No097 アイリの野望、覇王編 「歴史への影響」 妹との旅。 10歳4月~
今、アイリたちは海路で東に向かっている。
初めて遠くへ出かけるのと、船で海を渡るという経験は
妹のアイルとその乳母のサオリには、思ったより辛かったようだ。
最初は喜んでいたが
時間が長くなると、大して景色が変わるでもなくだんだん退屈になってくる。
これはアイリも経験したことだ。
アイリは、その為にアイリ専用の輸送船作らせた。
観光船とも呼べるそれは、部屋を大きくとり船内で時間を過ごすのを楽にしている。
馬も連れていくから、ちゃんと馬小屋もある。
その為、乗船人数が少ない。
メイド隊1軍とアイリたち以外は、操船の為の水兵だけだ。
アイリは部屋の中でも勉強ができるようにした。
それと妹達の為に紙芝居をする。
幼少組はその時間を楽しみにしている。
キチョウ、シホウ、ナオトラ、マナリ、リンコ
それとメイド隊は甲板の上でも訓練を続ける。
妹にも仔馬を与えている。
馬で歩き回れないが、時々仔馬の上に乗って乗馬気分だけ味わえる。
最初は仔馬に、おっかなびっくりだった妹も今はすごくかわいがっている。
妹の仔馬は小さい。
アイリが初めて仔馬をもらった時もそうだった。
きっと馬との長い付き合いの間に信頼関係が出来るだろう。
馬は主と認めた人物との信頼関係が出来ると、自ら主のことを考え行動してくれる。
アイリは、自分より先に大きくなってしまった愛馬を小さな体で巧みにあつかう。
それは馬との信頼関係に基づく。
馬の寿命は人より短く、やがて別れが来るだろう。
アイリはそれが悲しい。
まじめに勉強に取り組むツヤは、どんどんいろんなことを覚えていく。
負けじと頑張るネイも最近ようやく文字が読めるようになってきた。
ネイは幼いときに孤児になったので全く勉強が出来ていなかった。
最初の頃はめんどくさがり、勉強に身が入っていなかった。
年下のツヤが勉強を頑張る姿を見て、やる気になったようだ。
妹にも勉強を教える。
紙芝居のように絵本を使った勉強だ。
妹のスキルは特殊スキルで汎用力がある。
ギンがそうであるように、適応範囲が広いようだ。
妹の「統治」と言うスキルは、他者をまとめる力だけではなく。
統治者として自分の能力を引き上げる力もある。
アイリといる時間、妹はどんどん成長している。
最近は、九九の時にみんなで「ににんがし、にさんがろく、にしがはち・・。」
とやっていると加わるようになった。
遊びのように楽しんでいる様だが、間違えることがなくなるのが早い。
やがて目的地が近づいてくる。
アイリの前世知識で浦賀水道を抜けたからだ。
アイリの支配地の近海では、水軍が海賊退治を盛んに行う。
彼らにとっては、実戦訓練の格好の相手だ。
おかげで海賊は出現しなかった。
北条水軍も存在しないのか警戒しているのか全く姿はない。
エドに続く大きな港に入った。
エドは特区として優先的に開発を行っている。
それはオオサカも同じだ。
自由貿易郷もあり、東の防衛の要として最重要地区になる。
アイリがエドの地に立ったことで、江戸入場イベントは終わった。
何かイベントボーナスが出るわけでもない。
アイリが来ることを知って、
カンスケら関東方面軍も集まってきている。
北条家との戦いに苦労している様だ。
報告を聞くと、武田家とは違って専守防衛らしい。
陣の前に土壁を作り、大きな盾を装備してひたすら守り続けるのだという。
何とか追い払っても、その先では同じことが繰り返される。
攻めの武田と守りの北条とはよく言ったものだ。
領主は、チヨマル(千代丸)という。
これは、「北条氏康」の同名者だ。
領主の父親も存命で、軍の指揮もしているらしい。
名を、シンクロウ(新九郎)という。
北条家には、シンクロウ名を通称名として持つ人物がいる。
代表格が、「北条氏康」と「北条早雲」になる。
チヨマルが、氏康ならこのシンクロウは早雲の可能性が高い。
歴史では親子関係ではない。
しかし北条家において権勢をふるったNo1とNo2になる。
もし二人とも同名者なら、北条家最強タッグだ。
武田信玄の完全同名者に続き、北条家も完全同名者の可能性が高い。
5か月をかけて5郡まで占拠出来たところだという。
ところが進むほど、防衛が固くなっていく。
砦や各役場など防衛拠点では、高く厚い石垣に阻まれ時間がかかる。
今ではその砦も数多く作られて、まだその先には主力が残されているらしい。
いつ敵が攻めに回るかもかもしれず。
気が抜けない膠着状態になっているという話だった。
報告は聞いてはいたが、叔父を援軍に送ったことで何とかなると思っていた。
ここへ来て、戦場の詳細と領主の名を聞けばそれは甘かったと言える。
小田原を占拠して関東に入れば、とりあえず関東入場イベントはクリアした。
しかし北条滅亡イベントが終わっていない。
アイリの言う歴史イベントとは、オタク歴女である彼女のこだわりだ。
だが、この世界のこの国が日本と言う位置づけであるなら
歴史の歪を出さないように、歴史イベントをこなしていくほうがいいと考えている。
アイリの記憶の片隅に、パラドクス世界による異世界の発生という記憶がわずかに残る。
