No078 アイリの野望、激動編 「近江侵攻戦3」 姉川の合戦。 8歳12月~
今後のアイリの主兵器になる火箭が登場。
北へ移動し、米原まで来ると
関ケ原の砦の兵が出迎えた。
アイリの指示で、投降兵の引き渡しを行うためだ。
ここで、ギフにいたユキタカの援軍と合流した。
アイチからの移動は、もう少しかかる。
挨拶も早々に長浜に向けて移動。
北からの伝令が入る。
「敵数約1万2千。今だ増加中です。」
「今のところ、戦いはなく対峙したままです。」
アイリは思う。
「たぶん、あの奇襲の報告と浅井家の援軍待ちだわ。」
敵の援軍が到着すれば、数の均衡は一気に崩れる。
時間稼ぎのために、わざわざ奇襲と錯乱の二段構えの作戦を実施したのだ。
「さて、ミツヒデはどう動くつもりなのかしら・・ふふふ」
長浜の地へ入る。
そこからさらに北に行くと、北の軍と合流できるはずだ。
前世の地理知識を使う。
敵軍と対峙している場所は、おそらくあの姉川の近く。
「なるほど、姉川の合戦の再現か・・ふぅん。」
これもまた歴史のいたずらなのだろうか。
ほどなく北の軍と合流。
敵軍の位地は姉川の対岸、川を防壁にしている感じだ。
こちらは、そこから南に離れた場所にいる。
「こっちから攻めにくいところにいるわね・・ふぅ」
やはり何か目的がある時間稼ぎなのだろう。
こちらは、それを知っているのだが・・・。
「アイチからの援軍が来たら前進するわ。しばらく待機。」
7軍、8軍、9軍は、横に並んでいる。
これは、遠距離投射があるから出来る布陣だ。
敵が近ずいてきたら全軍で投射する。
アイリはその後方に布陣する。
その横に援軍としてきたユキタカが布陣。
あと2軍の援軍が到着するまで、各地の情報が来ないか待つ。
現在敵軍は、約1万3千を越えたところ。
アイリたちの攻撃軍は、約1万4千。
数が互角なら、負けない自信はある。
実は、このまま攻めに行ってもいいのだが
浅井の援軍に痛い目を見てもらうつもりだ。
他領への援軍なんて勝たなければ美味しくない。
負けたら、援軍を送るなどしばらくは考えられないだろう。
勝てるつもりで、援軍にやってきたところを叩く。
それに、先へ侵攻しても敵の援軍に側面を突かれるのでは面白くはない。
アイリは、あえて姉川の合戦を再現するつもりだ。
敵の援軍が来たら、おそらく敵は倍の兵数になる。
となると勝ちを焦る援軍は、突出してくる可能性がある。
ミツヒデのことだから、自分たちは出来るだけ兵を消耗したくないはずだ。
きっと慎重な戦い方になる。
アイリの想定通り動いてくれれば、倍の敵でも各個撃破できる。
周辺領からの情報が入る。
近江の西側の領主は動きが鈍くなっている様だ。
そこあたりにいるのは、山名家、尼子家らしい
どれかの策が効いたのか、それとも様子見を決めこむための時間稼ぎか。
南西はそのまま継続らしい。その辺は赤松家、細川家のようだ。
しかし地図がないから、位地詳細とかは不明だ。
細川家は皇都の隣だから、近江に近いだろうとは予測しているが
皇都の場所がわからない。あくまで京都のイメージが元になっている。
しかし、ここへきて勝ち抜いた連中は戦国期の大名の家名だし
似たような場所にいるのは不思議だ。
歴史でも畠山家はあちこちにいたし、異世界だから考えても無駄だ。
それから3日ほど後にアイチの援軍が到着。
相手側もほぼ同時期に浅井の援軍が到着した。
遠見の兵からおよその数が報告される。
「京極軍は1万6千、浅井軍は1万8千。総数3万4千。」
「いや、もうよくそんなに集めたわね。」
一方アイリ側は、
北方攻撃軍3軍の9千。援軍3軍の4千5百。アイリの本軍3千5百。
総数1万7千。
このほかに防衛兵やら、アイリのごまかし分はあるがそれを合わせても
