No087 アイリの野望、激動編 「関西方面軍」 親子合流。そして新兵器。 9歳7月~8月
マサツグは、軍を引き連れ、長い山道を通り目的地手前までたどり着いている。
しかし、ここまで来るのにかなり時間を消費していた。
せっかく領主館を占拠したのに、肝心な領主がいない。
早々にアイリとの合流を果たせるつもりだったが、領主がいる場所へ行かなければならなくなった。
予定が大幅に狂ってしまったのだ。
先行していた諜報員から連絡が入る。
情報では、この先に開けた場所があり街があるという。
その近くに居館がある。しかしそれは山の上に建っているとのこと。
山の高さはさほどではないが、坂道が厄介である。
この国では、どこの領主館や居館も似たような作りになっている。
周囲を石垣で囲み、広い敷地の中央に館は立っている。
しかしそれが山の上ともなると、まるで要塞だ。
アイリの兵器頼りだったが、こうなると使える兵器が少なくなる。
アイリの兵器はいわば、初見殺し。
平地においては、絶大な威力を誇る。
しかし、さすがに強力とはいえ対抗策はある。
何度も同じ相手に続けて通用するとは考えてはいない。
今回は偶然だが、兵器の弱点である登り坂での運用。
特に移動自体が困難な投石機においては、置いていくことになると考えたほうがいい。
移動弩や火箭においても、直射しかできないだろう。
無理に曲射攻撃をしようとしたら、かなり射程が短くなる。
遠距離攻撃や長距離攻撃が役に立たない。
しかし直射を行っても、石垣の上を越えなければ相手には当たらない。
とにかく石垣が邪魔なのだ。
いくら火箭爆弾があると言っても、石垣を崩すほどの威力はない。
諜報員から聞いた通り、街が見えてきた。
主力軍は、そこに駐屯していないという。
居館の敷地内か、もしくはその周辺にいるとしたらかなり厄介だ。
市街戦で、数少ない防衛兵がいたが、街や役場は難なく占拠できた。
問題はその後になる。
居館では、すでにこちらの情報を持っていると思われる。
山の上にある居館側から、街の様子は丸見えだ。
特殊諜報員でも石垣の向こうは、見ることが出来ない。
どうにか見える範囲で、石垣の中と外に兵がいるという。
外の兵数はだいたいわかるが、中はさすがに正確な兵数がわからない。
占拠した領主館にいた兵は、多くが徴兵された農民兵だった。
農民兵は降参したが、一緒にいた武官は討ち死にしている。
徴兵後、領主がいる居館へ移動する予定だったらしい。
軍務に関わらない農民兵からの兵数の情報は、あまり当てにできない。
たぶん1万くらいじゃないかと言う大雑把な話だった。これは参考にしておく。
諜報員からの情報では石垣の外には3千ほど兵がいるという。
装備などからそれは農民兵だと想定した。
敵領地における兵数の割り出し方を、アイリから聞いていたからそれで考えてみる。
見積もると武官兵は、7千から8千。
石垣の中にいるのが、武官兵だとすれば、
降参した農民兵たちが言っていた、1万くらいと言うのは妥当だったといえる。
指揮官が集まっていろいろ協議するが。
どうしても力押しになってしまう。
兵の訓練度と武器を考えれば、それでも勝てる可能性はあるが被害は大きい。
山を登ることで騎馬の突進力は減衰し、歩兵数は敵の方が圧倒的に多い。
もし負けてしまったら、追撃を受けるのはこちらだ。
弩兵や弓兵で、追撃を撃退することは出来るだろうが、騎兵や歩兵の被害は計り知れない。
いい案がないまま、カネツグの言う案を実行してみる。
非情に消極的ではあるが・・。
居館の周囲を囲い、外にいる兵を驚かすために火箭攻撃を行うという物だ。
まずは少しでも兵を減らす。
