No085 アイリの野望、激動編 「南関西方面軍」 重要拠点占拠。 9歳7月~
アイリが和歌山だという地。
アイリたちの輸送船と別れ、船で上陸出来たこの場所は不明だ。
北がどちらからもわからない。
アイリが作った指南車という物があるが、あればずっと陸を移動していないといけないらしい。
海路からの移動では、正しく南を示すことが出来なくなるという。
上陸するとすぐさま、各方面にアイリの情報員が散っていった。
アイリは、心配してかなり多くの諜報員を準備してくれた。
戦場において一番重要なのは情報である。
アイリは、ことあるごとにそれを言っていた。
諜報員も陸路でかなり離れたこの地の経験者はいない。
今は一刻も早く、位置がわかる情報取得を優先する。
人がいる場所がわかればそれは速い。
しかし、人がいたらこちらの存在が知られてしまう。
早い時期に、こちらの存在が知られるのはまずい。
ここは敵地だ、時間をかけすぎて相手の準備が整うと危険になる。
迂闊に動けない状況は、時間が長く感じる。
とにかく、自分たちの任務は奇襲。
重要拠点である領主のいる場所を占拠し、その後、周辺を占拠し安定させる。
南はアイリが言うには、主要拠点占拠後、
時間をかけて占領地であることを認識させればいいという。
それが達成出来たら、この任務は完了となり再びアイリと合流する。
関西方面軍としての真の活動はその後だ。
マサツグは、カネツグ、タカヨリ、マタベエの各司令官と諜報員からの情報を待つ。
夏のせいなのか、この地が南にあるせいなのか、わからないがとにかく暑い。
しかし、汗と言うより冷汗が流れる。
アイリは大阪と名付けた場所が、今回最大の目的地だと言った。
その後方に位置するこの場所の占領は、大阪の維持に重要だという。
かねてから、事あるごとにアイリには重要な戦場を希望していた。
「娘のために何としても力になりたい。」それがマサツグの思いだった。
だからこの作戦で任命を受けた時には、非常に嬉しかった。
アイリとの共闘も楽しみだ。
ある意味、戦しかできない自分は、内政では全く力になれない。
それは弟のカネツグも同じで、戦いでアイリを支えるという。
弟は指揮官の勉強や訓練をかなり努力していた。
アイリは内政の力だけでなく、戦いにおいても天才だった。
あの娘に出来るだけ近づきたいと、努力したのは自分も同じだ。
見る間に領地を広げ、発展させていく。
あの時、娘にすべてを託したのは間違いではなかった。
それは自分の一番の功績だと言える。
マサツグは、早い時期に引退を宣言。
アイリに後を託し、自分は臣下として支えると言った。
自分の娘でありながら今や時の人。
皇王様と親しくなったのも驚いたが、官位を授けられ最高位になっている。
それ以上、上の官位は今は誰もいないと聞いた。空位らしい。
多くの人がアイリの元に集まり、大領地を持ち大軍を動かせるほどになった。
アイリが3歳の時に妻が言った言葉は、今でも忘れない。
「アイリは、この国を統一するかもしれませんよ。」
自分はそれまでアイリを支えるつもりだ。
一緒にこの国の新しい姿を見る。
アイリ本人は何も考えていないようだが、皇王様も思いは同じだった。
「アイリが作る国を見てみたいな、マサツグよ。」
皇王様から言われたお言葉だ。
アイリが方面軍を編成し、各地へ派兵すると知った皇王様は
「やっとその気になってくれたのか」とそれはもう喜んでいた。
実情を知る自分はやや困惑したが、しかしそれは第一歩を踏み出したと言える。
やがてマサツグ達、指揮官の元へ情報が入る。
進むべき位置がわかり、アイリの言う通りこちらへの対応手段は準備されていない。
後は時間との戦いだ。
情報員に案内され、全軍移動を開始する。
兵からも安堵が漏れる。
「速やかに重要拠点を占拠し、領主を捕らえる。」
目標はそれだけ。
移動途中にあった街や役場は、後詰軍に任せてとにかく先を急ぐ。
指揮官との協議において
重要拠点を包囲し、そこから徐々に前進することに決まった。
寡兵による包囲戦だ。
アイリが作る兵器があるからこそ、できる戦法だと言える。
仮に各個撃破されたら、こちらが危険でもある。
領主を逃がさず、最短で完全占拠するのはこの方法が最適だろうという。
弟カネツグの意見であった。
方面軍はそれぞれの方向に別れ、迂回ししていく。
これからは、指揮官各自の判断と情報員からの情報、そして伝令が頼みになる。
