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No059 アイリの野望、領主編 「シズオカ領の旅6」 伊豆の異変? 8歳5月~

アイリは最後の目的地とも言えるフジカワに到着した。

あの後、移動の間は何も問題なく、視察をこなすことが出来た。

自由貿易郷であるこのフジカワはやはり南に港が隣接する。

漁港だけでなく最東端の軍港でもある。


アイリは、ここでも領民や商人などの海路移動のため

定期船を運用するようにと、直轄事業に指示を出した。

輸送公舎での新しい事業である。


陸路が辛かったこともある。

フジカワ、ヤイズ、オマエザキ、ハママツを結ぶ定期海路だ。

これで人の移動も楽になるだろう。

シミズ港は結局漁港どまりにしてある。


自分も帰りは海路にすると決めてある。

早くから武装艦の船長に連絡して、こちらで待機するように指示した。


こちらの視察が終わったら、一気にミエ領に行くつもりだ。

内陸でアイチに寄らないため、ローテーションと話していたメイド隊には

アイチ領のアツミ港で待機するように連絡した。


敵の人数が多かったこともあり、ローテーションではなく

1、2軍以外に3軍を追加で連れていく。

いくら大きい船とはいえ、馬まで乗せるつもりなのでそれが限界だ。


海賊退治の時の様な事はないと思うから海戦仕様でなくても

いいだろうという考えでもある。

ミエ領到着後の陸路移動を重視して、そのような指示になった。


富士山の麓にあるこの地は、平野部は今まで同様の指示だが

山に近い場所は広大な牧場地帯にするように事業拡大を指示する。

馬を走らせ品種改良を進める。軍馬の大産地化も考慮した。


そして懸案だった祭祀のための神社1号を富士山に近い北側に作らせる。

ここまで皇王様に来させるつもりは毛頭ない。

領民による聖祭日の祭りを行うためだ。


要するに聖祭日に、お祭り会場となるのがこの神社だ。

この国は娯楽が少ないから領民も楽しめるだろう。

そこに神主役の伝道官を配置して、領主からの言葉を告げる。

伝道官は伝令兵だったものから人選して任命する。


領主の考え方や領民としてどうあるべきかなどを伝える。

決して宗教的なものではない。

今まで部下に話していたことを領民にも伝えるだけだ。


簡単に言えば、

領主と領民みんなで力を合わせ平和で豊かになるため頑張ろう。

そうすれば幸せになれる。という感じだ。

やや宗教臭いのは否めない気もする。


富士川は富士山からの雪解け水でもありこの地は水がきれいだ。

製紙事業では質の高いものが作れるかもしれない。

材料の木材も多いので力を入れることにした。


一方で造船なども力を入れる。

この先もしもを考えると伊豆半島やその先への移動は海路が便利だ。

もちろん軍の移動にも使える。


今回、メイド隊との海路移動を検討したことで。

海戦仕様の武装船だけでなく、大型輸送船の作成も指示した。

アイリの軍や兵器類を移動させるためには、

輸送に特化した船の必要を感じたからだ。


水軍で標準化を進めている武装船では

その性質上どうしても乗船できる人数が限られる。

海戦用の武装のための兵器と乗船している水兵がいるからだ。


アイリの案は、武装船に守らせながら大型輸送船を運用するというもの。

これは各地の造船工舎にも展開する。

大型輸送船は平時なら、大きな物や大量な輸送もできるだろう。

海運にとっても大型の物資輸送はメリットがある。


フジカワの官吏院長官は

ケイサク 28才  

今まで見たことが無かった、根気という珍しいスキル持ちだ。

経歴から何やらずいぶん耐え続けて負けずに努力していた感じがする。

性格もあるのか明るく気さくでもある。

アイリの指示で努力するのが嫌じゃないようなのでなによりだ。


これもアイリが見出し、開発が遅れていたフジカワに赴任させた。

カンスケ達の赴任時期より後のことになる。

この地の特殊性の為、アイリが是非にと長官に任命し赴任させた。

フジカワは場合によっては最前線地帯でもある。


根気というスキルもバフ系に近いものだと言える。

バフ系スキルは、技能適応範囲が広い。

ケイサクにアイリが望むのは基本的には内務も出来るが、

いざとなったら防衛でも耐えて頑張ってもらえるためでもある。


この地に来てからもアイリはいろいろ指示を出している。

ケイサクはそれを笑って受け止めている。