それは中心線世界と離れすぎることで、やがて世界自体の崩壊につながるというもの。
仮定として前世の日本歴史が中心線世界に近かった場合。
その歴史をたどるというのは大切なことだと思った。
アイリの知識で一気に進めてしまおうとしたら何やら啓示のように危険を感じた。
それは、アイリの中で禁忌として守ることにしている。
最近はそれも危ない線になってきているのだが・・・。
北条家の領地6郡を取って、豪族に落とし家名を失わせたらハイ終わりというわけにいかない。
相手は北条家の同名者の可能性がある。
仮にアイリの支配下になれば、アイリの力で改名させるという裏技はある。
これは試しに光秀に行ったものだ。
発生の要因になりそうなトウキチロウの動きも牽制し、刺客も退治した。
その後、本能寺イベントらしき動きはなくなっている。
寺が無い事で発生しにくいことが予想されるものだが、
あえて本能寺の変を、スルー出来る条件を揃えた。
それがアイリの徳川家としての立場の利用。
アイリは織田家ではあるが信長本人ではない。
役柄上この歴史に必要な存在として継承している。
結構、織田家役が気に入っているのは内緒だ。
アイリがアイチ領の内政を始めた時はそんなことは考えていなかった。
偶然西の尾張地区の改革を行い、前世の知識と信長の楽市楽座をヒントに商業化を進めた。
その後三河地区の改革の時に地図機能が発生し、
地形からここが前世でいう愛知県であると理解した。
その時からアイリは信長役になった。
一方で東三河を占拠して徳川家の存在になった。
この国で同名者がいるならそれもいい。
彼らに託すことが出来るなら・・・。
そう思っていたが、織田信長も徳川家康もいまだ存在はない。
だいたい、足利将軍がいなかったのだ。
ある意味アイリの信長役のおかげで足利家が存在しなくてもいい条件がそろった。
歴史上のつじつま合わせが出来たことを意味する。
しかし、いないと思っていた3英傑の一人、秀吉の完全同名者が存在した。
陰にはトウキチロウと言うこれも秀吉の同名者がいて、暗躍する。
アイリはこれを危険だと思い、秀吉には早々に退場してもらいたい。
その上での徳川家イベントの継承だった。
北条家を滅亡させたのは実は秀吉で、その後の徳川家の江戸入場も秀吉の命によるもの。
現実的に見れば、アイリは前世歴史を継承していない。
今やこの国において最高の権力と実力をもった覇王とも呼べる存在。
既にアイリの力で、アイリの歴史を作り出している。
前世の戦国歴史は領民の犠牲にあふれていた。
それは一時の平和があっても、その後も続いた。
アイリは、オタク歴女としての歴史に対するこだわりと
この国の領民の平和を天秤にかけて、領民の平和を選択している。
今や歴史の継承と言うのは単に、領民の平和の為に都合よく利用しているだけだ。
平和の為に戦うことを、ためらわないように歴史の出来事と割り切り逃げているともいえる。
アイリは決断する。
北条家との戦いが長引けば、苦しむのは領民。
ここでアイリが秘策を講じて、自ら指揮を行えば勝てると思える。
しかし、戦い続けても長引くことは予想される。
「北条家の滅亡イベントはやらない。」
アイリは、北条家との和平交渉を行うことにした。
こちらの占拠した5郡と北条家の残り5郡をお互いの支配地の領境にするということで
それは行われた。
ただ北条家の領主には、条件を付けた。
「領民が苦しむような政策をしていると聞いたら、私の全力をもって攻め取ります。」
この後、関東周辺から北へその話が流れ、アイリに恭順するも者が出始めた。
アイリの属領とも呼べるそれと、敵対を明確にした領が二分化される。
勢力は南と北に大きく分かれ、
アイリの知る前世歴史にはなかった南北戦争が始まるきっかけになっていく。
アイリは、今の時点ではそれを理解する由もない。
アイリが持つ権力と実力が、この国に大きな影響を持っているなど考えてもいなかった。
関東方面軍はこの地に残り、周囲の警戒を主任務にした。
武田家の動向を見て、北のケンシンと連動して関東側2方向から攻め入る。
甲斐ルートと信濃ルートだ。
ギフからも攻めることで4方向から侵攻する大きな戦略である。
アイリはそれを指示すると、アイチ領に戻っていった。
関東滞在中に鑑定を行い、多数の人物を登用したことは付け加えておく。
これらの人物たちの中からも後に名が出てくることになる。
そして妹のアイルだが、関東滞在中に小さな子犬を拾った。
帰りはその子犬を可愛がって楽しんでいた。
この国の犬とは飼われていても狩猟犬だ。
それ自体が珍しい、ほとんどが野犬として人には懐かない。
これも妹のスキルによる、人を引き付ける能力の影響なのかもしれない。
妹のアイルは、犬に名前を付けたいから考えてくれとアイリに言った。
アイリは一言「ハチ公」と言った。
命名が苦手なアイリは、太郎か次郎かポチと思ったが、何故か口から出たのはそれだった。
実はこの国において、最初の愛玩犬の誕生だったりする。
妹のアイルは喜んで、犬を「ハチ」と呼ぶことになった。
妹アイルとその犬のお話はまた別のことになる。