諜報員からの情報が入る。
重要拠点における敵防衛兵は約8千。
「準備が出来ていない割には、多い兵数だな。」
マサツグはそう思った。
警戒しながら移動すると、かなり大きな規模の街が視認範囲に入ってくる。
マサツグは、一番北の方へ回り込む。
そこは、最大の危険地でもある。
自軍の配置が終わらなければ誰も動けない。
ここで情報員から情報が入った。
海から水軍が支援を開始。現在、海側の港を占拠中。
「これはきっと、アイリの支援だ。」
アイリの方は、うまくいっているらしい。
マサツグは配置に着くと、直ちに各指揮官に準備完了との連絡を行う。
ここから先は、敵の動きを監視しながら徐々に距離を詰めていくことになる。
各指揮官は、それぞれの判断で前進を開始する。
マタベエは、アイリの軍での初めての戦いになる。
というか、今まで仕官した領主から軍を指揮させてもらえる機会がなかった。
それどころか、一兵卒として戦場に出るのがやっとだった。
アイリの元に来て仕官候補として採用されたことは、どれだけ嬉しかったか。
それだけでなく色んなことを、教えてもらった。
早くから指揮官補として任命され、大隊の指揮訓練を行えたのは感激した。
今回は指揮官としての従軍である。これは、大抜擢ともいえる。
しかも、重要作戦だ。
新参にもかかわらず、「皆をよろしくね、あなたらなきっと出来る。」
そうアイリに言われたことは、きっとこの先も忘れない。
恩に報いるためにも、絶対に成功させる。
マタベエは、決意を新たにする。
タカヨリは、父からいわれた言葉を思い出していた。
「アイリとは戦わず、進んで協力をすること。」
そう言って父は隠居した。
この後アイリの政策を知り、その軍の強さを知ることで父の言葉の正しさを知った。
気が付くと自分はアイリに心酔していた。
進んで臣下となることを望み、やがてそれは叶えられた。
幾多の政策を近くで見て、それを教えてもらった。
そして指揮官補としての採用。
何のとりえもない自分に、内政と指揮の両方を教えてくれた。
新しい兵器と軍隊の訓練を知った時には心が震えた。
「あなたに望むのは強い指揮官ではなく、占領後の政策を考えた戦い方が出来る指揮官。」
アイリからこう告げられ、指揮官として任命された。
自分はたぶん他の人たちと比べるとまだまだだろう。
しかし、アイリからの期待は裏切らない。
水軍は、港を確保すると長距離攻撃で陸地を攻撃し始めた。
その為、防衛兵はそれに気を取られ、港の方へいくらか移動する。
方面軍は、完全包囲をするとさらに前進し、街の占拠に入った。
アイリから街は破壊しないようにと注意されていたので、投石機や火箭は使用できない。
後詰軍にも援軍を頼み。とにかく領主館を探す。
途中で出くわす防衛兵は、騎馬兵と歩兵で対処していく。
諜報員から領主館位置が報告され。
各指揮官はそこへ向かい、包囲する。
防衛兵の多くはそこにいて、徹底抗戦の構えだ。
ここへ来てやっと、兵器が使用できる。
領主館に限り、破壊はしてもよい。アイリの指示だ。
領主館はどうせ壊して、作り直すからいいというものだったりする。
領主館の包囲作戦は、遠距離攻撃が主体。
館内にいる人間を外に出すため、領主館を攻撃する。
ここに来てやっと火箭が火を噴くことになる。
領主館を守る兵は驚き逃げ惑う。
領主館自体は、投石機による焼夷弾の攻撃で火災が発生し中から人が飛び出てくる。
その状況を見て、降伏勧告を行う。
領主館から突撃してくる兵は皆、射兵の直射で沈黙することになる。
残った兵はその状況を見て負けを悟る。
命が助かった兵は、全て投降することになった。
そこで、マサツグはここに領主がいないことを知る。
これは、任務完了ではなく継続を意味することになる。
領主は主力をまとめ、北の山間部にある拠点にいるという。
そこにも大きな館があり、領主はかなり前からそちらに移動していた。
しかも主力軍がいる。
カネツグは、言う。
「直ちに兵をまとめ、そこへ向かいましょう!」
投降兵から聞き出した情報を元に、諜報員に先行を頼む。
マサツグは、この地を後詰軍に任せ、カネツグの言う通り全軍を移動する決意を固めた。
協議する時間も惜しい。
皆の顔を見渡すと皆納得している様だ。
「直ちに兵をまとめ移動準備。」
南関西方面軍の戦いは、まだこれから続くことになった。