ケイサクにとってもアイリは自分を重用してくれて感謝している。

今までの上司は苦労をしつづけても何も見返りはなかった。


むしろ自分の頑張りは全てその上司の功績になっていた。

アイリは違う、ことあるごとに部下を褒めて労う。


アイリ自身の苦労もあったはずなのに

ここへ到着したときも、真っ先に

「ここまでよく頑張ったわね。さすがケイサクだわ、ありがとう!」

という労いと誉めの言葉をくれた。


アイリの政策もすごいし、課題をこなすために並みの努力の仕方でもない。

それなのに上手くいくと「部下が頑張ってくれたからよ。」という。

アイリの元で内務を学んでいた時もすごく感じていた。

この人の下ならもっと頑張れると、だから今は何も苦労だと感じていない。


アイリの直下に属する内務官の多くにある信仰的な思いは

アイリ自身が自分たちより努力し、それを自分の功績にしない度量の広さが

見て取れるからだ。

しかも次々に打ち出す政策の幅の広さと、的確さには舌を巻く。


ケイサクはアイリからもらった花丸マークの扇子を手にしながら

にこにこして、その頃のアイリのことを思い出している。

今も変わらないその姿勢に敬意を感じる。


ケイサクは、新人の部下たちにも仕事の教育時にアイリのことを話している。

一番上の人間がそう言う存在だからこそ、自分たちはそれを支えていけることを

誇りに思いなさい。


この世界のこの国にはロクな人間が上にいなかった。

アイリはただの幼女ではない、大人の自分たちをはるかに凌駕した存在だ。

それはアイリの部下の多くの内務官が持っている思いと同じだった。


アイリの行政を支えるのは、こうした内務官たちのおかげでもある。

アイリ自身は、彼らに丸投げしているつもりなのだが

当の本人たちからすれば、それは大きく違うようだ。


フジカワに来てからは変な色の存在はあまり見かけない。

ごくたまに黄色い存在はいるがそれはゴキブリのようにどこにでもいる。

何故か駆逐したつもりでもしばらくしたらいる。

それは人間という存在が必ず持つ何かなのだろう。


ただ、ここへきて赤色はいない。

自由貿易郷は、防衛兵の数も多く見廻りをしていたりもする。

手を出しにくいのかもしれないし、アイリの作戦が効きだしたのかも知れない。


人の数は他の郡役場周辺と違い圧倒的に多い。街は活気にあふれている。

ここへきてようやくサヤカとオイチは気楽に散策や買い物に行っている。

もちろんメイド隊を連れているが、今までが酷かったせいか気が楽だ。


オイチは富士山が近すぎて圧倒されていたが

最近はそれが当たり前の景色になった。

アイリからは危険があるから隣の郡へ行くときは連れて行かないと言われた。

ここを拠点にするから留守番するだけだと説得された。


納得するしかないが、ここは嫌いではない。

留守番の間中は防衛兵が居館を守ってくれるそうだ。

メイド隊は全員アイリに着いて行くと、きかなかったらしい。


アイリは、ここでの行政指示を済ますと先に隣郡へ視察に行くという。

遅くても3、4日後には帰ってくるらしい。

戻ってきてからこちらでの視察を行い、終わったら船で帰ると言っていた。

船旅はどんなものだろうか。


アイリは慣れないと酔うかもしれないと言っていたが

酔うとは何だろう。

サヤカ姉と買い物に行って数日分は確保したからしばらくは部屋で勉強をする。

サヤカ姉は、その間、武術とやらを訓練するつもりらしい。

戦場までついて行けるようにしたいとか言ってたけど本気なのかな。


居館の窓から富士山が見える。

アイリは自分より小さい子なのに、あの富士山みたいに大きく感じる。

自分は闘うのは無理だけど、内政のお勉強をしてアイリを助けようと思う。

だってあんなに忙しくて遊ぶ時間がないから・・。

アイリと同じくらいの子たちは、皆遊んでいるのに可哀そうだ。


オイチの時間はそうやって過ぎていった。


アイリは長い旅の間に、サヤカとオイチに自分を姫というなと指示した。

お嬢様もいけないという。

アイリと呼べというからサヤカもオイチもそれを承諾している。

最初は慣れなかったのだがアイリと呼ぶと「良くできました。」というので。

今はそれが当たり前になっている。


キチョウにもアイリは同じことを言ったのだが

キチョウは頑として受け付けなかった。

姫と呼ぶと敵に知られて危険かもしれないとアイリが策を練ると

