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No062 アイリの野望、領主編 「ミエ領の旅3」 忍者登場?? 8歳6月~

シングウに来てからのアイリは、日々充実していた。

人材登用も順調であり、内政官として既に8人もの人材をスカウトした。

シングウは北の隣郡の堺にあるため南北2郡合わせて視察をしている。


あの後、気になる赤い人は見ない。

前回で駆逐し終わったと見ていいだろう。


黄色いゴキブリさんはどこでもいるのだが・・。

ここへきて、2人のヘンテコスキル持ちも見つけた。

何かに使えると思い、それも登用している。


職人の技能持ちの中で役に立ちそうな人物は、

アイリの鍛冶工舎に来てもらった。

この地でも武器供給は大切だ。


内政政策も順調に進めている。

余裕があれば、他領への内政指示も飛ばす。


朝早起きして訓練をするのは日課だ。

訓練が終わると愛馬の世話をしてから汗を流す。

その後が朝食になる。


アイリは、サヤカの訓練を見て何やら気が付く。

身を守るために体術や短刀術は大切だが、

薙刀はどう見ても素質が無い。


人物事典を見るとサヤカには射撃類が合っている気がする。

今まで戦闘員としてサヤカを見ていなかったのだが

視力系がいい、特に動体視力。

これがあったから凶刃を防げたのだと思う。


それと、集中力が高い。

周囲の空気を察知できるのは、それもあるのかと思った。

現状はその集中力と動体視力で戦闘技能を支えている。

アイリは的を木に付けて弓と弩を持ってきた。


「サヤカ、これ使ってみて。」

弓の使い方と弩の使い方を教える。

弓と弩はアイリがさらに改良を加えた小型軽量の物だ。

これは騎乗戦闘用に使えないかと考えた試作品でもある。


さすがに弓は、素人では扱いが簡単ではない。

力だけで弦を引いても的に当てるのは無理だ。

訓練は必要になる。


弩を使わせてみると。的にどんどん当てていく。

中心を当てるのは無理でも変なとこにはいかない。

「うーん、やっぱりこれがサヤカには向いてるわね。」

この改良型の軽弩は飛距離はあまりない。

一応、矢を工夫したのである程度の貫通力はある。


これは、アイリが前世で使われていた

スポーツ用のクロスボウを参考にしたものだ。

しかも、連射を可能するため自動装填仕様になっている。


ライフルのように横のレバーを引くと弦が引かれ矢が装填する。

装填用の矢箱には5本ほど矢が入る。

カラクリを駆使して作った。

矢は細く短く鏃がないので現状の弩の矢とはかなり形状が異なる。

まるで大きな針のようだ。


使用用途が異なるからこうした偏った工夫を考えた。

遠距離射撃用というより近距離射撃用なのだ。


薙刀で直接近接戦闘をしなくても、

これなら数メートル内なら殺傷力もかなり高い。

数十メートルは飛ぶ。狩りにも使えると思う。


「うん、サヤカにはこれが向いてる。」

「これあげるから、これからは、薙刀に変えてこれを訓練してみて。」

クロスボウには肩掛け紐がついていて肩にぶら下げて移動できる。

サヤカはその武器が気に入ったようだ。


メイド隊員も羨ましそうに見ている。

「これ試作だけど、そのうち完成品が量産されるから。

 それが出来たら皆にも配るつもりだよ。」

アイリが考えて作らせたそれは、メイド隊員用の騎乗用の新武器だった。


サヤカに教える。

「この装填箱をこうして取り外したり取り付けたりできるの。」

「装填箱に矢を入れておけば、これを交換して使えるよ。」


そのあとで、一式を渡した。矢が数十本と装填箱が3つ。

交換矢は、ボディーバックの様なものに入れて背負い。

ベルトポーチの様な腰カバンに装填箱を入れる。


実はアイリが使うつもりもあったのだが

アイリは弓が得意だから、もう一つの軽弓でも似たようなことが出来る。

青龍偃月刀はこだわりで持っていると言ったほうがいい。


「矢が少なくなったら遠慮なく言ってね。すぐ造らせるから。」

アイリは、にこにこしながらサヤカに言った。


サヤカは、早朝訓練で初めてアイリと顔を合わせた時。

アイリの行く場所なら、戦場までついていきたいと言った。

