No065 アイリの野望、領主編 「ミエ領の旅6」 直虎事件? 8歳6月~
翌朝、マツサカの役場で挨拶し、一応人事監査はしておく。
ここの人が多いのは、アノウの衛星都市化しているからだと思う。
内政官として、二人ほど登用できた。
しかし、アイリの望んでいた人材登用はスキル持ち。
もしくは、偏っためずらしい技能の持ち主。
アイリが面白いと思える人材が、ミエ領では少なかった。
労力のわりに成果が出ていない。
ここから北は人口が一気に増えるから
期待しておくことにした。
アノウは現代で言う津市だ。
ツの一文字で呼ぶのが紛らわしいから、古いアノウ名を使った。
アイリたちは今そこへ向かっている。
街道は広くなり、最短距離で結ばれる。
移動速度が速いから半日ほどでつくはずだ。
この街道は行き来する人も多い。
時々南に向かう荷車も通る。
郡の境目から先は街道横に休憩所もあり、そこにも人が集まる。
アイリを見かけて、挨拶してくれる領民が増えた。
すれ違う行商人にも挨拶される。
早くからアイリが領主として治めていたからだ。
アイチ領ほどではないが、ここにもアイリ人気が定着している。
アノウの入り口に来ると。待っていたかのように人が集まる。
集まった人の中からアイリの前に1人飛び出てきた。
慌てて馬を止める。
跪いて、仕官希望だという。
仕官希望ならアノウの中で募兵しているはずだからそこへ行くはずだ。
アイリは鑑定をして驚く。
「エーそう来たか・・。」
見た目はどう見ても男の子にしか見えない。格好もそうだ。
しかも歴史上の人物名
アイリが待ち望んでいた存在でもある・・・しかし。
本人は、ジロウと名乗るのだが
人物事典には、名前 次郎法師、15歳 性別女性 と出る。
歴史上でこの名前に該当するのは「井伊直虎」になる。
直虎は、女性武将として有名だが、男性という説もある。
「次郎」とは井伊家総領代々の仮名だ。これは城主を示す。
記録をすり合わせると、同時期に二人の「次郎」が存在していることから
混乱が増し諸説入り乱れた。城主が二人いることになる。
二人は別人で片方は男でそちらが城主で、片方は女で城主じゃないとか
両方女で同一人物の城主だとか、両方男で同一人物の城主だとか。
あげくに、同一人物だけど性別はどうでもいいじゃないかなど。
まさかそれが歴史のいたずらだったら。
まんま、自分の前で展開されようとしているんだけど・・。
ジロウは、募兵の仕官希望でやってきた。
武官採用になったのだが、後日になって女はダメだと言われた。
確かにいくら男装して見た目が男でも、時間がたてばボロが出る。
メイド隊の募集はアイチ領で、アイリの面談管轄下にある。
そこへ行けと言われたらしい。
しかし、困ったことに本人は、男だと言ってきかない。
アイリは、アイチ領ではなく、ミエ領に来ているという。
ここは直接会って話そうと決めたらしい。
そして今、アイリにメイド隊ではなく、普通の武官にしてくれと言う。
武官は全員男だ。着替えなどしたら一発でバレル。
いくら男言葉でも、声は女性だから無理だと思う。
決して女だから兵隊にできないわけではない、あくまでポリシーの問題だ。
軍にはそれなりの軍律と言うものがある。
領主だからと言って、それを簡単に曲げるのでは立ちいかない。
だから女性兵には、メイド隊と言う存在がある。
しかしメイド隊を完全否定されるとは思っても見なかった。
メイド隊は、美しく強くありたいと思う女性のあこがれだ。
女性じゃないというからには、それが当てはまらないのだろう。
だけどあなた女性じゃん。
マナリが男の振りをしたのは、あくまで生きるために仕方なくだった。
普通は、ここまで男だと言い張るほうがおかしい。
念のために女の子が好きなのかと聞いてみた。
我ながら馬鹿げた質問なのだが、そういう趣味なのかもしれない。
それも完全否定された。女の子が好きなわけがないと言う。