結局、「アイリ様」で落ち着いた。


キチョウが納得すると。それはメイド隊全員に指示された。

アイリは、「メイドから呼ばれるのはそれがいいね。」とニコニコしている。

アイリもそれで納得したようだ。


アイリとメイド隊一行は。主街道の先にある最後の郡へと向かった。

距離的にはフジカワとそれほど離れていない。

しかし、伊豆半島の付け根に位置するそこは豪族支配地の隣になる。

豪族は一応アイリの下についている状態だ。


鑑定で警戒しながら郡役場へ急ぐ。

視察というより踏破に近いほど移動は速い。

アイリは今まで見てきて自由貿易郷のほうが圧倒的に

人材のスカウトが出来る確率が高いと考えた。


あえて、自由貿易郷以外は、郡役場付近の人が多い地くらいだろう。

郡役場は前世で言う沼津辺りになる。

特に特別な行政指示や内政支援はないと考えた。

現時点では、フジカワを重点的に繁栄させた方がいいからでもある。


基本的には人事の見直しくらいが仕事になるというのがアイリの予想だ。

移動中に郷役場なども見て回ったがどこもあまり変わり映えはなかった。

気になるのはアイリの政策が一番遅れていたことだ。

これは遠いから仕方がない。


防衛兵は比較的に訓練度が高いものが配置されている。

フジカワと並び孤立させないためでもある。


各地の防衛兵の隊長は中隊長になる。

アイリのところに散々来ていた織田家臣団や徳川家臣団の同名者が

その中隊長に占める割合が多い。

彼らは指揮官希望者だったのでアイリは皆まとめて勉強と訓練をさせた。


しかし、想像通り中隊長レベルの指揮官が多かった。

それでも当の本人たちは大出世だと喜んでいる。

何故か圧倒的に槍術技能持ちが多かったので防衛兵に多く配置してある。


中隊長である彼らには斧槍ではなく戦闘槍を持たせた。

それが何か琴線に触れたらしく、特別視されて名誉だと思われている。

まぁ一応中隊長任命式なるものを行って、アイリが直接、槍を手渡したのもある。


アイリの鍛冶工舎で作成された戦闘槍は、従来の物と比べようがなく

量産品でもない。

この地には、槍術技能が高かった本多忠勝の同名者を赴任させた。

そして大事な場所だと言って一品物の槍を渡した。


忠勝の同名者だからとアイリが蜻蛉切りと茶目っ気で名付けた槍だったりする。

同名であっても当の本人かはわからないし、類似の存在でもない可能性もある。

その辺はアイリ独特のオタク歴女としてのこだわりだけである。


タダカツは、郡の端まで来てアイリを出迎えてくれた。

移動中に危険があったと聞いていたから気が気ではなかったという。

このあたりは歴史本人に近い忠誠の持ち主だったりするから感心した。


タダカツは、アイリの視察中も付いて回る気らしい。

タダカツも馬に乗ってるから移動的には問題ないけど徒歩の防衛兵は帰した。

郡役場に行く前に、領境の砦へ先に行くことにした。


そこにも防衛兵が詰めている。

この地には防衛兵が2中隊配備されている。

砦に赴任させたのは、榊原康政の同名者、ヤスマサだ。

ヤスマサも中隊長になる。


歴史上ではこの二人は同年代で徳川四天王。

彼にも戦闘槍を持たせているが歴史上では刀のほうがあっている。

指揮能力は康政のほうが高かったとされるが

目の前の二人はどっこいどっこいと言ったところだ。


砦を任せているのは、アイリのこだわりだけで

その歴史に沿ったためである。

砦に着くとヤスマサが隣郡から豪族が挨拶に来ているという。

伊豆半島2郡を支配している豪族だ。


アイリにとっては、どうでもいいからと放置していた存在なのだが

何をしに来たのだろう。

当の本人から聞いてみると隠居したいと言っている。

関東方面の武田家の動向にかなり神経がすり減っているみたいだ。


アイリにとっては緩衝地帯のつもりでも

豪族からしたら隣は敵認定になる。

隣領の境に敵兵がいるらしい。


確か、関東方面にいる武田家とやらは

甲斐で小競り合いをしていたはずだが・・。

アイリは疑問に思った。

アイリの世界地図でも支配地以外は表示されない。

その辺りの地図は真っ白である。


なんだか面倒に巻き込まれた気がする。

これは諜報員から詳しい情報が来ないと何とも解決策が見いだせない。

しかし、豪族はもう決めたからと譲らない。

前世で言う熱海の北の方に領境がある。


その先へしばらく行くと小田原だったはずだ。

歴史的に言えば確かに小田原だったら兵が多そうな気がする。

