No084 アイリの野望、激動編 「関東方面軍」 目標と意思の統一。 9歳7月~
7月、カンスケはアタミの地に来ている。
アイリと出会った頃には、こんなところまで来るとは思いもよらなかった。
その時アイリはまだ領主ではなく、領主の一人娘。
しかも幼児に近い年齢だった。
その後、幾度となく戦いを経験し、戦場でアイリと行動を共にした。
尊敬する領主であり、敬愛する友人でもある。
アイリは突然、方面軍と言い出して。
各地に軍を分散し、派兵すると言った。
今回のアイリの目的は全く理解できない。
いや、他の方面軍の意図はわかる。
戦略的に重要だということぐらいは理解できた。
自分が総指揮官になった関東方面軍の意図が謎なのだ。
確かに地形的にアタミは飛び地になっている。
しかし、普通なら防衛するだけだろう。
出来れば自分は、アイリの元にいたかった。
関西方面軍とは、死地に赴く軍だ。
アイリはこともあろうに、新人指揮官を連れて行った。
関東方面軍を任せられるのは、カンスケしかいないという。
アイリからの指示は、アタミに隣接する豪族の討伐。
その後は、関東における武田家の警戒。
そして最終的には、関東に拠点を築くこと。
方法やその後のことは、すべて自由だ。
その場の状況に応じて、臨機応変に対処することが大切だという。
アイリはそのために古参である、ハンベエとカンベエを付けた。
彼らはアイリから直接、謀略戦の教育を受けた者達だ。
若いとはいえ、経験も豊かで侮りがたい。
そしてマサノブは、内政など政治的な教育も受けている。
占拠後のことは、マサノブに任せればいいとアイリは言っていた。
確かにこれを見れば、柔軟に対応できる人選だと思う。
しかしこれだけの者を、関東に投入してよかったのだろうか。
カンスケは、とにかくアイリのことが心配だった。
しかし、「カンスケじゃなければ難しいから」と言うアイリの期待に応えるしかない。
「どうせなら、姫が驚くような戦果を上げてみるか・・。」
お互いの戦いが終わって、再び会える日を楽しみにカンスケはそう思った。
今は情報員からの情報を待つ。
最初の目的である豪族が、支配する郡の数と位地。
アイリは、基本的に支配地が平地である場合。
その収穫量から、1郡に付き最低武官数は500人。
農民兵の最低徴兵数は、5000人規模が目安だという。
これによって敵の兵力の想定が可能になる。
アイリのような特殊な領地経営が出来なければ、確かに一つの目安としてわかりやすい。
戦い続ければそれは減り、戦いが少なければそれが増える。
最大は、目安の倍ほどになると考えればいいという。
後は時期だ、アイリの軍は時期に関係なく動ける。
それに対して、他の領主が徴兵できる時期は限られる。
専門兵か徴兵かの違いは、訓練度だけではなく維持期間への影響も高い。
戦をする場合、秋の収穫期は避け、夏になると兵糧の不足と収穫期の準備で兵が減る。
それがこの国の当たり前の姿だ。
諜報院からの連絡で、3郡を支配に置いた豪族であること。
主要拠点は、アタミから見て東へ二つ目の郡になること。
ひとつ目の郡では、警戒して防衛軍が駐屯していること。
防衛兵の数は、約5000だという。
今は夏に入った時期になるから、これから先は徴兵しにくくなる。
と言うことは、徴兵による農民兵が今後増えることは難しい。
戦いがあまりなく支配地の規模からいうと、最大で武官数3千、徴兵数3万
しかしあらかじめ準備できていない場合の徴兵数は通常目安でいいから
半分の1万5千程度と予測できる。
これは、順次撃破していけば数での負けはない。
しかも前線の武官配置の比率が高いのが経験からわかる。
初戦を大きく勝てば、後は流れで敵はジリ貧になるだろう。
すでに、豪族の地では情報員による工作が行われている。
アイリの情報員と言うのは非常にありがたい。
カンスケは、勝利の構図が描けた。
豪族との戦いであれば、通常戦法で充分だといえる。
この後、各指揮官との協議に入る。
カンスケは、課題を言う
「豪族の支配地を一気に占拠して、周辺領主との対応を優先したい。」
ハンベエが案を言う。
「武田家は信濃まで侵攻しているとのこと。豪族対処後は速やかに関東へ広げるのはどうですか。」
カンベエが答える。
「豪族の重要拠点が2郡目ならば、そこを占拠すれば大きく力がそがれる。」
「その時点で、周囲の領地を占拠すれば、たとえ逃げ延びても豪族は負けを認めるでしょう。」
マサノブがそれを聞いて案を出す。
「たぶん皆さんも、姫に大きな戦果を贈りたいとお考えのようです。」
「豪族2郡と関東3郡の制覇後に豪族に降伏勧告するのも悪くないでしょう。」
カンスケはそれに答える。
「なるほど、一気に6郡を手に入れ、姫に領主を贈るというのか。」
「そこから武田家と対峙しても、姫からの指示を守ることになるな・・。」
指揮官は皆それを聞いて賛同する。
そう、カンスケだけではなく全指揮官は皆同じ事を考えていた。
関東方面軍を任された以上、その意図することろはわからなくても今は時の利がある。
これは姫に大きな贈り物を贈ることが出来るタイミングだ。
行動の自由が許される関東方面軍が出来ることは、姫を喜ばすこと。
指揮官の関東方面に対する戦略の意思が統一される。
6郡を取り、関東に覇権を築き、姫に領主を名乗ってもらう。
これを、目的として戦いの場に行く。
全指揮官は自軍に戻り、兵に同じことを告げる。
兵も皆賛同した。彼らも姫が喜ぶ姿が見たいらしい。
この後、関東方面軍は、末端まで含め全員が一つの目標に邁進する。
「時の利を活かし、収穫期までに6郡を制覇する。」
「全軍移動開始!」
各指揮官から指示が出る。
いよいよ、初戦が始まる。
そこでのんびりしているわけにはいかない。
それぞれが自分のできる最大のことを考え実行しなければ目標の達成は難しい。
意思が統一された軍は強い。
この後、関東方面軍は、関東を新たな戦いの渦に巻き込んでいくことになるのだった。




