No060 アイリの野望、領主編 「ミエ領の旅1」 最南端で人物に出会う。 8歳6月~
アイリ一行を乗せた船はクシモトの港に入った。
船長に別れを告げて、上陸をする。
ここは、ミエ領キイ地区クシモト郡とアイリが命名した場所だ。
紀伊半島の最南端になる。
領境の境界は日本歴史とも前世現代とも異なる。
皇王様に領地範囲はどうやって決まったのか聞いてみようと思う。
ミエ領は、確かに農地が少ない。
その分面積が広いかもしれないが、
あの広かったシズオカよりもさらに広い。
シマまでやってきたという皇王様には申し訳ないが
主街道は海沿いの一本だけで、
好きものでなければ陸路など考えたくもない。
そこを踏破するわけだ。
だが、土地が狭いから視察範囲はすごく狭い。
特にキイ地区は、ほとんど街道を移動するだけで終わるだろう。
串本は当初、特別に港を支援はしていなかったが
西廻りで大阪辺りを目指す場合に非常に重要な地点になる。
その為、ミエ領の開発が落ち着いた頃
比較的大きな多目的港を作らせた。
しかしこの港に大きな軍船が入ることは今までなかった。
アイリが下りてきた船を見に来る人々が多い。
降りてきたアイリを見てさらに見物人が増える。
珍しい船と珍しい格好をした女性の集団。
彼らからすれば、異国の人状態だろう。
アイリは警戒しながら鑑定を行う。
もしもを考えて警戒するのが身についてしまった。
見物人の中に気になる存在を見つけた。
「あー、こんなとこにいた。」
アイリが思わずつぶやく。第一村人発見ではない。
アイリが見つめる少年・・と言っても成人の15歳だが
キヨタカ(嘉隆)職業は漁師だ。
しかしスキルがある。「海戦」スキル。
まんまじゃないかと突っ込んでみたくなる。
この年齢だと初期からあると思われる。
本人や家族は気が付いていないだろう。
しかも、九鬼嘉隆の同名者だ。
志摩あたりにいるはずの人間が
いないなぁと思ったらこんなところにいた。
織田水軍の海戦における分岐点にいた人物である。
鉄甲船も信長考案にされているが実は嘉隆の案である。
信長はそれを聞いて面白いと資材をなげうって完成された。
朝鮮出兵から関ケ原まで戦歴も長い。
当然、海戦数も多いわけだ。
前世歴史なら技能だったものが経験で昇華してスキル化したと言える。
しかしここにいる同名者は、既に所持している。
経歴から10歳から漁師をしているが他には技能も見当たらない。
「船長!悪いけど、しばらくこの港で待機しててね。」
アイリは船上にいる船長に声をかける。
そして、人ごみの中から15歳の少年に声をかけた。
「あなた、あの軍船に乗りたいと思わない?」
「その気になって勉強したら船長にしてあげるわ。」
少年はびっくりしている。
アイリは少年を見て言葉足らずだったと思った。
「私はオダ家当主のアイリです。この領の領主ですよ。」
「あの船は私の船。あんなのが他にもあるのよ。ふふふ。」
周囲にいた見物人もびっくりだ。
この幼女が領主だというのと、あんな船が他にもあるという話。
それと突然、少年を船長にするという話。
だいたい領主が領民に直接声をかけることも彼らにとっては前代未聞だ。
確かに噂では、領主は幼い娘で、しかもかなり聡明だと聞いていた。
おかげでここも繁栄していると。
その領主は、平民でも取り立てるという。
夢物語のような話だったが、今それが目の前で展開されているのだ。
少年に聞くと母親が一人いるという。
父親も漁師だったが、海で亡くなっていた。
だから奉公の年齢から漁師をしていたらしい。
アイリは、母親をアイチ領で保護するという。
「ちゃんと家を作って生活に困らないようにするけどあなたはどうする?」
領主にこう言われて、
しかもあの船の船長になれるかもしれないと聞かされれば反論はない。
アイリは、母親と相談しなさいと言った。
明日まではこの郡役場にいるという。
少年は急いで家に帰り、母親に相談した。
しかし、あまりのことで母親は息子の話を信用できなかった。
結局、親子そろって、その日のうちに郡役場にやってきた。
アイリは母親に本当のことだと告げた。
その他いろいろなことを話す。
母親は考えた。
息子には何やら特別な素質があるらしい。
今から勉強や経験を積めば、領主様のお役に立てる人物になれるという。
しかも生活の保障もしてくれる。
夢のような話だが本当のことだという。
息子は、とても嬉しいようだ。
この地で、今のままでは息子に苦労を掛けるだけなのだから