そこを守る兵が防衛のために駐屯しているのではではないかと想定した。


いや待って・・。武田家というのは関東方面にいたけど

全領支配に至ってないうちに甲斐へ行った。

要するに、まだ豪族が残っている。

うーん、小田原を拠点にしてるの豪族っぽい気がする。


報告の情報では詳細がつかめないから半分はアイリの感もある。

武田家の勢力は関東の北の方だったと思うから

甲斐へ行くなら南端の小田原辺りはむしろ飛び地になってしまう。


ただ一つ気になる点は皇都近くにいる奴。

まさかそこまで手が打てるとは到底思えない。

アイリの情報網でさえ関東方面の詳細情報は入りにくい。

この国では交通が不便だからだ。


皇都から見ればよほどアイリのほうが近い距離にいる。

それでも苦労するのだからそれは無理だと結論付けた。

豪族にはとにかく一日よく考えろと言って

その日は、同じ郡役場宿舎に泊まった。


豪族も部下を引き連れているからお互い大所帯だ。

一応、いろいろ話がしたいというから食事をともにしながら話をした。

豪族はアイリの話を聞くたびにあっけに取られてしまう。

アイリは豪族を鑑定をしたが、どうやら悪人でも私利私欲の人でもない。


話を聞くと、アイリに対して希望を見出しているようだ。

どちらかというと平和を望むタイプだと認識した。

戦争をしたくないから下に着いているようだ。

伊豆を支配したのは父親で自分は全くその気がない。


戦争までして守れる自信もなく、

アイリが領主になって、戦争しなくて済んだと喜んでいたらしい。

気が弱い平和主義者が支配者をするのは難しいと思う。

人物事典を見ても、技能は内政寄りだ。


かろうじてその内政寄りの技能で領地を纏めていたのだろうと思った。

結局翌日、アイリは豪族の2郡を支配することで落ち着いた。

豪族にはそのまま放逐ではなく、半島の南の郡を納める内政官になってもらう。

気の弱い平和主義者で内政技能持ちなら内政官で十分使える。


それを聞いた豪族は、感謝しまくりで満足したらしい。

やっと解放されるとつぶやいていた。

アイリはいろんな人の人生、そんなこともあるんだと思った。

望んでそうなったわけでもないのに、この戦乱の世の中は許してくれない。


弱肉強食にのまれて消えていく豪族には、こういう人もいるのだろう。

アイリは視察に来て、よかったのかもしれないと思った。

直接話をすることは鑑定できるアイリにとってもとても大切だ。

諜報院から聞く情報だけではなく、支配地は特にそれが重要だと思った。


気になる熱海温泉はナニソレだったのは、笑い話だ。

温泉が自然に湧き出ている火山地帯でなければ掘らなければ出ない。

予定である全領地視察が終わったのちに、

落ち着いたら伊豆にも視察に来るからということで豪族と別れた。

いや、今はもうただの内政官だが。


この伊豆2郡は、フジカワの官吏院に頼んで

行政改革と事業展開をしよう。

最東端、防衛ラインはこれで熱海の辺りになる。


防衛兵中隊長の二人にも赴任要請をした。

準備が出来たらここへは新しい中隊が来て

二人は熱海を拠点とすることになる。


「お二人には、期待しているからぜひ頑張って下さいね。」

と言ったら何やら感激されてしまった。

アイリから頼られたことが、とても嬉しかったようだ。

さすがなんちゃってでも忠臣、徳川家家臣の同名者だけはある。


アイリは視察も終えて翌日、フジカワに戻り官吏院に事の次第を説明した。

アイリの地図にはあらかじめ命名していた地区名や郡名が表示された。

今回は領主任命はない。すでに領主だからだ。

単にシズオカ領が全部直轄地になっただけに過ぎない。


熱海の辺りは飛び地になるけど自由貿易郷並みの特別支援郷にして

初めての要塞都市でも目指してみようかな・・。

またアイリは変な野望を持ったようだ。


フジカワでは、アイリが出かけた後も何の問題もなかったようだ。

オイチとサヤカも元気で何よりだ。

残るフジカワ周辺の視察では、二人も同行した。

アイリは鑑定をしながら人材をスカウトしていく。


ここでも面白い人材を見つけたのでアイリは満足した。

「やっぱり行ったことが無いところも顔を出さなきゃだめだわ。」

アイリはそう思った。

アイリが見つけた面白い人材は全て、アイチ領へ行く。

普通に内政官が出来そうな人物は官吏院に託した。


他からもここへ人を出して伊豆地区2郡を改革しなければならない。