どうせ見つかっているなら、その後降伏勧告を行い出方を見る。
皆の意見も、それでまとまった。
領主館の時と同じように、それそれの軍が分かれて周囲を囲う。
配置に着くと、マサツグから指示が出る。
「火箭直射準備!目標は居館の石垣手前。」
農民兵に直撃させるわけにいかないため、無駄を承知で石垣付近に火箭攻撃を仕掛ける。
これで驚いて逃げるか、その後の降伏勧告に従うだろう。
「火箭発射!」太鼓が鳴る。
次々居館周囲からロケット花火が飛ぶ。
それは狙い通り石垣手前で爆発し、爆音が響く。
当然石垣の外にいた兵は驚き、右往左往する。
運悪く、石垣の中にいた兵が様子見の為、外に出ると直撃した。
石垣の外の農民兵は、石垣の中に入ることもできず、やがて逃げ出す。
石垣の中の兵は、それ以上外へは出てこなくなった。
それをみて、一度攻撃を止め降伏勧告をおこなう。
外にいた兵は、あらかた逃げるか降伏した。
「うむ、ここまでは作戦通り。」
マサツグはそう言うと。
駄目もとで、居館に降伏せよとの使者を送る。
しばらくたって戻った使者は、徹底抗戦だという。
この後、お互いに手が出せなくなり膠着状態になった。
そこへアイリから送られた諜報兵が伝連を持ってきた。
今こちらに向かって進軍中であるという。
マサツグはアイリに会えるという嬉しさより、
自分からアイリの所に行けなかった悔しさがわき出た。
しかし、これは天の救いでもある。
アイリなら何か策を考えてくれるに違いない。
アイリ援軍の知らせを聞いて、各指揮官だけでなく兵もみな喜んだ。
その日は警戒しながら、居館の囲いを解かず。
アイリが来るのを待った。
翌日の朝、
アイリが軍を率いてやってきた。
すでに、情報は聞いているからいろいろ考えてきたという。
マサツグとアイリは挨拶をかわした。
アイリは、「あの石垣を何とかするから、その後に火箭攻撃をお願い。」と言った。
各指揮官はそれを聞き火箭の準備に入る。
火箭の照準は、アイリの指示で居館敷地内になる。
アイリは数頭の馬にひかせて、何やら新兵器を持ち出した。
居館の東西南北にそれぞれ配置し、それはとてつもない轟音を轟かした。
アイリが持ってきたのは大砲である。
大阪の地で使用できなかったことから、サイエンとアイリは少し残念だった。
だからこちらに持ってきたのだ。
アイリ側からの進軍は平地が多く、移動もさして大変ではない。
大砲を山の上にあげるために苦労しただけだ。
この時、持ってきた大砲は全部で12台。
爆弾を飛ばすものではなく、鉄球を飛ばすものだ。
アイリはこれを使って石垣を壊そうと考えた。
壁がなくなれば、直射攻撃が居館敷地に届く。
大砲は結構重量があるから、坂道を無理して登ったのだ。
当然、大砲の狙いは石垣である。
「サイエン、あれを壊すまで打ち続けてね。」
アイリがそう言うと。
サイエンは、笑って答える。
「姫、そんな簡単なこと、我が大砲の前にあれなど板壁同然ですよ。」
石垣と言っても、そこらの石を積み上げた程度の物だ。
アイリが苦心して作らせた石垣とは大違いである。
アイリは前世知識で城壁の石壁を参考にして、領境砦や居館はそれで囲った。
大砲の試射では、そのアイリが作らせた石垣でも効果が実証できている。
しかし他の兵器が、あまりにも使い勝手がいいため大砲の出番がなかった。
曲射できる兵器であれば、石垣の上を越えて中の人を攻撃できてしまう。
攻撃されたら、ほぼ相手は石垣の外に逃げ出すから、あまり実用性が無かった。
後でじっくり石垣の中に、攻め入ればいいだけだったのだ。
しかし今回は、これで楽しみにしていた実戦試射が出来ることになった。
アイリとサイエンは、嬉々として喜んだ。
