No079 アイリの野望、激動編 「近江侵攻戦4」 南北支配拡大。 8歳12月~
もう12月中旬から下旬に入ろうという時期になる。
「きっと今年は、聖祭日は無しだわ・・ふぅ」
アイリは、そんなことを言う。
周りにいた仲間たちは笑った。
戦場において、聖祭日などと言える余裕が、みなを安心させ普段の気持ちに戻す。
この後、気持ちが落ち着いたのか、いつも通り訓練や勉強に励みだした。
今回の経験を通してなのか
サヤカ、シホウ、ナオトラ3人ともスキルが発芽した。
支配地じゃ無いからなのか鑑定での詳細効果がわからないことが惜しかった。
こういったデメリットがなぜ起きるのかは気にしていない。
アイリはルールなら仕方がないとあきらめている。
地図にもアイリが通った場所だけしか表示されないから
白いページに道のように移動した軌跡が残るだけだ。
3郡は完全占拠したのだが、いつものように仮認定もしてくれない。
これは官吏院や内政官を呼んで領内政策を行っていないからなのかな。
アイリが官吏院を動かさないのは、まだ戦況が安定していないからだ。
アイリが躊躇している理由は簡単。
何時どこから責められるかわからない。
プチ信長包囲網もあるし、京極家と畠山家とは敵対したままだ。
琵琶湖移動と言う手段を相手が持つ限りはなかなか難しい。
だから、占領地と言うより戦場が広がっているだけと感じている。
こういうアイリの気持ちがスキルに影響している可能性もないとは言えないのだが・・。
畠山家に送った使者からの返答はまだ来ない。
これ以上、南北間の距離が開くのは伝達が大変になる。
「うーん、何かいい案ないかな。」
アイリは、近江の地形に詳しいミツヒデに聞いてみることにした。
それは割と道が狭くなっていて大軍が通りにくい場所。
その場所から開けた位置でこちらは待つ。
敵が無理に狭い道を通ってきたら、逐次叩けばそのうちあきらめるはず。
北の軍はそこに移動させて防衛させるつもりだ。
山の尾根が琵琶湖まで続いている場所がある。
前世の地理知識からたぶん琵琶湖の北沿岸だった。
ミツヒデが言うには、ここから西へ行くといったん開けた場所があり
その先は道が狭くなるという。
そこは3郡目の郡境でもある。これで北2郡も完全支配地になる。
アイリはそこで方針を変える。
「9軍は、ミツヒデの案内で移動し、そこで敵が来たら防衛。」
「援軍3軍は、同行して防衛支援。ミツヒデ頼んだわよ。」
ミツヒデには、軍監と言う立場を与え、参謀官を兼任させた。
「5人で協力してね。期待してるわ。」
「そのほかの軍は、大変だけど南へ急行します。」
アイリは、北に防衛兵を含めた約8千の兵を残し、南の決着を優先する。
南へ行く理由は、いくつかある。
かねてからの考え通り、南は裕福な地である。
内政拠点としては、非常にありがたい。
南が取れれば、南から西への移動が可能になる。
無理して、北の狭い道を通って西へ攻めに行くより楽だ。
南方面の周辺領主が、年を越えると動くかもしれず。
臨機応変な対応が必要。
伝達のタイムラグが発生すると後手に回る。
特に、トウキチロウと言う名の存在が気になる。
今は北から南へ移動中。
途中、米原で関ケ原の防衛隊とハシマの官吏院に北と南の兵站確保と
防衛の最前線変更の連絡を入れる。
既に関ヶ原ではなく、米原が防衛の重要拠点だ。
ここが落ちると南北共に立ちいかなくなる。
そして、米原を中心にした、内政政策実行の指示を出す。
アイリは躊躇していた近江への行政改革と領地開発の決断をした。
「これ以上、領民を放置するわけにはいかない。」
領民はアイリに期待して、新しい領政を待ち望んでいる。
米原を中心に北は長浜、木之元方面。南は彦根、東近江方面。
南北4つの郡を安定させる。
米原に拠点が確保できたら順次広げていく方式だ。
当然その都度、防衛隊が郡の守備のために投入される。
アイチには、人材投入と防衛隊派兵の支援をするように指示を出した。
ちょうどその時、南へ行っていた使者が随行させていた特殊諜報員と共に
