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No093 アイリの野望、激動編 「関東方面軍その後1」 武田軍との戦い。 9歳8月~

こちらも時は遡る。


関東方面軍は、アタミから移動し、豪族との初戦を快勝。

その後、1郡目を占拠する。

これで関東に拠点が出来たことになる。


指揮官との協議通り、2郡目の侵攻を開始する。

ところが豪族から使者がやってきた。

降参と支配権の放棄。

但し条件があるという。


豪族は、いわゆる伊豆半島の豪族と同じで、戦争がしたくない派の人物。

しかし支配者の立場上、簡単に姿勢を変えることが出来ない。


武田家とは、形式的に同盟をして属国扱いで何とか戦いは回避した。

武田家の領主は最初から南関東のしかも西にはなれた場所をとる気はなく、

甲斐信濃方面へ目を向けていた。

お互いの言い分が一致することで、武田家は甲斐へ侵攻。


豪族はその間、他の隣領から防衛しているだけだった。

豪族の支配地が攻められても、武田家はそういう経緯から無関心。

それどころか甲斐を取って信濃へ侵攻するのに夢中だった。


攻めに来たのが、アイリの軍で良かったと言うくらいだ。

アイリの軍であれば、領民を略奪せず、話が通じると思ったらしい。

抗戦派の連中が初戦で完全敗北したことで、豪族もやっと自分の意見が言えるようになった。


豪族本人は穏便で真面目な性格。跡継ぎとして支配者をしていたにすぎない。

ただ、その性格から危険な人物が相手なら、無理にでも戦い続けただろう。


もともとこの地は豪族の兄が支配者で領地を広げていった。

ところが3郡まで広げたところで、戦争による怪我が元で亡くなってしまった。

残された妻がいて、幼い娘が一人いたという。

兄の妻も後を追うようにして病気で亡くなる。


仕方なく弟の自分がこの地をまとめることになり

幼い娘を育てることになった。

その娘が成人したら自分は引退して娘が支配者になればいいと思っていた。

その後が武田家の台頭になる。


豪族はアイリの領政を知っていて、その人物は素晴らしいと聞いていた。

無駄に抵抗するつもりはなかったが、抗戦派がいてそれも出来ず困っていたらしい。

抗戦派がいなくなることで、降参することにしたのだ。


そして条件とは、

後を継がせるつもりだった兄の娘を、アイリ本人の直属の側近にしてほしいということ。

側近が駄目なら側仕えでもいいという。

将来性があるならそれなりの役目を持たせてほしい。

娘本人もそれは承諾している。


娘はまだ7歳だった。

カンスケはどうするか悩んだが、マサノブは承諾するべきだと言った。

こういうことは、マサノブに任せるのがいいとアイリに言われていたカンスケは

マサノブの意見を受け入れ、この戦いは終わった。


ただ面倒なことに、早急に支配地内の管理が必要になってしまった。

娘もどうやってアイリのところに行かせるのかも問題だ。

さすがのカンスケもこういうことは苦手だ。

その為にアイリはマサノブを付けた。


考え方を変えれば、こちらの状況をまったく知らない武田家。

知られず関東への侵攻が可能になったと言える。

当初の方針から、マサノブに豪族の地3郡を任せることになった。


関東方面軍の残りの3軍は東へ向かう。


このまま、奇襲で関東の武田家南部3郡を取ってしまおうという話だ。

武田家は遠くの地に本軍を出している。

離れた位置にある郡なら、戻って来ようにも時間がかかる。


これが、両兵衛の意見でもあった。

カンスケは、それがいいと判断した。

戦線は広がってしまうが、マサノブがいるし何とかなるだろう。


まずは豪族支配地内を移動し、東端の郡境へ向かうことにした。


武田家2郡を難なく制して、3郡目に入るところで武田軍からの抵抗にあう。

武田軍は、関東北部にも多くの軍を残していたらしく

関東方面軍は、寡兵で迎え撃つことになった。


ここまでに、豪族の地を含めて5郡の占拠。


しかし、寡兵なので防衛にまわる。

それはある意味、策略でもあるのだが、ことのほか敵がしぶとかった。


5郡占拠までひと月もかからなかったのが、武田軍と対陣して1か月近い。

この時点では、マサノブも遊軍として参戦せざる負えず、