領主様の言葉を信じて仕えさせた方が息子のためにもなる。
結果承諾することにした。
アイリはそれを聞くとすぐに船長とアイチ領へ伝令を飛ばす。
「家財道具も全部そろえるから大切な荷物だけまとめてね。」
アイリの直轄事業である貸家公舎の家を確保して
家財道具を揃えさせる。
アイリは、重要だと思った人材をスカウトしては、
こういった生活保障もしている。
アイリの直轄事業で何もかも揃えられるのは大きい。
荷物移動もアイリの部下が全部やることで身体一つで移動できるのだ。
ほとんどの者はこれと言った大切な荷物はない。
アイリが揃えてくれるなら問題ないらしい。
親子が持っていくのは、父親の遺品。
自分たちの懐かしい物がいくつかだった。
水兵が荷物移動を手伝ってあっという間に準備が出来てしまった。
親子は、顔見知りに別れの挨拶を告げてアイリの船に乗る。
船長が帰港するのはアイチ領だ。
船長には、少年を船長見習いとして教育してほしいと伝えてある。
アイチ領ではアツミ港まで出迎えが行くように手配した。
しばらくは、拠点になるアツミ港の家を使ってもらう。
息子のことが安心できたら
母親はオカザキやトヨハシに移ってもいいだろう。
仕事がしたければ直轄事業で働けるからもっと裕福な生活が出来る。
そういったこともアイリは話した。
この話は、瞬く間に広がる。
クシモトから北へと夢物語のような本当の話。
どうやら隣の領へも噂は流れていったようだ。
これは諜報院がやったのだろう。
きっとまた移民が増えるに違いない。
その他にも内政官をスカウトした。
もちろん役場などの人事見直しは大切だ。
この後、水兵の募集に人が集まったのは言うまでもない。
翌日、領境にある鬮野川の砦を視察し、防衛兵を労い。
中隊長に挨拶をする。
この地は他領との境になるため2中隊赴任している。
こういった兵達がいることで消費が伸び、この地を豊かにしている。
砦の中隊長は、ツネオキ(恒興)
織田家家臣団の池田恒興の同名者だ。
歴史での彼は織田信長の乳兄弟として信任が厚かった。
うつけものと言われた初期の信長時代から使えている人物だ。
もう一人、郡全体の防衛を任せている中隊長は、
ヒデマサ(秀政)
これも織田家家臣団の堀秀政の同名者である。
歴史上では戦上手と言われ、対応力の高さを評価されている。
何かあったらすぐに対応できないこの遠隔地において
この二人は最適だろうとアイリは任命した。
但し、あくまでも同名者というのは本人とは限らない。
類似の存在かもわからない。
ただ、技能的に中隊長が任せられる指揮力はある。
おおくは単にアイリの歴史人物に対するこだわりなのだ。
二人はアイリが、わざわざ来てくれたこと自体に感動している。
「二人とも、ご苦労様です。この地を平和に保ってくれてありがとう。」
「ここは、領地の最南端で要の地と言えます。」
「辺境で大変だと思いますが、よろしくお願いしますね。」
アイリがこんなことを言うからさらに感動が倍増してしまう。
彼らはそれを誇りにして、後も防衛任務に励むことになった。
アイリはシズオカと同じように領民の前で説明している。
領主から直接の話を聞いて領民もやる気と忠誠心がわいたようだ。
アイリがこの遠い地へわざわざ来たことは無駄ではなかった。
その後、活気が出たらしい。
アイリは視察を終え、北へと移動する。
人材確保は満足だ。
海軍指揮官を任せられる可能性がある人物が確保できたのだから。
この先、船長としての操船の仕方とか海戦の指揮の仕方など
課題はたくさんあるだろうけど、素養があるから
頑張ってくれればきっとそれなりに育ってくれるだろう。
次はタイチ郡だ。
前世現代の太地町を命名の参考にしたが
郡役場の場所は太地町の位地ではない。
そこからはるか南に位置する。
古座川を越えて北に行くと郡役場になる。
北への移動中は、クシモト郡の郷役場なども視察していく。
クシモト郡は変わった形の半島の郷の他
その北に郡役場がある郷、更に北に3つの郷がある。
平野部が多い郡だと郷は10にもなるが
ここは郷は5つしかない。しかもすべて街道沿いだ。
だから移動中に立ち寄り視察していくだけで済む。
距離はあるが、時間はかからない。
オイチは「海の向こうに島が見える。」という。
確かに南に島がある。
船での移動時には、沖から目にするから大陸にしか見えないが
反対側の陸から見れば島だ。
「あれはね、紀伊大島って言うの。」
あれも領地なのだが郷としての登録はしていない。
船でいちいち移動するのが大変なのだ。