アイチ領へもそれを連絡した。

アイチ領は今、アイリの指示で行く人来る人状態だろう。


防衛兵も3中隊移動させることになる。

アタミは飛び地のため防御重視で、そこに2中隊配備した。

事前に指示していた話だ。

それ以外に、伊豆2郡に2中隊、空いたヌマズに1中隊になる。


実は、防衛兵の移動は結構痛かったりするが、まだ時間がある。

募兵などで人がどんどん集まっている今ならなんとかできるだろう。


それと忘れてはいけない

各自由貿易郷から始めるお祭り会場である神社の設営。

そのうち全郡に神社を作る。

オカザキでは夏と冬にお祭り期間が出来るから皆喜ぶだろう。


アツタなんかまんま熱田神宮だし、シマも伊勢神宮だ。

あー、シマも早めに神社を作らせておこう。


そして、シズオカ領での視察最終日

アイリは、官吏院長官のケイサクに後を託し、この地を去ることになる。

軍港では懐かしい船長が待っている。


去り際にアイリは「ケイサク、あなただけが頼りだから頑張ってね。」

と言葉を残して船に乗っていった。


ケイサクは握りこぶしを強く握って肩を震わせながら。

「姫、お元気で。次に来るときにはきっと驚かせてみます。」

と叫んだ。目には少し涙が浮かんでいた。


久しぶりに会う船長に挨拶をかわし、アイリたち一行は港を出る。

ケイサクは船が見えなくなるまでその姿を追い続けた。


次にアイリが来れるのはいつになるのだろう。

近江方面での戦いになれば、それが終わるまではきっと無理だ。

新しい伊豆地区の事も心配だし、努力はしよう。

アイリはそう思うのだった。


オイチは初めて船にのったらしく最初はすごくはしゃいでいた。

サヤカは、だんだん遠くなる富士山を眺めている。

メイド隊の皆も同じだ。

富士山は日本人なら間違いなく心に残る風景だ。

この国の人も同じなのだろう。


しばらくするとアイリが危惧していたようにオイチは酔った。

人生初の船酔い体験である。

あまりひどくはなく済んだので良かったのだが

オイチは「船酔いおそるべし」とアイリの口調を真似していた。

それを聞いたサヤカは大笑いだ。

キチョウは必死に笑いをこらえていた。


オイチはだんだんアイリのオタク化に近づいていくようだ。

ヤイズに寄り、買い出しを行い

カンスケと諜報院、特殊諜報員からの報告や情報を聞く。


オマエザキにも寄った。

どうやらメイド隊3軍は合流先のアツミ移動したようだ。


そしてハママツに寄る。

情報では怪しい動きはない。

船旅はアイリの想像より早かった。


移動中は食事も寝泊まりも船の中だ。

船室はアイリ一行が占拠しているからあふれた水兵は甲板で雑魚寝している。

後部甲板は馬だらけだ。


アツミに来ると待っていたメイド隊が船に乗り込む。

船室も満員御礼になる。

アイリ専用の船室もあるが、そこにもいつもの4人以外に

メイド隊から何人かが寝泊まりする。


何やらそこでもローテーションしているようだ。

シマに寄りまた買い出しを行い情報を聞く。

ミエの南の地で動きがあったという報告が来た。


「やはり仕掛けていたわね・・ふう」

きっと赤い連中が動いたのだろう。

あらかじめアイリが指示していたようにすぐに鎮圧されたようだ。


しかしまだ油断はできない。

アイリはミエ領を海路で一気に南端のクシモトまで行く予定にしている。

そこから陸路で北へ向かうつもりだ。


メイド隊は海戦経験者なので船酔いはないと思っていたら

一人だけ船酔いになった。


下位から頑張って上に上がったらしい。

海戦時にはまだ予備隊員だったとのこと。

かなりの頑張り屋さんだ。

なんだか昔のキチョウを思い出した。


オイチは慰めの言葉なのか

「ねっ、船酔いおそるべし。でしょ」

と船酔いしたメイド隊員に言っていた。

メイド隊員の船酔いはすぐに収まったのだが

オイチの言葉で我慢できなくなったキチョウが大笑いした。


楽しげで何よりだ。


知りたかった報告が聞けたことで一気にシングウまで行き

買い出しと情報取得をした。

あの後は何も異変はないらしい。


この時すでに月が替わっていた。

目的地まであと少し、

初めて行く地なのでアイリも少し楽しみにしている。


ミエ領の旅は今から始まる。












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