関東南部の郡を4軍で防衛することで、武田軍の猛攻を防いでいた。


武田軍の攻撃は熾烈で、突撃を繰り返す。

被害など関係ないように、前へ前へと押し出す。

そうかと思えば、側面に回り込んで横やりを入れてくるなどの柔軟性も持つ。

混乱させようにも、兵が怯まない為、戦意も落ちない。


武田軍は、この国では珍しく騎馬隊が運用されていて、兵種ごとに分けた軍制を敷いていた。


兵もかなり強く、平時は兵が農耕をするなどの政策を取っていた。

このため、農民兵と言うよりは専門兵に近く訓練度が高い。

無理やり徴兵されているわけでもなく、武装度も高い。

こういう軍と初めて戦うことになった。


アイリの軍以外が相手なら、きっと武田軍には勝てないだろう。


関東方面軍は、アイリが言うように主力ともいえる人材で構成している。

むしろ彼らだから猛攻をものともせず、しのぐことが出来ていると言える。


長い時間の戦闘で被害を出した武田軍は、経験を積むことで教訓としていた。

火箭の弱点を見抜いたのか、雨が降ると必ず攻めてくるようになったのだ。


防衛戦では、アイリの軍は長距離攻撃が火箭以外にもあるので

それでも武田軍の被害は、徐々に大きくなっていく。

関東方面軍の策として、持久戦で敵の被害を増やしているところだ。

こちらにたどり着けない以上、自分たちに被害はない。


いくら強くても、被害を出し続ければ、いつかはほころびが出る。

その時に攻勢にまわる。


問題は、武田本軍が引き返してくる場合である。

諜報員からの情報が頼りになっていた。


「何なんだ連中は、あんな戦い方などあるものか。」

カンスケは言う。

今までの敵なら、混乱したり、逃げ回る場面でも全く動じないのだ。

しかも軍を引く気配もなく、事あるごとに攻撃を繰り返す。


「死軍に等しい輩と戦うには、こちらの被害を少なくする防衛戦で持久するしかありますまい。」

マサノブは答える。


「最初から比べたら、敵もそろそろ半分ほどになりましょう。もうしばらくかと・・。」

そうハンベエは言った。


「そうですね、そろそろこちらも反撃の策を考えますか。」

カンベエはそういう。


当初、約4万を数えた武田軍は、今や3万を下回る。


「うむ、あんな戦い方では疲れもたまってきているはずだ。」

「そろそろ夜襲などしかけて、更に疲労を重ねてみるか・・。」

カンスケの考えた案はこうだった。


徹底的にこちらから動かない防衛戦を続けることで

相手は自分たちが攻めている間は、こちらが攻めにまわることが無いように感じ始める。


戦意が落ちない相手でも、疲労が無いわけではない。

兵数が減り、疲労が溜まれば、隙が出来る。


武田軍に援軍の可能性がある以上、あまり長く対陣し続けるわけにもいかない。

敵兵が増えたらまた地味に削るしかなくなるからだ。

そうなると最終的に寡兵であるこちらの方が疲労がたまってしまう。


どこかのタイミングで、敵の動きを狂わす必要があると考えた。


それを聞いてハンベエは賛同した。

「そうですね。少し引っ掻き回してみますか。」


カンベエも賛同する。

「夜襲の被害がさほどでなくても、なんらかの効果は出るでしょうね。」


マサノブは意見を加える

「姫の夜襲戦法の数々は、面白いですからなぁ。続けるほど効果が増しますしな。」

一度、正当な夜襲を仕掛ければ、相手はそれを警戒する。

その後は、いつまた来るのかと疑心暗鬼にしていけばいいことになる。


最初の一度目の夜襲のタイミングさえ見極めればいいことになる。

それも大して被害が無くても構わない、成功できれば術中に入る。


これはアイリがオオサカで使った戦法でもある。


対陣戦においては、防衛側のほうがこういう作戦を取りやすい。

待ち構えている側は、相手の出方に対処できる陣形が出来るが。

攻撃側は、攻撃に効果が出る陣形にせざる負えない。


むしろしぶとい武田家側が防衛の陣をしてくる方が面倒だっただろう。

と言っても長距離攻撃を繰り返して、やることは似たようなものだが・・。

まぁその時々に合わせた戦法をすればいい。


「問題はいつやるかだな。」

カンスケは、そこが重要だと言った。


マサノブは答える。

「次に敵が攻勢に出た日の夜などいかかですか。」


結局、それでまとまることになった。