2万2千まではいかない。
この状況の中、アイリはとんでもないことを言う。
「あの川の前まで全軍移動。」
待ち構えるつもりはないらしい。
「布陣は、北方攻撃軍が京極軍前、本軍と援軍の混成軍は浅井軍前」
アイリは、投射武器の最大射程距離まで前進してからそこに布陣するという。
しかも、本軍自ら前線に立つつもりだ。
各指揮官は動揺する。しかしアイリの命令は絶対だ。
これが、以前から一緒に戦っていた指揮官連中なら
きっと何かの策だと気が付いただろう。
ここにいる指揮官は、アイリの軍に入ってこの戦いが初戦だ。
いくら他で経験があっても、アイリの戦い方は知らない。
味方でさえ、いいのかと思うくらいだ。
敵はさらに驚いた・・というか勝てると思い込んだ。
特に浅井軍は、自軍前にアイリの本陣があるのを見て笑い飛ばした。
こちらは倍以上の兵がいるのだ。
「噂に聞いた小娘と言うのは、大したこと無いな。」
「やはり小娘は小娘、戦の何たるかを知らないようだ。」
こんなことを言っている。
アイリの本陣には、ウサギと花丸の旗が立つ。
それを見るだけで、そこにアイリがいることがわかる。
他は全て「愛」一文字の旗が並んでいる。
しかもその本陣の旗が滑稽に見えるから、完全に舐め切った。
アイリは布陣を終えると、直ちに全投射兵に準備を指示する。
現在の位置関係は
川の北手前に敵軍が並ぶ。川を防壁にした位置になる。
アイリの軍は川から300メートルほど南。
西側(左側)が京極軍、東側(右側)が浅井軍
京極、浅井両軍は、お互い500メートル以上離れた位置で布陣した。
京極軍の前には、アイリの攻撃軍3軍が密着体系で横に並び、
それぞれが、アイリ軍術の基本布陣をとっている。
浅井軍の正面には、アイリの本軍。その右やや離れた位置に援軍の3軍
実はアイリは、布陣する際に編成を変えている。
アイリの本軍には、援軍の投射兵をすべて含めている。
その代わり、アイリの本軍にいた騎馬兵と歩兵は、すべて右にいる3人に任せた。
アイリ本陣には、メイド隊と抜刀隊がいるが、それ以外は全部投射兵となる。
3人が率いるのは全部、騎馬兵と歩兵。右に離れた位置にいる。
アイリは、敵が混乱したのを見たら、3軍で側面に回り込んで敵を叩けと指示している。
相手から見たら、軍の前方に並んでいるのは弓兵らしい部隊。
この国の弓は100メートルくらいしか飛ばない。
しかも簡単に連射などはできない。
本来なら軍の前方に並ぶのは、槍兵が基本だ。
しかも物見から、その弓兵の後ろにいる本陣は5百ほどしかいないという。
横に離れた位置に、別動隊がいるが前に並んでいるのは馬だ。
この国では、馬は足が遅くてあまり使い物にならない。
あの部隊が駆け付ける前に本陣を落とせば勝ちになる。
アイリも最初は馬は使えないと思っていた。
だから品種改良などを指示している。
ところが、訓練をするとそれなりに足が速くなっていく。
人間でも訓練で足が速くなるから当然だ。
元々馬と人間の身体能力は大きく違う。
訓練による効果は、予想より大きかった。
そんなことを知らない浅井軍は完全に勝った気でいる。
一気に本陣を目指す。正面突破だ。
これが浅井軍の指揮官含め将兵全員の考えだった。
アイリが自分をオトリに使うのは、シズオカに続いて二度目。
しかも射程を考慮して布陣をしている。
移動弩と投石機の射程は約300メートル。
弓や弩は約200メートル。
新兵器の火箭に至っては、射程は400から500メートル。
試射の時、直射気味に飛ばしたら最大600メートルまで飛んだ。
ちなみに、アイリの基準作りで感覚的に1メートルというが
正式には1メートルを1尺と呼ばせている。
100メートルは1間になる。
呼び方が寸、尺、間だが、アイリの適当な感覚のメートルが基準だ。
