No082 アイリの野望、激動編 「アイリ動く」 方面軍の移動。 9歳4月~7月
4月を過ぎアイリは、アイチに戻っている。
情報によると,
ヒデヨシは、西に進軍し始めたようだ。
このまま、西にかかりきりになってくれるとアイリとしては動きやすい。
アイリ領内では、まだ騒然が続いている。
特に、新編成や新武器による訓練を任される指揮官の負担は大きい。
アイリはこれも指揮官の勉強だと言って、励ましている。
ある意味一番負担が大きいのは防衛隊だろう。
経験者を方面軍に引き抜かれて、新兵率が著しく高い。
ほぼ最初から素人を訓練するようなものだ。
シガ領周辺は、アイリがシガ領からいなくなったのを知って、気を抜いているらしい。
そこへ味方の裏切りの話が出てきて、少しづつ疑心暗鬼になっている様だ。
アイリがいないのをいいことに攻めることもできず、かと言って兵も解散できなくなっている。
人は多少の事でも疑心暗鬼になりやすい、それが過度でなくてもそのうち蓄積するだろう。
何故かトウキチロウに関する情報がなくなった。
あれだけ使者を送りまくっていた細川家も動きが無い。
相変わらず甲斐で小競り合いが始まった。
「全く何のためにしているのかさっぱりだ。・・ふぅ」
アイリの方面軍が動き出したら、きっと驚くだろう。
そうなると、沈静化するかもしれない。
これ以上続けば、あの避難民と同じように領民が苦しむ。
アイリの派兵は、そういう目的も含んでいる。
時は流れ、5月中旬になる。
甲斐ではやっと決着がつきそうになっている。
武田家が、ほぼ支配している様だ。
歴史同様強いのだろうか。
トウキチロウらしい怪しい動きはなく。
気になるヒデヨシは、西で戦いを始めている。
どんでん返しのように戻ってくるかもしれないからしばらく様子見だ。
いやそれを言うなら、中国大返しだ。
シガ周辺領でも動きが無い。
ひたすら防衛に専念している感じだ。
信長包囲網イベントは、それが出来上がったから終わりになったのだろうか。
シガ領の西部の京極家も動きが無い。
ミツヒデを失い、あらかた使えそうな武官は皆アイリのところに来ている。
確実に戦力が減っているし、周辺領が怖くて動きが取れないのだろう。
6月中旬。
アイリの領内では、関東方面軍が移動を開始。
その後、北陸方面軍も移動を開始する。
アイリは念のため浅井家に降伏勧告の使者を送っている。
不可侵条約が切れたからだ。
武田家は甲斐から信濃に侵入したらしい。
一方、三浦家を名乗る蘆名氏は、何故か越後の方に軍を送っている。
武田家に勝てないと思って徹底抗戦では無く、逃げの一手なのだろうか。
越後の地はいまだ豪族が多く、各個撃破しやすい。
強い者から逃れ、弱いところへ行くのも戦国乱世ではよくある話だ。
ヒデヨシは進軍中で、トウキチロウは鳴りを潜めている。
アイリも移動をすることにした。
移動先はアツミの軍港である。
そこからクシモトまで行かなければならない。
この間アイリは、情報収集していただけではない。
内政と仕官面談を行っていた。
今年は花火祭りに参加できないからと、準備を皆に頼んだ。
アイリが移動したら、もう情報や報告は届かない。
アイリは浅井家の使者の報告を聞いて判断するのは、北陸方面軍の指揮官に任せると言った。
これ以降、すべての方面軍は独自の判断で動くことになる。
「指揮官同志でよく話し合い決めるように。」これがアイリの最後の指令になった。
アイリは、海路で一気にクシモトへ向かう。
7月上旬。
もう2方面軍は動き出しているだろうと予測する。
アイリは現在クシモトに到着し、タイミングを見ている。
「そろそろかな・・。ふふん」移動を決断する。
海路での移動時間もあるからだ。
「全軍移動します!」
アイリの一言で、二つの関西方面軍は移動を開始する。
数日後には、見知らぬ地で戦いを始める。
アイリの予想では、平地が広がる前世の和歌山市あたりに、
領主館がある主要郡が存在すると見ている。
そこからやや南の地で上陸するようにと、父には話しておいた。
と言っても詳細はわからないから、輸送船の船長任せだ。
アイリはさらに西へ移動し大阪を目指す。
ここで、船団は別れ、後は方面軍が自分の判断で動いていくことになる。
クシモトを立つ時、アイリは父に会い。
「次、合うときは大阪ですね。」と笑った。
マサツグは、「うむ」と一言だけ返した。
親子の間ではこれだけでも思いが伝わる。
アイリは、実はすごく心配だった。
この地に関する情報が少なく、アイリから何もアドバイスができない。
上陸奇襲と言うのは一歩違えば、即大敗でもある。
敵地の真っただ中に行くからだ。
行くも引くも、敵だらけになる。