もちろんメイド隊のように兵士ではなく、アイリの隣で護衛としてだ。


側仕えは主が死ぬか自分が死ぬまで仕え続けるという。

アイリのように戦場へ出る必要がある主であるなら

自分もそれを支えるというのが側仕えとしての意思らしい。


母上の様な主だったらきっとシキノみたいに安全に暮らせたんだろうな。

アイリは自分勝手な行動をしていたことを少し反省した。

サヤカは主の帰りを待つだけの側仕えにはなりたくなかった。

それが彼女のこだわりでもある。


一方、オイチはと言えば日々内政の勉強中だ。

アイリが視察に行くときは、必ず着いて行って何を指示するのか聞いている。

意味が分からない時は、アイリに質問して理解を深めようとする。


オイチは、オイチなりの側仕えに対するこだわりがあるらしい。

アイリの側で戦いをするのは無理だから、アイリの仕事を支える。

戦場でも後方支援や戦後の処理を手伝うつもりだと熱弁された。

オイチもただ待つだけの側仕えにはなりたくないという。


二人とも頼もしい側仕えだ。

この長い旅をアイリに同行することで心境に変化が出たのだろうか。

アイリも二人と離れるのは辛いと感じるようになってきた。

だから二人の思いをできるだけ叶えるように応援している。


キチョウも似たようなものだ。

メイド隊は戦闘側仕えだから死ぬまで側に仕えるという。

それはメイド隊員、皆同じだと言った。


キチョウはこの旅でアイリが持つ謎の力に気が付いているらしい。

聡明なだけでは計り知れない。敵を察知する能力がすごいからだ。

それは人材登用や人事監査を見ていても思う。


アイリは、両親にもスキルの力の話はしていない。

しかしそのうち、三人には話すときが来るだろうと思っている。


シングウでの滞在は日々平穏に、順調に過ぎていった。


アイリは、食品や消耗品を買い揃えておくようにと指示を出した。

それは移動が近いことを示す。

南地区でアイリが行ってない場所はあと一郡を残すのみ。

北の伊賀あたりも初めてになるのだがそれはもう少し先になる。


また距離が長い移動が始まる。


「全員、騎乗」キチョウがメイド隊に号令する。

「移動!」

これを合図にアイリ一行は、シングウを後にした。


既にシングウを拠点に視察が終わった北の熊野郡を通り越して

さらに北へと移動する。

南で5つ目になる尾鷲郡を目指す。


熊野から尾鷲辺りは海岸線に面白い景色が見える。

変な形の岩などを見て、そのたびオイチが感心している。

時々アイリ言葉で「はんぱねー。」とか言うから皆笑う。

オイチは内政の勉強だけでなく、物まねの勉強もしているのだろうか。


かなりな距離を進むのだが、皆和気あいあいとしている。


矢の川という小さな川の北が次の目的地だ。

そのあたりまで来るとやっと平野が広がり始める。

もう一つ同じくらいの川を越えると目的地の郡役場になる。


この川のおかげでここでは農耕もできる。

ここは豪族が納めていた場所だ。


アイリがミエ領の北5郡を取って領主になった時、

帰順を示さず独立したままだった。

ミエ領ではそれが当たり前だったから豪族が乱立していた。


ミエ領の移動距離の長さもある。

ここを統一するには、移動が大変だ。


もうしばらくで役場に着くというところで

何か揉めている声が聞こえる。


数人の見物人がいる。

それが壁になって様子がわからない。

声だけだが子供が盗みをしたという話らしい。

行商人らしき男が騒いでいる様だ。


アイリはそこへ割って入ると鑑定を行った。

「あれれ・・・。あの子忍者じゃん。」

その言葉の意味は誰も理解できない。


子供を怒鳴っている男は黄色いのだが、子供は黄色くはない。

犯罪歴もないのだが・・。

男の方は何やら詐欺師まがいの犯罪歴が並ぶ。

かなり小物のようだが、あれやこれやいろいろ手を出している。


アイリは仕方なく、メイド隊に指示する。

「子供の方ではなく、あの男の方を捕縛して。」

総勢30人のメイド隊が二人を囲み、男を捕縛する。


アイリは子供に近づくと

「あなた、何もしてないでしょ。どうしてこうなったの?」

と話しかける。