実は布陣した時点で、すでに浅井軍すべてが火箭の射程内にある。
アイリはこういう川を使った地での遠距離戦術が得意だ。
だから相手の布陣を見て、敵を誘うような作戦を取っている。
浅井軍を蹴散らすまでの間
味方3軍が、うまく京極軍を引き付けてくれれば、
アイリの作戦通り各個撃破できると考えている。
味方3軍が積極攻勢を取るのは、アイリの指示が出てからと伝えている。
それまで、防衛気味で適当に京極軍に時間を使わせるわけだ。
浅井軍は、もう兵が動き出しそうになっている。
将兵だけでなく、一般兵も「一番槍は自分が取る」なんて気でいる。
こうなるともう、両家が連動した戦いなどはない。
気を焦る浅井軍将兵は、全軍突撃を指示する。
変な戦略もいらない、単に前にいる本陣を目指すだけだ。
数で簡単に圧倒できるだろう。
アイリの誘いに乗って、敵全軍が正面突撃してくる。
アリイは事前に、投射兵に指示をだしている。
「敵兵が4000程、川を渡ったら投石と移動弩の曲射開始ね。」
「あとは射程内に入り次第、弓と弩で直射攻撃で連射して。」
後は指示通り、敵がその距離に来たら、
アイリが止めるまで投射攻撃が続くことになる。
敵が突撃してくるのを見て、アイリは言う。
「それでは、火箭の試射に入りましょうか。ふふふ」
「サイエン、最大射程で曲射を連射してね。」
アイリは今回の新兵器に、絶大な信頼を寄せている。
発射台の角度が調整され、火箭に火がつく。
50台の火箭は、横にずらりと並んでいる。
敵から見てもそれが何かは、理解できないだろう。
次々とロケット花火が飛んでいく。それはミサイル型のやつだ。
着弾は兵士の頭の上。そこで破裂し、中からボールサイズの花火玉が飛び出す。
あちらこちらで、爆発とともに火花が広がる。
それは突撃していた浅井軍後方に着弾することになった。
パンパン、ポンポンという軽い破裂音が鳴り、火花が広がる。
実戦試射だからと、炎が広がるタイプやら、いろいろサイエンが用意している。
大型の花火玉ではないから、それほど大きな爆発音はしない。
しかし、自分の頭の上や顔の辺りで爆発すればかなり驚く。
後陣にいる兵は、どこから攻撃されているのかもわからない。
火花や炎で、やけどする兵が出て、混乱が始まる。
混乱と言うより騒乱かも知れない、悲鳴をあげて逃げまどう。
後ろの惨状を見ず、勝ち誇った兵は突っ込んでくる。
中陣の位置にいる兵には、頭の上から大きな矢や砲丸のような石が降ってくる。
先陣を切っていた最前線の兵にも狙いすました矢が飛ぶ。
しかもありえない程、離れた距離から連続で飛んでくる。
先陣の槍兵は、槍をほおりだして右往左往する。
こうなると長い槍を持っているのが、自分の邪魔になるのだ。
投射兵の攻撃は、致命傷にはなりにくいが、
それでも地味に怪我をおい続けることになる。
火箭などは、居場所が悪ければ顔にやけどを負う。
顔付近の爆発で、驚くだけではなく耳鳴りで音も聞こえなくなる。
どの位地にいても、何かしらが飛んでくる。
浅井軍全体が混乱し、隊形はすでにない。
こうなると混乱しながらも、
飛んでこない場所に行けばいいと判断した者達が現れる。
それは雪崩のように続くことになった。
彼らが選択したのは、東側の攻撃が手薄な方向。アイリから見て右側になる。
アイリはあえて、騎兵と歩兵に待機させた右側方面の攻撃をゆるめている。
そちらへ誘導するためだ。
援軍で来た3人は驚く、アイリが言っていたように混乱した兵が現れ
それが自分たちの方向に来るのだ。
アイリは、投射を続けている。
敵半分ほどの兵が右へのがれたのを見ると、歩兵と騎兵に突撃を指示する。
太鼓が連続で鳴る。
慌てて3人は突撃を指示し、自分たちの方に出てきた敵兵に強襲する。