上手く上陸しても、戦いが長引くだけで窮地に立つ。
究極の背水の陣なのだ。
アイリの軍は強い、兵器の数々も揃っている。
それでも寡兵には違いない、2万に満たない兵なのだ。
アイリは、支援のために特殊諜報員を随行させた。
それは情報取得だけでなく、窮地に立った時に父を助けたいがためでもある。
その為、多くの特殊なスキル持ちの特殊諜報員に任せている。
中には戦闘スキル所持者もいる。
アイリが赴く場も安全では無い。
むしろ最も危険であると言える。
アイリが選んだ上陸地点は、前世で言う堺のあたりである。
地図が機能しないため、少ない情報で何とかそこへたどり着けないかと思っている。
これについても、輸送船の船長任せだ。
移動中は、しきりに沿岸を見つめている。
アイリの視認範囲だけは、マッピングされるからだ。
既に淡路であろう島と和歌山の間は抜けている。
ここからは、輸送船の船長に上陸地点を選んでもらうことになる。
船が接岸できるかもしくは、船から下りられる場所。
輸送船は、浅瀬でもある程度進めるようにはなっているが、座礁しては意味がない。
時間との戦いにアイリは焦りを感じる。
やがて上陸地点が見つかった。全軍に上陸の指示を出す。
そこがどこなのかはわからない。
この地での貿易経験がある輸送船の船長が言うから信じるしかない。
ここから急ぎ北に向かうだけだ。
北にしばらく移動すると、街が見えてきた。
ここで、ナオトラがアイリの元に駆けつけてくる。
「何か嫌な予感がする。」
それは、サヤカも同じだった。
成長前でもスキル機能はある程度あるのだろう。
アイリは二人の言葉を信じる。
その時遠くで、バーンバーンと音が聞こえた。
「えっ銃声?」
先頭にいたアイリは、街の手前まで300メートル程の距離にいる。
特殊諜報員の物見から報告が来た。
「前方に、異様な風体の男が数人います。」
「それの様なものを持っていました。」
特殊諜報員が指を差したのは、サヤカが持っている火縄銃だ。
アイリは即座に距離を取る。街から500メートルほど下がった。
届かないだろうが念のためだ、性能がわからないからもしもがある。
特殊諜報員からは、それ以外の情報も持たされた。
背が高く、洋服の様なものを着て帽子をかぶっている。
髪は短く、色白だという。
アイリの知る限りこの国で、洋服を着ているのはアイリの周辺だけだ。
アイリの領以外では、皆浴衣の様な着物を着ている。
アイリが洋服を広げようとしても男性受けが悪かった。
女性はそれなりに適応するのだが男性は作務衣どまりだ。
ちなみに、作務衣以外で人気なのは羽織・袴だったりする。
アイリが抜刀隊の制服モデルに新選組の衣装を選んでデザインした。
これが、男性受けして人気が出たのだ。
一般兵の制服は、明治維新時代の軍服を真似ている。
それもあまり好評ではなかった。
抜刀隊希望者は、その制服の人気もある。
そして帽子だが、どうにも受けが悪い。
男性で帽子をかぶるなど、かなり珍しいのだ。
アイリは、ヘルメットをやめたときに鉢金に変えた。
それは、軍帽の受けが悪かったことにある。
そして髪の毛だが、この国の人は皆なんちゃってポニーテールの髪型だ。
短髪な人などいない。髪が伸びていない幼児くらいだ。
髪が不自由な人でも短髪にするくらいなら丸刈りになる。
アイリが思うにそれは外人だ。
鉄砲をもって貿易にでも来たのだろうか。
この国で鉄砲を見かけなかったら散々苦労してやっと作れるようになった。
この国の人間がそんなものを持っていること自体あり得ない。
アイリは策を練る。
「少し脅かすから、その人たちを捉えて。」
特殊情報員数名に指示を出す。
「火箭、直射準備!」
「距離、約500、前方狙え。」
火箭の直射だと、それより先で爆発することになる。
「威嚇射撃発射。」
1台の火箭に火がつきミサイルの様なものが飛んでいく。
前方でバンバンと音が聞こえる。
「さて前進しましょうか。」
街の前でとらえられた男たちは、やはり外人だった。
通訳らしき男から情報を聞くと
銃を売るために街へ来たが、それを買おうとするものがいなかった。
当たり前だ、火薬の技術が無い、たぶん弾も作れない可能性がある。
消耗品を買い続けないといけなくなるわけだ。
だからその威力を見せる為に、街の商人を連れて
街はずれに来たという。
その時アイリたちが出くわしたわけだ。
商人らしき男に聞くと、どうやらここには、商店があるらしい。
行商人主体のこの国では非常に珍しい。
アイリの自由貿易郷以外で商店を見たことがない。
男は商人の中でも代表格らしい。
男は、ソウキュウと名乗った。
「あ、本物の堺の商人みっけ。」
どちらのソウキュウかわからないが間違いないだろう。
