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No063 アイリの野望、領主編 「ミエ領の旅4」 長い山道を抜ける。 8歳6月~

アイリは何やら悩んでいた。

ここ尾鷲の地にも支援郷を作らないと南北経済ルートのつなぎが難しいのだ。


この周辺で平地がある場所は少ない。

官吏院に伝えて指示を出すことにした。

いや待って、多分北へ向かうときにもう一か所支援郷が必要になる。


志摩郡に入るところで山の中に街道が変わるからだ。

山中の移動は大変だ、手前に休めて物資が手に入る場所が必要だろう。

となるとここは、自由貿易郷にしたほうがいい。


「やっぱり、実際に来てみないと分からないわ。ふぅ」

シングウ自体の設営は問題ないのだが、とにかく北へも南へも遠いのだ。

しかも街が作れる平地が少ない。


本当は領境でなければ、クシモトも自由貿易郷にしたいと思っている。

いっそのこと新しく懸案しているアタミと同じにしようかな。

それは、自由貿易郷並みの経済区でありながら防衛に重点を置く。

いわば防衛都市。


アイリの懸案は城壁の設営である。

領境に堀を作り、壁を立てる。

城塞都市とは言わないが、隣領側に対して防壁がある街だ。

建築技術も進んできている今なら、2階建ては無理だが屋上は作れる。

これは、アイリの知る本来の砦の姿だ。

そこから防衛攻撃できれば、まずは通れないだろう。


結局、その方針で南地域を一気に改革することにした。


ここからも街道沿いに郷があるので、そのまま北へ進むことにした。

この地でも内政官は登用できたからそれで満足しておく。

人事見直しが済んだし、移動かな。


途中、郷役場へ寄りながらさらに北へ移動する。

オイチも似たような風景が続くから、最近はあまりはしゃがない。

代わりにマナリが、移動中きょろきょろしている。


マナリは馬もなく、乗馬の訓練もできないのでサヤカと二人乗りだ。

シズオカの時のオイチと同じ状態で、見ているとなんだか懐かしい。

マナリの正式改名は15歳を過ぎてからしかできないので

今は女の子っぽく呼び名を変えただけだ。


実はこの改名ルールも慣例という不確かなものなのだが。


アイリは改名をシノブにしようかと密かに考えている。

それはアイリらしいというか・・忍だからシノブという安直な考えである。

側近という名目で登用したが、実態は側仕えが3人になった。

アイリの部屋は5人部屋になった。


早く、居館があるところへ連れて行ってあげたい。

きっと、ベッドとふかふか布団と大きなお風呂でびっくりするだろう。

アイリはそんなことを考えながら、にやにやしている。


オイチは今、先輩風をふかして教育係りをやっている。

「つい最近までサヤカに教育されていたのに・・。笑」

マナリはその生い立ちの性か、基本教育もろくに出来ていなかった。

アイリも時々勉強を教えている。

これも昔オイチにもやってきたことだ。

「なんだか懐かしいな・・。うふふ」


そのオイチは今や内政官の勉強中だ。

それが終わったら内務官の勉強もするという。

官僚かよと突っ込みたくもなるけど本人はいたってまじめだ。


確かに管理院をはじめとする直轄院の上級内政官と同じことが出来れば

アイリは大助かりだ。

「その気なら内務官にして長官に任命してもいいわね・・ふふん」

アイリと同行するなら占領後すぐに行政改革が出来る。


いくつもの郷役場を視察して鑑定をしながら移動する。

やはり遠いなと感じる。

やがて、アイリが支援郷にしたいと思っている場所に着いた。

前世で言えば紀伊長島の地。


ここの郷役場が、南地区の最後の場所だ。

ここで調達できるものは、調達するように言っておく。

特に水と食料は確保したい。

ここを過ぎるとシマ郡になり、北地区に入る。


ここからは、長く山の中の街道を通ることになる。

見るものもなくなり、人もいなくなり街もなくなる。

郷と言っても村が点在するだけになる。

郷役場もしばらくない、移動するだけの空白地帯だ。


皆には野宿になる可能性も話しておく。

山の中の移動は時間がかかるだけでなく、あっという間に暗くなる。

シマ郡と言えば、皇王様と出会うまでの移動の時がそうだった。

あの時は今みたいに街道の整備もできていない。

「あの時よりは、まだましかな・・。」


この街道を開拓した労働者に敬意を覚える。

それと共に、よく軍を進軍させたなと当時の無謀さを感じた。

でもそれがあったから、今こうしてマナリと出会えた。

キヨタカもそうだ、貧乏漁師として埋もれてしまっただろう。


そんなことを考えながら、山道を進んでいった。

この街道あたりの山は、山と言っても森山だ。

感覚的には、林の中にいる感じになる。


アイリがしびれを切らしそうになる時、オイチが先にきれたらしい。

「もう、ずっと同じ風景・・ふぅ」何やらアイリ言葉っぽい。