それは指示通り、迂回した形で敵の側面に突っ込んでいく。
騎兵は囲うように走り回り、羊の群れを追う牧羊犬のように追い詰める。
川を渡って後方に突撃する部隊も多くいる。
これはアイリ本軍にいた部隊だ。
アイリの作戦をよく知っていて、現状で有効な位置をわかっている。
横から突撃された敵は、ここへきて勝ちが無い事を悟る。
混乱し、錯乱し、戦意もなくなった軍は弱い。
隊形などはもうすでにない。兵が個々で戦う羽目になる。
アイリが考えたように乱戦に持ち込んだ。
「殲滅戦開始!」太鼓が連打される。
騎馬兵は、敵の周囲を囲うように移動しながら走り回り、
やがて敵兵の周囲に円を描く。
歩兵は、分隊単位で、円の中の敵兵を捻じ伏せていく。
「投射終了!」アイリの合図で投射がやむ。
「じゃあ行きましょうか!」
アイリ本陣にいるメイド隊と抜刀隊が、前方にいる兵に突撃する。
キチョウは無双モードで、まるで呂布のようだ。
メイド隊の上位軍と抜刀隊は強い、どんどん敵を削っていく。
アイリも行きたかったが、サヤカに止められた。
突撃はしなかったが、アイリたちも結果、多少闘うことになった。
目の前に来た数人と戦闘になったのだ。
敵兵の最後のあがきだと言える。それを退治したのは、マナリとサヤカだ。
オイチやギンも軽弩で応戦したのに、結局、アイリは何もできなかった。
投降する兵が出始めたのを見て指示を出す。
「伝令兵は敵に投降を呼びかけて!」
ここまでに至る時間は僅かだった。
アイリは移動命令を出す。
「わが軍は迂回して、川を渡り京極軍側面を突きます。」
右から大きく迂回しながら、京極軍後陣が火箭の射程に入る位置に移動する。
京極軍は、懸命に戦っている様だが、やはり投射で苦戦している様だ。
撤退と突撃を繰り返している所だった。
浅井軍が全軍突撃を行いだした頃。
京極軍側では、浅井軍の様な無理な全軍突撃などせず。
様子を見ながら、先陣、中陣にわけて2段構えで突撃するような指示を出していた。
後陣として兵の3分の1ほど控えさせ、消耗を避ける堅い戦い方だ。
兵数で勝っているから、そういう戦い方は確実性が高い。
勝利を確信していたのは、浅井軍の将兵だけでなく京極軍の将兵も同じだ。
だが、ミツヒデは堅実な戦いを指示した。
おかげで、戦いに時間を浪費することになる。
ミツヒデが浅井軍の惨状に気が付いた時には、
すでにアイリが京極軍の後陣を火箭で攻撃する寸前だった。
しかし、ミツヒデにもそれが何か理解できない、まだ敵は遠くにいる。
ミツヒデは、後陣を動かし東側に対峙する形を取ることになる。
それは警戒態勢だ。これも基本軍術なら非常に堅実だと言える。
ミツヒデは、優秀なのだろう。相手が普通だったら・・。
彼の軍術では、アイリの兵法や兵器能力をまったく加味できていない。
アイリが既にこの国の軍術は使えないと言っている物なのだ。
だからアイリは、新しく軍術を編纂した。
そこには、歴史上の有名軍師が残した勝利の記録から取った兵法がある。
そしてアイリの兵器や軍の力を加味したものだ。
そのうえで、この国の軍術の弱点や相手の常識の弱点を突くというもの。
オタク歴女のアイリは優秀な兵法家でもあり、状況に合わせて対応する。
アイリは京極軍の後陣の場所に、火箭攻撃をする。
「サイエン、火箭お願い!」
突然降ってわいたかのような、破裂音がして火花が散る。
それが頭の辺りや顔のあたりだから、びっくりして動揺が広がりだす。
ミツヒデも動揺するが敵はまだ遠い。
この常識的判断が撤退の指示を遅らせることになる。
アイリは、火箭の初射が始まる時点で、
すでに火箭兵以外の投射兵に移動の指示を出していた。
「さらに回り込んで、敵軍斜め後方に移動したら、投射開始!」
