No070 アイリの野望、領主編 「花火祭り」 打ち上げ花火とアイリの露店 8歳8月~
花火祭りの初日。
アイリは、この日のためにギンとマナリ、ジロウにも浴衣を贈っている。
もちろんジロウには男物だが、最近は男だと主張しなくなった。
何か旅の中で心変わりでもあったのだろうか。
ジロウは、正式に文字にすると次郎法師となる。
次郎法師とは、井伊直虎の名前だ。
アイリはただの同名者ではなく、類似存在として認めている。
最近はアイリの指揮官教育をかなり真剣に取り組んでいる。
ギンは、正式にはギンチヨ、文字にすると誾千代だ。
これは、立花誾千代の完全同名者になる。
名前に含まれる「誾」の字は「慎み人の話を聞く」という意味。
こんな珍しい文字を使うことはまずない。
ギンチヨと言う名前であれば、文字は「吟千代」が普通だ。
アイリは、ギンも類似存在だと思っている。
立花誾千代は、歴史上では戸次鑑連(立花道雪)の一人娘。
立花道雪は九州では連戦連勝のツワモノだった。
誾千代は僅か7歳で城主になる。
その後、立花宗茂を養子として迎え結婚。
この夫婦には、いろいろ裏話が多く創作も多い。
ただ言えることは、二人ともかなりの戦上手だ。
九州での島津との決戦で大敗し、父の立花道雪は陣没になる。
のちの豊臣秀吉の九州征伐により、境遇がかなり変わってくる。
この後、戦場での誾千代の姿は消えた。
城を出て宮永に居を構えて「宮永殿」と呼ばれるようになる。
「豊前覚書」では、夫婦仲が悪かったせいだと記されているが
それは当事者でなければわからない。
夫の立花宗茂は豊臣家臣として秀吉に使えた。
アイリは、誾千代が秀吉を好きではなかったのが
間接的な要因としてあると考えている。
面白いことに夫の宗茂は、京極高次の籠もる近江大津城攻めの為に
関ヶ原の戦いに間に合わないという失態を犯している。
アイリの脳裏に浮かぶのは、
秀吉と京極家という最近アイリを悩ませる存在の名だった。
ギンは7歳でアイリより、1歳年下になる。
アイリは年下であるギンを妹として扱っている。
境遇の性か、孤児になり生活に苦労していたギンは身体が小さい。
その小さな身体で乗馬訓練を続けるギンを
アイリは優しく応援している。
マナリはギンと出会う少し前に、アイリが保護者になった。
彼女も孤児である。
ギンを見つけたのは、マナリだ。
マナリは、本当の名はマサナリ(正成)。
服部正成の同名者だ。
服部正成とは、服部半蔵の事である。
正成の父、保長は伊賀国の土豪だったが生活に困窮し
伊賀の地を出て足利義晴に仕える。
その時、松平清康が三河国を平定し、将軍謁見で上洛した。
保長と清康は、その時に面会し、保長は松平家に仕官することになる。
保長には子供がたくさんいて、正成は5男だとされる。
6男説もあるのだが、子供がわかっているだけで12人もいればややこしい。
約半分は女性だった。
三河にも伊賀町と命名された地があって、正成はそこの生まれだ。
実際には伊賀国ではないから伊賀忍者の頭領というものではない。
6歳の時に出家させられそうになると拒否して失踪。
以後、7年間の記録はない。
その後、歴史に出てくるのは家康の時代からになる。
いくつかの戦場での記録が残されていた。
本能寺事件で家康が窮地になると
たまたま、その時会っていた商人の茶屋四郎次郎清延と協力。
伊賀越えを行い、家康を無事三河まで護衛する。
服部半蔵として歴史の有名人になるのは、ここからだったりする。
アイリは名前の「マサナリ」から、
女の子だからと呼び名として「マナリ」と呼んでいる。
改名して半蔵にする気はあまりない。
むしろ、マナリが持っている「忍」と言うスキル名から。
シノブと改名したほうがいいと思っている。
忍とは忍者の意味ではなく耐え忍ぶという意味のスキルだ。
孤児として周りから疎まれ、
一人で密かに生き延びてきた影響での後発スキルだとアイリは思っている。
アイリは、皆に言う。
「今年の花火は大きいのが打ちあがるよ。」
初めて参加する者たちは、祭りを楽しみにしている。
初日の祭り開催は、夕方からになる。
すでに、準備が出来た祭り会場では露店が立ち並んでいる。
アイリは、矢作川周辺の土地を無料開放して
祭りの期間中は、自由に出店できるようにしている。
昨年好評だったこともあり、今年はかなり広い範囲を会場にした。