捕縛された男が騒いでうるさいので猿轡をするように命じた。

声も出せないのに、まだうんうん言っている。


子供は奉公のために出てきたらしい。

そこで行商人の手伝いをしていた。

行商人とはそこの黄色いやつだ。黄色とは悪人判定になる。


だが聞いてみると

どうにも使用人以下の扱いをされているとしか思えない。

良くまぁ我慢していたようだと思う。

ここまで荷物運びを手伝ってきたが、突然解雇すると言われたらしい。

食事にも困る有様なので、給金くらいほしいと言ったようだ。


すると男は急に泥棒扱いしだしたというのだ。

いかにも小物臭が漂う。

これ、働かせるだけ働かせて用が済んだら捨てるというやつだな。

小物の悪人の王道と言えば王道だ。


男の懐からお金を取り出してすべて子供に与えた。

アイリは犯罪者はすべて財産没収なのだ。


特殊諜報員の伝令に指示して、

防衛兵に男の身柄を引き取ってほしいと伝えてもらう。


防衛兵が来るのを待つと、中隊長が焦ってやってきた。

アイリがいると聞いて飛んできたらしい。

「この人、犯罪者でいろいろ悪さをしているから取り調べて。」

「しばらく、牢屋にでも入れておいてね。」

そのまま防衛兵に男は連れられて行った。


男の犯罪歴は

ロクでもないものを高額で老婆に押し付けてお金を取る。

いい品が入ったからと取引を持ち掛け、手付をもらってとんずらする。

子供をだましてはただ働きをさせる。

などなどセコイ犯罪が、多数に及ぶ。


最後のは、実際に見た光景だ。

これを何度も繰り返していた。

騙された子がその後どうなったのか心配だが・・・。


とりあえず目の前の子だけ何とかしてやりたい。

子供は、同名者でスキル持ちだ。


マサナリ 11歳  スキル「忍」

忍とは、耐え忍ぶことだ。

経歴からかなりの苦労人であることがわかる。

両親は早い時点で戦に巻き込まれて亡くなった。


住んでいた村でも、食わせる物はないと煙たがれた。

何とか自力で食いつないできたようだ。


豪族の小競り合いが長かったこの地に、

こういった存在がいるだろうとは失念していた。

これは戦争孤児である。


考えればわかるはずだった。

戦争は農民を使い関係ない領民を巻き込む。

しかも、この国では敵は殲滅が当たり前なのだ。


これは、後発スキルに違いない。


しかし、偶然にも同名者である。

素養はあったと思える。

アイリが該当する歴史有名人の記憶から一人の名を選ぶ。


服部正成。通称名は半蔵。服部半蔵の同名者だ。

アイリが初見で言った通り、忍者である。


この世界ではアイリの前世歴史と異なり

年齢も出身も違うことは多い。

類似の存在であって本人とは言えないが

ここは異世界だから前世の歴史と同じだとは限らない。


アイリは、その子を自分の側近にする。

使用人ではない。下働きをさせる気は毛頭ない。

今まで苦労してきたのだ。

アイリは、この子を教育して立派にするつもりだ。


マサナリは驚いた。

目の前の女の子がこの領の領主様だったのだ。

どう見ても自分より年下にしか見えない。


自分を助けてくれて、悪いやつからお金を取って

「これは給金だから遠慮なくもらっておきなさい。」

と言った。


そればかりじゃない。

「あなたは、今日から私の側近として仕えなさい。」

と言われた。全く意味が分からない。

戸惑っていると。

「もう寝るところも、食べることも心配しなくていいよ。」

と言う。


アイリは、実は鑑定でもう一つ驚くことを見抜いていた。

この子は男の子じゃない。女の子。

たぶん、苦労してきたから男の子の振りをしていた。

名前も男の名前だから、だれも疑わなかった。


どういう経緯でつけられた名前かはわからない。

それは人物事典で両親の履歴に載っている可能性はある。

既に両親は亡くなっている以上、詮索は無理だ。


アイリは、呼び名をマサナリから「マナリ」に変えた。

「あなたは、今からマナリと名乗りなさい。ふふふ」

後日、小さなメイドが一人増えた。


忍という一文字だけのスキルを持つ少女だった。







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