武将に同名者がいて商人にいないわけがない。
ソウキュウとは、津田宗及か今井宗久のどちらか。
遠く離れた敵地のせいか著しく鑑定技能が低下しているから、詳しい情報が得られない。
歴史ではどちらのソウキュウも、本名はソウキュウではない。
しかし、シホウやカンスケのような例もあるから何とも言えない。
他にも称した名や道号など様々だったりする。
いずれにせよ、信長にとって有効な人物だったことは間違いない。
アイリは捕縛を解くように言った。
「今からここを占拠するつもりだけど協力してくれる?・・ふふふ」
アイリは、ソウキュウに詰め寄る。
ソウキュウのおかげで街には無血入場。
郡役場を包囲占拠して、とりあえずいろいろな情報を聞いた。
もちろん、商人に大金を握らせたのは言うまでもない。
外人にも鉄砲を買うと交渉、当初の値段は前世で言うと2億。
こちらは既に同じようなものを持ってるよと見せたら値段は一気に下がった。
最終的には、500万円ほどで落ち着いた。
それは、以後も様々な海外貿易の取引をするという条件付きでだ。
商人から聞いた情報でアイリは驚く。
この地の領主は、・・・細川家だった。
領の主要役場の場所は、ここからさらに北だと言う。
アイリは急ぎ、兵をまとめてそこへ行くことになった。
案内人は、ソウキュウが選出した人物。
特殊諜報員には、先行調査を依頼。
この商人街の様な街は、どうやらアイリの自由貿易郷を真似て作られたらしい。
規模も小さく、区画もめちゃめちゃだが、一応商人街ではある。
決定的に違うのは、税の仕組みだ。
アイリが自由貿易郷の話をしたら感心していた。
案内人のおかげで、最短での移動が出来た。
街の占拠を開始する。抵抗する兵は、ほぼいない。
商人の話によると、領主をはじめすべての軍は、領境から少し離れた場所にいるという。
それは方角で言うと北の方になる。
アイリを警戒していたのか、疑心暗鬼で隣領を警戒しているのかはわからない。
これは、空き巣狙い状態だ。
次々、占拠範囲を広げていく。敵がいる北へは行かない。
海沿いの地域を全てもらうつもりだ。
水軍は、近くの海と港、街を全て支配下に置いている。
海戦もあったらしいが、殲滅完了だとのこと。
今は比較的大きな港に、武装船が配備されている。
大阪と思われる場所に領主館があったが使用人と領主の妻がいた。
防衛の武官もいたが、皆捕縛した。抵抗する者はやむなく対処した。
トウキチロウが、いるかもと思ったが見つからなかった。
領主館にいた人々からトウキチロウの名は聞けなかった。
そういう存在は知らないらしい。
アイリが言う大阪の占拠は、こうして何の苦労もなく進んだ。
この地の命名は領主が出来るからアイリが思っている名ではない。
アイリはいつも好き勝手に名をつけているから、軍内はそれで通用する。
大した抵抗もなく、海沿いの3郡を占拠。西と北は危険なので行かない。
こうして南に位置する和歌山との道筋を確保しておく。
水軍は、和歌山方面の支援に一部を移動させた。
海側から遠距離攻撃をさせるためだ。
この時点でやっと北から軍が移動したと情報が入る。
諜報院から情報を受け取ったアイリは出迎える準備をする。
アイリの布陣は、やや横に伸びた状態。
寡兵なので囲われないように投射主体の迎撃体制にしている。
南の各郡境には防衛の為、後詰軍を待機させた。
特に和歌山方面は重要だと指示しておいた。
アイリは北の郡境から手前にいる。
その方向から敵軍が来ると聞いたからだ。
アイリはいつもと異なる戦法を指示する。
「敵が距離500の時点で、火箭を連続直射。」
火箭が前に並び、右に弓兵と弩兵を配置、川を無理して渡ってきた場合の対処だ。
左に騎兵と歩兵を配置する。回り込んで迂回された場合の対処になる。
アイリは、4軍を1つにまとめて指揮できるように布陣を行った。
寡兵での迎撃戦の為だ。
相手は農民兵まで集めているから、たぶん兵数は多い。
アイリの工作でしかたなく、従軍しているなら初撃の火箭で逃げていくだろう。
それでも敵がまだ接近する様なら、火箭の後ろの投石機や移動弩の曲射が待っている。
海側を占拠して和歌山とのルートを確保した以上、後ろからの攻撃はない。
西には大きな川があって、河口近くで幅の広い場所では簡単に渡河できない。
上流から渡河しても、結局北から来るのと同じ方向になる。
アイリはこの場所を戦場に選んだ。
防衛側は、戦場を選ぶことが出来る。
迎撃戦が得意なアイリはこの平地が続く地で、ここがいいと決めた。
それはその場所で継続的な防衛を余儀なくされるというリスクも背負う。
出来るだけ威嚇攻撃で時間を稼ぐ。
「父上は、必ず来てくれる。」アイリの思いは、それだった。