それでも、場所取りの予約申請から漏れた人もいたらしい。
出店内容も自由で、商人でなくても構わない。
だからフリーマーケットの様相もある。
儲けた分は、すべて自分がもらえるというから、希望者は多い。
アイリお抱えの芸人たちは今年も見世物小屋で演芸を行う。
お笑い演芸と言うやつだ。
昨年はかなり人気を集め、大勢の見物客でにぎわった。
今年は、この日のために新作の演芸を練習していたらしい。
参加者は、浴衣姿である事。
祭り会場の入り口で確認して、一人一本づつ手持ち花火がもらえる。
花火大会の時は、自分でも花火が楽しめるようになっている。
皇王様から聞いたが、今年初参加の聖姫様と皇子様も
かなり楽しみにしているらしい。
それは・・昨年一人楽しみまくった皇王様が自慢したせいもあると思う。
アイリが出店していた露店を次々荒らしまわっていた。
この日は、聖祭日とは違うが兵も皆休みにしている。
父上も休みだから、両親揃って祭りに参加する気らしい。
いつも一緒で仲がいい。
妹のアイルは、まだ小さくて花火で驚くと泣いてしまうといけないので
お祭り会場だけ乳母車に乗って参加する。
アイル用に小さな浴衣を贈っておいた。
メイド隊もこの日は昨年同様、全員浴衣姿になる。
しかも自由行動を許可している。
思う存分楽しんでほしい。
アイリの同行者は
サヤカ、オイチ、キチョウ、シホウ、マナリ、ギンだ。
ジロウも一緒にいたそうだから結局ジロウも同行する。
なんだか最近は、このメンバーがアイリと行動することが多い。
ジロウ以外は、部屋も同じだし一緒にいる時間が長い。
祭りの最中もアイリが仕事の残務整理をするから大変だとオイチは言う。
オイチも少しづつ、アイリの仕事が手伝えるようになってきた。
そんなオイチを見てマナリも最近いろいろ考えている様だ。
将来何になりたいか、アイリは本人の自由にさせるつもりでいる。
アイリは祭りの準備状況を確認して回った。
夕方になり空が暗くなると昨年のようにアイリは領民たちに迎えれれて
壇上に立たされた。
アイリの言葉が無いと祭りが始まらないというのだ。
「みんな、今年も精一杯楽しみましょう!」
アイリはそんな一言で済ます。
集まった領民は「おー!」と怒号をあげる。
そこからは、花火大会が始まる。
アイリ肝いりの打ち上げ花火も登場する予定だ。
最初は小さな花火が点火される。
飾り花火が続く。
火花が出ながら絵が現れる工夫もしている。
ナイヤガラの滝の様なものもある。
その一方で手持ち花火で楽しむ人も出てくる。
早速露店に足を運ぶ人も出始める。
辺りはどんどん暗くなり、露店が並ぶところでは、かがり火が焚かれ
あたりが明るくなると、いっそう参加者の気分が高まる。
この時だけは、終了になる深夜までは夜遊び解禁だ。
花火大会が佳境に入ると、打ち上げ花火が打ち上げられる。
あの懐かしい花火の音がする。
初めて見る打ち上げ花火の轟音で、最初は皆固まってしまった。
ロケット花火の先に尺玉がついている奴だ。
現代の花火からは、比べるレベルではないが
さすがに、マッドサイエンティストの作った火薬はすごい。
花火師と協力して、火薬に色々混ぜこんだらしく
色の出る花火や火花が大きく広がるのもある。
参加者も音に慣れてくると、そのすごさに見とれている。
「これこそ花火大会だ。」アイリは出来栄えを称賛した。
花火大会が終わると、辺りはシーンと静まり返る。
しかし、ここからが祭りの醍醐味になる。
露店がある会場から客寄せの声が聞こえてくると
それにつられて人の流れが出来る。
花火の余韻に浸っている人は、手持ち花火で楽しみだす。
アイリたち一行も、手持ち花火で楽しんだ。
ここでアイリは、隠し持っていた小型のドラゴンタイプの花火に火をつける。
シューっと音がして火花が上がる。
ギンが「おおー」と叫んだ。
「大きい花火もいいけど、こういうのもいいでしょ。」
アイリは小さな胸を張る。
いくつか隠し持っていたが、やがてアイリによる花火も終わりだ。
花火会場に残っていた人も見学していたらしく、それを見て歓声を上げていた。
「さぁ、これから露店を回るわよ。」
アイリがそう言うと。
幼少組が「やったー」と叫んだ。
アイリは皆に自分の好きなだけ、買い物をしてもいいと言っている。
支払いは、アイリが全部持つ。
