスチェンジできる、貴重なアイテムだ』
――これは、まずい…。
『だが、今のペースでは困る。五十日後の百二十日目以内にクリアできなければ、この話はなしだ。せいぜい頑張ってくれたまえ』
その最悪の言葉を最後に、脳内の疼きがようやく収まった。
いつもよりもかなり時間を空けて、セントラルシティに戻る。
宵闇が街を包み込み、どこか張り詰めたような空気が漂っていた。
――思ったよりも注目されていない?
そんな淡い期待を抱いた瞬間、背後から低く響く声が耳を打つ。この声には聞き覚えがあった。
「ユウト、振り向くな。すぐに東門へ転移しろ」
声の主を確認するべく、横目でちらりと視線を送る。黒いフードを被った男の姿が視界に映る。そのまま無視して歩き去るか、従うべきか――迷ったが、結局彼の指示に従うことにした。
セントラルシティ東門に転移すると、男は黒いフードを脱いだ。
「すぐに戻って来なかったのは正解だ。わざと遅らせたんだろう?」
現れたのはやはりキョウヤ。口元に微かに笑みを浮かべながら問いかけてくる。
「ああ、あんなアナウンスが流れると、次に十層を目指す一番手だと思われるのも当然だ。それに【求道者の書】のこともある。無遠慮に根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だからな」
「実際、その読み通りだった。中央広場の転移門周辺は、冒険者たちでごった返していた。全員の狙いはお前が持っているであろうボスデータだ」
キョウヤの目が鋭く光る。
「しっかり持ってきたんだろうな?」
「まあな。それは明日にでも公開するつもりだ。あんなアナウンスが流れなければ、すぐにでも公開するつもりだったが」
鑑定結果やボスの攻撃パターンを記したデータをキョウヤに見せると、彼の表情が変わる。
「……ブレスは魔法属性なのか……クールタイムを見るとヒットアンドウェイでなんとかってところ……」
さすがゲーマー。データを見て即座にボス攻略を道筋を立て始める。それにキョウヤのこういう姿を初めてみた。だいぶ警戒心を緩めたってことか……?
集中してデータと睨めっこをするキョウヤを待つこと数分。彼はようやく視線を上げた。
「で? どうする? お前らもやっぱり誰かと組むのか?」
「それはない。信用が置ける者としか組まない。あれはどう考えても罠だからな」
俺の言葉に、キョウヤは満足そうに笑みを浮かべる。
「それを訊いて安心した。あんなの手に入れたパーティが不幸になるだけだ。もっともお前ら【雷光】や【白銀騎士団】を見れば、その限りではないと思うが……そんなお前らに、ひとつ耳寄りな情報を教えてやる」
彼の言葉に耳を傾ける。
「街の外れにある小さな小屋に、名前を変更できる店が実装された。名前変更は一カ月のみ可能で、現在の料金は100,000G。時間と共に値段が上がっていくタイプだ。悪用する奴はきっと出てくるだろうから、気を付けろよ」
キョウヤは一度、こちらに目を向けると、すぐに踵を返し、歩き出す。
「それと明日、お前らがデータを公開しやすようにお膳立てはしておいてやる。それで今回の借りはチャラだ」
そう言い残し、キョウヤは転移門を使うことなく、街の中央へと向かっていった。
「ねぇ? どうしてアイテムを入手したパーティが不幸になるの?」
マイホームで寛いでいると、アリサがテーブルに身を乗り出して訊いてくる。
「正確に言えば、アイテムのためにパーティを結成したり、協力関係を結んだ奴らのことだな。人数がいた方が有利ということに変わりはない。でもアイテムのためだけに作られた急造パーティ。入手したら醜い争いが始まるのは当然だろ? お金みたく分けることもできないんだから」
「あっ!」
納得したようにポンと手を叩くアリサ。
「だから、アリサも気を付けてくれ。気前のいいことを言いながら近寄ってくる奴には特に注意してくれ」
俺たちが一番クリアに近いことは間違いない。だからこそ、警戒を怠ってはいけない。
ボスを倒す直前にPKされる可能性だってあるからな。
できれば、二人でクリアしたい。
だが、そこまで甘い仕様ではないことを、まざまざと見せつけられるのであった――