確かに少女にはきつい。中身おばさんの私でもそう思っていた。

マナリは耐えるスキル持ちだからか、平然としている。


道中暗くなってきたので、仕方なく野宿を指示。

野宿できそうな場所を確保して焚火を行う。

けもの除けではなく、食事のためだ。

このあたりは熊も出ないし、狼は臆病なので人の気配で逃げる。

もっともここには狼もいない、「猿は危険だけど・・。」


猿は嫌われ者だ。群れて悪さをするし、猟師曰く食べてもおいしくない。

いや、猿を食べるのはちょっと・・。

ここの移動を考えて、荷物運び用の馬を調達している。


馬の背に乗せた荷物から野宿のための茣蓙や鍋が出てくる。

まるでキャンプのようだと思う。

オイチはなにやら喜んでいる。

マナリも楽しそうだ。


野宿体験が初めてなのだろう。これはこれで結構楽しい。

梅雨の時期に入っているから、雨だったら台無しだった。

一応雨具は用意している。視察中でも使用したものだ。


アイリ考案の、布に油質の高い樹液を塗った物を雨具として使っている。

撥水効果があまり期待できないのは仕方がない。

大雨ならダメだが梅雨時期の小雨ならこれで充分対応できる。

アイリ曰く「カッパモドキ」という代物だ。

折りたたむと小さくなり、邪魔にならないから重宝している。


食事が終わると焚火を囲んで勉強をする。

この地には電気など無く、行灯が一番明るい照明になる。

それもアイリが考案したものだ。

蝋燭もなかったので、油を使用する方法をアイリは考えた。

行灯の油に一番適しているのがクジラの油だったりする。


前世歴史上では、欧米はこの明かり油のために大量にクジラを狩っていた。

その当時の欧米では、はるか遠洋まで出かけて

日本と比べようがないほど、クジラを狩りまくっている。

それはガス灯が出来る近時代まで続く。


江戸時代ごろまでの日本近海はクジラの生息が多く、

欧米ではアジア周辺を植民地化すると、何と日本の四国沖まで遠征して

クジラ狩りをしていた。黒船来航イベントのはるか前だ。


その為、日本を拠点にしようとたくらんだ連中は

鎖国をしていた日本にちょっかいを出していた。


それは明治維新の前の時代にさかのぼる。

やがて苦労してまでクジラ油が必要なくなり、

貿易へと変わるのだが・・。その後の日本の変貌は歴史が物語る。


日本では油だけでなく、ありとあらゆる資源に使っていた。

クジラは重要な動物性たんぱく質でもあった。

欧米ではすでに牛肉が主体だったからクジラ肉の需要は全くない。


近世石油のおかげで、

完全にクジラが必要なくなくなった欧米の金持ちは

途端に保護だのなんだの言いがかりをつけだした。

石油や肉が手に入りにくい日本では、資源として長くクジラを利用していた。

それが前世現代まで繋がる雑学的な歴史だった。


かすかに残る記憶では、結局イヤガラセ保護団体は抜けたのだが・・。

正直、既に資源として必要なのかは疑問もある。


だが、今のアイリにとってクジラは貴重な資源だ。

異世界のこの国の今の時代は、やっと資源として活用するところになる。



アイリたちの勉強の時間が始まる。

勉強といっても本とノートを使うわけではない。

アイリの知識の中にある話を伝えたりするのだ。

あとは、九九を言ったりする。


オイチとマナリはアイリに続いていう

「ににんがし、にさんがろく、にしがはち・・・」

この国は基本、足し算引き算だからアイリは算術で九九を教えている。

夜の時間があるときの遊びの一つにもなっている。


マナリは、たし算引き算もまだまだだから意味が分からない。

一緒に呪文のようなものを唱えるのが楽しいようだ。

いや呪文ではないのだが・・。


サヤカやキチョウも時々参加するが、

間違えたりするとオイチが得意顔になる。

算術に関しては、今やオイチは一番成績優秀だ。


メイド隊は軽く体を動かしている。

移動中はずっと馬の上だから体を動かしたくなるのだろう。


暗くなってもすぐに寝つけないからそれぞれ好きに行動する。

やがて夜の見張り当番が決まって就寝になった。


翌朝は早くから起きて、早めの朝食を取る。

早々に準備して移動を開始することにした。

今日中の暗くならないうちに山を抜けたいからだ。


相変わらず景色は変わらない。

昨晩のことを思い出したのか、時間つぶしなのか

オイチとマナリは九九を口ずさんでいる。

「ににんがし、にさんがろく、にしがはち・・・。」

それにつられて、メイド隊も皆九九を言い出す。


九九の大合唱が山の中で響き渡る。とてもシュールだ。


やがて眼前に平野が見えてきた。

「やっと抜けた。」アイリは思わず口にした。

皆、安堵の表情に変わる。


この先からは、過去アイリが行った場所になる。

ここで街道は2方向に分かれる。

北へ行く道、西へ行く道。

アイリたち一行は、西へ向かう道を進む。


その先は、シマ郡の郡役場である大きな港町がある。