この日は夕食はない、メイド隊も全員休みで自由行動だ。
食べ物のある露店を探そうという話になった。
お腹が空いてきたからだ。
まずはアイリが出している露店へ行ってみる。
お好み焼き、たこ焼き、焼うどん、フランクフルト、イカ焼き
フランクフルトは、ソーセージに串を指して焼くあれだ。
ここまでは、昨年と同じだが
今年はそれにプラスして、みそ仕立ての肉汁も出している。
肉は猪だったり鳥だったりウサギだったりする。
野菜もたくさん入っている。
ウサギは食べちゃダメ・・なのだが
増えすぎて間引きされるから仕方がない。
それと今回は甘味の店も出した。
ホットケーキとドーナッツにお汁粉。
あとは、果汁の店もあり、
ミカンジュースとイチゴミルクを出している。
イチゴは野イチゴや桑の実で代用している。
結構、好評だ。
汁物やジュースを追加したのは、粉物でのどが渇くからである。
昨年それで少し反省したというのもある。
もちろん食べ物以外にも
射的類やくじ引きなどの遊戯用の露店もある。
それと紙芝居の露店が追加されている。
旅の中でアイリがやっていたあれが好評だったからだ。
紙芝居屋では、アメとお菓子を売っている。
その前には、長椅子があって座れるようにしてある。
アイリの店は、周囲を正方形になるように並べてある。
その中央には、座って食べることが出来るように
テーブルと長椅子を置いている。
まるでフードコートのような形だ。
そこには、ちゃんとゴミ箱を設置した。
それも昨年の反省がある。
一応アイリもそれなりに、祭りを考えているのだ。
アイリたちがそこへやってくると、顔見知りの先客がいた。
皇王様一行だ。
聖姫様は、すごく楽しいとおっしゃっていた。
皇子様は、アイリの露店をあちこち移動しまくっている。
昨年の皇王様と同じ姿に親子だと思った。
皇王様もお金がいらない、全てアイリ持ちになる。
アイリの店以外を利用するときは、
アイリが皇王様の側近に持たせたお金を使う。
アイリたちもテーブルを陣取り
皆思い思いの露店に買い物に行く。
ここはアイリの露店だからお金はいらない。
買い物自由だから、いろいろ買いこんで手いっぱいになってから
テーブルに戻ってくる。
食べるとまた店に行く、これの繰り返しだ。
食べあきてくると、遊戯の店で遊んだりする。
今年の遊戯の店には、射的場として弓だけでなく弩の店もある。
弓は難しいが弩は素人でもなんとかなる。
サヤカは、景品のぬいぐるみを抱えて戻ってきた。
くじ引きもひも付き以外に、紙のくじを使った店も作った。
それとおみくじの店もある。筒に棒を入れたタイプだ。
おみくじは、紙に絵や言葉が入っている。
大吉とか小吉とかだ。
紙が大量生産出来て、そんなことが出来るようになった。
ジロウとキチョウは、おみくじをやっていた。
当たったくじを読んで嬉しそうだ。
きっと大吉だったのだろう。
アイリは、大吉の当たり数を増やしている。
大吉には、いいことがあるという言葉が並んでいる。
心が幸せになれる工夫だ。
早々にお腹が膨れた幼少組は、
紙芝居屋の前に並んで座っている。何故かシホウも一緒だ。
4人とも紙芝居が好きだから、お店を出してよかったと思う。
皆が楽しんでいるとまた顔見知りが来る。
うちの両親一行だ。
母上の側仕えのシキノもいる。
うちの両親もアイリの店は無料だ。
妹のアイルの乳母車を、乳母のサオリが押している。
乳母車はアイリ工房作品だ。
妹アイルのために、アイリが考え出した。
当然出来上がったらすぐに贈って使ってもらっている。
アイリは妹の顔を見に行った。
会うたび、どんどんいろんな反応を示すようになる。
アイリが視察の旅に出て、戻ってきたら
かなり反応が変わったのに気が付いた。
もっと小さいときは、
全く反応が無かったから何か嬉しい。
両親には「楽しんでいってね。」とあいさつを交わす。
シキノとサオリには、ここは「自由で無料」だからと念をしておく。
遠慮するからだ。
さらに、「みんな身内だから遠慮はいらない。」と言っておく。
この日は、ギンが眠いと言い出すまで祭りを楽しんだ。
その後、仕事が出来なかったことは反省した。
アイリも眠たくなってしまったからだ。
こうして、花火祭りは始まった。
10日間の楽しい日々は、
新たに仲間に入ったメンバーの心にも残るだろう。