武田軍が攻勢に出たときに少し防衛を緩めて、いつもより手ごたえが出てきたと感じさせる。

これは行けるのではないかと思わせるわけだ。

その隙きを突くという作戦。


数日後、小雨の中を武田軍は突撃を行った。

いつもより相手の反応が悪い、そろそろ相手も耐えられなくなりつつあるのか。

実は武田軍は、防衛など考えない攻撃主体の軍だった。

だから攻撃を繰り返し、相手が耐えられなくなるように仕向けるのが常套作戦だ。


しかし相手は、かなりしぶとく全くそんな気配がなかった。

今回やっと効いてきたなと感じた者は多かった。


その日の夜、かねてからの計画通り夜襲を行う。

ほんの少しでも気が抜けていた隙は大きい。

見事夜襲は成功し、武田軍は相手も攻めてくることを知る。


さほどの被害ではなかったが、警戒することになった。


それ以降、毎晩のように夜襲が続く。

襲ってこずに音だけ響く時もあれば。

かなり少数で、陣に紛れ込んで「敵が来たー」と叫ぶ。

これには特殊工作員も手伝っている。


しばらく音だけだと思っていたら本当に夜襲だったりもする。

それも近接戦闘だけでなく。

遠距離攻撃の場合もある。


日々多種多様な夜襲が繰り返されることで、武田軍はかなりまいった。

逆に自分たちから夜襲を仕掛けて見ると全て防がれてしまう。

夜目に強い特殊諜報員が常に警戒しているからだ。

陣形的にも、それに対処できるようになっている。


逆にそれを利用されてしまう。

帰ってきた味方の兵に化けて、夜襲返しに合うのだ。

これで、手がなくなってしまった。


武田軍は日中の攻撃が出来なくなった。

そのタイミングで一気に関東方面軍は全軍攻撃を仕掛ける。

攻勢にまわれば雨の時など選ばない。

ここで攻守が逆転した。


相手の動きが鈍いことを見抜き、一気に距離を詰めて、火箭攻撃を行う。

今までと違い肉体疲労だけでなく、精神的にも疲労がでていた。

精強だった武田軍の中でも混乱が始まることになる。


どんどん距離を詰められ、遠距離攻撃が連続で行われる。

それぞれの射程位置に配置するたびに、攻撃の手数や種類が増えるのだ。

しかも、周囲を囲うように移動していく。


前からは火箭が飛び、爆弾が飛び、大きい矢が降ってくる。

気がつけば、横から弓矢がまっすぐ飛んでくる。


そして、ついに騎兵歩兵の突撃が始まる。

「全射撃攻撃をやめて、騎兵・歩兵は突撃!」太鼓が連打される。

カンスケからの指示が出た。


前からも左右に回り込んでいたところからも、騎兵が飛び込んで乱戦状態になる。

その乱戦の戦場に刀兵が斬りこんでいく。

この間に、火箭と投石機など射程が長い武器隊が前進し、後方に威嚇攻撃を行い退路を断つ。


「殲滅戦に移行せよ!」さらに太鼓が連打される。

カンスケは、農民兵は助けよとアイリに言われていたが武田軍は違っていた。

判断に苦しんだが、あのしぶとい兵が再度向かってくるのは大変だと判断した。


この殲滅戦の指示とは、投降者は助けるが、それ以外はすべて処分を意味する。

だから後方を威嚇し、退路を断ったのだ。


その後、後ろにも兵が回りこんで完全に包囲されることになる。

兵数が多い戦いは長い。

味方にもやがて被害が出る。殲滅戦とはそういうものだ。


混乱させてからでなければ、窮鼠猫を噛むになる。


投降せず逃げ出す兵にも、今回は追撃を行う。

投降者以外、処分と言う指示は徹底される。

怪我を負い、動けなくなったものは皆捕縛されていく。

投降者も捕縛は当然だ。


捕縛された敵兵は、後詰軍によって連行される。

終盤のこの時点では、後詰軍も捕縛に協力し敵兵を追い詰める。

アイリの軍は、3人一組の分隊から構成されている。


常に3人一組で1人の敵兵を目指すから、ほとんど負けはない。

刀兵の乱戦の強さには、そういった構成の仕方にもある。


朝から始まった戦いは、その日の暮れまで続いた。

それほど武田軍は強かったと言える。

既に早い段階で勝敗は決まっていたのだから、無駄ともいえる抵抗が激しかった。


投降兵は、ごくわずかしか出なかった。


カンスケは、世は広いと思った。

こういう敵もいるのだと、気を引き締めた。


















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