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No083 アイリの野望、激動編 「北陸方面軍」 ケンシンの思いと初戦開始。 9歳7月~

7月初め頃。


北陸方面軍は、シガ領北のキノモトに移動していた。

この地でアイリが浅井家に送った使者からの返答を待っている。

それは降伏勧告に等しい。


その返答次第でどう動くかは、方面軍の指揮官で話し合えと言われていた。

ケンシンは、新参である自分が総指揮官に任命されたことに非情に恐縮した。

アイリは、間違いなく総指揮官として期待に応えることができると太鼓判を押してくれた。


指揮官に任命されたのも大抜擢だった。

それは他の指揮官も、みな同じだという。

アイリは、経験豊かなノブツナを相談役としてケンシンに付けた。

ノブツナは、ここにいる誰よりアイリと共に行動している時間が長い。


そのノブツナは、アイリのことを素晴らしい領主だと絶賛している。

確かに、領運営は驚くべきものがある。

次々打ち出される政策と実行力、努力を惜しまない姿勢。

領民目線で語り、一番大切なのは領民であるという。


今まで自分が知っている領主とは大違いだ。


それと驚くことに、各種武器や兵器の数々。

それはアイリ自身が考案し、作成の協力をしたのだという。

それだけではなく、その武器や兵器の運用力。

効率のいい軍の編成。


指揮官になるためには、まず勉強をしろと言う。

軍術の勉強から始めるのだが、アイリ軍術と言われたそれはまさに兵法の常識を変えた。

忙しいにもかかわらず自分たちの元に来て自らいろいろ説明してくれた。


指揮官訓練の時もそうだ。

時間をやりくりして、一人一人に声をかけ励ましてくれるのだ。

「頑張ったね。」と誉めてくれるのが、何と嬉しかったことか。

去り際に必ず、「あなたは、きっと良い指揮官になります。」

「努力をして、励んでください。期待してますよ。」と言われた。


そして自ら戦場に立つ姿。

今は、シガ領になった北部でのアイリの戦い方はすごかった。

倍近い相手に対して、自分をオトリに使い相手を誘導して勝利した。

その時の奇策と兵器運用は、忘れようがない程の驚きだ。

結果、合戦開始からたった一日での完全勝利だった。


その時、アイリは「逃げる者は負うな。」

「降参や捕縛した者は解放せよ。」と言った。

これは今までのこの国の常識ではありえない。

普通は完全殲滅するために、敗残兵狩りまでするのだ。


アイリは、「農民兵は出来るだけ命を取ってはいけない。」

「彼らは大切な領民だから、敵でも守るべき存在。」だという。

その考え方が、アイリの軍において徹底された。


確かに素晴らしい領主だ。それと天才的な兵法家でもある。

ノブツナが絶賛するのを、指揮官は皆納得していた。

自分も全くその通りだと思った。


ケンシンがそんなことを考えていると、浅井家から使者が戻ってきた。

使者からの返答は、「小娘ごときに恐れて降参するものか!」だった。

先の戦場での惨敗をまったく気にしていない。

「部下からの報告を聞いているだろうに・・先の見えぬ領主だな。」

ケンシンは、そう思った。


自分は安全なところにいて、罪のない領民を苦しめ戦いを仕掛ける。

それがこの国に多くいる領主の姿だ。

ケンシンは溜息をつくと、アイリが言っていたように全指揮官で話し合うことにした。


ケンシンは、まず自分の意見を言う。

「姫の言ったとおりになった。北陸侵攻を実施したほうがいいと思うのだが。」

アイリは事前に指揮官たちに言っていた。

「たぶん、降参しないで徹底抗戦になるでしょう。」


指揮官全員、北陸侵攻作戦の実施に賛同した。

既に準備は整っている。

シンゲンは告げる。「全軍北へ移動。浅井家を討つ。」


北へ向かうには、山間の隘路を通ることになる。

指揮官は移動中の警戒を行った。

「防衛戦において、行軍中の敵を奇襲をする場合には、山間や森の隘路が最適。」

アイリはこう言っていた。


情報員から報告が来る。

「この道に敵はいません。」

「敵は道を抜けた先の平地で待ち構えています。」


この情報員からの情報はありがたい。