いやだってあなた、男だって言うから・・。
これは、困った・・。ある意味、アイリ最大の困難かもしれない。
うーん、知恵を絞る。
「英知の加護さん、仕事してください。」こうなったら神頼み。
苦肉の策を考え付く。
「では、あなたを私の直下の兵にします。」
メイド隊だとは口に出さない。
アイリが考えたのは、何とか歌劇団の男性役。
執事服を着させて男性扱いにする。しかし配属は、内緒でメイド隊だ。
昔、執事隊もいいかもと思った過去の自分を少し褒めておく。
そこから何とか案を絞り出した。
こうなると直虎が男の娘だったほうが、まだましだったかもしれない。
・・いやそれもかなり複雑だ。
ということで、この騒ぎは落ち着き。
本人を納得させて、アノウに入った。
急いで執事服をデザインして、アイリ工房へ指示を出した。
男性用の洋服も作っているから何とかなるだろう。
すぐに、ジロウの採寸は終わった。
アイリのデザインは普通の燕尾服っぽいものではなく
参考にしたのはドイツ軍の上級将校服だったりする。
それ執事服じゃないよと言うツッコみはスルーだ。
この国では執事服など誰も知らない。
黒上着の下にグレーのシャツを着こむスタイルだ。
もちろんシャツには、黒ネクタイが欠かせない。
これは非情に渋い感じになる。
ネクタイを締めるのは大変だから
ネクタイを締めているように見せかけて
シャツにあらかじめ取りつけてしまう。
上着はそのままロングスカートと一体。
トレンチコートのような感じになる。
お腹の位地に幅広のベルト付けて絞る感じにする。
帽子は戦闘に邪魔だから免除した。
指揮官なら動かないけど兵士は動くから仕方がない。
燕尾服の執事はアイリのイメージでは
アニメや漫画だと若くてもカッコはいいが
リアルの姿を見ると中年男性が来ていても似合わない。
若者はなんだか服が歩いているみたいに見える。
多分外人だと違うんだろう。
これは、アイリのこだわりだ。
後は、馬を与えるためにアイリの直轄牧場へ足を運ぶ。
馬は気になる主を見つけると反応する。
アイリは、相手が馬でも鑑定で何となく分かる。
鑑定しても人物事典に記載されるような情報は載らない。
しかし、ある程度の知性があれば、感情の変化がある。
それを感じることは可能だ。
だからアイリは、愛馬を大事にする。
動物語がわかるスキルはない。
仔馬なら大切に飼い続ければ、相性は問題はない。すぐ慣れる。
二歳馬以上になると、相性がいいほうがお互いの関係構築が早い。
品種改良されつくした前世の馬ならまた違うのかもしれないが・・。
他の人は離れてジロウだけ馬の近くに行かせる。
ジロウがおっかなびっくり状態だから落ち着かせる。
アイリは、様子を見て3頭の馬を選んだ。
そのあとはジロウに世話の仕方を教えて馬の様子を見ればいい。
それで馬が嫌そうなら除外だし、興味がありそうならそれにする。
もちろんジロウ自体の好き嫌いも大切だから、ジロウに選ばせる。
不思議なことにそれで結構うまく行けてしまう。
ウマだけにウマがあう・・・。おっと座布団は勘弁してください。
ジロウが馬を選んで世話をするが、馬のほうも問題なさそうだ。
そのまま馬を連れて帰ることにした。
ジロウには、しばらくの間、毎日馬の世話をするように言い渡す。
「絶対にかわいがってね。」念を押しておく。
これは、メイド隊員に馬を与える度にやってきたことだ。
その次は、鍛冶工舎で刀を見てジロウに渡し、それを振らせる。
和刀ではなく、なんちゃって日本刀だ。
鍛冶師は「本和刀」と呼んでいる。
本来なら、刀兵の中隊長以上か抜刀隊にしか渡さない。
ジロウは目が輝いている。
技能に剣術があったから、以前から刀を振り回していたのだと思う。
メイド隊員じゃないから薙刀はダメだし、それで刀を選択した。
一応メイド隊配属ではあるけど・・。
アイリが渡した中から、自分で使いやすそうなのを選んでもらった。