前世で言うと鳥羽あたりだ。

志摩の軍港も兼ねているし、ここからアイチへは最も距離が短い。


志摩半島の真ん中は、山の中になるので

陸路ではなく、海ルート専門の場所になっている。


一応街道はあるが、定期船が運航されているので

移動はそれを利用する人が多い。

海沿いの平地が開けた場所に港付きの郷役場がある。


今回は、鳥羽を拠点にしてそこへは船で行く。

行き来するだけの視察だが、一応そこへも行く予定だ。

大人数では無理なので限られたメンバーになる。

もちろん馬は船に乗せない。


トバの港町にもアイリの居館がある。

自由貿易郷の居館とは違い、それほど立派ではない。

だが、今までの苦労と大きくかけ離れるだろう。

ここはアイチとの海路の重要拠点だ。貿易港でもある。

街も自由貿易郷並みに大きい。

防衛兵だけでなぐ水兵も滞在しているのでとにかく人が多い。


アイリは街道分岐点の西にある郷役場を視察後。

さらに西へ向かう。そこにトバの港町がある。

それが見えてくるとアイリは叫ぶ。

「私は帰ってきたー!。」どこぞの宇宙軍少佐のような言葉が出る。

アイリのオタクルーツになったあのシリーズの人だったりする。

ちなみに3倍速の赤いほうではない。洋菓子のような名前の方だ。


それを聞いてオイチは「あー少佐の名言だぁ」という。

いったいアイリはオイチに何を教育しているのだろう。

それではオイチのオタク化が進むはずだ。

もちろんその手の話を聞かされているサヤカも苦笑している。


オイチはアイリのいう物語の話が面白くて大好きだ。

夜になるとアイリはいろんな物語の話をしてくれる。

特に最近、オタクルーツを思い出したアイリの最新物語はこれになる。


マナリもそれをすごく楽しみにしている。

「キタコレ!」と叫ぶ。オタク言葉だったりする。

あらら・・・マナリも短時間でオタク化している様だ。

この国では娯楽が少ない、冒険物語は少女たちにとってすごく楽しいらしい。

題材があれなのだが・・・。


キチョウは笑いをこらえている。

実は彼女も物語を聞かされているから意味が分かる。

5人はルームメイトだから仕方ない。


トバ港郷に着くと、早々に居館へ入る。

荷物を降ろしたり、買い物に出かけたり慌ただしい。

もう夕方になる。

今日は、役場や視察へは行かず、くつろぐ予定だ。


皆で馬の世話をしたりして夕飯までの時間を過ごす。

アイリは、マナリ用の仔馬を調達するように指示を出している。

夕飯は魚に飽きていたから肉になった。


風呂もあるが小さいので、順番に入る。

ベットもふかふか布団もないが、宿舎のそれよりはずっといい。

5人とも布団を並べて寝る準備をする。


寝る前はいつもの勉強だ。

勉強が終わると、アイリの冒険物語の時間になり、その後就寝になった。

明日は仕事だ。


目的の郷役場への移動は、小型船なので、7人ほどで行く。

サヤカもオイチもキチョウも行くというからすでに4人。


アイリは、定員の1人に

キチョウのように頑張って努力した新人を指名した。

あの船酔いした彼女だ。

アイリはその時、頑張って努力した姿に昔のキチョウの面影を見ている。

しかし今まだ3軍の隊員だ、隊員の中では歳も一番下になる。


なぜわざわざ指名したのか・・。


彼女の名前は、シホウ(四方) 

変な名前なのだが、アイリは当初何も感じていなかった。

只の頑張り屋さんくらいの印象だった。


しかし旅が長くなると、この変な名前が気になる。

アイリの歴史オタク知識を総動員すると。

なんと四方様と呼ばれた女性が浮かび上がった。

この世界では、歴史で称された名前の人もいる。


四方様と称された女性は、「犬姫」である。

・・・決してワンコではない。

織田信長の妹で、お市と並び、美しいと称された人物。


犬姫は信長の本能寺の変の後、信長を追うように死亡している。

病死や暗殺などの説があるが謎の死だ。


この世界は、歴史上の類似の存在や同名者であっても

年齢や出自などめちゃくちゃだ。

しかし、何か関係性があったりする。


それ以降、アイリは目をかけるようになった。

「頑張り屋さんだから、今のままでもきっと近いうちに

 2軍の隊長クラスになるだろう。」

それに犬姫の類似存在であれば、後発スキルが出てくる可能性は高い。



マナリは明日は留守番で、自分の仔馬の面倒を見る。

馬に乗るためには、馬の世話をするところから始まる。

残ったメイド隊に、マナリの乗馬や勉強を見てもらう。


「自分が目指す向性を見つけるまでは、ある程度自由にさせてあげたい。」

これはアイリの教育方針でもある。


マナリはアイリから贈られた仔馬を見て目を輝かせていた。

きっと、仔馬を大事に育てるだろう。



こうやって到着一日目は過ぎていった。









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