アイリの元に戻った。
南の畠山家は、返答に時間をかけた後、
かなり強気な様子で徹底抗戦をするとのことだった。
随行させた特殊諜報員は、現地に潜む特殊諜報員からの情報を持ってきた。
徹底抗戦の陰には、他領からの援軍があるという。
「なるほどそういう事ね・・。うんありがとうお疲れ様。」
残り2郡しかなく、半壊した軍と無理やり徴兵した農民兵で防衛できるわけがない。
返答の遅れは、他領と話をして援軍が期待できるかどうかの打診か・・。
援軍が確保できたから徹底抗戦と言うわけだ。
「なら年内にあと1郡を取ってやる気を無くさせましょうか。」
止めていた南侵軍に侵攻開始を伝える。
それと共に、再び南へ移動する。
こうなると変に時間稼ぎをさせるわけにはいかない。
決戦をするなら最後の領でおこなう。
この国の郡境は、川とか山とか行軍しにくい場所にある。
前世の曖昧な地理知識では、近江八幡あたりから南にかけての場所が3郡目で
その南にある川が郡境の可能性が高い。
アイリが得意な川を使った戦場になる。
そこまでは、出来るだけ確保したい。
何故アイリが川を使うのか・・それは相手の突撃速度が遅くなり
より有効に、時間をかけて投射攻撃が出来るからだ。
遠距離攻撃が可能なアイリにとっては、川はあまり障害にはならない。
特に、火箭と言う武器がある今なら川の向こうにいる相手に攻撃が出来る。
「今なら、有利な戦場の確保が出来る。そこで出迎えましょう。」
アイリの思いは、各指揮官に伝わった。
先行していた南侵軍は、その後勢いを強めて支配地を南へと広げていくことになった。
畠山軍は連戦連敗を続け、
小豪族にまで落ちぶれた元領主は自分の決断を間違いだったと気づく。
実は、最初はアイリの軍門に下るつもりだったのだ。
相手は精強で、見たこともない兵器や部隊を持つ。
勝てる気がしなかった。
アイリから来た使者に、それを伝えるつもりでいた。
しかし時を同じくして他領からも使者が来ていた。
その甘言に乗って、徹底抗戦だと言ってしまった。
何故あの時そんなことを思ったのか・・・。
これが今の元領主の気持ちだった。
人は重要な場面で、判断を迫られるときがある。
後悔先に立たずとか後の祭りとかそういう言葉が出来るほどその判断は難しい。
しかし彼の場合は、それとは少し違う。
正しい判断をしていたはずなのに、気がついたら間違った方向へ進んでいた。
残り1郡を残して、こちらからもう一度アイリに使者を出そうと思っていた。
「今からでも許してもらえるだろうか、噂通りの人物なら大丈夫だろう。」
使者を送る準備をしていた時、何者かに元領主は襲われることになる。
アイリが郡境にいる南進軍と合流した時。
12月の末近くになっていた。
「やっぱり聖祭日は、戦場で迎えるんだ・・。」
突然、アイリの元に、特殊諜報員からの情報が入る。
畠山家の元領主が、突然亡くなった。
それは、距離と情報取得というタイムラグがあったことで数日前の出来事だった。
「それで今、南の郡はどうなったの?」
アイリは慌てた。
何故か、郡は支配者不在で放置されたままだった。
南からどこかが来ると思っていたアイリは、肩透かしを食らった。
なぜ急に、亡くなったのかは不明。
その後、アイリは全軍で南へ移動。
無血開城とでもいうべき状態で最後の郡を占拠。
アイリに抵抗する者は誰もなく、領民はやっと解放されると大歓迎になった。
これでアイリは、近江東部6郡を支配し、領主任命を受ける権利を持つことになった。
この最後の郡を前世の記憶から、とりあえず草津と呼んだ。
アイリはここで、聖祭日を迎えることになる。
「謎が多すぎて、まったくわかんない・・。ふぅ~」
聖祭日初日のアイリの言葉は、溜息と共にそこから始まった。
聖祭日の5日間は、時間が止まったかのように平和になった。
しかし、アイリの心は晴れなかった。
「まっとりあえず、皇王様への報告と領地命名でも考えておこう。」
この後、年が明けると、
アイリが予想できなかった驚愕とも呼べる事態が続くことになる。