なんちゃって日本刀は量産品ではなく、一品物だからそれぞれの癖がある。
振り回せば、それなりの技能持ちなら合うのがわかるだろう。
ちなみにメイド隊の薙刀も、すべて一品物だ。
みな自分専用の薙刀を持っている。
アイリがわざわざ完成品を確認して採用したものの中から選ばせている。
薙刀をメイド隊の標準武器にしたのはこだわりが半分だが
間合いが大きく取れることや、馬上でも使えること
両手で持てるから非力な女性でも力が入れやすいとか
斬撃武器で刀と同じように斬る、突くができて打つことも可能。
などの利点の多さだ。
まぁ刀と槍が融合したような武器だから利点が多いのは当たり前だけどね。
ちなみに薙刀は紐をつけて肩にかけられるようにしてある。
青龍偃月刀みたいに刀身が大きくなく重くないから片手でも振り回せる。
短めの日本刀に槍の棒が付いたような感じのものだ。
それなりの作りが必要となったのは言うまでもない。
なんちゃって日本刀の技術があったから出来たと言える。
アイリの見た目だけ青龍偃月刀とは大違いだ。
結構初期に作ったから、そろそろサイズ的にも限界で、
今より身長が大きくなったら必然的に作り直しになる。
アイリがジロウにいくつか持たせた刀はやや柄が長めのもの
片手持ちや二刀流は女性ではきつい。
両手持ちがしやすそうものを選んでいる。
このあたりの考え方は薙刀と同じだといえる。
女性剣士の二刀流も捨てがたいが・・。
戦いの場においては、周囲が敵だったり、
連戦しなければならないから持ちやすそうなのがいいと判断した。
それに柄が長い分、全体が長くなる。
騎馬でも使えるだろう。
刀だから片手持ちは当然可能だ。
どうやらジロウは気に入ったものを見つけたようだ。
それは持って帰っていいと伝える。
「明日から、それで訓練だよ」ここでも念を押しておく。
アイリの訓練は、自分の武器を持ったら。
その武器に慣れるまで、ひたすら素振りだ。
木刀なんかで素振りはしない。
木刀はあくまで試合用になる。
一応兵としての準備は出来たから館に帰ることにした。
アノウにおけるアイリの居館はミエ領で最大だ。
業務遂行のための評定の間もある。大広間だ。
メイド隊が複数入れる大きさは必要になる。
部屋の数も多い。
アイリがこだわったのは風呂の大きさ。
あまり大きいとお湯を入れる人が大変なので抑えてはある。
しかし、5、6人は同時に入れる大きさがある。
ここへきて部屋割りを考えるのが大変だ。
ジロウをどこにするのか。役割はどうするのか。
基本的に男性武官なら評定の間の隣の部屋だ。
評定の間で政務中に異変があってもすぐに駆け付けられる。
アイリは、何でも自分で動いてしまうので
居館の評定の間は、あまり政務では使わない。
オカザキだけは、政務館として別棟にしてある。
部下の手前、そこでは仕方なく評定をして政務を行っている。
ほとんど一方的な指示だが・・。
各領地にある居館の評定の間を使うときは、ほぼ宴会の時だ。
皆で食事をとるときや、アイリが何やら話をするときなど。
移動中のメンバーを集めて身内だけで楽しんでいる。
それでもたまに使うだけなのでほとんどお飾りである。
一人だけそんなところでいいのか悩む。
男だというなら仕方ないかもしれない。
アイリは、みな仲間だから近くにいてほしいと思っている。
メイド隊は、アイリの部屋の周囲にある部屋を使う。
評定の間は入り口からすぐ、玄関の真ん前になる。
アイリたちの部屋とは距離があるのだ。
一人寂しくそんなところにいては、仲間との親睦が図れない。
後は役割だが、メイド隊は雑用一般全て行う。
風呂の用意、掃除洗濯、食事の準備などなど。
基本メイドだからそれは仕方ない。
序列的なもので、下位の者がやることが多い。
メイド隊曰く「下積み」だそうだ。
それを適応するならジロウは雑用係り決定だ。
しかし、本人は兵士希望者なのでややこしい。