浅井軍を破った騎馬兵と歩兵は残党狩りになっている。
それはまだ戦う意思のある相手がいた場合だ。
「戦場にいたら邪魔だけど、逃げてもらっても構わない。」
アイリは、降伏勧告の時点で、そう指示を出している。
領に逃げ帰ったら、この惨状を周りに話すだろう。
メイド隊と抜刀隊は、敵残兵を一般兵に任せ、アイリの元に戻ってきている。
アイリ本軍に所属していた騎兵と歩兵もアイリの元に戻ってくる。
こうなった場合を想定して皆には指示をしておいた。
いくつかの歩兵を、火箭の守備に配置させた。
もしもを考えてのことだ。
最早、浅井軍残党は自分の事で精いっぱいだ。
逃げるか降伏するか・・・。
多くは逃げる選択で、怪我を負いながら戦場からすでに離脱している。
アイリは、投射部隊の位置を確認して「投射」の指示を出す。
投石と移動弩の射程に京極軍を捉えている。
その位置にも兵を守備に残し、他は皆移動だ
「それじゃあ残りは、後方に行きましょ。」
更に回り込んで前進し、敵陣後方で、弓と弩の射程距離に入る。
「じゃあ、射撃開始!」そこにも守備を残し移動する。
投射攻撃は、京極軍を半円で囲うようにして次々連射された。
ここに至り、ミツヒデは敗北を確信した。
撤退の指示を出す。しかしすでに多くの兵は混乱しており指示通り動かない。
突撃していた兵も同様にひどい有様になっていた。
「投射中止!」太鼓が5回鳴る。
同時に全軍に突撃指示を飛ばす。
「たぶんこれでおしまい。突撃お願い!」太鼓が連続で鳴る。
メイド隊と抜刀隊も突撃をする。
投射兵は投射中止を聞くとアイリの元へ移動する。
援軍の投射兵はそれぞれ編成先だった指揮官補の元に移動する
もう戦いは終わりだ。
浅井軍は、援軍3軍の騎兵と歩兵、後詰の防衛兵によって捕縛状態になっている。
ほとんどの兵は逃げ帰った。
アイリの指示を受け取った、京極軍前方の味方攻撃軍も突撃している。
京極軍の先陣と中陣は突撃にあい、さらに混乱が増していた。
アイリの望む乱戦が、京極軍でも展開される。
この時点で、普通の撤退が無理だと思ったミツヒデは
仕方なく周囲だけでもと何とか兵をまとめ。撤退戦へ移行する。
もちろん自分は、しんがりを行う。
アイリの指示は突撃して、逃げる敵は逃がしていいというものだった。
前方と後方からの突撃で、敵は西に向けて逃げていく。
当然逃げる兵をとことん追い詰めるのが戦いの常識だ。
しかしアイリは、執拗に追いかけなくていいという。
ミツヒデは、しんがりで逃げる兵を守りながら
これを見て不思議に思った。
あえて、逃がすというアイリの真意がわからない。
この国では、勝者は敗者を殲滅するのがあたりまえ。
それと共に、アイリと言う人物に関心を持った。
アイリは、メイド隊や抜刀隊を伴い、ミツヒデのしんがり隊の前にいく。
「逃げるなら逃げてください。戦いたいなら何度でもお相手します。」
「でも領民が困窮するような戦いをする様なら、容赦はしません。」
降伏勧告でもなく、脅迫でもない。
ミツヒデが感じたこと
そこに立つ少女の言葉には、絶対強者としての威厳があった。
ミツヒデは言葉を返す。
「織田家当主のお考えはわかりました。」
「私は、兵をまとめ撤退させます。領主にその旨、伝えることにいたしましょう。」
ミツヒデは、この先はもうアイリと戦うつもりはないと思った。
今の京極家の領主は、心から仕えているわけではないが
取り立ててくれた恩を感じている。
しかし、命じられてもアイリが言う領民を困窮させる戦いはもうしない。
アイリが戦う理由・・それは領地を広げたり権勢を誇る物ではないことが分かった。
領民を助けるために動いているのだと。
「噂通りの人物だった。」ミツヒデは、戦場を後にしながらそういう。