アイリは戦において一番重要なのは情報の取得だという。

その為、アイリからの支援でこういった情報員を先行配置してくれている。


しかもこの情報員は敵地への工作も行い、あらかじめ領民は領主に敵対意識を持っているという。

領民は常々不満を抱えているが、領主に対する不満は命が危なく我慢している。

口に出したくても、口に出せないというのが実情だ。

情報員は、領民になりすまし、口にできないはずの不満を言う。


人間とは不思議なもので、誰かがそれを言うと安心して同じように不満が言える。

今まで我慢した分の反動は大きい。

嘘を広げるわけではなく、領民の思いを代弁するものだ。

アイリは領民を敵にしないため、事前にこういう工作をするのだという。


やがて北陸方面軍は山間の隘路を抜け、平地に到着した。

情報で聞いていた通り、防衛で待ち構え、迎え撃つ気のようだ。

これは敵方の迎撃戦闘になる。


アイリはこの国における迎撃戦の注意点としていくつか挙げた。

地の利と時の利が防衛側にある。

徹底抗戦の場合には、相手から討って出ることはまずないだろう。

こういう場合は、むやみに攻撃を仕掛けるのではなく、情報の取得と分析を行うこと。

敵の弱点を見極め、そこを叩けというわけだ。


ここで情報員から敵陣の情報が来る。

敵は、陣の前方に農民主体の槍兵を並べ、武官がその後ろにいる。

そこには弓兵も見かける。


アイリが言うには、この国の弓兵は訓練度が低く、

中に優秀なものがいた場合、それは間違いなく狩人だといっていた。

弓の射程は、1間(約100メートル)程だ。


この射程距離と言う考え方もすごい。

基準を設け、距離感を数字に置き換える。

比較対象がしやすいことで、戦術が立てやすい。

これもアイリの案だと言うからすごいと思う。


普通の戦闘では、前方にいる農民兵を叩くことから始まる。

アイリは、領民が不満を抱えている場合、農民兵は心から闘いたいと思っていない。

戦場においては武官の目があるため、やむなく従っている。

そういう場合は、その目を摘み取ることで農民兵は逃げやすくなる。


ケンシンは、アイリから教えてもらった言葉の数々を思い出し

情報から分析を行い、この場における敵の弱点を考える。


やがて指揮官が集まり、戦術会議になる。

ケンシンは総指揮官として、真っ先に自分の意見を言う立場だ。

アイリは総指揮官とは、そうあるべきだと言っていた。


ケンシンは思っていることを言う。

「姫の言う農民と戦わず。後ろに配置する武官を先に叩くというのがいいと思うが。」


ノブツナはそれを受けて意見を出す。

「ならば遠距離曲射で、敵陣の中核を先に攻撃するということですな。」


マサユキも言う。

「距離を保ったまま火箭で攻撃を加え、前進して投石機と移動弩を運用しましょう。」


一番歳が若いシゲツグは、指揮官として戦術会議に臨む場合の心得を思い出す。

年齢にこだわらず、自分の思った意見を言う事。とアイリに言われていた。

「姫がよくやる、降伏勧告も大切ですね。」

「農民兵は傷つけない、逃げるなら逃げてください。と言うあれです。」


指揮官は皆笑った。

全くその通りだ、あの姫はいつもそうだった。


指揮官全員の意見がまとまる。

各指揮官は自分の軍に戻り、戦術案通り布陣を変える。


まずは火箭による、遠距離曲射を連射。

その後、投石機と移動弩を前進させ長距離曲射。

狙いは敵の武官が配置されている陣の中段から後ろだ。


自陣前方には、騎兵と歩兵を配置する。

敵が接近してくるようなら、その後ろにいる弓兵と弩兵が前に出て直射を行う。


敵陣の中核である武官が混乱したら、伝令兵により大声が出せる道具で降伏勧告をする。

大声が出せる道具とは、メガホンである。


いよいよ、北陸方面軍における最初の戦いが始まろうとしていた。


ケンシンは、各郡の布陣が終わると指示を告げる。


「火箭準備。距離5間(約500メートル)にて敵陣の中程から後方へ狙いを定めよ。」


この後、戦術会議の通りに戦いを進めることになる。








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