兵士は兵舎で自分のことは自分で行う。
共同部屋なので仲間と行うのだが、全体をみることはまずない。
全体作業は兵士全員で行うときだけだ。
兵舎にいる場合は、食事は専用の給仕が行う。
風呂は、上級職の持ち家くらいしかないから。
普通の兵士はアイリの湯屋を仲間と利用している。
ジロウは、こんなことはあまり知らないはずだが
短期間でも兵士採用されていたはずだから
こことのルールの違いに気づきそうだ。
男として扱うなら使用人のようなことをさせるのだが
それも、兵士の役割ではない。
またいろいろ策を練ることになった。
「うーん、めんどくさい奴め。」
待望の直虎の類似存在がこんなに面倒だとは思わなかった。
結局、アイリは主人権限で直下の兵だからと強権を発した。
メイド隊と同様の扱いだ。
順位的には新人だから予備隊員レベルになる。
こには、上位メンバーしかいないから
完全に下積みから始まる。
しかし部屋割りに関しては
直兵なら同室だと言ってきかない。
メイド隊でもアイリの同室は譲れないものがある。
メイド隊の総隊長であるキチョウには文句が言えないが
シホウの件でも納得はしていない。
アイリが決めたから我慢しているだけだ。
新人クラスがおこがましいというやつだ。
問題がシホウの同室の件にまで及んでしまった。
また何か策を考えなければならない。
今アイリの部屋は、
サヤカ、オイチ、マナリの側仕え組
マナリは微妙だが、子供だしアイリが保護者だから許される。
実はオイチもアイリが保護者だったりする。
キチョウ、シホウのメイド隊員
アイリを入れて6人にもなっている。
アイリの部屋は大きくて10人以上は入れる。
しかしこれ以上特例を続けると大変だ。
シホウは信長の妹の同名者だから何とかしたい。
アイリが信長ならキチョウ、オイチ、シホウは身内だ。
そんなことは、鑑定と歴史知識が無いと理解できないだろう。
アイリが取った策は、メイド隊に新たに親衛隊を作る事だった。
これにより、キチョウとシホウは親衛隊に編入。
マナリも正式に側仕えにした。
メイド隊のポストが開くからメイド隊もうれしいやら困ったやら。
大隊メイド隊自体が親衛隊であり側仕えなのだ。
これは正式にそういうことを言っていないアイリの謀略だ。
側仕えと親衛隊以外の同室は無い。
もちろんアイリが女性だから女性限定だ。
ということで、ジロウは引き下がるしかなくなった。
男だし兵だというから仕方ない。自業自得だろう。
アイリは無理やり何とか収めた・・つもりだった。
しかし親衛隊になる条件は、何なのかと
メイド隊員に聞かれたのは言うまでもない。
1軍の上の存在だと認識されたらしい。
上昇志向のメイド隊は、すぐに順位にこだわるから困ったものだ。
アイリは仕方なく屁理屈を言う。
「私が持つ英知の加護が、認めた人。」
英知の加護を持っていることは、アイリの身近な者は知っている。
だから幼いのに聡明で、普通の人と違う力を持っている。
これを言われると、どうしようもない。
アイリは嘘は言っていない。
実働しているのはスキルなのだけど似たようなものだ。
この時から、
キチョウは親衛隊隊長になり、シホウは副隊長になった。
メイド隊の1軍に新しい隊長が出来る。
2軍の隊長だったものが1軍に繰り上げになった。
3軍は現在、2枠の空きがあるから4軍から編入だ。
順位的には皆が上に上がったからうれしそうではある。
アイリはこの一連の騒動を
「直虎事件」と名付けた。
一日振り回されたのだから仕方ないだろう。
結局、待望の自由貿易郷アノウの到着日はこれで終わった。
実は結構時間が空いたのでアイリは紙芝居を作った。
その夜は、評定の大広間で紙芝居大会を開催した。
娯楽が少ないこの国では、かなり受けが良かったようだ。
皆楽しい時間が過ごせたことに満足する。
「結果よければすべてよし。ふふふ」
アイリも満足した。