この後、ミツヒデは京極家の領主と話し合った。
ミツヒデはいう「生き残るためには、アイリの下に下るべき」であると。
しかしこれを聞いた領主は、「戦いに敗れた上に何という言葉を履くのか!」
と怒り心頭でミツヒデを重臣の座から解雇した。
「ああ、この領主もやはり、権力しか見えない人物だった。」
以前ミツヒデは、細川家の領主に仕えていた。細川家が豪族の時代だ。
ところが、領主は洗脳されたかのようにおかしな行動に走るようになる。
うすうす、あたらしく仕官した人物が、問題だと感じてはいたが
領主はミツヒデの話を聞かなくなっていった。やがて、左遷される。
その後、皇王様事件が発生することになる。
その結果、京極家の領主は窮地に立つことになり、細川家が台頭する。
京極家が何やら悪だくみをしたことはわかっていたが、
皇王様事件の真の犯人は、細川家であの人物が怪しい・・。
細川家の領主を狂わしたのもその人物だろう。
京極家は知らずに好機が来たと思い、それを利用しようとしたに過ぎない。
しかし、それは逆に京極家の首を絞めることになる。
細川家との戦いに敗れ、豪族に転落。
ミツヒデは、この時点ですでに、細川家に自分の居場所はなく、京極家に仕官する。
京極家に力がつけば、細川家を抑えることが出来るかもしれない。
そういった打算で助けることになった。
細川家は危険だ。領主は権力しか目がなく手段を選ばない。
これ以上力をつけるのは危ない。
ミツヒデを動かしていたのは、そういう思いからだ。
しかし、京極家の領主も結局似たようなものだった。
戦争が勝ち続けると領内のことなど気にせず、ただ自分の利益と権勢だけを考える。
戦いに益が無く、領民が苦しんでいるのは知っていたが
それをやめるどころか、戦いに勝てという事しか言わない。
言葉を聞き入れてくれることがなくなった。
どこかで見限るしかないと、そういったときにアイリのことを知った。
ただ、表向きにきれいごとを並べるような人物であれば細川家同様に危険だ。
むしろ、巨大な領地を持ち皇王様を利用するような人物なら危険度がさらに高い。
それが、アイリとの戦いにつながることになる。
自分が知りうる、あらゆる策略を駆使し、出来うる兵を集めたが戦い負けた。
すべての策略を退けられ、数に勝る戦いに負けしまった。
しかし逃げていいという。
完全に負けを知った。戦いではなく人物に負けた。
ミツヒデはアイリを危険な存在では無いと知り、戦いの無駄さを知る。
それで領主に伝えたのだ・・しかしもう、京極家に仕える必要はないと感じた。
目先の利益と権力しか見えない人物では、細川家との戦いは出来ない。
これ以上自分が加担することは、自分が第2の細川家を作ることになる。
ミツヒデはその後、京極家を辞した。
あの決戦後、アイリは北へ進み。
浅井家と京極家の両方に、対応できる地として木之元に駐屯していた。
京極家の支配地2郡目に入りながら、郡役場だけ攻略して
その後、郡の支配を止めている。
彦根、長浜周辺は防衛兵に赴任させている。
安全が確保できれば、官吏院から人を呼び開発を行う。
すでに領民は協力的で、領民の反乱はあり得ない。
可能性があるとすると琵琶湖を渡ってくる西の京極家。
アイリの言葉がミツヒデを通して京極家の領主に伝わっている頃だ。
まだ戦うか、恭順するかそれにより行動が変わる。
浅井家には使者を送り、不可侵の協定を結んだ。
こんなものは気休めなのだが、あの負け戦の後では相手も戦う気は無いだろう。
そういう意味でダメ押ししただけだ。
京極家の動きがわかる間、南の報告を待っている。
時期的に言えば、南2郡めの攻略が終わる頃になる。
そこを含めるとすでに4郡近い範囲が支配地になる。
アイリが今、気になるのは、近江周辺領の南と南西にいるらしい勢力。