すごい轟音が辺りを包む。ドーンドーン、ドカン、ドカン
最早その音だけでも、敷地内の兵は戦々恐々としている。
やがてあちらこちらで、石垣が崩れ始めた。
四方の射線が通るようになると、大砲を止め火箭に火がつく。
居館周囲からロケット花火が飛ぶ、しかも連射である。
小さな爆発が連続で続き、あたりは煙に包まれた。
「火箭攻撃中止。」
アイリは頃合いを見て、弓兵と弩兵に指示を出す。
「火矢の準備。」「狙いは居館。」
「弩兵は前で警戒。」
弓兵は前進して、火矢を準備する。
その手前は弩兵である。弓兵を守るように、姿勢を低くし弩を構える。
「準備出来次第、順次曲射!」
次々と火矢が、居館めがけて飛ぶ。
既にこの時点で居館の敷地内の兵は、ほぼ沈黙している。
息のあるものも、もはや戦意など無い。
あまりの惨状に、ただ座り込んでいる。
居館が火災になると、中から人がどんどん出てくる。
向かってくる兵は、弩兵が狙いすまして直射する。
アイリは、射撃を中止させ、勧告を行う。
「領主は前に出てきなさい。私は右大臣近衛大将、織田愛里である。」
幼女の口にメガホンというのが、なんとも様にならないのだが、日本警察張りのセリフだ。
領主は焦げた衣装を身にまとい、顔には煤がついている。こちらも様にならない。
アイリはそれを見てボソリという。
「あー駄目だこの人。」アイリの目には人物事典。
それは黄色と赤色が交互に点滅していた。
根が悪人で、この期に及んでまだ敵意むき出しと言う状態だ。
アイリは仕方なく捕縛を命じる。
生き残っていた敵兵と領主は刀兵に次々捕縛されていった。
こうして、アイリが言う和歌山も、アイリの仮支配地になった。
後は、南方の紀伊半島に残る郡役場と残党を処理するだけになる。
アイリは、和歌山をタカヨリに任せ。
マタベエには、後詰軍と協力して、紀伊半島への南進を指示する。
長い山道を行くより平地移動のほうが楽だからと、一度全軍で東に向かい。
指示した2軍は、そこから南へ下った。
アイリは大阪の地に戻ると、
新人指揮官のウジサトとウコンの2人に、北部への移動と、シガ領へのルート確保を指示する。
これで、シガ領から南西はアイリの支配地区になる。
大阪での戦後処理は、オイチとギンの支援で進んでいった。
アイリは官吏院に報告して、この地一帯に人材を派遣するように頼んだ。
水軍はこの地でそのまま待機し、入れる港に船を入れ港の改築に協力を始めた。
この時、既に8月の上旬に入っていた。
アイリは大阪に大量の資材を集めるように、官吏院と直轄事業へ指示を出している。
アイリの計画で、ここに今までない大きな砦を造る相談が進んでいた。
アイリ直下の職人にも集まるように指示を行い。
その指揮監督として、タカトラを任命した。
やがて人が集まり、資材が集まっていく。
8月中旬、
アイリは遅れて、この地の命名を考えている。
支配地が一気に広がって、対応が大変だったのもある。
それと各地の、境線を見直しする為、時間がかかった。
ルール的にどうとか言う前に、辺り一帯が実効支配地だからアイリの好きにできる。
しかし、命名を考えるのにどうしても面倒で、境線の引き直しが先になったのだ。
実際に線を引くわけではない、アイリの頭の中の地図で検討される。
その後、皇王様に申請を出せばいいと気楽なものだ。
領主申請も手馴れてきたから、遅れても問題ないと知っている。
しかし開発の為には、きちんと明確にしなければ、指示が混乱してしまう。
アイリは自分の地図と前世の記憶で、各境界線を引きなおし地名を考える。
アイリは苦手な命名作業でまいった。
「あーもうメンドクサイ。」
つい本音が出てしまうアイリだった。