但し大きさからいえば十分郷と言える。
確か温暖な地だった気もする。
乗り込んで開拓を進めれば面白いかもしれない。
砂糖黍とか栽培できるならそれもいいかもしれない。
陸地と定期船で結んでみようかな。
オイチの何気ない言葉から開拓地への夢が広がる。
しかし今回の視察域から外れるので次回の課題にした。
オイチは「あれも領なの?」と素朴なことを聞く。
「うん、そうだよ。でも行くのが大変だから今回は行かないけどね。」
と答えた。
実は半島から漁師の小舟でも行けるとは言いにくい。
政策を行うためには、それなりの準備が必要なのだ。
それ以外にも小さな島はところどころにある。
それはアイチ領にも言えることだ。
小島はアイリの政策に使うより、今は漁師の自治権地区にしてある。
もっと領内の人口が増えたら考える。
今はまだ領内のいたるところで人手不足なのだ。
まだ遊休地もあるし、開拓可能地も残されている。
戦乱が長いこの国ではどうしても兵隊は農民兵で男手になる。
戦争で働き手がいなくなれば必然的にそういう地が出来上がる。
だからアイリは農民兵を使わない。
専門兵にしているのはそういう理由もある。
しかも専門兵は、赴任先で消費活動を行いお金を使う。
そのお金は、その地に回り地域を活性化させる。
廻り回ってアイリの所にも収入として還元されることになる。
「経済活動とは、お金を効率よく回すこと。」
アイリは内政官にこんなことをよく言う。
それは視察で回ったクシモトやヌマズにも言える。
中心から離れた地の活性化には手っ取り早い。
消費を上げてから生産を上げるほうが効率がいいのだ。
生産が足らなければ隣から資材や食料などは回ってくる。
アイリの領が直轄領だから出来ることかもしれない。
他にもアイリは周辺領地にいろいろなものを売りお金を稼いでいる。
アイリの領内だけでなく生産が上がったらそうして領外からも稼ぐ。
それを知った領外の領民などはアイリの領へとやってきて領民になる。
移民の奨励や諜報院による宣伝などもそういったことを意味する。
こういう流れが軌道に乗ると
戦闘だけではなく経済戦争が出来る。
塩や紙、木綿布など輸送に適したものを支援するのもそうした意味合いが多い。
最近ではお茶もそうだ。これらは外貨を稼ぐ武器になる。
現在盛んに特殊諜報員を使い領民を扇動し、諜報院がアイリを宣伝する。
これが情報戦争なら。
一方で他領貿易と称し、大量生産してコストを下げた消耗品などを
そこへ輸出している。
自領で生産するよりアイリから買ったほうが得になれば頼ることになる。
これが経済戦争となる。これは止めたら痛手になるだろう。
そこに、皇王様の御旗を上げたアイリ軍が来るとどうなるのか。
しかもその軍は最新装備で訓練された専門兵。
これがアイリが考えた皇都奪還作戦の手段でもある。
話はかなりずれてしまったのだが、アイリ一行はやがてタイチ郡に入った。
ここから少し問題がある。
アイリに対する刺客事件。
それはこの先を北に行った郡で発生したものだ。
旧領主の領主館があった地はアイリにとって懸念された場所でもある。
例の黒幕がやらかしてくれたことだ。
現在、総力を挙げてそれらしき人物の特定をしている。
アイリは、相手が刺客を使うなら、自分も使うつもりで覚悟している。
アイリの視察の目的の一つは特殊なスキルを持った人材を集めること。
毒には毒を刺客には刺客をやり返す。巧妙な手段で。
アイリは警戒を強める。
これから先は人材よりも赤い色の発見を優先する。
シングウに入るまではそれが続くだろう。
「この先は警戒区域に入ります。みんな気を付けてね。」
アイリは、メイド隊に告げる。
アイリがそう想定したのはシズオカにおける事件の地域情報。
旧領主の拠点になっていた他域であること。
自由貿易郷などの特殊な場所では無い事。
場所が狭く通り道が限られること。
アイリが行ったことのない場所であること。
これらがあげられる。
旧領主の影響が強く残る場所は、その側近がいて利用されやすい。
人が多く防衛が進んでいる場所では、動きにくい。
移動ルートが絞りやすければ待ち伏せが可能。
土地勘が無ければ対応できない。
普通に考えればハメ技になるが、鑑定と人物事典コンボ、
そして地図などのスキルがあるアイリはそれで対処できている。
それでも初手は間一髪だった。
だから警戒するに越したことはない。
前衛はメイド隊2軍、中間に1軍とアイリ、オイチ、サヤカ
後ろはメイド隊3軍という並びで街道を進む。