隣接しているのか、距離があるのかはわからないが2勢力あるらしい。
あとは西と西南にも2勢力あるようだが、危険度はやや低そうに思う。
やがて待っていた南からの伝令が来た。
南北で距離が離れて伝達もタイムラグが出る。
「南2郡の攻略は完了。3郡目に侵攻。」
「3郡目の南部に敵軍が集結中。」
そろそろ相手が農民兵になるのかな。
「降伏勧告の使者を出します。軍は侵攻を止め一時その場で警戒。」
伝連にそう伝え使者を人選し南へ送る。
アイリの本軍には、使者が出来る伝令兵もいる。
アイリの元にいることで直接言葉を伝えることもできるし
場合によっては、文書を渡せる。
浅井家にも、そういう使者が出来る伝令兵を送っている。
このため、しばらく近江では戦闘がやむ。
京極家からはその後、何も言ってこない。
「ミツヒデが伝えてるはずだけど・・・。」
アイリは鑑定であの戦場で話した相手をミツヒデだと知っている。
名前からしてすごく気になる存在だが・・。
アイリは歴史における明智光秀をそんなに悪く思っていない。
人を思いやり、正義の気持ちを持つが故の、本能寺の犯行だと思っている。
それと、そういう性格を利用されていた感じも否めない。
少なくとも完全な私利私欲からの行動ではないとアイリは思っている。
敵領地にいるため、どうしても鑑定による人物情報が少ない。
少なくとも、あの戦場で出会った時のミツヒデは黄色や赤ではなかった。
戦場においては、敵は皆赤くなる。自分の命がかかっているから仕方ない。
アイリは、赤ではないミツヒデを見て声をかけたのだ。
そんなことを考えていると、物見の兵から
数人の男たちが、こちらに来るのが見えるという。
当然途中で兵に捕まるのだが・・・。
方向からすると京極家の人間かなと思った。
アイリの前に連れてこられた人物。
それは、ミツヒデだった。
アイリは使者に来たのかと聞いたのだが京極家の領主は徹底抗戦らしい。
ミツヒデは見限ってアイリのところへ仕官に来た。
行動を共にするという何人かの部下を引き連れてきたようだ。
アイリは当然、仕官を認める。
別にミツヒデが嫌いじゃないし、スキルあるし、有名人の同名者。
断る理由など無い。
この国では領主を見限って行動するのは皆同じだ。
それは不義理だとか、そんなことを言っていたらきりがない。
アイリ自体、ダメ領主をさんざん見てきた。
あんなのの下に優秀な人がいたら残念過ぎる。
それが、仕官希望者にとっては懐が広いと取られるから不思議だ。
即、登用の返事をしたら、皆感動していた。
特にミツヒデには、
「あなたの様な才能がある人が来てくれたのは、とても嬉しい。」
そう伝えた。ミツヒデの人物事典のページは青くなった。
その後、ミツヒデからいろいろな情報を聞き
例の黒幕が存在し、暗躍していることを確信した。
ミツヒデもその人物を危険視している。
そして、名前を知ることになる。
ミツヒデが危険だというその人物の名は、トウキチロウだった。
アイリは一番最悪な想像が当たってしまったことを知った。
それと・・ミツヒデ以上の強敵であろうこと。
歴史での天下人クラスの同名者。
今だ権力を手に入れていないとはいえ、アイリも手に負えないほどの苦渋を飲まされた。
力を付けたら危険な存在になることは承知している。
「ふむぅ・・これはまいったかな。」
ところで、ミツヒデのスキルだが想像通り「策謀」だった。
3人目になる。
しかし技能が軒並み高く、策謀スキルは固有スキルだ。
詳しくはアイリの支配地で知ることになるだろうが、
アイリの元で、アイリ軍術を学べば即戦力になる可能性が高い。
「ミツヒデは、指揮官候補として私の軍術を学んでください。」
アイリからは、いつものセリフが出るのだった。