当然、特殊諜報員もアイリ一行と別行動で随行している。
クシモトで大々的にアイリの存在を示したから
残存する敵がいるのなら出てくるだろう。
いきなりクシモトにアイリが現れるとは思っていなかったはずだ。
対応は遅れただろうが、敵がいるならそろそろ動き出すタイミングに入る。
アイリ一行が進んでいくと海沿いまで山が迫る地がある。
平地らしいものが無く道しかない場所に差し掛かるのだ。
一層警戒を強めたが街道の前方には人がいない。
その先へ進むと街道が曲がっていた。
「うわ、これ第一種接近遭遇だ。」
曲がった道を抜けると期待通りの赤い人。
しかも相手もこちらに来ていたらしく近距離で鉢合わせ状態だ。
アイリは後ろを振り返る。
誰もいない。特殊諜報員だけだ。
「前方に厚く展開して、前にいる連中はすべて処分対象です。」
「後ろは大丈夫、他に任せるわ。」
街道しかないのこの場所だから騎馬のままメイド隊が突っ込む。
1軍はアイリの前方に構え、2軍3軍が突撃していく。
戦場の時のようだ。
馬を降りて動く手間よりそのまま突っ込む方がいい。
そうキチョウが判断しての行動だ。
2軍が蹴散らし駆け抜けた後、3軍が波状攻撃を仕掛ける。
二つの軍は敵の後ろに回ると馬を降りて掃討戦に入る。
そこへ前から一軍も加わる。包囲殲滅戦だ。
アイリの周辺には特殊諜報員がいつの間にか待機している。
これらはアイリが事前に考えていた何パターンかの作戦の一つでもある。
敵の総数はアイリの鑑定によると21人。残存兵力だろうか。
場合によっては先行部隊かも知れない。
アイリは念のため周りを見回す。横からの敵は地形的にないだろう。
後ろは全く誰もいない。
騎馬によって蹴散らかされ騒然となった相手は脆い。
出会い頭で遭遇したから行動も遅れたのだろう。
「そこの装備が違う人だけは怪我させてもいいから残して!」
アイリは首謀者らしき男を見つけた。
その男をメイド隊は無視して回りを片付ける。
アイリは特殊諜報員の伝令に防衛兵への要請を指示した。
後始末は任せるつもりだ。
戦闘開始からわずかな時間で決着することになった。
相手は逃げ道もなく翻弄されたまま各個撃破された形だ。
ここでのキチョウは無双モードだった。
スキル全開というやつだ。女性は怒らせると怖い。
キチョウが首謀者らしき男を引きづってきた。
ここまでくると怪力無双と言える。
話を聞くが、やはりシズオカと同じだった。
完全に同じ黒幕が同じ手で仕組んだわけだ。
仲間がいるかと聞いたが既に処罰されたといった。
策略で引っかけて残存していた方だった。
しかしシズオカと言いミエと言い
総数で言えば、各地とも50人を超える集団だ。
全員一度に戦っていたらかなりまずかっただろう。
策略を仕掛けておいてよかったと思った。
しかし、こうなると赤いのがわかるのを共有できるといいな。
アイリは思った。
パーティー機能みたいな共有知覚、もしくは情報共有
そんな力が欲しいと思ったのだ。
それと自分の戦闘技能の向上。
確かに始めから高い技能はあったが忙しくてそれを上げる努力を怠っている。
戦場で変なハメ技をされたらたまらない。
自己防衛手段はあるほうがいい。
アイリに新しい課題が出来た。
しばらくその場で待機していると防衛兵が来た。
中隊長は申し訳なさそうにしていた。
前回の事前対策による活躍のおかげで敵が減り、
かなり有利になったことは否めない。
誉めはしたが責められるわけがない。
後を防衛兵に任せて先を進むことにした。
アイリは鑑定をし続けるが、警戒は解いていいと指示した。
こう続くとオイチの教育に悪いと思ったのだが
オイチは戦争だから仕方がないと達観していた。
さすが戦国乱世を渡ってきたお市の類似存在だ。
普通の子供なら泣き叫ぶかもしれない状況でも仕方ないと受け止める。
オイチに言わせると自分より年下のアイリが平然としているのだから
年上の自分がしっかりしなければいけないと思っているだけなのだが・・。
いや、私中身はおばさんだから・・。
しかも戦場駆け巡って慣れちゃったし。
そんなことは言えないから頑張ったねと言っておいた。
ほどなく郡役場に入り、状況を説明した。
そのまま人事監査をすると言ったら驚かれてしまったが
仕事は仕事だ。
シズオカの時は疲れ果てていたのは忘れたことにする。
慣れは恐ろしい。
周辺と郷役場まで視察してその日は次へは行けず
仮宿舎に泊まりになった。
ここでは人材は見つけられなかった。
実はそれが一番きつかった。




